※ イメージ図(©photoAC)
テールゲートリフターを用いた作業で、作業者が昇降板に乗って荷を支えた状態で昇降板を昇降させることが行われることが、これまでままありました。しかし、このような作業方法は、令和5年3月28日 基発0328第5号によって、「安衛則151条の14の主たる用途以外の使用に当たる場合がある
」とされています。
一方、厚生労働省の「令和5年8月1日事務連絡」には、「テールゲートリフターに載せている荷物を、地面に立って支える者
」についての質疑応答があります。このため、地上からなら昇降中の荷を支えることが可能なのかという質問を、事業者の方から受けることがあります。
しかしながら、テールゲートリフターの安全作業に関する6基本&11場面別ルールには、昇降板の操作時の安全のためのルールの1つとして「動作中の昇降板には触らない・近寄らない
」とされています。
安全のためには、テールゲートリフターの昇降中には、昇降板に不用意に近寄ってはなりません。地上から、昇降板の昇降中にその上の荷を支えることの問題点について解説します。
- 1 テールゲートリフターの昇降板の昇降中に荷を支えることの危険
- (1)昇降板の昇降中に、昇降板に乗って荷を支えることは法違反
- (2)昇降板の昇降中に、地上から昇降板上の荷を支えることの問題
- 2 荷の昇降中に荷を支えることの危険性
- (1)関連災害の発生状況
- (2)6基本& 11 場面別ルール
- 3 最後に
1 テールゲートリフターの昇降板の昇降中に荷を支えることの危険
執筆日時:
(1)昇降板の昇降中に、昇降板に乗って荷を支えることは法違反
※ 昇降板上の荷を地上から支えない(illustACのイラストを利用)
テールゲートリフターとは、比較的大型のトラックの後部に取り付ける荷物専用の小型のリフトのことである。しかし、荷物専用であることがあまり知られていなかったためか、これまでは、昇降板に作業者が乗って、昇降板上の荷が倒れたり崩壊したりしないように作業者が支えながら昇降板を昇降させることが行われてきた。
しかし、あくまでも荷物専用のリフトであるから、これに乗って人が昇降することは安衛法の用途外使用(安衛則151条の14)に該当する(※)。
※ 詳細は本サイトの「TGLの昇降板で人の昇降は許されるか」を参照されたい。
これが法令に違反することは、2023年3月になって、厚労省の令和5年3月28日基発0328第5号「貨物自動車における荷役作業時の墜落・転落防止対策の充実に係る労働安全衛生規則の一部を改正する省令及び安全衛生特別教育規程の一部を改正する件の施行について」に明記された。また、テールゲートリフターの特別教育制度が2024年の4月に始まることから、前倒しで行われている教育の中でも周知されつつある。
(2)昇降板の昇降中に、地上から昇降板上の荷を支えることの問題
※ イメージ図(©photoAC)
ところが、新たに昇降板の昇降中に、地上から昇降板上の荷を支えることが許されるかという疑問が、一部の事業者の間から出てきたのである。
このことは、令和5年8月1日事務連絡「貨物自動車の昇降設備の設置、保護帽の着用等に関する問答について(労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第33号)関係問答)」の中で、「テールゲートリフターに載せている荷物を、地面に立って支える者
」についての質疑応答が含まれていることも一因である。
問6 テールゲートリフターに載せている荷物を、地面に立って支える者については保護帽の着用が必要か。
答 施行通達の3(2)イでは、「荷を積み卸す作業のために労働者が荷台又は積荷の上に乗る必要がない場合等、墜落の危険がない状態で荷を積み卸す作業を行う場合は、第 151 条の 74 第1項の荷を積み卸す作業を行うときに該当せず、同項は適用されないこと。」とされている。地面に立って荷物を支える者について、テールゲートリフターや荷台等の上に乗らないときは、上記の施行通達の場合に該当し保護帽の着用義務は適用されないが、荷が崩れるおそれ等もあることから保護帽の着用が望ましい。
※ 令和5年8月1日事務連絡「貨物自動車の昇降設備の設置、保護帽の着用等に関する問答について(労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第33号)関係問答)」
昇降板が荷台の高さや地上で停止しているときに、地上で荷を支えるだけの作業が発生するとは考えにくいので、昇降板が昇降しているときを想定しているものであろう。
保護帽に関する質疑応答ではあるが、昇降板で荷を昇降させているときに地上からこれを支える作業があることを前提とした質疑としか思えないのである。
