= 私のコンサルタント試験受験記 =

労働安全コンサルタント試験受験の勧め(3/7)




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政府による圧力

労働安全コンサルタント試験は、労働災害防止のための労働安全管理の能力を証明するための最もレベルの高い国家試験です。ここ、数年、受験者数は急増している状態です。

とはいえ、受験者数はそれほど多くはなく、他のメジャーな資格試験ほどには情報があふれているわけでもありません。

労働安全の分野でのキャリアアップを検討しておられる方のために、労働安全コンサルタントとは何か、その難易度はどの程度か、具体的な内容はどのようなものかなどを、私自身の受験体験を交えて紹介します。

内容の無断流用はお断りします。



2 労働安全衛生コンサルタント試験の概要等

(2)筆記試験の内容等

ア 筆記試験(産業安全一般(択一))

(ア)試験範囲と参考書

筆記試験のうち、“産業安全一般”の試験では、やや高度なことも問われるが、学者的な専門家でなければ答えられないレベルではない。むしろ現場的で基本的な知識が問われる。

ただ、やたらに範囲が広いのである。“狭く深い”知識ではなく“広大でやや深い”問題が出題されるのだ。安全についての素養がないと大変だろうと思う。WEB サイトの受験指南などをみると、コンサルタント試験は数年で受かるケースが多いと書かれているが、やはり試験の範囲が広いからであろう。

私の印象だが、①基本的な安全管理のテキスト、②厚労省から出ている主要な指針、ガイドライン、通達類、③中央労働災害防止協会の“安全の指標”を使って、これらを自分のものにしておけば、十分に合格レベルには達すると思う。もちろん、この3つから外れる内容の問題も出されるが、すべての問題に答えられなければ合格できないというわけではないのである。

この他、(一社)日本クレーン協会のWEBサイトのグローバルナビ(メニュー)の「クレーンの知識」から参照できるページはすべて目を通しておいた方が良い。ここからも、毎年のように数題が出題されているようだ。また、厚生労働省から外国人向けの「技能講習補助教材」が公表されている。技能講習に用いられるテキストの概略版だが、日本語のものも用意されている。このうち、「玉掛け技能講習」と「床上操作式クレーン運転技能講習」の日本語補助テキストに、さっと目を通しておくとよいかもしれない。

私は、①として大関親「新しい時代の安全管理のすべて(第6版)」(中央労働災害防止協会2014年)を用いた。900頁近い内容の濃い書籍である。私が使った第6版は最新の理論にやや弱い面があり、厚労省の指針やガイドラインによって補足する必要があったが、現在は第7版が出ている。なお、ごく一部ではあるが、私法や刑法総論に関して首を傾げたるような記載があることは事実である。ただ、本試験では、法理論について出題されることはほとんどないので気にする必要はない。

(イ)具体的な設問の例

話を戻すが、この科目の問題は、範囲はかなり広いが一部を除けばそれほど難しいわけではない。私が受けた2017年度(平成29年度)の試験問題の例をいくつか挙げてみてみよう。なお、それぞれの問題について、本文と正答の肢のみを挙げてある。

① 容易に正答できる設問の例

まず、最初に容易に正答できる問題の例をいくつか挙げよう。

問12 職場における安全衛生教育に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)事業場単位で労働災害が以前と比べ少なくなっていることから、労働災害事例を含めない教材づくりが望ましい。

これは、産業安全に多少なりともかかわった経験があれば、誤りだとすぐに分かるであろう。災害事例は、どのような状況で災害が発生するのかを労働者に対して理解させるためにも重要な教材である。

問13 非定常作業に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(3)あらかじめ定めた非定常作業の手順に従い実施していく中で、当初定めた作業手順と異なる状況が発生した場合には、作業者の判断で作業手順を見直し、作業を続ける。

これも、常識で正答できる問題である。当初の想定と異なる状況が発生した場合に、作業者が勝手に作業手順を変更できるなら何のための作業手順かということになろう。また、知識のない作業者が自己判断で作業を行えば事故が発生する可能性もある。

問24 粉じんによる火災及び爆発並びにその防止に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(5)可燃性の粉じんの粒径は、粉じん爆発の起こりやすさに無関係である。

これもほとんど全員が正答できたのではないだろうか。粉じんが爆発するのは、それが気中に舞って酸素と触れ合うからである。粒径が小さいほど、空気中に舞いやすいし、また酸素と触れ合う面積も増える。粒径が爆発しやすさと無関係なはずはあるまい。

