10月7日事件を口実にしたネタニヤフの行動

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パレスチナの国旗

※ イメージ図(©photoAC)

そもそも第二次大戦後の世界の不安定化の大きな要因は、国連がパレスチナ分割案を決議し、イスラエルが非武装のパレスチナ市民を殺害、強姦、追放して「建国」を行ったことにあります(※)。占領され、祖国を追われたパレスチナ人の民族解放の運動と、イスラエルによるパレスチナやレバノンにおける市民の殺害や世界各地での暗殺行為などが、世界の不安定化の大きな要因となっています。

※ イラン・パペ「パレスチナの民族浄化: イスラエル建国の暴力」(法政大学出版局 2017年)

イスラエルによる「オスロ合意」以降の基本的な占領政策は、経済的な価値の大きなヨルダン川西岸は A、B 及び C の3地域に分けて植民地支配を続けるとともに、経済的な価値のないガザ地区は完全に封鎖してその経済的自立を妨害するというものです。

これに対して、ハマス等が2023年10月7日に反撃を行うと、その犠牲者に民間人が含まれていたことを口実に、イスラエルはガザ地区の市民に対する無差別攻撃を開始しました。これはホロコースト(民族浄化)であり、同時にジェノサイド(大量虐殺)でもあります。

そして、イスラエルがガザ地区を攻撃している大きな目的は、ガザの民族浄化と、ガザの沖にある海底ガスの権利を奪取することであることが、ほぼ明らかになりつつあります。

本稿では、イスラエルの行っているジェノサイドについて、その現状を概説し、それが世界の安定にどのような不安要素となるかを解説しています。

私たちが目指すべきは、パレスチナ人とユダヤ人がともに平和に生きられる社会です。パレスチナ人とユダヤ人の友好が実現し、ともに若者が未来に夢を持てる社会の実現なのです。しかし、その実現のためには、イスラエルが現在ガザ地区において、何の目的で何を行っているのかを正しく理解することが重要です。




1 ジェノサイドの開始

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最終改訂:

(1)イスラエルの反撃権は国際法上違法

イスラエルのその後の動きはよく知られている。市民に対する無差別爆撃(※)によって、パレスチナ側の市民に数万人規模の死者がでている。さらに、食料、医薬品などのガザへの搬入を制限しているため、このままでは餓死者などが出ることも予想されている。

※ 形の上では、市民に対して避難を呼びかけているが、現実には燃料などを封鎖によってガザへ送れないようにしているので避難は現実には困難である。しかも、指定した避難経路や避難先を集中的に爆撃して、パレスチナの市民に多くの被害を出している。

また、国際社会に対するアリバイのためか、わずかな食糧の搬入は認めているが、実際には必要量には遠く及ばないのが現実である。

Human Rights Monitor の 2023年12月9日の記事(※)によると、ガザで殺害された10人のうち9人は民間人であるとされており、死者には、医療従事者 280 人、救助隊員 26 人、国連職員 11 2人、ジャーナリストやメディア関係者 77 人が含まれているとされている。これは異常な事態というより他はない。

※ Human Rights Monitor 2023年12月9日「Contrary to Israeli claims, 9 out of 10 of those killed in Gaza are civilians

これは、かつて日本軍が通州事件を理由に、暴支膺懲ぼうしようちょうとして中国への侵略を進めたことと同じようなものと考えるとわかりやすい。国際法上、植民地支配国家に、被支配民族に対する反撃権は認められていない。従って、そもそもイスラエルの攻撃は違法なものなのである。

また、病院、救急車、学校などの社会的インフラを攻撃し、ガザからの住民の追い出しを図っている可能性が高い。現実に、爆撃で手足を失った市民の手術を麻酔なしで行わざるを得ない状況も出ている。

さらに、この攻撃ではイスラエルは報道機関を故意に狙い撃ちしているように思われる。また、ガザへ燃料の供給を認めない(※)のは、SNS によって、イスラエルによるガザでの残虐行為が知られることを避けるためであろう。

※ CNN 2023年10月25日「燃料不足で給水できず、汚水や海水を飲むガザ住民」、読売新聞 2023年11月23日「ガザの病院で12人死亡、発電機の燃料尽き保育器の中の赤ちゃん36人も生命の危機」など


