パレスチナ問題をどのように解決するべきか

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パレスチナの国旗

※ イメージ図(©photoAC)

イスラエルは、2023年10月7日のハマス等によるイスラエルへの攻撃を口実として、パレスチナのガザ地区に対してジェノサイドを行っています。イスラエルの政権を握る与党リクードは、パレスチナの全地域からパレスチナ人を追い出して、ユダヤ人による国家をヨルダン川から地中海までの全地域に広げようとしているようです。

イスラエルとしては、パレスチナ全体に国境を広げれば、そこに取り込まれるパレスチナ人はユダヤ人の数を上回るため、アパルトヘイト(人種間の不平等)を行わなければユダヤ人国家であることができなくなるというジレンマを抱えています。

ネタニヤフは、10月7日のハマス等による攻撃を好機として、ガザからのパレスチナ人の一掃を図っています。すなわち、全パレスチナに国境を拡大して、アパルトヘイトを行わずにユダヤ人国家であり続けることができる大きなチャンスと考えて、ガザからのパレスチナ人の追い出しのために無差別攻撃を行っているとしか思えません。さすがにバイデンもこれには苦言を呈していますが、トランプが政権を握ればその問題も解決すると思っているのかもしれません

しかしながら、パレスチナ人をパレスチナから追い出せば、それは国際的に大きな不安定要素を生み出すことになり、人類の未来に大きなリスクを残すことになるでしょう。

日本人は誤解していることが多いですが、実は、PLOもハマスも、2国家解決を公式に認めているのです。グリーンライン(48年占領地)を認めれば、全パレスチナの 22 %のみがパレスチナ国家となるだけであるにもかかわらず、これを認めているのです。これはトランプを除く米国の歴代大統領も認めています。これを認めていないのはイスラエルでもリクードなどシオニスト強硬派のみであり、シオニスト穏健派はこれを認める可能性があるでしょう(※)

※ ただし、ハマスは西岸をA、B、Cの3地域に分けることは認めていない。また、エルサレムへのパレスチナの首都の実現、難民の帰還権はハマス、PLOともに譲れない可能性がある。ここにシオニスト穏健派が合意できるかは、不透明である。

しかし、リクードが狙っているようなパレスチナ人を追い出して、パレスチナにユダヤ人の単独国家を創設するようなやり方は、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派ばかりか多くのパレスチナ人との紛争を将来に持ち越すこととなります。2国家解決を実現することを国際社会は模索するべきでしょう。それはイスラエルにとっても長期的には利益になるはずです。

私たちが目指すべきは、パレスチナ人とユダヤ人がともに平和に生きられる社会です。パレスチナ人とユダヤ人の友好が実現し、ともに若者が未来に夢を持てる社会の実現なのです。しかし、その実現のためには、2国家解決、エルサレムのパレスチナ国家の首都の実現、難民の帰還権の実現を図る必要があります。




1 パレスチナの問題を放置することは人類にとって危険である

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最終改訂:

(1)イスラエルの建国以来のジレンマとその現状

かつてナチの行ったユダヤ人へのジェノサイドは、人類普遍の正義に対する挑戦であり、これを許したことは人類の歴史に大きな汚点を残した。

今日、シオニストがガザで行っていることは、同様にパレスチナ人に対するジェノサイドであり、これを許しておくことは、正義に対する罪であるばかりか、世界秩序に大きなリスクをもたらすおそれがある。

ネタニヤフが狙っていることは、デイル・ヤシーン事件とナクバの再現であり、ガザからパレスチナ人を追い出すことであろう。そのことは、イスラエルが「建国」以来、悩まされてきた大きなジレンマ(宿痾しゅくあ)を避けて、彼らの悲願である全パレスチナの支配を達成するための手段なのである。

そのジレンマとは、ガザと西岸をイスラエルに正式に併呑したいのはやまやまだが、そうすればパレスチナ人の人口はユダヤ人の人口を超えてしまうということだ。その状況で、イスラエルがユダヤ人国家であり続けるためには、パレスチナ人には政治的権利を与えないというアパルトヘイト体制を取る必要がある。すなわち、ガザと西岸を併呑してしまうと、民主主義国家であることとユダヤ人国家であることが両立しなくなるのだ(※)

