テールゲートリフターの安全作業入門




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テールゲートリフター

※ イメージ図(©photoAC)

テールゲートリフターは、比較的大型のトラックの後部に取り付けられる荷物専用のリフトです。フォークリフトのない場所でも荷の積み降ろしが可能であり、国土交通省が荷役時間の削減に向けて補助事業を行っていることや、ドライバーの高齢化もあって普及が進んでいます。2023年には全国で約 30 万台が使用されているとされています。

その一方で、テールゲートリフターが関係する労働災害も多発しており、産業安全衛生総合研究所の推定では、年間に600件前後の休業4日以上の死傷災害が発生しているとされています。また、死亡災害も、毎年のように発生しています。

このため、2023年3月に安衛則を改正する省令関係通達)が公布され、特別教育の義務化(2024年2月施行)や保護帽の着用、昇降設備の使用等が義務付けられる範囲の拡大(2023年10月施行)等が行われます。

本稿では、安衛則の改正の背景、改正によって事業者が行うべきこと、またテールゲートリフターの労働災害防止のために必要なこと等について総合的に解説します。




1 はじめに

執筆日時:

最終改訂:


(1)テールゲートリフターによる労働災害発生状況

テールゲートリフター

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※ 労働安全衛生総合研究所「ロールボックスパレット起因災害防止に関する手引き」(技術資料 2015年)を一部修正

テールゲートリフターとは、貨物自動車の荷台の後部に取り付ける荷物専用の小型のリフト(※1)のことで、国内ではパワーゲート(※2)と呼ばれることも多く、毎年約3万台が国内用として販売され、全体で約30万台が使用されている(※3)と言われる。

※1 改正後の安衛則第36条第5号の2には「貨物自動車の荷台の後部に設置された動力により駆動されるリフト」と定義されている。従って、貨物自動車の荷台の後部に設置されていなければ、自動車に取り付けられたリフトであっても、安衛法令のテールゲートリフターとしての規制はかからない。

※2 パワーゲートは極東開発工業の商標である。テールゲートリフターが法令用語なので、本サイトではテールゲートリフターと呼ぶ。

※3 (一社)日本自動車車体工業会加入メーカの2022年1年間の生産台数は24,513台(アーム式 1,137 台、垂直式 8,546 台、後部格納式 6,016 台、床下格納式 8,202 台、その他 612 台)である。平均的な使用期間は 10 年程度なので、全国で 30 万台前後が稼働していると想定される。

フォークリフトがない場所でも、比較的重量のある荷を積み卸しができるため、国土交通省が補助金を出している(※)こともあって普及が進んでいる。

※ 国土交通省「「中小トラック運送事業者向けテールゲートリフター等導入等支援事業」を実施します!!」参照。ただし、予算額はそれほど多くはない。

しかしながら、これまで特段の資格の取得や教育の受講等の必要もなく、不適切な取り扱いがなされるなどにより、労働災害が頻発しているとの指摘もあったところである。

テールゲートリフター起因災害の業種別発生件数等

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※ 労働安全衛生総合研究所「テールゲートリフター使用時における労働災害の特徴と対策」(安衛研ニュースNo.118 2018年)より作成

労働安全衛生総合研究所(※)が、2012 年と 2013 年のテールゲートリフター作業中に被災した休業4日以上の死傷災害の発生件数等を推定している。それによると、1年間に 600 人程度の労働者が被災しているとされている。

※ 労働安全衛生総合研究所「テールゲートリフター使用時における労働災害の特徴と対策」(安衛研ニュースNo.118 2018年)

また、運輸業におけるテールゲートリフター関連の災害の発生割合は、同研究所によると、2011年が 2.8 %、2012年が 3.9 %であるとされている。


(2)テールゲートリフターによる労働災害の原因等

テールゲートリフター起因災害の被災タイプ別割合

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※ 労働安全衛生総合研究所「テールゲートリフター使用時における労働災害の特徴と対策」(安衛研ニュースNo.118 2018年)より作成

テールゲートリフターに関係する災害を、同研究所がタイプ別に分類している。これをみると、「作業者の転倒、転落、飛び降り」が最も多い(※)

※ ここで「転落」とあるのは、厳密には「墜落」の意味であろう。労働安全の分野では、「墜落」とはほぼ垂直に落ちることで、「転落」とは斜面を転がり落ちることである。テールゲートリフターの作業では斜面を転がり落ちることはあまり多くはないだろう。

転倒は、昇降板のキャスタストッパにつまづいたり、昇降板が地上にあるときに昇降板に躓いたりしたものなどであろう。転落は、昇降板が荷台の高さにあるときに、後ろ向きに移動していて墜落したものが多いと思われる。飛び降りは、昇降設備がなかったか、あっても近道行動で使わずに不安全行動をとったものだろうか。

次に多いのが「荷・作業者の転倒・転落による下敷き等」である。ロールボックスパレット(カゴ台車)のような荷を作業者が扱っているときに、荷が倒れて作業者が下敷きになったものである。ロールボックスパレットのような背が高い荷は、必然的に重心が高くなって倒れやすいばかりか、かなりの量の荷が積めることから下敷きになると重症化しやすい。

典型的な例としては、昇降板が荷台の高さにあるときにロールボックスパレットを後ろ向きに引いていて、昇降板から荷と共に墜落して下敷きになったケースなどが考えられる。

次の「荷の転倒・転落による下敷き等」は、作業者が荷を扱っていないときに、なんらかの原因で荷が倒れて、作業者がその下敷きになったものである。坂道などに停車して、昇降板の上にロールボックスパレットを積載して昇降しているときに、それが倒れて下敷きになるようなケースなどであろう。

