パレスチナ問題を知るための必読書13冊

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パレスチナの国旗

※ イメージ図(©photoAC)

残念ながら日本人は、パレスチナを含むアラブの状況についてよく知らないことが多いようです。かつて NHK の記者が放送中にイランをアラブと言って SNS で話題になったことがありました。これは極端な例としても、ナクバという言葉を知らなかったり、旧約聖書がユダヤ人の(神話上の)歴史書だということを知らないということは多いようです。

そのため、イスラエルによるパレスチナへの無差別攻撃のニュースに接しても、これを宗教上の争いだと信じてしまうことも多いようです。しかし、これは、国際社会(米ソと欧州の列強など)の公認の下で、イスラエルがパレスチナから住民を追い出してその土地に建国をしたことに端を発した争いです。

基本的な構造は、植民地支配と、それに対する被支配民族による解放闘争なのです。世界を大きく揺るがしかねないパレスチナの状況について、正しい知識を得ることは極めて重要です。

現実には、アラブ関連の書籍は普段はそれほど売れませんから、書店にもあまり並ぶことはありません。しかし、パレスチナとイスラエルの歴史や関係を総合的に解説したすぐれた書籍も、数多く出版されています。

本稿では、原則として過去5年以内に出版されたもの(翻訳書は5年以内に翻訳書が出されたもの)を中心に、パレスチナ=イスラエル問題のすぐれた解説書について紹介しています。

私たちが目指すべきは、パレスチナ人とユダヤ人がともに平和に生きられる社会です。パレスチナ人とユダヤ人の友好が実現し、ともに若者が未来に夢を持てる社会の実現なのです。しかし、その実現のためには、パレスチナ=イスラエル問題の基本的な姿を理解することが重要です。ぜひ、ここに挙げた書を手に取ってみてください。




1 パレスチナ=イスラエル問題を知るために

執筆日時:

最終改訂:


(1)推薦図書

積み重ねられた書籍

※ イメージ図(©photoAC)

イスラエルによるガザでの大量虐殺が開始され、国際的なパレスチナ支援運動が広がる中で、パレスチナとイスラエルについて、もう一度、調べなおしてみようと思い、概説書をいくつか購入した。

実際に、順次、読んでいるが、これらの書籍は、パレスチナ=イスラエル問題を理解する上で、有用なものであると思う。パレスチナ=イスラエル問題はきわめて複雑なものだけに、報道や SNS の情報だけでなく、ぜひ、書籍を読まれることをお勧めしたい。

ここに紹介するに当たって、できるだけ中立的なものをと思ったが、そもそも書籍に中立的なものなどあるわけもない。必ず、その筆者の政治的な立場が現れている。そこで、イスラエル寄り、パレスチナ寄りの双方の立場の書籍を購入し、ほとんどの書籍を2回以上読み込んでみた。

【パレスチナを知る書籍】

外国人著者の書籍

  • イラン・パペ「パレスチナの民族浄化: イスラエル建国の暴力」(法政大学出版局 2017年)
  • ラシード・ハーリディー「パレスチナ戦争: 入植者植民地主義と抵抗の百年史」(法政大学出版局 2023年)
  • エドワード・W・サイード「パレスチナ問題」(みすず書房 2004年)
  • サラ・ロイ「ホロコーストからガザへ(新装版)」(青土社 2024年)
  • シルヴァン・シベル「イスラエル vs. ユダヤ人」(明石書店 2022年)

日本人著者の書籍

パレスチナの歴史全般

  • 鶴見太郎「イスラエルの起源」(講談社 2020年)
  • 臼杵陽「世界史の中のパレスチナ問題」(講談社 2013年)
  • 高橋宗瑠「パレスチナ人は苦しみ続ける:なぜ国連は解決できないのか」(現代人文社 2015年)

ガザの状況

  • 清田明宏「天井のない監獄 ガザの声を聞け」(集英社 2019年)
  • 中川浩一「ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ」(幻冬舎 2023年)

以下は参考書籍

  • ダニエル・ソカッチ「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」(NHK出版 2023年)
  • 村田信一「増補復刻版 パレスチナ 残照の聖地」(あっぷる出版社 2024年)
  • 阿部俊哉「パレスチナ」(ミネルヴァ書房 2004年)
  • 高橋和夫「なぜガザは戦場になるのか」(ワニブックス 2024年)
  • 高橋和夫「パレスチナ問題の展開」(左右社 2021年)