※ しかし、対外的な支援を得るためには、民主主義国家であるという形式をとらなければならない。そうしなければ、対外的な最大のパトロンである米国からの支援を得にくくなるからだ。

そのため、これまではガザと西岸を形の上ではイスラエルではないとして、在住のパレスチナ人に選挙権を与えないことで、その解決を図ってきた(※)。その上で、西岸については A、B、C の3地域に分けて、入植を進めるという形で支配し、ガザは完全封鎖して自立できないようにした上で、何かあると無差別爆撃を行うという方針を取ってきたのである。その上で、エジプト、ヨルダンなどの周辺国家と外交関係を樹立するというのが、これまでのイスラエルの基本的な国家経営の戦略だった。

※ 先述したように、西岸の入植者にはイスラエル国民として完全な選挙権がある。なお、グリーンラインの内側に住むパレスチナ人を含むアラブ人には、様ざまな制約があるにせよ、選挙権は認められている。ただし、2018年にユダヤ人国民国家法が成立してからは、シオニズムに反対することには制約が課されるようになっている。

そして、「人権国家」である日米欧の各国政府はこの状況を黙認してきた。彼らにとって都合の良いことに、イスラエルがパレスチナを無差別爆撃したときは「自営反撃のやりすぎ」に批判的になることはあるものの、日常的なパレスチナに対する人権侵害は見て見ぬふりをすることができたのである(※)。グリーンラインの内部の情報産業の発展と繁栄だけを見て、パレスチナの惨状はないものとして放置してきたのだ。

※ 先進技術を発展させた「民主主義」国家とアパルトヘイト国家の矛盾を示した典型的な例として、立山 良司 編著「イスラエルを知るための62章【第2版】」(明石書店 2018年)が挙げられる。


(2)10月7日以来、ネタニヤフが行っている虐殺の真の目的

ところが、ネタニヤフは、2023 年 10 月7日のハマスによる攻撃を好機として、その状況を変えようとしているのだ。パレスチナ人を国民として受け入れることなく、ガザの実質的な支配(※)を行うのが彼らの狙いであることはほぼ明らかになってきた。その方法は、単純なことだ。ガザからパレスチナ人をいなくならせればよいのである。方法は2つだ。市民を無差別に殺害することと、それによって恐怖感を与えて生き残った者を追い出すことである。すなわち、それがシオニストの言う「ナクバの再現」なのだ。

※ ALJAZEERA 2024年01月04日記事「Israeli defence minister outlines new phase in Gaza war」などを参照されたい。

今、イスラエルの暴走を押さえなければ、パレスチナからの大量の難民の発生という世界的な不安定要素を発生させることになる。1947 年にパレスチナの犠牲のもとに当時の国際連合が避けようとしたこと=ユダヤ人の大量の難民の発生が、今度はパレスチナ人の大量の難民発生と形を変えて再現することとなる。皮肉なことに、当時、米ソが自国への難民の流入を避けようとして採った手段=イスラエルの建国が、2024 年になって大量の難民を生み出す結果となったのである。

これまで、国際社会がイスラエルの人権侵害を見て見ぬふりをしてきたことのつけが、パレスチナの側の反撃を契機として、一気に噴き出したのだ。

もちろん、人権を声高に叫ぶ日米欧の政府には、自国に難民を受け入れる気は全くない。これは、エジプト、ヨルダンも同様である(※)。レバノンやシリア、イラクは難民を受け入れるような状況にはない。であれば、国際社会がとるべき手段はひとつである。ネタニヤフに和平への圧力をかけることだ。

※ だからこそエジプトは、これまでイスラエルによるガザの封鎖に協力してきたのである。


2 パレスチナ=イスラエル問題をどう解決するべきか

(1)パレスチナ=イスラエル問題の和平案

ガザの封鎖壁

※ イメージ図(©photoAC)

ネタニヤフの政権獲得以降の暴走により、一部の似非えせ専門家はパレスチナ=イスラエル問題を、2国家解決による方法で解決することは不可能だと思い始めているようだ(※)