「その他」を除く最後の「昇降板との間にはさまれ」は、昇降板を昇降等の操作をしているときに、昇降板上に載っていたか、近くに寄っていたための災害であろう。

テールゲートリフター起因災害の昇降板の位置別割合

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※ 労働安全衛生総合研究所「テールゲートリフター使用時における労働災害の特徴と対策」(安衛研ニュースNo.118 2018年)より作成

そこで、災害の発生したときの昇降板の位置を見ると、「荷台高さ」がもっとも多く3分の1以上を占める。また、「上昇中」と「下降中」を合わせると3分の1近くとなる。

この「荷台高さ」の多くが荷台からの墜落ではないかと考えられるのである。また、「上昇中」「下降中」は、昇降中の昇降板に乗って昇降していたか、昇降中の昇降板に不用意に近づいたためのはさまれ事故(※)などであろう。

※ 昇降板の近くで作業していて、昇降板とトラック本体や地面との間にはさまれたり、降下中の昇降板上のテールゲートリフターが倒れてその下敷きになるようなケースである。


(3)ロールボックスパレット使用時の災害

テールゲートリフター取扱い荷の種類別の災害発生状況

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※ 労働安全衛生総合研究所「テールゲートリフター使用時における労働災害の特徴と対策」(安衛研ニュースNo.118 2018年)より作成

テールゲートリフターの災害を荷の分類別にみると、3割以上をロールボックスパレットが占めていることが分かる。ロールボックスパレットは、先述したように高さが高く、しかも底板が狭いものが多いため、荷の積み方によっては重心が高くなり安定が悪くなる。しかも荷を多く積むと重くなるので、転倒して作業者が下敷きになると、重症災害となることがある。

テールゲートリフターとロールボックスパレットは、「相性が悪い」という指摘もあり、この2つを組み合わせる作業は、正しく行わないと一定の危険が伴うのである。

ロールボックスパレット

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ロールボックスパレットとは、右図のような台車で、カゴ車とかカゴ台車などとも呼ばれている。保管時の折りたたむ方法によって、L字型とU字型(A字型)に分けられる。図はL字型で、右側のパネルがたためるが左側のパネルは背面パネルに固定されていてたためないようになっている。U字型は左右のパネルがたためるが、キャスタ部をたたむことはできない。

※ かつてある大手企業でU字型のロールボックスパレットで事故が発生したため、社内の使用が禁止されたことがある。そのことが契機となって、現在ではU字型のものは、ほとんど製造されていない。ただし、中古のロールボックスパレットにはこのタイプのものも存在している。

なお、ロールボックスパレットの材質は、かつては鋼鉄製のものがあったが、現在ではプラスチック製のものしか製造されていない。

自在キャスタと固定キャスタ

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※ キャスタの図は、労働安全衛生総合研究所「ロールボックスパレット起因災害防止に関する手引」より

また、上図のロールボックスパレットのキャスタは、4輪が自在キャスタ(自由に向きを変えられる)でその内2輪がストッパ付きであり、現在の多くのロールボックスパレットがこの形式である。

4輪が自在キャスタとなっているものは操作性が良く、テールゲートリフターの昇降板のような狭い場所でも思う場所に移動させやすいというメリットがある。一方では、まっすぐに進めるためにはある程度の力で押さえる必要があり、重い荷物を積んでいると力の弱い作業者には扱いにくい。とりわけ坂道のある場所での操作にはかなりの力を要する。

そこで、比較的広い場所で直進する作業が多い場合は、4輪の自在キャスタのうち2輪を固定キャスタに変更することが望ましい。一部のメーカは4輪自在しか作成していないが、注文に応じて2輪を固定キャスタにする場合もある。また、4輪が自在キャスタで、そのうちの2輪は自在と固定の切り替えができるようになっているものもある。


2 法令改正の内容

2023年3月に公布された改正安衛則によるテールゲートリフター操作業務関連の新たな規制等は、次の4点からなる。

  • 昇降設備の設置が必要な貨物自動車の範囲の拡大(2023年10月施行)
  • 保護帽の着用が必要な貨物自動車の範囲の拡大(2023年10月施行)
  • テールゲートリフターの操作の業務について特別教育の義務化(2024年2月施行)
  • 運転者が運転位置から離れるときの措置の適用除外(2023年10月施行)

このうち最後の「運転者が運転位置から離れるときの措置の適用除外」は、これまでも事実上認められていたものを成文化したものであり、実質的な変更が行われるわけではない。

法令の適用のないリフト

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※ 図中の写真は©photoACより

なお、法令ではテールゲートリフターは「貨物自動車の荷台の後部に設置された動力により駆動されるリフト」とされている。従って、自動車検査証の用途区分等(※)、他法令に基づく分類や最大積載量に関わらずこの定義に該当すれば適用される。自動車検査証において、用途等の区分が貨物自動車等となっているものや、自家用・事業用の別が事業用となっているものに限定されない。一方、貨物自動車以外の自動車等に設置されているテールゲートリフターや、介護用の車両に設置されている車いすを対象とする装置等には適用がない。

※ 白ナンバーのトラックであったとしても、安衛法の適用事業場で使用するのであれば適用がある。

荷台の側面に設置されたテールゲートリフター

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※ 荷台の側面に設置されたテールゲートリフター(©photoAC)