パレスチナの状況は常に激動しているので、原則として5年以内に発行されたものを優先した。しかし、書かれた時期は古くても、内容が優れているものや定番の書籍については発行された時期によらずに挙げてある。


(2)外国人著者の書籍

書籍とコーヒー

※ イメージ図(©photoAC)

ちなみに、外国人著者のうち、イラン・パペ、サラ・ロイ、シルヴァン・シベル及びダニエル・ソカッチは、いずれもユダヤ人である。

このうちイラン・パペ、サラ・ロイ及びシルヴァン・シベルはシオニズムに批判的で比較的反イスラエルの立場といえよう。一方、ダニエル・ソカッチは穏健派のシオニストで、イスラエル寄りの人物である。

一方、ラシード・ハーリディー及びエドワード・W・サイードは、ともに米国籍のパレスチナ人である。できるだけ一方の当事者であるパレスチナ人の著したものをもっと多く紹介したかったが、わが国で邦訳されているイスラエル=パレスチナ関係の書籍は、圧倒的にユダヤ人によるものが多い。パレスチナ人の著書は、これ以外に見つからなかった。

なお、逆にシオニスト右派の書いた書も探してみた。その例としては、ダニエル・ゴーディス「イスラエル 民族復活の歴史」(ミルトス 2018年)などがある。筆者は、ニューヨーク生まれでイスラエルに住むユダヤ教のラビの資格も有する方である。この書には、シオニストによって都合の良い記述が多く、例えばデイル・ヤシーンの事件では強姦や虐殺がなかったなどと書いているが、その根拠としているのはシオニストがそう主張しているからというだけのことである(※)

※ デイル・ヤシーンで虐殺があったことは、シオニスト穏健派のダニエル・ソカッチ「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」でさえ明記されている。なお、ダニエル・ソカッチは強姦があったことについては頬かむりして何も書いていない。


ア イラン・パペ「パレスチナの民族浄化:イスラエル建国の暴力」

イラン・パペ「パレスチナの民族浄化:イスラエル建国の暴力」は、出版された時期が 2017 年とやや古い(※)が、イスラエル・パレスチナ問題に関する図書として定評がある。多くの識者に引用される名著である。

※ 法政大学出版局によると、2024年3月に第3刷を増刷したとのことである。10月7日以降のイスラエルによるガザへの攻撃が起きたため、本書を読もうとする人が増えているようだ。私が購入した本の奥付は、第2刷で 2023 年 11 月の日付である。第2刷もガザの危機による注文の増加に対応するため増刷したのかもしれない。

基本的な内容は、表題が示すように 1948 年のイスラエル建国(ナクバ)の際の、シオニストによるパレスチナ人への襲撃と追放の実態の詳細な記述である。ベングリオンとその領袖が、どのようにパレスチナの地からパレスチナ人の民族浄化を行ったかを、豊富な資料に基づいて記述されている。この書が出版されるまでの日本におけるナクバに関する常識を、大きく変えてしまうほどの影響のあった労作である。

また、アラブ諸国の政府が決してパレスチナの開放に熱心ではなかったことなども本書は余すところなく明らかにしている。この書を読むと、私を含めてパレスチナ問題に関心を持っている日本人が、いかにイスラエルのプロパガンダに毒されていたのかが理解できるだろう。パレスチナ問題の必読書と言える。

私自身は、読了したばかりで、まだ1度しか読んでいない。書店では入手できず、書店で注文して購入したので入手したのが後になり、ここで紹介した書籍の中では比較的後になって読み始めたのだが、最初の 10 ページ程度を読み始めたところで、一番最初に読むべきだったと後悔した。文章も読みやすく、ぐいぐいと引き込まれていく。

イラン・パペの書物としては、他にも「イスラエルに関する十の神話」(法政大学出版局 2018年)もある。私は、図書館でみかけただけだが、これもお勧めである。

なお、イラン・パペは2国家解決ではなく、ユダヤ人とパレスチナ人、キリスト教徒などが共に生きる1国家による解決を強く主張している。


イ ラシード・ハーリディー「パレスチナ戦争: 入植者植民地主義と抵抗の百年史」

パレスチナ市街

※ イメージ図(©photoAC)