※ NHK 2024年01月24日記事「ネタニヤフ首相 “パレスチナと「2国家共存」”を否定する理由」など参照。

しかしながら、ガザの封鎖と西岸の入植地の拡大を続けながらパレスチナ人に対して暴圧を振るうイスラエルの侵略的な支配を、見て見ぬふりをするこれまでの国際社会のありかたが、すでに限界にきていることは、今回のガザにおけるジェノサイドが起きたことでも明らかであろう。

この問題の解決のためには、パレスチナとイスラエル双方が承認可能な和平案を、国際的に示す必要がある。

ここで、考えなければならないことは、グリーンラインでイスラエルとパレスチナを2つに分ける2国家解決案は、PLO 議長(パレスチナ大統領)のアッバスもガザを支配するハマスも容認しているということである。これは、本来、パレスチナ全域に正当な権利を持つパレスチナにとっては、明らかに不利益で不正義なものである。パレスチナはそれでもよいと言っているのだ。

これに、強硬な抵抗をしているのはネタニヤフらリクードの関係者と支持者だけである。イスラエル国内の穏健なシオニストも、2国家解決に反対しているわけではないのだ。

2国家解決は、建前上は米欧日の政府も堅持しており、リクードがそれを承認しさえすれば十分に実現は可能である。ただし、国際的な正義のために、少なくとも次の要件をイスラエルに承認させる必要があろう。西岸を A、B、C の3地域に分けるのではなく、イスラエルは完全に撤退するべきである。また、ガザの封鎖は解かれなければならない。

【パレスチナ問題の解決への道筋】

  • イスラエルによるグリーンライン外からの完全撤退と、西岸及びガザへのパレスチナ国家の創設
  • パレスチナ難民の帰還権の確認(1948年12月11日の国連総会決議第 194 号(Ⅲ)の完全実施)
  • 東エルサレムからのイスラエルの撤退とパレスチナの首都の実現

もし、ネタニヤフがこれを飲まないのであれば、世界各国がイスラエルと国交断絶などの強い措置をとってでもこれを飲ませるべきである(※)。そして、パレスチナが自立できるようになれば、「テロ」などは収束することになる。

※ イスラエルの指導者は、イスラエルの利益のためであれば原則を曲げるというリアリストの面を有している。和平がイスラエルにとって有利になると思えば、それまでテロリストと批判していた相手とでも交渉する柔軟性も持っているのだ。

しかし、ネタニヤフは、今は、ガザでジェノサイドを行ってパレスチナ人を追い出すことがイスラエルの利益になると信じているのだ(※)

※ もっとも、ネタニヤフは収賄等の汚職で訴追されていることもあり、イスラエル国内では彼個人の保身を政治的信念に優先させるタイプの政治家だと考えられている。イスラエルのテレビ局 Ch13 の世論調査によると、ネタニヤフが何を優先しているかとの質問で、53 %が「政治家としての行き残り」と回答し、「完全な勝利」との回答は 35 %にとどまったという。

国際社会は、ネタニヤフに対して、ジェノサイドを直ちにやめて、2国家解決を受け入れることがイスラエル(と彼自身の保身)にとって利益になると理解させる必要がある(※)

※ 米国がベトナムを攻撃していたときは、ベトナムは徹底して交戦した。しかし、戦争が終結した現在では、ベトナムは米国の友好国となっており、ベトナム人の若者は米国を好きな国家だと考えていることを想起するべきである。

イスラエルが、パレスチナに対する侵略を止めれば、パレスチナとイスラエルの間に友好が芽生えることもあり得るのだ。それこそが、イスラエルにとっても真の繁栄につながるのではないだろうか。


(2)交渉の相手側はハマスとアッバス以外にあり得ない。

イスラエルが和平交渉を拒否する理由として挙げているのが、交渉の相手がいないということである。しかし、これは、到底、納得できるものではない。

ハマスはテロリストだというのが表向きの理由だが、先述したようにテロを「政治目的の市民の殺害」とするなら、むしろイスラエルの方がテロリストとされるべきである。リクードの前身のイルグンは、英国からテロリストとして認定されていたことも忘れてはなるまい。

現時点で、パレスチナの正当な代表者は、西岸については PLO であり、ガザについてはハマス以外にあり得ない。戦後処理としては、ガザと西岸はパレスチナ人の2つの国家として別個に独立することも考えられよう。


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