また、やや疑問も感じるが、荷台の側面に設置されたテールゲートリフターについても適用がないこととなろう。

なお、この省令改正に関して令和5年3月28日基発0328第5号「貨物自動車における荷役作業時の墜落・転落防止対策の充実に係る労働安全衛生規則の一部を改正する省令及び安全衛生特別教育規程の一部を改正する件の施行について」(以下「施行通達」という。)及び令和5年8月1日事務連絡「貨物自動車の昇降設備の設置、保護帽の着用等に関する問答について(労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第33号)関係問答)」(以下「関係問答事務連絡」という。)が厚生労働省から発出されている。


(1)昇降設備の設置が必要な貨物自動車の範囲の拡大

トラックに設置される昇降設備

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※ 国土交通省「女性ドライバー等からの要望に対するトラックメーカーなどの対応事例」(2019年4月)より抜粋

現行法令では、最大積載量が5トン以上の貨物自動車について、荷の積み卸ろし作業を行う場合について、昇降設備の設置が義務付けられている。図は、貨物自動車に設置されている昇降設備の例である。

これが、2023年10月以降は、最大積載量が2トン以上の貨物自動車まで拡大される(※)

※ なお、旧条文では「床面と荷台上の荷の上面との間を安全に昇降するための設備」となっていたが、これが「床面と荷台との間及び床面と荷台上の荷の上面との間を安全に昇降するための設備」と修正された。

労働者が床面と荷台との間を昇降する際、荷台からの墜落・転落災害が多く発生していることを踏まえて、昇降設備の設置対象となる箇所に、「床面と荷台との間」を明記したものである。なお、昇降設備は実際に昇降する場合に設けるべきものであり、例えば、荷台には昇降するが、荷台の荷の上には昇降しないという場合には、荷台への昇降設備のみ設置すればよいことは当然である。

なお、「床面と荷台との間及び床面と荷台上の荷の上面との間」とされたことから、テールゲートリフターの昇降板と床面の間を昇降する場合は、昇降板を荷台と同じ高さにしたときであっても昇降設備の設置は必要ないのかという疑問があるかもしれない。確かに条文の文理から字義どおりに解釈すればその通りだが、可搬式の昇降設備があればそれを使用し、なければ昇降板を途中位置まで下げて昇降するべきであろう。

「昇降設備」には、以下のものを含む。

  • 踏み台等の可搬式のもの
  • 貨物自動車に設置されている昇降用のステップ(※1)
  • テールゲートリフターを中間位置で停止させてステップとして使用(※2)

※1 関係問答事務連絡によれば「あおり内側回転式ステップ」も含まれるとされている。また、「巻き込み防止柵は、一般的に、荷台又は荷の上面への人の乗降を前提としておらず、強度や踏面の幅が確保されていないこと、滑り止めがないこと等から昇降設備として認められないが、人の乗降を想定した強度が確保され、昇降を行う部分に滑り止め加工や踏面の確保を行う等、昇降設備として安全に昇降できる機能を付与していると認められるものは昇降設備に含まれる」とされている。

なお、陸災防は「労働安全衛生規則改正についてQ&A」の中で、巻き込み防止用バンパーが昇降設備として認められるかについて「そのままでは認められない可能性がある」としている。専用のステップ等を取り付るなどにより安全に昇降できるようにしなければ、昇降設備には当たらないと考えるべきである。

※2 床下格納式の場合、テールゲートリフターを完全に展開しなくても、折りたたんだままの昇降板を床下から後方に突き出して昇降設備として使用できるようになっているものもある。

なお、テールゲートリフター製造者がテールゲートリフターの動作時に作業員の搭乗を認めていないにもかかわらず、テールゲートリフターの動作時に労働者を搭乗させることは、安衛則151条の14の主たる用途以外の使用に当たる場合がある(※)

※ 施行通達による。詳細は、本サイトの「TGLの昇降板で人の昇降は許されるか」を参照していただきたい。

踏み台等の可搬式の昇降設備

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※ (上)厚生労働省パンフレット「荷役作業を安全に」、(下)厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令案等の概要(陸上貨物運送事業関係)」(第152回安全衛生分科会資料)より

可搬式の昇降設備については、手すりのあるもの、踏板に一定の幅や奥行きのあるものが望ましい。また、貨物自動車に設置されている昇降用のステップについては、乗降グリップがあり、三点支持等により安全に昇降できる形式のもの等が望ましい。

なお、本条が適用されない貨物自動車であっても、高さが1.5メートルを超える箇所で作業を行うときは、安衛則第526条の規定が適用されることに留意する必要がある。

また、「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」(平成25年3月25日基発0325第1号)(以下「荷役ガイドライン」という。)に基づき、荷を積み卸す作業を行うに当たっては、できる限り昇降設備を設置し、使用することが望ましいこと


(2)保護帽の着用が必要な貨物自動車の範囲の拡大

荷を積み卸す作業(安衛則第 151 条の 74 第1項に定める作業)(※)を行うときに、労働者に保護帽を着用させる義務の対象となる貨物自動車を、最大積載量が5トン以上のものに加え、以下の赤文字部分が追加となったものである。

※ 貨物自動車に荷を積む作業又は当該貨物自動車から荷を卸す作業の双方をいうこと。なお、ロープ掛けの作業及びシート掛けの作業並びにロープ解きの作業及びシート外しの作業を含むこと。

なお、この安衛則第 151 条の 74 第1項第2号は、荷台の側面について規定しており、荷台の後部について規定しているものではない。従って、バンタイプの貨物自動車(ウイング車を除く。)の後部扉を開けて荷の積込み作業を行う場合には、同条による保護帽の着用は義務付けられないが、施行通達の3(2)ウにおいて、「墜落による労働者の危険を防止するため保護帽を着用させることが望ましい」とされている。