(2)イスラエルはナクバの再現だと公言

イスラエルの側は、これがジェノサイドを利用したガザからのパレスチナ人の追放であることを隠そうともしていない。10月8日には、リクードの国会議員アリエル・カルナーがイスラエルの攻撃の目的はガザでナクバを実践することだと明らかにし、11月にはアビ・ディヒター農相が「これは2023年の新たなナクバだ」と明言している(※)

※ 酒井啓子「ひとつの「民族」を抹殺するということ」(現代思想 2024年2月号)

彼らは、まさにジェノサイドを遂行している(※)のである。自衛反撃などではないことは、彼ら自身が認めているのである。

※ 朝日新聞2023年12月22日「パレスチナ人11人、家族の前で射殺か イスラエル軍、手投げ弾も」など

さらにハマスのいないヨルダン川西岸でも、入植者による暴行、殺人、強姦等が続いている。これは、10 月7日以前から起きていることであるが、最近ではさらに状況が悪化しているという(※)

※ 毎日新聞2024年2月5日「ヨルダン川西岸は「無法地帯」 パレスチナ人蜂起で“第2のガザ”も」など

ここで、ネタニヤフの支持者たちが、ガザへの攻撃をどのように考えているについての動画を紹介しておこう。曽我太一氏による取材で、動画撮影も曽我氏によるもの。なお、ここで「トーラー」という用語と「エレツイスラエル」という用語が用いられてるが、「トーラー」とはユダヤ教の立法で、エレツイスラエルとは、現在のイスラエルにガザ、西岸とヨルダンを含む地域を指す。シオニストはヨルダンの占領までねらっているのである。

※ Taichi Soga - Middle East Journalist「【Israel/Hamas War】極右入植者集会に密着 入植者を突き動かすものとは Israeli Far Right Settlers Vowed To Resettle Gaza

日本在住のイスラエル人ダニー・ネフセタイ氏(※)によると、「死者数が増えれば増えるほど「ほら、ここまでやられたよ。あなたたちがハマスを選んだから、こんなに殺されたんだよ」と考える。イスラエルでは奇襲は「第2ホロコースト」と呼ばれ、国を守るには「3万人の死者も仕方がない」ととらえる人も多い」「(イスラエルの:引用者)軍隊は兵士に対し『動物だから殺しても問題ない。こっちは人間。向こうは人間じゃない』という教え方をする」という。

※ 47NEWS 2024年04月29日「ガザ3万人犠牲でも「仕方がない」? イスラエルの洗脳教育は〝成功〟なのか 日本在住40年、非戦論のイスラエル人が同胞の思考回路を分析した

イスラエルは、明確にガザの再入植をねらっているのである(※)。これはかつて旧日本軍が通州事件や大山事件を口実に暴支膺ぼうしようちょうとして中国を侵略したこととまったく同じである。このような侵略の拡大は、世界の秩序を危機に陥らせるだろう。世界の安定のためには、イスラエルの侵略を止めなければならない。

※ BBC 2024年03月25日「イスラエルの極右勢力、ガザ地区への再入植を計画


2 目的はジェノサイド

(1)イスラエルの目的は人質奪還ではない

ネタニヤフは、ガザ攻撃の目的は人質奪還にあると主張している。しかし、イスラエル軍が、白旗を掲げた人質を射殺するケース(※)もある。

※ 毎日新聞2023年12月16日「誤って射殺の人質「白旗を掲げていた」 イスラエル政権に批判必至」など

また、人質の安全について気にすることなく、無差別爆撃を行うなど、人質奪還のために攻撃を行っているとは思えない面もある。そして、ネタニヤフはハマスからの戦闘停止の提言も拒否しているが(※)、これは人質の安全を最優先とはしていない何よりも確実な証拠であろう。

※ ワシントンタイムズ 2024年2月7日「Israel’s Netanyahu rejects Hamas’ cease-fire plan, pledges ‘complete victory’ in Gaza war」など

ここで、4人のパレスチナ人の子供をイスラエル軍が殺害したことに関するノーマン・フィンケルスタインとイスラエル支持者の会話を紹介しておこう。イスラエル支持者の言うハマスとの戦いの実相がどんなものかを明確に教えてくれる(※)

※ これは X(旧Twitter)の動画からの書き起こしであるが動画をセンシティブと判断したためか、埋め込みでの紹介ができなくなっている。しかし、X で動画を視ることは可能である。

【ノーマン・フィンケルスタイン博士とシオニストの会話】

When they killed the four kids..Even though they were diminitive size.