② 試験場で考えれば正答できる設問の例

また、試験場で考えれば正答に達する問題もある。知識問題ではなく、思考問題と呼ぶべきものである。労働安全衛生コンサルタント試験の筆記試験は、時間的にはかなりの余裕があるので、このような問題は、ゆっくりと考えるとよいだろう。

問19 最小着火エネルギーに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(5)温度が高いほど最小着火エネルギーは、大きくなる。

この問題は知識で正答できる必要はない。その場で考えて答えを出せば正答できる。温度が高ければその物質の持つエネルギーは大きくなるから、着火させるために必要なエネルギーは小さくなる。勘違いしない限り、物理に関する基礎知識があれば正答できる。

問21 人体への通過電流の電流値と次のイ~ホに示す通過電流による人体への影響との組合せについて、適切なものは(1)~(5)のうちどれか。

イ 人体に悪影響を及ぼさない最大の許容電流値であり、相応の痛みを感じる。

ロ ピリッと感じるが、人体に危険性はない。

ハ 心臓の律動異常の発生、痛み、気絶、人体構造損傷などの可能性がある。

ニ 心室細動の発生や心肺停止に至り、極めて危険な状態になる。

ホ 持続して筋肉の収縮が起こり、握った電線を離すことができなくなる。

0.5~1mA 5mA 10~20mA 50mA 100mA
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)

これは一見すると知識問題のように見えるかもしれない。しかしそうではない。電流と人体への影響など知らなくても答えられる。すなわちイからホまでの選択肢を、より軽症なものから重篤なものへと並べ替えればよいだけのことである。

問28 労働安全衛生マネジメントシステムの運用に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(4)事業場外部の者によるシステム監査は、事業場内部の者によるシステム監査に比べて、監査テーマを特定して、実態を詳しく調査し、評価することができる。

これも知識問題ではない。外部の者による監査のメリットなど知らなくても答えられる。外部の者は、その職場の実情をよく知らないということは考えれば分かる。そこに気付けば、外部の者が内部の者に比較して、実態を詳しく調査し評価することができるわけがないと判断できるであろう。

③ やや高度な知識を問う設問の例

一方、知識がないと解けない問題も出題されている、これはきちんと勉強しておく必要がある。

問7 クレーン、移動式クレーン及び玉掛け用具に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(4)繊維スリングを用いた玉掛け作業において目通しつりをする場合は、できるだけ浅絞りになるようにする。

これは知識問題である。考えてみると、浅絞りにした方がスリングに力がかからないのでよさそうに思えるかもしれない。しかし、現場では、スリングはすべりやすいため荷が外れるおそれがあり、一般には深絞りをするのである。

問23 厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。

(4)誤操作による危害を防止するためのイネーブル装置は、連続的に操作するとき、機械が機能することを許可するための補足的な手動操作装置である。

この問題は「イネーブル装置」の意味(定義)を知らないとどうにもならないだろう。イネーブルという言葉の意味から正答を推測することはやや困難である。なお、ISO12100によれば、イネーブル装置とは、「連続的に操作するとき、機械が機能することを許可するための補足的な手動操作装置」とされている。そのことを知らないと正答はできない。

④ 能力を試される優れた設問の例

問3 ヒヤリハット活動に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(3)ヒヤリハット活動では、詳細かつ多数の報告件数を集めることを主眼とし、集められた報告については中長期的に対策を進めていく。

個人的には、本問は優れた設問だと思う。一見、もっともらしいことが書かれていて、現場の経験がなく、ヒヤリハット活動について頭の中だけで理解していると正しいと思うかもしれない。もちろん、適切でない肢である。実務を理解していない受験者を落とすための設問である。

ヒヤリハットを提出するのは労働者なのである。普段から文章を書くことには慣れていないので、詳細な報告を求めることは現実的ではない。また、件数主義に走って多数の報告件数を求めると、意味のない報告が多数挙げられて、本当に大切なものがそこに紛れてしまうのである。

問22 建設工事に使用される設備や施工方法に関する次の記述のうち、安全上、適切でないものはどれか。

(3)鉄骨造建築物の建方工事に安全ネットを使用する場合、作業箇所からネットまでの高さやネット下方のあきに関係なく墜落阻止効果が得られるようにするため、その取付けに際しては、緊張器等を用いて強く張ることによりネットの垂れをできるだけ小さくする。