表 労働者に保護帽を着用させる義務の対象となる貨物自動車
最大積載量が5トン以上(旧規定でも必要)
最大積載量が
2トン以上5トン未満
荷台の側面が構造上開放されているもの又は構造上開閉できるもの
テールゲートリフターが設置されているもので、テールゲートリフターを使用するとき

荷台の側面が構造上開放されているもの又は構造上開閉できるものには、あおりのない荷台を有する貨物自動車や平ボディ車が含まれることはもちろん、ウイング車も含まれる(※)

※ 関係問答事務連絡によれば、「平ボディ車においてあおりを閉じた場合や、ウイング車においてウイングを閉じた場合であっても、荷を積み卸す作業を行う場合には、保護帽の着用が必要である」とされている。

ただし、施行通達には、「貨物自動車の荷台の高さの荷受け台(プラットフォーム等)が設置され、荷台の端部から墜落するおそれがない場所において荷を積み卸す作業を行う場合や、荷を積み卸す作業のために労働者が荷台又は積荷の上に乗る必要がない場合等、墜落の危険がない状態で荷を積み卸す作業を行う場合は、第 151 条の 74 第1項の荷を積み卸す作業を行うときに該当せず、同項は適用されないこと」とされている。

なお、「テールゲートリフターを使用するとき」には、次の場合は含まれない。しかしながら、このような場合であっても保護帽の着用をすることが望ましいことは言うまでもない。

  • テールゲートリフターを使用せずに荷を積み卸す作業を行う場合
  • テールゲートリフターを中間位置で停止させ、労働者が単にステップとして使用する場合で、荷を積み卸す作業を行わないとき

なお、保護帽は「墜落時保護用」のものを使用する必要がある。

貨物自動車の荷台の高さの荷受け台(プラットフォーム等)が設置され、荷台の端部から墜落するおそれがない場所において荷を積み卸す作業を行う場合や、荷を積み卸す作業のために労働者が荷台又は積荷の上に乗る必要がない場合等、墜落の危険がない状態で荷を積み卸す作業を行う場合は、第 151 条の74 第1項の荷を積み卸す作業を行うときに該当せず、同項は適用されない(※)

※ ただし、そのような作業であっても、墜落するおそれのある場所へ移動する恐れはあり、常に保護帽を着用することが望ましい。

また、本条が適用されない貨物自動車において、荷を積み卸す作業等を行う場合であっても、高さが2メートル以上の箇所で作業を行う場合で、墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、安衛則第 518 条の規定が適用されることに留意する必要がある。 また、荷役ガイドラインに基づき、荷を積み卸す作業においては、墜落による労働者の危険を防止するため保護帽を着用させることが望ましい。


(3)テールゲートリフターの操作の業務について特別教育の義務化

ア 特別教育の対象者

2024年2月1日以降、貨物自動車から荷の積み卸しの作業を伴うテールゲートリフターの操作の業務が特別教育の対象となる。すなわち、次の2つの要件を満たす業務が特別教育の対象となるわけである。なお、この場合の貨物自動車に最大積載量についての下限は定められていないことに留意すること。

  • 貨物自動車のテールゲートリフターの操作を行うこと
  • 貨物自動車から荷の積み卸しの作業を伴うこと

逆からいえば、上記のいずれか一方の要件を満たさなければ(※)特別教育の対象とはならないわけである。

※ AとB2人の作業者がいて、Aは貨物自動車のテールゲートリフターの操作を行い、Bが貨物自動車から荷の積み卸しの作業を行う場合を考えよう。

この場合、Aは、貨物自動車から荷の積み卸しの作業を伴う貨物自動車のテールゲートリフターの操作の業務を行っているので、特別教育は必要ということになる。

一方、Bはそもそも貨物自動車のテールゲートリフターの操作を行っていないので特別教育は必要ではない。ただし、厚生労働省は「テールゲートリフターの操作の業務」を行わない作業者であっても、荷を積み込んだロールボックスパレット等をテールゲートリフターの昇降板に載せ、又は卸す等の作業を行う者にあっては、できる限り当該教育を受けることが望ましいとしている。

そして最初の要件である「テールゲートリフターの操作」には、次のものが含まれる。

  • テールゲートリフターをスイッチを用いて操作すること
  • テールゲートリフターに備え付けられたキャスターストッパー等を操作すること
  • 昇降板の展開や格納の操作を行うこと
  • その他テールゲートリフターを使用する業務

なお、以下の作業は対象とはならないこと。

  • 貨物自動車以外の自動車等に設置されているテールゲートリフターの操作の業務
  • 介護用の車両に設置されている車いすを対象とする装置等の操作の業務

次に、2番目の要件である「貨物自動車から荷の積み卸しの作業」について、関係問答事務連絡によれば、「「貨物自動車に荷を積む作業又は当該貨物自動車から荷を卸す作業」は、現にテールゲートリフターの動作時に荷を積載している場合に限るものではない。プラットフォームに接続するためにテールゲートリフターを操作する場合、一般的に、その後の作業において当該テールゲートリフターを使用して荷の積み卸し作業を行うものであり、この場合には、安衛則第 36 条第5号の4の「テールゲートリフター(略)の操作の業務(当該貨物自動車に荷を積む作業又は当該貨物自動車から荷を卸す作業を伴うものに限る。)」に該当し、特別教育の実施が必要である(※)とされている。