ラシード・ハーリディー「パレスチナ戦争: 入植者植民地主義と抵抗の百年史」は、中東戦争、レバノン戦争、またオスロ合意などについて、パレスチナ側から見た問題点等を、著者自身の体験なども通して記述された良書である。パレスチナの視点に立ったオスロ合意の意義や、イスラエルによるパレスチナ人に対する支配と暴力についての詳細な考察を行っている。

日本では、オスロ合意をパレスチナの和平のための合意と考える人が多い。しかし、本書を読めば、現実にはオスロ合意がパレスチナ人にとって、極めて不利な内容だということが分かる。

日本では、オスロ合意の問題点がほとんど紹介されていないため、なんとなく好意的にとらえられている。しかし、現在となっては、パレスチナ人に多くの災厄をもたらしている。その巧妙な例の一つが、ヨルダン川西岸を A 地域、B 地域、C 地域に分け、実質的にイスラエルの支配が全域に及んでおり、入植者による日常的な暴力による支配が拡大していることである。

また、ガザ地区がイスラエルとエジプトによって完全に包囲されて、イスラエルによって上下水道施設など社会的なインフラを整備できないようにされ、人の住めるような状況ではなくなっていることもほとんど知られていなかった。

本書は、オスロ合意に至る経緯とその後のパレスチナ人が受けた苦痛について詳細に記されている。日本人が、パレスチナの現状を知るための極めて有用な書と言える。

なお、先述したようにラシード・ハーリディーは、米国籍パレスチナ人である。パレスチナの名家の出身で、アラファトなどパレスチナ側の要人と直接会った経験を持つ方である。ファタハの外交政策のまずさや、ハマスの戦闘至上主義の双方について批判的な立場に立っている。

基本的にパレスチナ側に立って書かれており、他の外国人著者の書籍では触れられていないことについての記述も多い。イスラエル=パレスチナ問題を知る上で、ぜひ読んでおきたい図書である。


ウ エドワード・W・サイード「パレスチナ問題」

エドワード・W・サイード「パレスチナ問題」は、パレスチナ問題についての先進国にある二重の基準に対する抗議の書といってよい。

サイードは、イスラエルによるパレスチナへのテロ行為について紹介しようとしない西側メディアに対して強く批判する。「イスラエルのテロ行為についてほとんど何一つ語ってこなかった西洋(それに勿論、リベラルなシオニスト)の新聞・雑誌や知的言説が孕む欺瞞」が、重大な問題であると本書の冒頭に述べている。

筆者(柳川)は、この書物が執筆された時期が1977年から78年と古かったため、(やや価格も高額だったこともあるが)購入していなかったのだが、重信(※)などの書籍でサイードの見解を紹介されていたことから思い切って購入したものである。

※ 重信房子「パレスチナ解放闘争史:1916-2024」(作品社 2024年)。このコンテンツでは一般の読者の誤解を避けるために推薦書には入れなかったが、重信はパレスチナの解放勢力の動向に関して深い造詣を有しており、パレスチナの解放勢力の歴史や考え方を学ぶ上では極めて有用な書と言ってよい。

実際に読んでみると、やはり日本にはイスラエルによる歴史観が、価値観が広く蔓延しているように思う。平和に暮らしているイスラエルとそれを攻撃するアラブという誤ったイメージである。やはり、公平のためにはパレスチナの側からの主張も知らなければならない。これも、必読書に加えるべきだと思う。

なお、奥付を見ると、2023年の12月に第3刷が発行されている。2023年10月からのイスラエルのジェノサイドの状況によって増刷されたのかもしれない。


エ サラ・ロイ「ホロコーストからガザへ(新装版)」

サラ・ロイ「ホロコーストからガザへ(新装版)」は、サラ・ロイが2009年に来日したときの講演をまとめたものである。つまり2008年のイスラエルによるガザへの無差別攻撃の直後の来日である。もちろん、2021年と2023年のイスラエルによるガザ攻撃についての記述はないが、2023年の攻撃を受けて新装版の発刊が行われたものである。

