テールゲートリフター作業手伝いの問題




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垂直昇降式テールゲートリフター

※ イメージ図(©photoAC)

テールゲートリフターは、フォークリフトのない場所でも荷の積み卸しが可能なことなどから普及が進み、2023年には全国で約 30 万台が使用されているとされています。

荷の積み卸しのためにテールゲートリフターの操作等の業務について、2023年3月に安衛則を改正する省令関係通達)が公布され、特別教育の義務化(2024年2月施行)などが行われました。

荷主、倉庫、配送先などで荷を積み卸すときに、荷主や配送先などの従業員に手伝ってもらう場合、通常はテールゲートリフターの操作はトラックのドライバー側が行うので、手伝う側に特別教育を受講する必要はないと思えるかもしれません。しかし、実際には、手伝う側の作業によっては、特別教育を受講していなければ、特別教育の未実施という法違反の問題が生じることがあり得ます。

本稿では、荷主や配送先での荷の運搬の業務を、荷主や配送先の従業員が手伝うときに注意するべきことを解説します。荷主や配送先の安全の担当者の方、運送業の総務部門や安全の担当者の方、テールゲートリフターのついたトラックで配送業務を行うドライバーの方は、ぜひご一読いただき、法違反が起きないようにご留意ください。




1 はじめに

執筆日時:

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(1)テールゲートリフター操作の業務が特別教育の対象となる

テールゲートリフター

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※ 労働安全衛生総合研究所「ロールボックスパレット起因災害防止に関する手引き」(技術資料 2015年)を一部修正

テールゲートリフター(※)とは、安衛法令においては「(安衛則第151条の2第七号の)貨物自動車の荷台の後部に設置された動力により駆動されるリフト」とされている装置である。

※ 一般にはパワーゲートと呼ばれることが多いが、パワーゲートは極東開発工業(株)の登録商標である。なお、荷を載せる昇降板は法令では昇降板と呼ばれるが、一般にはプラットフォームと呼ばれることが多い。しかし、行政の文書でプラットフォームといえば、貨物自動車の荷台とほぼ同じ高さの荷受け台を指すので注意が必要である。

労働安全衛生規則の改正により、テールゲートを用いた荷の積み卸しの業務を行う場合には、2024年2月からは安衛法第59条第3項の安衛法特別教育を行わなければならないこととなる。

従って、テールゲートリフターが設置されたトラックで荷の集荷や配送をする場合、荷の積み卸しにテールゲートを用いるのであれば、予め特別教育を受講する必要があることとなる。


(2)荷主又は配送先の従業員に荷の取扱いを手伝ってもらう場合

トラックドライバー

※ イメージ図(©photoAC)

問題は、荷の集荷や配送で、荷主、倉庫、配送先などの労働者に荷の扱いを手伝ってもらう場合である。

令和5年3月28日基発0328第5号「貨物自動車における荷役作業時の墜落・転落防止対策の充実に係る労働安全衛生規則の一部を改正する省令及び安全衛生特別教育規程の一部を改正する件の施行について」(以下「施行通達」という。)によると、特別教育の対象となる「テールゲートリフターの操作の業務」には、次のものが含まれるとされている。

  • テールゲートリフターをスイッチを用いて操作すること
  • テールゲートリフターに備え付けられたキャスターストッパー等を操作すること
  • 昇降板の展開や格納の操作(※)を行うこと
  • その他テールゲートリフターを使用する業務

※ 多くのテールゲートリフターでは、昇降板の展開や格納の操作は手作業で行うようになっている。

現実には、荷主、倉庫、配送先などの労働者は、テールゲートリフターのスイッチを操作したり、昇降板の展開や格納の操作を行ったりすることは、ほとんどないだろう。

荷主、倉庫、配送先などの労働者が行うこととして考えられるのは、次のようなことである。

  • テールゲートリフターの昇降板を渡し板(※)として用いて荷台とプラットフォームの間で荷を運ぶこと
  • 運送会社のドライバーなどがテールゲートリフターに乗せて地上まで下した荷を運ぶこと
  • 昇降板を荷台と地上の中間位置に止めて、これを昇降設備(ステップ)として用いて荷を運ぶこと

※ 後部格納式(背負い式)のテールゲートリフターの昇降板は、渡し板機能を有するタイプがある。

テールゲートリフターの操作は行っていないように思えるかもしれないが、実は、この中に特別教育の受講が必要になる作業がある。特別教育を受講していない労働者が、あまり深く考えずにそのような作業を行うと、安衛法第59条第3項に違反する(※)こととなる。

※ 現実にそのことが原因となって災害を発生させない限り、いきなり罰則を受けることはほとんどないが、違反したときの法定刑は安衛法第119条により6月以下の懲役又は 50 万円以下の罰金である。