※ なお、筆者が厚労省の担当者にメールで確認したところによると、「テールゲートリフターの昇降板を昇降設備(ステップ)として用いて手作業で荷を積み卸す作業も、安衛則第36条第5号の4の「当該貨物自動車に荷を積む作業又は当該貨物自動車から荷を卸す作業」に該当することから、その作業を行うためにテールゲートリフターを操作するにあたっては特別教育が必要となる」とのことである。

分かりにくいので、いくつかの具体例を挙げよう。

【具体例】

  • 荷を積み卸す作業を伴わない定期点検等の業務は特別教育の対象とはならない(施行通達による)。
  • 昇降板を渡し板として用いる場合(関係問答事務連絡による)
  • テールゲートリフターの操作の業務を行う労働者には特別教育が必要である
  • 単にテールゲートリフター上を経由して荷の積み卸し作業を行うのみである労働者には、特別教育を実施する必要はない
  • 昇降板を荷台と地上の中間の位置に下げてステップ(※)として用い、手作業で荷を積み卸す場合(厚生労働省担当者への確認による)
  • テールゲートリフターの操作の業務を行う労働者には特別教育が必要である
  • 単に昇降板をステップとして用いて手作業等で荷の積み卸し作業を行う労働者には、特別教育を実施する必要はない
  • 荷台(又は地上)にいる労働者が荷をテールゲートリフターの昇降板に載せて、昇降板の昇降操作まで行い、地上(又は荷台)にいる労働者は荷を昇降板に載せたり卸したりする作業のみ行う場合(施行通達等による)
  • 荷台(又は地上)でテールゲートリフターの操作の業務を行う労働者には特別教育が必要である
  • 地上(又は荷台)で、単に荷を昇降板に載せたり卸したりする労働者は
  •   〇 ストッパを操作するなら特別教育の受講が必要
  •   〇 ストッパを操作しない場合は特別教育の受講は不要(受講することが望ましい)

※ 昇降板を地上まで下げ、昇降板は荷の積卸にまったく用いない(作業中にその上に作業者が乗るだけ)場合も同じと考えるべきであろう。


イ 特別教育の内容・科目の省略等

特別教育の科目・時間は次のようになっている。

表 特別教育の科目・時間
科目 時間
学科 テールゲートリフターに関する知識 1.5時間
テールゲートリフターによる作業に関する知識 2.0時間
関係法令 0.5時間
実技 テールゲートリフターの操作の方法 2.0時間

6時間の研修であるから、ほぼ1日研修となろう。価格帯はテールゲートリフターのついた貨物自動車のレンタル料を含むことから、1万5千円から3万円程度といったところだろうか。

また、安衛則第37条に基づく科目の省略について、施行通達は以下のように定めている。なお、筆者において表形式とした。

表 省略可能な特別教育の科目・時間
対象者 省略できる科目
荷役ガイドラインの別添2「荷役作業従事者のための安全衛生教育(陸運事業者向け)実施要領」に基づく安全衛生教育であって、教育内容にテールゲートリフターを含むものを受講した者 テールゲートリフターに関する知識及びテールゲートリフターによる作業に関する知識の科目
陸上貨物運送事業労働災害防止協会が実施するテールゲートリフターに係る荷役作業安全講習会(ロールボックスパレット及びテールゲートリフター等による荷役作業安全講習会)を受講した者 テールゲートリフターによる作業に関する知識の科目
施行日時点において、荷を積み卸す作業を伴うテールゲートリフターの操作の業務に6月以上従事した経験を有する者 以下の科目を以下のように短縮できる。
  • 学科教育 テールゲートリフターに関する知識 45分
  • 実技教育 テールゲートリフターの操作の方法 1時間
テールゲートリフターの製造者、取付業者等が行う適切に実施される操作説明において、テールゲートリフターの操作を実際に行いながら説明を受けた者 当該説明に要した時間を実技教育の教育時間に含まれるものとしてよい
改正省令の施行前に、この特別教育の科目の全部又は一部を受講した者 受講した科目

このうち、5番目の項目は、施行日前であっても特別教育が受講できることを示している。これについては次項で説明する。

現実には、登録教習機関が1日程度の特別教育を行う場合には、省略の要件を確認することが困難なことなどから、教育の省略をしないことが多い。そもそも6時間程度の教育であり、特別教育を事業者が実施する場合を除き、あまり意味のある規定とは思えない。


ウ その他(特別教育を受講するべきとき、講師の要件など)

(ア)特別教育を受講するべきとき

改正省令の施行前からテールゲートリフターの操作の業務を行っている場合、施行の日以降もその業務を続けたければ特別教育を受けなければならない。この場合、施行の日までに受講しておけばよい(※)

※ テールゲートリフターの操作の業務関連の特別教育に関する省令や特別教育規程は、施行の日以降に有効になる。そのため、施行の日までに受講しても意味がないと思えるかもしれない。しかし、前項で説明した科目等の省略の規定があるので、施行日以降に改めて受講する必要はなくなる。


(イ)特別教育に用いられるテキスト等

現実には、特別教育用のテキストを個々の事業者や教育機関が独自に作成することはあまり多くはないだろう。

特別教育用のテキストは、陸災防及び全国登録教習機関協会(全登協)が販売している。なお、全登協はテキストと合わせて教育用のパワーポイントも販売している。

ほとんどの場合、これら2種のテキストのいずれかが用いられることとなるだろう。


(ウ)特別教育の講師等

特別教育の講師の資格要件は定められていないが、学科及び実技の科目について十分な知識、経験等を有する者でなければならない。そして、陸災防全登協の両機関ともに特別教育の講師のための講師養成教育(陸災防は学科のみ)を実施している(※)