発行されたのがやや古いこともあり、私は、発刊からやや時間がたってから読んだのだが、自らの不明を恥じたい。実に素晴らしい内容であり、イスラエルによるガザへの無差別攻撃についての優れた考察であると思う。あえて、多くのガザについての書物がある中で、本書が2023年のガザへの無差別攻撃を受けて新装版が出された意味を考えるべきだろう。

日本には、残念ながら飯山あかり氏を始めとして、ガザや西岸の実態についてなんら知識がないにもかかわらずネタニヤフが流す情報をそのまま紹介する低レベルの中東「専門家」も多い。このような書が新装版として発刊されて、正しい知識が普及することは大いに期待されるところである。

私は、同名のガザ在住のパレスチナ人を X(旧Twitter)で知っていたので、本書を購入するまで筆者のサラ・ロイ氏をパレスチナ人だと思っていた。しかし、先述したようにアメリカ在住のユダヤ人である。両親はナチの強制収容所からの生還者であり、その意味でまさにナチのホロコーストを肌で知っている方である。だからこそ、イスラエルによるガザへの抑圧と無差別攻撃について批判的になるのであろうと思う。

ガザにおけるパレスチナ人が10月7日以前から、イスラエルによってどのような状況に置かれてきたかを知るうえで、きわめて有効な図書である。


オ シルヴァン・シベル「イスラエル vs. ユダヤ人」

分離壁

※ イメージ図(©photoAC)

シルヴァン・シベル「イスラエル vs. ユダヤ人」は、シオニズムによる占領地へのパレスチナ人への植民地支配、イスラエル国内のユダヤ人国民国家法の創設などのアパルトヘイト政策、反ユダヤ主義者との友好関係を優先する外交政策などに対する批判の書である。

シルヴァン・シベルは、米国在籍のユダヤ人である。シオニズムによるパレスチナへの植民地支配やアパルトヘイト政策が、全世界でユダヤ人への悪印象を生んでいるなどの考えから、シオニズムに批判的な立場である。

イスラエルの外交やパレスチナとの関係についての、米国における反シオニズムのユダヤ人の立場を知るうえで、きわめて有効な図書である。


カ ダニエル・ソカッチ「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」

ダニエル・ソカッチ「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」は、穏健派シオニストの立場からイスラエルの歴史を書いている。イスラエルの現政権与党のリクードなどシオニスト強硬派によるパレスチナへの抑圧には批判的な立場である。

しかし、ダニエル・ソカッチは、ハガナーなどシオニスト穏健派による植民地支配については容認の立場をとっている。イスラエル建国に当たって、イルグンによるデイル・ヤシーンの虐殺等については批判的であるが、ハガナーによるパレスチナ人への襲撃や追い出しについては一言も語っていない(※)

※ 例えば、デイル・ヤシーンはイルグンの仕業であり、その虐殺をベングリオンが批判したなどと記されている(70頁)が、まったくの嘘である。イラン・パペ「パレスチナの民族浄化:イスラエル建国の暴力」の142頁にあるように、デイル・ヤシーンはベングリオンらによるダレット計画に基づいて襲撃されている。ただ、ハガナーと不可侵の取り決めがあったために、ハガナーがイルグンをデイル・ヤシーンに送り込んで攻撃させたのである。

また、ダニエル・ソカッチは、先述したようにデイル・ヤシーンを始めとして多くのパレスチナ人女性が殺害される前に強姦されたことについても沈黙を守っている。これらが、ダニエル・ソカッチ「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」の限界といえる。

また、オスロ合意の不平等な内容や、西岸をA、B、Cの3地域に分けて支配することなどは容認し、オスロ合意を絶賛する立場に立つ。イスラエルのアパルトヘイト体制についての批判もほとんどない。基本的に、パレスチナの悲劇は、シオニスト過激派が原因で穏健派には問題はないという立場である。

あくまでもイスラエルによる植民地支配を肯定する立場であると言えよう。穏健派シオニストの考え方を知るためには良書だと思う。


(3)日本人著者の書籍

書物

※ イメージ図(©photoAC)

日本人の著した参考書籍も含めた9冊は、比較的、中立的な立場である(※)。鶴見氏、臼杵氏、高橋宗瑠氏、村田氏及び高橋和夫氏はどちらかといえばパレスチナに同情的、清田氏及び阿部氏はいずれの立場にも立っておらず、中川氏はイスラエルに好意的といえるだろうか。