荷主、倉庫、配送先などの事業者は、今回の安衛則の改正を知らないケースさえ多いのではないだろうか。違反とならないように十分に注意する必要がある。


2 荷主、倉庫、配送先などの労働者の特別教育の受講の要否

(1)テールゲートリフターの昇降板を渡し板として用いる場合

昇降板を渡し板として用いる

※ 昇降板を渡し板として用いる

テールゲートリフターの昇降板を図のように渡し板として用い、荷主、倉庫、配送先などの労働者がトラックの荷台からプラットフォームへ荷を移動させる場合はどうだろうか。

これについては、厚生労働省は、令和5年8月1日事務連絡「貨物自動車の昇降設備の設置、保護帽の着用等に関する問答について(労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第33号)関係問答)」(以下「関係問答事務連絡」という。)の中で次のように述べている。

問7 テールゲートリフターを操作することなく、テールゲートリフター上を経由して荷台とプラットフォーム(貨物自動車の荷台の高さの荷受け台のこと。以下「プラットフォーム」という。)の間で荷役作業を行う場合に特別教育は必要か。

 施行通達の3(3)アでは「「テールゲートリフターの操作の業務」には、テールゲートリフターの稼働スイッチを操作することのほか、テールゲートリフターに備え付けられた荷のキャスターストッパー等を操作すること、昇降板の展開や格納の操作を行うこと等、テールゲートリフターを使用する業務が含まれること。」とされている。

  上記の施行通達で示された業務を行わず、単にテールゲートリフター上を経由して荷の積み卸し作業を行うのみである場合には、特別教育を実施する必要はない。

※ 令和5年8月1日事務連絡「貨物自動車の昇降設備の設置、保護帽の着用等に関する問答について(労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第33号)関係問答)

従って、ドライバーがテールゲートリフターの操作を行って、昇降板を渡し板として用いるのであれば、荷主、倉庫、配送先などの労働者がその上をロールボックスパレットを運んだとしても、それだけであれば特別教育を受講する必要はないこととなる(※)

※ ドライバーは特別教育の受講が必要となる。


(2)昇降板に載せて地上まで下した荷を運ぶ場合

地上の昇降板から荷を降ろす

※ 地上の昇降板から荷を降ろす

問題は、図のように運送業のドライバーがトラックの荷台に登って荷を昇降板に載せて昇降板を地上まで下げて、荷主、倉庫、配送先などの労働者が荷を昇降板の上から運ぶ場合である。

実際にこのようなことが行われるケースは多いだろう。この場合、昇降板にキャスタストッパがないか、あっても荷にキャスタがないため使用しない場合は法違反とはならない(※)

※ ただし、施行通達は「「テールゲートリフターの操作の業務」を行わない者であっても、荷を積み込んだロールボックスパレット等をテールゲートリフターの昇降板に載せ、又は卸す等の作業を行う者にあっては、できる限り当該教育を受けることが望ましい」としている。従って、このような場合は、法違反の有無にかかわらず特別教育を受講させるべきである。

昇降板のキャスタストッパ等

図をクリックすると拡大します

※ 国土交通省「女性ドライバー等からの要望に対するトラックメーカーなどの対応事例」(2019年4月)より抜粋

しかし、荷がロールボックスパレットなどの台車の場合、昇降板にキャスタストッパが付いており、それを使用している(※)ケースがほとんどであろう。

※ 厚生労働省の「ロールボックスパレット使用時の労働災害防止マニュアル」は、テールゲートリフターでロールボックスパレットを扱う場合、キャスタストッパを作動させることを推奨している。従って、安全な作業のためにはキャスタストッパを使用しなければならない。

この場合、地上で荷を昇降板に載せたり卸したりする作業者はキャスタストッパを操作することになる。そうなると、特別教育を受講していないと法違反ということになる。


(3)昇降板を昇降設備(ステップ)として用いて荷を運ぶ場合

昇降板をステップとして用いる

※ 昇降板をステップとして用いる

昇降板を荷台と地上の中間位置に止めて、これを昇降設備(ステップ)として用いて荷を運ぶことは禁止されていない。

この場合、テールゲートリフターの操作をドライバーが行うのであれば、荷主、倉庫、配送先などの労働者が昇降板をステップとして用いて手作業で荷を運んだとしても特別教育を行う必要はない(※)