※ いずれも最初の募集についてはすべての研修会が満席となったが、両機関とも追加研修を行うこととしている。

多くの教育機関等では、この講師養成研修を受講した者が特別教育の講師を務めることになろう。このため、特別教育は早いケースで8月から始まっているが、本格化するのは10月以降になる。

冒頭に記したように、テールゲートリフターの設置された貨物自動車は、現在、日本に約 30 万台が運行しているとされる。1人のドライバーは、1台の貨物自動車を任されていることが多いので、補助者を含めると、特別教育の対象者は30万人を超えることとなる。

30万人を超える受講対象者に対して、2024年2月までに特別教育を実施しなければならないのであるから、日程的にはかなり厳しいこととなろう。外部の教育機関で特別教育を受講する予定の場合、余裕をもって受講するようにした方がよさそうだ。


(4)運転位置から離れる場合の措置の適用除外

旧法令においては、両系荷役運搬機械等の運転者が運転位置から離れるときは、フオーク、シヨベル等の荷役装置を最低降下位置に置かなければならないこととされていた。そして、形式的には、テールゲートリフターについても適用があるように読める。しかし、その収納位置は、必ずしも最低降下位置ではないため、テールゲートリフターに関しては、この規定は非現実的なものとなっていた。

そこで、運転者が運転位置から離れるときにおける荷役装置を最低降下位置に置く義務について、テールゲートリフターについて適用を除外することとしたものである。

また、テールゲートリフター等の操作のためには原動機を動作させなければならない構造のものも存在することから、走行のための運転位置とテールゲートリフター等の操作位置が異なる貨物自動車について、テールゲートリフター等を操作し、又は操作しようとしている場合は、原動機の停止義務の適用も除外されている。

現実には、これまでもこの適用除外を前提とした運用がなされていたであろうから、それを条文上も明らかにした改正であり、実質的にはとくに運用が変わるわけではない。

なお、ブレーキを確実にかける等の貨物自動車の逸走防止措置 については、改正後も同様であり、適用除外とはならないことは当然である。


3 テールゲートリフターの安全な操作のために必要なこと

テールゲートリフターの4つの種類

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※ 厚生労働省パンフレット「テールゲートリフターを安全に使用するために」を一部修正

冒頭で説明したように、テールゲートリフターを起因とする労働災害のタイプは多様なものであり、これさえ押さえておけばほとんどの災害が防止できるというようなものではない。

しかしながら、いくつかの重要な事項はあり、それを防止することで、かなりの災害を防止できるものである。

基本は、労働安全衛生研究所が公表している「6基本&11場面別ルール」と日本労働安全衛生コンサルタント会が公表している「ロールボックスパレットの安全作業マニュアル」に従って作業を行うことである。

ここでは、そのうちいくつかの重要な事項について解説する。


(1)昇降板に乗ったまま昇降板を昇降させないこと等

昇降板に乗ったまま昇降板を昇降させない

※ 昇降板に乗ったまま昇降板を昇降させない(illustACのイラストを利用)

現在、我が国で流通している国産のテールゲートリフターは、すべて荷物専用のリフトとして設計されている。人間が乗ることを前提として安全装置等が組み込まれているわけではないし、また安全率等もとられていない(※)

※ 日本自動車車体工業会「テールゲートリフター昇降作動時における人の搭乗禁止について」(2023年3月31日)はテールゲートリフターは「あくまで荷物を載せる安全率で設計しており」「人が乗った状態での昇降作動を考慮した評価を製品開発時に実施しておりません」として「数百 Kg の荷物を人が支えて昇降する作業は、荷物転倒時における人の落下や挟まれるリスクがあると判断しております」としている。

従って、これに乗ったまま昇降することは安衛法の用途外使用に該当し、法違反となる(安衛則151条の14)。しかし、現実には、テールゲートリフターの昇降板に乗って地上と荷台の間で昇降するケースは多い。

その理由は、テールゲートリフターに乗って昇降してはならないことを知らないこともあろうが、ロールボックスパレットの安定が悪いため、これを支えるために同乗するということもあろう。

ただ、実際にロールボックスパレットが転倒した場合、その荷が重ければ支えられるようなものではない。荷と共に転倒して墜落して、荷の下敷きとなれば重大な災害となりかねない。大変に危険な行為である(※)

※ 仮に荷主が、ロールボックスパレットを支えるために昇降板に載ったまま昇降させるよう指示した場合、安衛法違反の教唆になる。また、事故が発生した場合、状況によっては荷主が業務上過失致死傷罪に問われたり、民事損害賠償責任を課されることもあり得よう。

荷主も、安易にそのようなことを命じてはならない。また、仮に命じられたとしても、従ってはならない。

また、昇降板の操作時には、テールゲートリフターに近寄らないこと。さらに、荷を積んで昇降させる場合は荷が車体の後方に倒れるおそれがあるので、車体後方には近寄らないことが重要である。


(2)昇降板上で荷を後ろ向きに引かない

昇降板上で荷を後ろ向きに引かない

※ 昇降板上で荷を後ろ向きに引かない(illustACのイラストを利用)

また、昇降板上では開口部に向って後ろ向きに移動することは危険であるので行ってはならない。ロールボックスパレットは原則として押して移動するべきであるが、引いて移動することも禁止されているわけではない。