※ 日本人の書いたイスラエル寄りの書籍も探してみた。一例として、飯山陽「ハマス・パレスチナ・イスラエル メディアが隠す事実」(扶桑社 2023年)がある。しかし、その主張には根拠や出展が全くといってよいほど示されておらず、資料的な価値はないといってよい。

内容も、パレスチナによる抵抗を「悪」と決めつける一方で、イスラエルによるパレスチナ人の殺害を「国家としての権利」だと主張するなど、極端なものである。一言でいえば、最右翼のシオニストによるプロパガンダの引き写しといえばよいだろうか。到底、読む価値のあるものではない。

なお、日本ファクトチェックセンターが、飯山陽氏の X(旧Twitter)のポストについて「「ガザ南部の退避地域に空爆は行われていない」は誤り【ファクトチェック】」でフェイクであると指摘していることを紹介しておく。その飯山陽氏のポストはあまりにも低レベルなもので、多くの報道機関の報道を何の根拠も示さずに否定している。まともに相手にするようなものではない。

なお、上記に挙げた著書については、いずれの著者もイスラエル・パレスチナの問題に真摯に向き合ってこられた方たちである。


ア 鶴見太郎「イスラエルの起源」

鶴見太郎「イスラエルの起源」(講談社 2020年)は、その副題に「ロシア・ユダヤ人が創った国」とあることからも分かるように、イスラエル建国に至るまでのロシア・ポーランドを中心とするユダヤ人の思想や動向を記述した書である。

シオニズムが決して、ユダヤ人一般の思想・運動ではなかったこと、白人を中心とした差別的な構造を内容していたことが理解できる両書である。

日本人には、やや難解かもしれない。他の書物を読了した後に、参考として読むことをお勧めしたい。


イ 臼杵陽「世界史の中のパレスチナ問題」

パレスチナ

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臼杵陽「世界史の中のパレスチナ問題」(講談社 2013年)は、やや発行された年が古いが、講義形式で書かれておりかなり読みやすく、アラブ社会のみならず世界各国政府とパレスチナの関係を知ることができる。

第1講から第 15 講までに分かれており、それぞれが独立した読み物として、どのような順序からでも読むことが可能である。パレスチナの問題が、イスラエルとパレスチナの関係だけではないことは当然だが、それを世界各国の政治の中に位置付けて解説していることで、表題の「世界史の中のパレスチナ問題」が理解できる良書である。

ただ、イラン・パペ「パレスチナの民族浄化:イスラエル建国の暴力」よりも前に発刊されていることもあって、ナクバについての記述が弱いなどの面は否定できない。例えば、デイル・ヤシーンでイスラエル人による強姦事件があったことをデマとしている(236頁)など、若干の気になる点はある(※)

※ デイル・ヤシーンで強姦があったことについて、本書が発刊された時点では、明確な資料が国内に紹介されていなかったなかったからであろう。

パレスチナ問題の入門書と言ってよく、イラン・パペの書が難解と思える場合は、まず、この書を読むとよいかもしれない。


ウ 高橋宗瑠「パレスチナ人は苦しみ続ける:なぜ国連は解決できないのか」

本書の筆者は、かつて国連人権高等弁務官事務所の副代表を務めている。「パレスチナ人は苦しみ続ける:なぜ国連は解決できないのか」は、現実に、イスラエル・パレスチナの人々の中で仕事をする中での経験と、豊富な資料によって書かれている極めて有用な書である。

発行された時期が2015年とやや古いので、書店での入手は困難かもしれないが、ネットを利用すれば入手は可能である。ぜひ、読んでいただきたい書物である。本書の冒頭の「私がこの本を書いたわけ」から一部を紹介しよう。

今回のイスラエルは明らかに以前と違い、獰猛な怒りのようなものが感じられた。ガザを統治するハマス(略)の転覆等ではなく、パレスチナ人民に対する復讐が目的としか思えなかった。そしてその究極的な目的は民族浄化であり、あるいはパレスチナ民族の抹殺そのものというジェノサイドであるとさえ感じられることがあった。

(中略)