※ この場合もドライバーは特別教育の受講が必要になる。

なお、このことは、厚生労働省の担当者にメールで確認済みである。


3 運送業者及び配送先、荷主、倉庫等の行うべきこと

(1)契約によってテールゲートリフターの操作を配送先、荷主、倉庫等の従業員が行う場合

荷の集荷や配送を行う場合、運輸業者のドライバーと配送先、荷主、倉庫等の従業員のどちらがどのように荷を扱うかを、具体的に取り決めているケースは多くはないだろう。そして、通常は、運送業のドライバーがトラックから荷を積み卸し作業を行うケースがほとんどであろう。

しかし、配送先、荷主、倉庫等の従業員の側がテールゲートリフターの操作の業務を含む荷の取扱いを行うこととなっている場合は、次のようにその労働者を雇用している事業者が特別教育を行うことは当然である。

【特別教育を行うべき事業者】

  • 配送先、荷主、倉庫等の作業者を雇用している事業者が、その作業者に対して特別教育を行う必要がある。
  • 運送会社は、荷主、倉庫等の作業者に特別教育を行う必要はない。

いずれにせよ、キャスタストッパのついている昇降板から、キャスタストッパを操作してロールボックスパレットなどの台車を昇降台に積み卸しをすれば、特別教育を行う必要が出てくる。配送先、荷主、倉庫等の事業者は、特別教育の必要のある作業を行うのかどうかをきちんと取り決めておく必要があろう。


(2)配送先、荷主、倉庫等の作業者が、雇用主の指示ではなく親切心で手伝う場合

ア 配送先、荷主、倉庫等の事業者に求められること

問題は、配送先、荷主、倉庫等の作業者が、雇用主の指示ではなく親切心で手伝う場合である。

配送先、荷主、倉庫等の作業者が、特別教育を受けずに、職務ではなく純粋な親切心からテールゲートリフターを用いて荷の積み卸し作業を手伝った場合、事業者がそのことを知らなくても、現場の職長等が実行行為者として違反に問われ、事業者が罰金刑を受ける恐れはある。

そればかりか、配送先、荷主、倉庫等の作業者が、その職務としてではなく純粋な親切心からテールゲートリフターを用いて荷の積み卸しをした場合、それを原因とした災害で負傷すると、私的行為と理解されれば労働災害として補償されない可能性も完全には否定できないのである(※)

※ 理論上はあり得るということで、よほどのことがない限り現実には労災補償されるだろう。しかし、そのようなリスクがあるということは知っておいた方が良い。

配送先、荷主、倉庫等の事業者は、特別教育を受講させて業務として行わせるのでない限り、本人の判断でテールゲートリフターを操作して荷の積み卸しをしないよう徹底するべきである。


イ 運送会社の事業者

運送会社は、雇用主の指示ではなく親切心で配送先、荷主、倉庫等の作業者がテールゲートリフターの作業を行う場合であっても、その作業者に特別教育を行う義務がないことは当然である。

しかし、自社のドライバーが、安易に配送先、荷主、倉庫等の作業者に手伝ってもらうと、テールゲートリフターの作業が原因となってその作業者が死傷した場合、運送会社は損害賠償請求(民法第715条)を受ける恐れがある。

テールゲートを取り扱う業務が、危険又は有害な業務として安衛則第36条に定められた以上、そのような業務を素人である他社の従業員にさせることが過失だと裁判所に判断されるリスクはあろう。そうなると、民事賠償請求が認められることになる。

運送会社としても、正式な契約をしている場合を除き、配送先、荷主、倉庫等の従業員に安易に手伝ってもらうことのないよう、ドライバーに徹底する必要があろう。


4 最後に

垂直昇降式テールゲートリフター

※ イメージ図(©photoAC)

今回の安衛則の改正は、トラックを用いる業者には十分に周知されているようだが、配送先、荷主、倉庫等の事業者にはあまり理解されていないように思える。

実際には、トラックへ荷物を積んだり、トラックから荷物を卸したりする業務があれば、自社の社員がテールゲートリフターの昇降板のキャスタストッパを操作することはあり得よう。

荷の受け入れや発送を行う事業者は、自社の社員が特別教育の対象となる作業を行っていないか、一度、点検を行ってみる必要があるだろう。

ただし、だからといって自社の社員がそれまで行っていた作業を止めることで、トラックのドライバーの負担を大きくするような契約の変更は避けて頂きたいと思う。


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【参考】 関係条文(改正後の最終的な条文)

【労働安全衛生規則】

(特別教育を必要とする業務)

第36条 法第五十九条第三項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。

一~五の三 (略)

五の四 テールゲートリフター(第百五十一条の二第七号の貨物自動車の荷台の後部に設置された動力により駆動されるリフトをいう。以下同じ。)の操作の業務(当該貨物自動車に荷を積む作業又は当該貨物自動車から荷を卸す作業を伴うものに限る。)

六~四十一 (略)

 (略)





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