しかしながら、開口部の近くでは、必ず押して移動する必要がある。とりわけテールゲートリフターの昇降板の上で後ろ向きに引くと、墜落する危険が大きくなるからである。


(3)キャスタストッパの確実な使用

ア キャスタストッパとロールボックスパレット

昇降板のキャスタストッパ等

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※ 国土交通省「女性ドライバー等からの要望に対するトラックメーカーなどの対応事例」(2019年4月)より抜粋

テールゲートリフターの昇降板にはキャスタストッパのついているものがある(※)。ロールボックスパレット等を昇降板上に載せて昇降させるときは、ロールボックスパレットのうち2輪のキャスタをロールボックスパレットに当てて停止させること。

※ 垂直昇降式のテールゲートリフターの場合、ほとんどの機種にキャスタストッパは設置されていない。また、台車のキャスタの直径が 20 センチを超える場合は、キャスタストッパでは台車を停止させることはできないので留意する必要がある。

また、合わせてロールボックスパレットのキャスタにストッパがついている場合は、そのストッパも掛けること。なお、ロールボックスパレットのキャスタストッパは、荷台に積載した状態で動きを止めることはできない。荷台に積載するときはベルト等で固定する必要がある。

なお、一部の機種にはサイドガードが設置されているものがあるが、これはキャスタストッパを停止させるためのものではない。また、床下格納式など昇降板をたたんで格納するタイプでは、サイドガードが折り畳み部で途切れているので、車輪がはみ出さないように注意する必要がある。


イ U字型ロールボックスパレット

ロールボックスパレット

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※ ロールボックスパレット(©photoAC)

このとき、U字型ロールボックスパレットに注意する必要がある。U字型ロールボックスパレットは、開口部側のキャスタが内側に寄っているため、キャスタストッパでロールボックスパレットを停止させると斜めに停止することとなる。

図では、左側にたたまれて保管されているのが、U字型ロールボックスパレットである。キャスタは左右側面のパネルや積載面下部に固定されているのではなく、専用のキャスタ取付け具に固定されている。この取付け具が背面パネル側よりも開口部側(先端部側)の方が狭くなっているため、重ねて保管することが可能になる。

ロールボックスパレット

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※ 図中の写真は、労働安全衛生総合研究所「テールゲートリフターの構造要件の策定に関する委員会からの提言」より

現実には、U字型のロールボックスパレットは、ほとんど使用されていない。このため、逆にU字型のロールボックスパレットの存在を作業者が知らないケースが多い。

そのため、たまたま中古のロールボックスパレットでU字型があると、作業者がそのことを知らずに、昇降板の上でロールボックスパレットが思わない方向に回転して、事故となるケースがある。

なお、ロールボックスパレットの短辺側をストッパに当てると、U字型のロールボックスパレットでも回転することはないが、昇降板が傾いたときにロールボックスパレットが転倒するおそれがある。

昇降台に積まれたU字型ロールボックスパレット

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※ 昇降台に積まれたU字型ロールボックスパレット(©photoAC)

図ではU字型のロールボックスパレットを昇降板のキャスタストッパと側面のストッパで固定している。かなり変則的な固定の方法であるが、昇降板の側面にストッパがなければこの方法は使えない。

また、この場合、ロールボックスパレットのキャスタのストッパを掛けるのが地上からでないとできないので、作業員が2人いないと困難という問題もある。


(4)ロールボックスパレットの使用上の留意事項

ロールボックスパレットは、かなりの荷を積むことが可能で、人力で操作できることから、様々な業種の多くの事業場で使用されている。

しかしながら、底板が小さく高さの高いものもあり(※1)、転倒しやすいという問題がある。多量の重量物を載せていた場合、倒れかければ(※2)人力で支えることは不可能に近い。

※1 パレットの大きさは、JIS では、幅1100 mm × 奥行 800 mm × 高さ 1,700 mm のものが規定されており、この寸法のものが比較的多い。これとは異なる寸法のものもあるが、ほぼ、幅・奥行は1m程度以内で、高さは1,570 mm のものも一部に製造されている。

※2 労働安全衛生総合研究所「ロールボックスパレット起因災害防止に関する手引き」(2015年)によれば、「重心がロールボックスパレットの上方にある中間棚 100 kg の条件では,小型のAタイプは概ね 10 度以下で転倒した」とされている。なお、ここにいうAタイプとはU字型の別称である。

ロールボックスパレットに荷を積むときは、重いものを下にするようにして重心をできるだけ下にすること、目の高さより上にはできるだけ荷を積まないようにし、押して移動するときの視界を確保するようにすることが重要である。

また、ロールボックスパレットが倒れかけたときは支えようとせずに迷わずに逃げること。荷より人間の方が大切である


(5)テールゲートリフター作業時の服装と熱中症

陸上貨物運送事業の標準的な服装・装備の例

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※ 労働安全衛生総合研究所「ロールボックスパレット起因災害防止に関する手引き」(技術資料 2015年)

図は、労働安全衛生総合研究所が、陸上貨物運送事業の標準的な服装・装備の例として上げている図である。手と足首にはプロテクタが取り付けられている。このプロテクタは、ロールボックスパレットの操作を念頭においたものである。

標準的なロールボックスパレットには持ち手がないので、四隅のポールを握って操作することになるが、そうすると壁とロールボックスパレットの間に手がはさまれることがある。また、ロールボックスパレットを引くと荷を載せる台と床とのすきまに足首がはさまれることがある。そのときに作業者を守るための保護具としてプロテクタを装着している。

業種別熱中症の発生状況

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ただ、本図の作業服の最大の問題は熱中症である。運送業は熱中症の発生数の多い業種である。運輸業の労働者数は建設業の半数程度であるが、2022年の熱中症の死傷者数は建設業とほぼ同数が発生している。