2014年のイスラエルの侵攻の発端となったのは3人のユダヤ人青年が被害者となった誘拐及び殺人であり、イスラエルは自衛のためにガザを爆撃しているかのような報道が、やはり依然として主流だ。それは事実として間違っているし、そもそもその殺害の背景を説明しないでそれらの「事件」を説明しても誤解を招くだけだ。

したがって、一般の人向けに、パレスチナ問題を簡単に解説したものが必要ではないかと感じるようになった。

※ 高橋宗瑠「パレスチナ人は苦しみ続ける:なぜ国連は解決できないのか」(現代人文社 2015年)

これは、2014 年のイスラエルによるガザ攻撃についての記述である。その後、イスラエルは2021年にもガザを攻撃し、そして今回のガザ攻撃に至るわけだが、その本質が実に似通っていることが分かるだろう。

ぜひ、現実にイスラエルとパレスチナを肌で感じている筆者による本書をお読みいただければと思う。強く推薦したい書である。


エ 清田明宏「天井のない監獄 ガザの声を聞け」

パレスチナ

※ イメージ図(©photoAC)

清田明宏「天井のない監獄 ガザの声を聞け」(集英社 2019年)は、新書に簡略にまとめられたガザの日常を紹介した良書である。

筆者は UNRWA 保健局長として医師の立場でパレスチナの生活に直接かかわった方である。日米欧の大国の政府が、ガザについてきちんと知ろうとせず、イスラエルからの一方的な情報で外交政策を定めている下でのガザの日常がどのようなものかを紹介している。

もちろん10月7日の事件が始まる前の状況であり、事件の前のガザの市民がどのような生活を送っているのかについての優れた入門書となっている。


オ 中川浩一「ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ」

中川浩一「ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ」(幻冬舎 2023年)も、新書にまとめられたイスラエルとガザの政治状況を紹介した良書である。

筆者は日本の外務省に所属する外交官である。幻冬舎からの出版ではあるが、日本政府の立場から大きく離れた内容ではないだろう。基本的にオスロ合意を和平への道だと高く評価しており、ネタニヤフらの強硬派には批判的な立場である。

日米欧のパレスチナ問題に関するいわゆる「良識派」(オスロ合意を高く評価する立場又はシオニスト穏健派の支持者)の考え方を知るための良書と言えよう。


カ 村田信一「増補復刻版 パレスチナ 残照の聖地」

ややマイナーな出版社から出されたので、ご存知の方は少ないかもしれない。一人のジャーナリストが見た、ひとりの人間が見える範囲でのパレスチナの姿が描かれている。

学術的な文書ではないが、パレスチナの日常やそこで生きる生活者(普通の人々)の本音を知ることができる。ここでは必読書には挙げなかったが、そこに生きる日常のパレスチナを知るためにはぜひ読んでおきたい。

オスロ合意が、生活者としてのパレスチナ人にどのような影響を与えたのかを知ることができる。また、第二次インティファーダでジャーナリストとしての取材中に、イスラエル軍から銃撃を受ける描写は圧巻である。


キ 阿部俊哉「パレスチナ」

阿部俊哉「パレスチナ」(ミネルヴァ書房 2004年)は、副題に「紛争と最終的地位問題の歴史」とあるように、パレスチナ問題の解決に向けた概説書と言ってよい。発行された年がかなり古いが、現在においても参考となる記述が多い。

筆者はJICA(現・(独法)国際協力機構)(※)の職員として、パレスチナでの勤務経験を持つ方である。本書では、豊富な資料を用いて、イスラエル=パレスチナ問題の解決方法を模索しておられる。

※ JICA によるパレスチナへの支援事業が、しばしばイスラエルによる占領強化に利した事実は指摘しておく必要があろう。

もちろん、筆者の中立としての立場もあるのだろうが、豊富な資料を用いて事実関係を淡々と述べてゆく手法が取られており、当時の状況を知るためには極めて有用である。イスラエル・パレスチナ人関係の書は、シオニズムに対して同調又は批判の立場のどちらか一方から書かれたものが多いが、評価を排して中立を心がけた記述がされている。

ただ、本書が事実関係を淡々と述べてゆく手法がとられているため、中東の政治についての基本的な知識がないとやや難解という印象を受けるかもしれない。しかし、イスラエル・パレスチナについて、中立な情報が欲しいと思っておられる方には、他に類書のないものと言えよう。


