労働安全コンサルタント試験は、労働災害防止のための労働安全管理の能力を証明するための最もレベルの高い国家試験です。ここ、数年、受験者数は急増している状態です。
とはいえ、受験者数はそれほど多くはなく、他のメジャーな資格試験ほどには情報があふれているわけでもありません。
労働安全の分野でのキャリアアップを検討しておられる方のために、労働安全コンサルタントとは何か、その難易度はどの程度か、具体的な内容はどのようなものかなどを、私自身の受験体験を交えて紹介します。
内容の無断流用はお断りします。
2 労働安全衛生コンサルタント試験の概要等
(3)口述試験について
ア 他の国家試験との違い
労働安全コンサルタント試験の大きな特徴として、口述試験の合格率が低いことが挙げられる。他の国家試験の口述試験の合格率は、司法試験でも9割程度で、司法書士試験になると欠席さえしなければ不合格となることはないと言われている。
一方、労働安全コンサルタント試験は、2017年度以降は 80 %前後で推移している。なお、衛生コンサルタントは 5~6割程度という状況である。
さらに、学科試験に合格しても口述試験を受けることができるのはその年限りである。実は、口述試験を課している国家試験の多くは、学科試験に合格すると、その年と翌年の2回、口述試験に挑戦できる。これは司法試験や司法書士試験のような超難関試験でも同じである。もっとも、実際には口述試験で不合格になった受験生の多くは、翌年の学科試験にも合格しているケースが多いようではある。
労働安全コンサルタント試験の口述試験の合格率が低く、かつ学科試験合格後の機会が一度に限られるのは、口述試験を重視していることの表れであろう。これは、コンサルタントという仕事が、他人(この場合試験官)に対して、自分の考えを話して説得し、かつ納得させることができることが重要だと考えられているからであろう。
イ 口述試験の内容と特徴
労働安全コンサルタント試験の口述試験は、断片的な知識を一問一答形式で問われるわけではない。ある状況を設定されて、現場の担当者や事業者にどのように説明するべきかの説明を求められることもある。また、ある問題が発生している状況において、その解決をするために実施すべきこととして考えられることを問われることもある。
私が受験したときも、そのような設問があった。これは、何が正解というのではなく、解答の仕方はいくらでもあるだろう。受験者が、自らの知識を活用して、短時間で解答を組み立て、試験官を説得できるように話せるかどうかを判断しているのであろう。なお、この傾向は衛生コンサルタント試験の方が強いかもしれない。
安全コンサルタント試験の口述試験の内容は、衛生コンサルタント試験に比べれば、やや易しいという印象を受けた。しかし、労働安全の分野は範囲が広いので、普段から実務を行っていない受験生の場合は、かなり辛いと思う。私の受験時にも、KY活動の4ラウンド法、感電防止のための保護具の種類、感電防止の考え方など、かなり広い範囲のことを訊かれた。
さらにいうなら、コンサルタント試験の受験生は、かなりの年齢で、しかるべき地位についている方が多い。通常は専門家や管理職として素人や部下を相手に仕事をしていることが多いので、誰かから何かを聞かれて答えられないなどという経験をしていないだろうと思う。
試験官は我が国でもトップクラスの専門家とはいえ、問われたことについて答えられなければ、やはり精神的にかなりきついだろう。もちろん、すべての質問にすらすらと答えられなければ合格できないなどというわけではないが、答えられない質問があったときに精神的なショックを受けて、その後の質問に答えられなくなってしまうと、合格が難しくなる。ある程度の精神的なタフさも求められるかもしれない。そして、それはコンサルタントとしても必要な資質であろう。
試験官の問いに対して、簡潔かつ説得力のある内容で即答しなければならない。試験が終わってから2時間後に、完璧な回答を思いついても意味がないのである。
ただ、奇をてらったような質問をされることはない。教科書や参考書には書かれていないかもしれないが、実務経験があれば、当然に分かるようなこと、あるいは実務を行うためには当然に知っていなければならないようなことを聞かれるのである。言葉を変えると、労働安全衛生対策の皮相的なことではなく、基本がきちんと理解できているかが問われるのだ。
実際の現場は教科書に書いてあるような典型的なケースばかりではない。大小の異常な事態の連続なのである。基本が理解できていないと、ちょっと変わった状況になると応用が利かないのである。それでは、コンサルタントとしての業務はできないので、“基本を知っているか”ではなく“基本が理解できているか”を確認されるのである。
当サイトの会員サイトには、読者の方のご協力を頂き口述試験の内容として、私宛にメールで送付されてきたもの、会員サイト(※)の掲示板に投稿されたもの、公開されている掲示板に寄せられたものをまとめたコンテンツがある。2020年(令和2年)以降のものではあるが、ぜひ、参照して頂ければと思う。
※ 会員になるためには、筆記試験終了後に、筆記試験のうち択一試験の結果をGoogleフォームのアンケートに記入して頂ければ、会員IDとパスワードをメールで送付している。なお、投稿数は試験区分によってかなり異なっている。
なお、会員以外の方は、公開されている当サイトの掲示板で、とくに2020年(令和2年)度の試験から、実際に受験された方が質問の内容を数多く書き込んでいただいている。過去ログを含めて試験の時期の書き込みを探していただきたい。
ウ その他
なお、東京会場より大阪会場の方が、試験官がやさしいという噂がたつことがある。わざわざ大阪で受験する受験生がいると聞いたことがあるが、あまり意味はないように思う。たんなる都市伝説にすぎない。