その最大の原因は、運転中はクーラーのきいた運転室で運転し、配送先では外気温の中で重量物の運搬等の作業に従事するという、温度差と高温下での作業強度である(※)

※ 周辺住民への配慮や、SDGs が厳しくなっていることなどもあり、配送先の駐車場棟でアイドリングを禁止されることが多い。そのため、休憩場所さえない炎天下で、長時間クーラーが使えないなども熱中症の多い原因の一つである。

さらに、大型車では一般道路では停車できるところがほとんどないためトイレを使えない。このため女性ドライバーなどが水分補給を我慢してしまうことも一因である。

空調服を支給する、開襟シャツとタオルを首に巻くことの併用を認める、裾を外へ出すタイプのシャツの作業服を認めるなど、柔軟な対応が必要だろう。


4 最後に

トラックドライバー

※ イメージ図(©photoAC)

製造工場の安全衛生水準は、1972年の高度経済成長の終焉と安衛法の制定以降、飛躍的に向上した。最近では、若年齢者を中心に長時間労働もひところほどではなくなりつつある。

そこからかなり遅れているのが、運輸業界である。2024年問題の根本原因はまさにここにあるといってよい。橋本(※)は、「トラックドライバーの現場において、過労死に繋がり得るものは労働時間の長さだけではない。むしろ、先述したような数十キロの荷物を数百個も手荷役させられたり、トイレになるべく行かなくてすむよう、水分摂取を控えたり、炎天下の中でアイドリングストップで長時間荷待ちさせられたりするほうがよほど体に悪い」と指摘している。

※ 橋本愛喜「男性はペットボトル、女性はビニール袋で用を足すしかない…トラック運転手の人手不足が改善しない根本原因」(PRESIDENT Online 2023年04月26日)

橋本は、トラックドライバーの経験があるフリーライターであり、その発言には学者や評論家の発言にはない重みがある。テールゲートリフターは、確かにトラックドライバーの過重な労働を軽減する役割を有する設備ではあるが、一般の製造工場の機械設備の感覚からいえば、やはり危険な設備という印象は否めない。

テールゲートリフターとロールボックスパレットの作業を安全なものにするには、本稿に記したことも重要であるが、無理のない運行計画の実現が最低限の前提となろう。そして、そのためにはドライバーの労働条件の確保が重要となる。無理な運行をしなければ、適正な賃金が確保できないようでは、無理な運行はなくならないし、配送作業も安全なものにはならないのである。

また、2024年4月からトラックのドライバーなどへの時間外労働の上限規制が適用される。賃金の低下や労働強化を伴わない形での確実な履行が望まれる。


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【参考】 関係条文(改正後の最終的な条文)

【労働安全衛生規則】

(特別教育を必要とする業務)

第36条 法第五十九条第三項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。

一~五の三 (略)

五の四 テールゲートリフター(第百五十一条の二第七号の貨物自動車の荷台の後部に設置された動力により駆動されるリフトをいう。以下同じ。)の操作の業務(当該貨物自動車に荷を積む作業又は当該貨物自動車から荷を卸す作業を伴うものに限る。)

六~四十一 (略)

 (略)

(運転位置から離れる場合の措置)

第151条の11 事業者は、車両系荷役運搬機械等の運転者が運転位置から離れるときは、当該運転者に次の措置を講じさせなければならない。ただし、走行のための運転位置と作業装置の運転のための運転位置が異なる貨物自動車を運転する場合であつて、労働者が作業装置の運転のための運転位置において作業装置を運転し、又は運転しようとしている場合は、この限りでない。

 フォーク、ショベル等の荷役装置(テールゲートリフターを除く。)を最低降下位置に置くこと。

 (略)

 (略)

 事業者は、第一項ただし書の場合において、貨物自動車の停止の状態を保持するためのブレーキを確実にかける等の貨物自動車の逸走を防止する措置を講じさせなければならない。

 貨物自動車の運転者は、第一項ただし書の場合において、前項の措置を講じなければならない。

(昇降設備)

第151条の67 事業者は、最大積載量が二トン以上の貨物自動車に荷を積む作業(ロープ掛けの作業及びシート掛けの作業を含む。)又は最大積載量が二トン以上の貨物自動車から荷を卸す作業(ロープ解きの作業及びシート外しの作業を含む。)を行うときは、墜落による労働者の危険を防止するため、当該作業に従事する労働者が床面と荷台との間及び床面と荷台上の荷の上面との間を安全に昇降するための設備を設けなければならない。

 前項の作業に従事する労働者は、床面と荷台との間及び床面と荷台上の荷の上面との間を昇降するときは、同項の昇降するための設備を使用しなければならない。

(保護帽の着用)

第151条の74 事業者は、次の各号のいずれかに該当する貨物自動車に荷を積む作業(ロープ掛けの作業及びシート掛けの作業を含む。)又は次の各号のいずれかに該当する貨物自動車から荷を卸す作業(ロープ解きの作業及びシート外しの作業を含む。)を行うとき(第三号に該当する貨物自動車にあつては、テールゲートリフターを使用するときに限る。)は、墜落による労働者の危険を防止するため、当該作業に従事する労働者に保護帽を着用させなければならない。

 最大積載量が五トン以上のもの

 最大積載量が二トン以上五トン未満であつて、荷台の側面が構造上開放されているもの又は構造上開閉できるもの

 最大積載量が二トン以上五トン未満であつて、テールゲートリフターが設置されているもの(前号に該当するものを除く。)

 (略)





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