ク 高橋和夫「なぜガザは戦場になるのか」

パレスチナ

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高橋和夫「なぜガザは戦場になるのか」(ワニブックス 2024年)は、発行された時期からも分かるように10月7日のハマスによるイスラエル攻撃の後で出版されている。

出版を急いだためか、そもそも出版社の方針なのか、参考文献がほとんど記載されておらず、記述されていることについての真偽の確認ができないという恨みは残る。

確かに、記述は読みやすく分かりやすいのだが、イスラエル市民がこう考えた、ハマスがこう考えた、ネタニヤフがこう考えたなどという記述が、なんの参考文献や根拠も示さずに書かれており(※)、読んでいてもどかしく感じることも多い。

※ もちろん、比較するようなものではないが、内容そのものは飯山陽氏の書物のような学術的な価値の全くないものとは本質的に異なっている。歴史的な流れは、一般的に認められている内容に従って記述されており、格好の入門書となっていることも事実である。

新書版で、活字も大きなものが使われており、中東問題に詳しくない方を対象にしていることもあって、短時間で概略的な知識を得たいという方には良書であろう。


ケ 高橋和夫「パレスチナ問題の展開」

高橋和夫「パレスチナ問題の展開」(左右社 2021年)、放送大学の講義の記録である。パレスチナ問題や中東の諸問題に詳しくない読者を対象として書かれているため、読みやすいことは事実である。しかし、その反面、ものごとをあまりにも単純化しており、やや違和感のある表現が目立つところは否定できない(※)

※ 例えば、パレスチナ以外のアラブ人は「シオニストに土地を売り渡し、挙句の果てには国を奪われてしまったお馬鹿さんにはとても付き合いきれない」との感情を持っている(28頁)などと書かれているが、シオニストが購入した土地は国土の6%弱にすぎず、アラブ人がこのような感情を持っているなどという話は聞いたこともない。

また、第二次大戦以前の状況で、ユダヤ人は英国に荷担し、パレスチナ人はナチに荷担した(36頁)などと書かれているが、その根拠としてフセイニーがドイツに亡命中にナチに協力したことを挙げている。フセイニーはパレスチナ人の指導者でもなんでもなく。あまりも根拠の低い暴論である。

確かにフセイニーは 1936 年から 1939 年までのアラブの蜂起を指導してはいた。しかし、ドイツに亡命した後は政治的な力を失っていた。ハアレツの論説員であるアンシェル・プフェッファーは、フセイニーは1941年には無力な亡命者に過ぎないと指摘している(2015年10月22日の署名記事)。

著者の立場が日本政府に則しているのか、イスラエルとアメリカよりの記述が目立つところも否定できない。

パレスチナ問題について、概略を知るための入門書と言えるかもしれないが、臼杵陽「世界史の中のパレスチナ問題」を読んでおけば、こちらは必要がないかもしれない。


2 10月7日事件について知るために

10月7日に発生した事件に関する著書は、また多くはない。現時点で、入手できる図書としては以下のものがある。この他の雑誌類では「世界」2023年12月号の記事が参考になる。

【10月7日の事件の本質を知る書籍】

単行本

  • 岡真理「ガザとは何か」(大和書房 2023年)
  • 内藤正典・三牧聖子「自壊する欧米・ガザ危機が問うダブルスタンダード」(集英社 2024年)
  • 宮田律「ガザ紛争の正体・暴走するイスラエル極右思想と修正シオニズム」(平凡社 2024年)

論文集

  • 鈴木啓之 編「ガザ紛争」(東京大学出版会 2024年)

雑誌の特集

  • 現代思想2024年2月号「特集:パレスチナから問う 100年の暴力を考える」(2024年)

日本人の著したものとしては、上記のうち岡真理氏が、比較的パレスチナ寄りの方であることは言うまでもない。

現代思想2024年2月号は、1月29日に発売され、筆者も早速購入した。254頁のうち219頁がこの特集であり、この問題に関するきわめて分かりやすい入門書となってる。


ア 岡真理「ガザとは何か」

ガザ地区

※ イメージ図(©photoAC)