これもとても良い問題だと思う。「墜落による危険を防止するためのネットの構造等の安全基準に関する技術上の指針」に、ネットの垂れは一定の値以下とすることが定められている。そのため、この指針を形だけ覚えていると正しいと思えるのである。

しかし、そもそも緊張器とは、墜落制止用器具(安全帯)の親綱などを張るときに用いるもので、網状のものを張るときに使用することなどできないし、安全ネットを強く張るとかえって危ないので、基準の範囲内である程度は緩く垂らすように張るのである。

⑤ 過去問で解答可能な設問の例

また、例年同じような内容で出題される問題もある。これはいくつかの基本公式や考え方を理解していれば正答できる。合格のためにはこのような問題を落としてはならない。

問6 システムが要素a、b及びcによって下図の信頼性ブロック線図に示すように直列系及び並列系として構成され、要素a、b及びcが等しい不信頼性F(1から信頼度を引いた確率値)をもつとき、システムの不信頼度Fsを示す等式について、適切なものは(1)~(5)のうちどれか。ただし、1>F>0、また要素の故障は独立に起こり、修理は行わないものとする。

直列系 並列系
直列系 並列系

(4)並列系では、Fs=1–3(1–F)+3(1–F)2–(1–F)3

その典型例のひとつのパターンがこれである。信頼性ブロック図のそれぞれの要素は、内部にスイッチが入っており普段は閉じている(左右が接続されている)が、故障すると開になる(左右が接続されなくなる)ものだと思えばよい。そして、全体のシステムは、左右がどこか一か所ででも接続されてさえいれば使用可能だと考えるのである。

信頼性ブロック線図の意味と、次の公式さえ覚えておけば解けるのだ。なお、信頼度Rで出題されることもあるので、これについても覚えておく必要がある。

不信頼度をF、信頼度をRとすると、直列系では、

Rs=R3、Fs=1-(1-F)3

となり、並列系では

Rs=1-(1-R)3、Fs=F3

となるのである。なお、詳細は、本サイトの試験問題解説の該当問題を参照して頂きたい。

問14 図1のように均質で長さ方向に一様な断面を有する長さLの単純梁が、梁の中央に力Pを受けるときに梁に生じる曲げたわみについて、梁の材質が同じで、断面形状・寸法が2に示す2種類AとBの場合の最大たわみをそれぞれδA、δBとするとき、その比(δA/δB)は、(1)~(5)のうちどれか。

ただし、梁のたわみは梁の中央で最大となり、梁の自重を無視するときの最大たわみδは、次式で表されるものとする。

δ= PL     E:梁材の縦弾性係数
48EI     I:梁断面の中立軸に関する
            断面二次モーメント
単純梁

図1 単純梁

梁の断面形状・寸法

図2 梁の断面形状・寸法

(3)1/9

もうひとつの典型例がこれである。このタイプの問題は、断面が長方形の梁のいくつかの公式を覚えておけば正答できる。

参考になるサイトとしては「材料の曲げに対する強さ」と「断面2次モーメントによる「はり」のたわみ量計算」がある。このサイトの内容が理解できるようにしておくと1点は確実に取れる。

問18 保護具に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(3)有機溶剤を取り扱う作業現場で使用する保護帽としては、PC 樹脂(ポリカーボネート)製のものを選定する。

保護帽の材質と特徴も(毎年ではないが)よく出題される。次の表を記憶しておけば正答できる。この表は、暗記しておくことをお勧めする。

表:保護帽の取扱いマニュアル
材質 耐燃・
耐熱性
耐候性 耐電圧
性能
耐溶剤
薬品性
備  考
熱硬化性 FRP
樹脂製
× ○~◎ 耐候性、耐熱性には優れるが
電気用帽子としては使用できない
熱可塑性 ABS
樹脂製
△~〇 △~〇 ○~◎ ×~△ 耐電圧性能には優れるが、
高熱環境での使用には不向き
PC
樹脂製
○~◎ ○~◎ ×~△ 耐候性はABSよりも優れているが、
溶剤、薬品等には不向き
PE
樹脂製
×~△ ○~◎ ○~◎ 有機溶剤系の薬品を使用する環境には最適

 (一社)日本ヘルメット工業会「保護帽の取扱いマニュアル」(2012年6月)より





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