しかし、そのような作業を行うことに危険はないのだろうか。
2 荷の昇降中に荷を支えることの危険性
(1)関連災害の発生状況
地上から荷を支える場合、かなりの高さの位置にある荷を支えることとなる。また、テールゲートリフターの昇降板はかなりの硬度があるとはいえ、傾いたり揺れたりすることもあろう。また、そもそもトラックが停車している位置も完全に水平だとは限らない。
そうなると、荷が転倒して地上にいる作業者に激突して下敷きになる危険性が予想される。実際に、テールゲートリフターに関連して発生している災害のほぼ4分の1が「荷の転倒・転落による下敷き等」なのである。
また、テールゲートリフターによる災害を昇降台の位置別にみると、昇降台の昇降中に発生したものが、2割近く発生しているのである。このうち、荷が転落して作業者が下敷きになったケースもかなりあるのではないかと考えられる。
大西(※)によると災害の典型例として「昇降板の動作によって荷がずれて(逸走して)転倒・転落作業者の移動による昇降板の揺れにより作業者(荷)が転倒・転落
」、「地面接地時に生じる昇降板の傾きによってロールボックスパレット(カゴ車)が動き出して転倒・転落
」などの災害が挙げられている。
※ 大西明宏「テールゲートリフター使用に起因する労働災害の特徴」(人間工学 Vol.54, No.3(2018年))
そもそも、地上からテールゲートリフター上の荷を支えても、それほど役に立つとも思えないし、荷の転倒による下敷きや、テールゲートリフターによる挟まれ巻き込まれ災害の危険性を考えると、昇降板の昇降中は不用意に昇降板に近寄るべきではない。
(2)6基本& 11 場面別ルール
※ イメージ図(©photoAC)
作業者に地上から昇降板上の荷を支えさせることは、ただちに安衛法に違反するわけではない(※)。しかしながら、現実には、かなり危険な行為だと考えるべきである。
※ 上司や事業者がそのような作業方法を指示して災害が発生すれば、安全配慮義務違反とされて、損害賠償の対象となる可能性は高い。
このため、厚労省の「6基本& 11 場面別ルール」では、昇降板を昇降、格納、展開(※)しているときは、「昇降板から少し離れた横に立ち昇降板の周辺から目を離さない
」、「動作中の昇降板には触らない、近寄らない
」とされている。
※ 格納・展開は手操作ではなく、自動操作を前提にしているものと思われる。
すなわち、行政指導のレベルではあるが、昇降中の昇降台中の荷を支えることは禁止されているのである。
また、「荷が動き出したら無理に支えない
」とされている。そもそもロールボックスパレットのような、高さが高く底面積の小さな荷を地上から支えても、転倒防止の役には立たない。重い荷が積んであればなおさらである。
労働災害防止のためには、昇降板の昇降中は作業者を不用意に昇降板に近づけないこと、またとくにトラックの後方には立ち入らせないようにすることが重要である。
どれほど荷が貴重なものであったとしても、労働者の生命、身体と比較することができるようなものではないのである。
3 最後に
※ イメージ図(©photoAC)
2023年は運輸関係の荷役作業の法令改正が行われ、昇降設備の使用と保護帽の着用が義務付けられる範囲の拡大、テールゲートリフター業務の特別教育制度の創設などが行われた。
残念ながら陸上貨物運送業の労働災害の年千人率は、製造業、建設業を大きく上回っている(※)。
※ 詳細は、本サイトの「労働災害発生件数の推移」中の業種別年千人率の推移を参照して頂きたい。
そして、運輸交通業の型別労働災害で多いものは、墜落・転落と転倒であるが、はさまれ巻き込まれ災害や飛来落下災害も根強く発生している。
※ 詳細は、本サイトの「労働災害発生件数の推移」中の業種別型別災害の推移のうち、運輸業の項を参照して頂きたい。
2024年問題の解決のためにも、法令遵守のみならず、一歩進んだ確実な安全対策が求められよう。
【関連コンテンツ】
テールゲートリフターの安全作業入門
テールゲートリフター関連の2023年公布の安衛則の改正改正によって行うべきこと、またテールゲートリフターの労働災害防止に必要なこと等について解説しています。
テールゲートリフター作業手伝いの問題
荷主や配送先での荷の運搬の業務を、荷主や配送先の従業員が手伝うときに注意するべきことを解説します。
TGLの昇降板で人の昇降は許されるか
厚労省は、TGLのルールとして「原則として昇降板に乗ったまま昇降しない」としています。「原則」には「例外」があるのかという疑問について解説します。
一人親方等の保護に関する安衛法令改正
一人親方等の保護に関する安衛法令改正について詳細に解説し、法令遵守のみでは足りない理由について分かりやすく説明しています。