岡真理「ガザとは何か」(大和書房 2023年)は、10月7日以降に起きたイスラエルによるガザ地区の市民へのジェノサイドについて、岡真理氏らが講演を行った2つの講演を基にした著書である。

現時点で、この問題に関する基本的な著書としては、最もよく読まれているものであろう。2024年3月末時点でも多くの書店で平積みされている。SNS で紹介されることも多く、高く評価されているようだ。

2023年末からのイスラエルによるガザでのジェノサイドに関する必読の書と言えよう。多くのメディアでは報じられていないことも明らかにされており、ぜひ読まれることをお勧めしたい。


イ 内藤正典・三牧聖子「自壊する欧米・ガザ危機が問うダブルスタンダード」

10月7日の事件が起きると、それまでイスラエルによるパレスチナ人への人権侵害には関心を示さなかった欧米の政府は、突然人権意識に燃え上がりハマスに対する批判を始めた。

もちろん、ハマスによる民間人に対する攻撃は許されないものではあった。しかしながら、ハマスを批判するのであれば、それまでのイスラエルによる殺人・暴行・強姦に対しても批判をするべきであろう。ところが欧米の政府はイスラエルの犯罪に対しては何も批判を行おうとしないのだ。

また、イスラエルが「自衛」と称して、ガザで市民に対する大量殺戮を行っても、イスラエルには自衛の権利があるとして、これを批判することをしていない。そればかりか、米国は大量の破壊兵器をイスラエルに送り続け、安保理の停戦決議をことごとく拒否権で妨害した。

まさに、ガザでのジェノサイドは、イスラエルだけではなく欧米の政府との共犯関係で行っているのである。これまで、アサド政権やタリバーンに対して、あれほど「人道主義」を振りかざして攻撃を繰り返していた欧米が、イスラエルによるジェノサイドは支援するのである。

このダブルスタンダードの現状を余すところなく暴き、批判している。本書は、10月7日事件の本質を知るための必読の書と言ってよい。


ウ 宮田律「ガザ紛争の正体・暴走するイスラエル極右思想と修正シオニズム」

イスラエルの政権与党リクードとさらに右寄りの政党の思想的な背景とそのナチズムとの共通性についての優れた解説書である。

修正シオニズムが、本来のユダヤの教義とは全く異なるものであることを解き、彼らが第二次大戦中にナチと協力関係にあった(※)ことを、最近明らかになった文献から証明する。

※ 宮田 62頁 によると「二〇二三年五月に公開されたイスラエル国立公文書館の資料によって、シオニストの民兵組織がイギリスの委任統治当局と戦うために、ナチス・ドイツと同盟しようとしていたことが分かった」とされている。

そして、現在ガザで行われているジェノサイドの目的が、イスラエル極右勢力によるエレツイスラエルからのパレスチナ人の追放であることを解いている。


エ 鈴木啓之 編「ガザ紛争」

R.ハーリディー「パレスチナ戦争」の翻訳者である鈴木啓之、山本健介他による、ガザのシオニストによるジェノサイドを多面的に論説した論文集(※)である。

※ 論文集と表記したが、読みやすく筆者(柳川)のような素人にも分かりやすい記述がされている。決して難解なものではない。

全体で10編の論文から成っており、米国、国連、日本などとの関係性も含めてガザの状況を多面的に知ることができる。著者は、中立的な立場の研究者であるが、パレスチナの問題の現実を公平に著すという立場で、「2000年来の民族・宗教対立」などという見方はしていない。

鈴木啓之・児玉恵美「パレスチナ/イスラエルの<いま>を知るための二四章」(明石書店 2024 年の姉妹編ともいうべきもので、パレスチナ問題を多角的に知るためには有用な書である。


オ 現代思想2024年2月号「特集:パレスチナから問う 100年の暴力を考える」

現代思想2024年2月号「特集:パレスチナから問う 100年の暴力を考える」(2024年)は、10月7日以降に起きたイスラエルによるガザ地区の市民へのジェノサイドに関する論述集である。

イラン・パペやサラ・ロイの短文も載せられており、広範な知識人による概括的な入門書となっている。本サイトにおいても参考にさせて頂いたものも多い。

あえて欠点を挙げるとすれば、活字がやや小さく、私のような高齢者(68歳)には読みづらいということくらいであろうか。


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