彼ら(イスラエル軍)が4人の子供を殺したとき・・・彼らがこんなに小さかったのに。

You've lied about this particular instance in the past.Those kids weren't just on the beach as often stated in articles.Those kids were literally coming out of a previously identified Hamas compound they have operated from.

あなたは、前にこのことについて嘘をついた。記事にも書いているが、このガキどもはビーチにいただけではない。このガキどもは、すでに特定されているハマスの敷地内から出てきたんだ。

With all due respect.you're such a fantastic moron.It's terrifying.That wharf was filled with journalists.There were tens scores of journalists.that was an old fisherman's shack.What are you talking about? It's so painful. It's so painful to listen to this idiocy.

敬意を表しておこう。あなたは、とても素晴らしいバカだ。恐ろしいほどのね。あの埠頭はジャーナリストでいっぱいだった。何十人ものジャーナリストがいたんだ。そこは古い漁師の小屋だった。何のことを言っている? とても苦痛だよ。 あまりに馬鹿げていて、話を聞いているのがとても苦痛だ。

※ 「Pelham@Resist_05」のポストから(日本語のカッコ内は引用者による注)

イスラエル軍が、自衛のためにハマスの活動家を殺害していると主張しているのは、要するにこういうことなのだ。罪のない子供や市民を殺害して、それをハマスの活動家だったと主張しているのだ。


(2)現にホロコーストが起きていることは明らか

イスラエルは、ガザに大量の無差別爆撃を行い、完全に封鎖して食料や医薬品の搬入を止め、さらには水や電力などのライフラインを破壊している。これが、ホロコーストでなくて何だというのであろうか。サンダース米国上院議員(※1)やバリア・アラマディン(※2)も、ガザで起きていることは民族浄化であると言い切っている。

※1 THE HILLARAB NEWS 2024年4月28日「Sanders says there’s not ‘any doubt’ Netanyahu is perpetrating ‘ethnic cleansing’」。なお、サンダースは、ポーランドにルーツを持つユダヤ人である。

※2 ARAB NEWS 2024年3月4日「ガザが民族浄化されていることは周知の事実である。

イスラエルの最大のパトロンである米国でさえ、言葉の上だけだがガザの飢餓リスクについて警告を行っている(※)。これは、かつて第二次世界大戦までナチがドイツで行ってきたことと全く同じである。イスラエルはナチが絶滅強制収容所で行ってきたことを、完全封鎖されたガザにおいて行っているのである。

※ REUTERS 2024年4月24日「イスラエル、ガザ全域で攻撃激化 米は飢餓リスクを警告

そして、イスラエルによる建国は世界を不安定にしているが、このガザにおけるジェノサイドは、我々の国際社会を大きく不安定にしかねないということである(※)

※ BBC NEWS 2023年12月11日「【解説】 従来の形は打ち砕かれた、未来は雑然として危険だ=ボウエンBBC国際編集長」、石油・天然ガス資源情報 2023年11月7日「イスラエル・ハマース衝突が石油・天然ガス情勢に与える影響


(3)イスラエルの狙いは天然ガスである。

ア オスロ合意以前のイスラエルの占領政策

イスラエルは、オスロ合意までは、パレスチナ人を安価な労働力としてイスラエルの経済発展に利用してきた。また、UNRWA を通した世界からの援助を、投資に向かわせずに消費に向かわせるように仕向けて、イスラエルからガザへの製品輸出によって国際支援をイスラエルに還流させるという方針を採ってきた。

しかし、オスロ合意とキャンプデービット合意からは、ガザから入植地を引き上げ、完全に封鎖してガザの自立を妨げる方針をとったのである。これは、ガザの市民にとって、経済的には大きなダメージを与えた(※)

※ 詳細は、ラシード・ハーリディー「パレスチナ戦争: 入植者植民地主義と抵抗の百年史」(法政大学出版局 2023年)、パレスチナ子どものキャンペーン「「ガザ地区」を知ろう」などを参照のこと。


イ オスロ合意以来のイスラエルによるパレスチナ政策

イスラエルの「オスロ合意」以来の占領政策の基本は、西岸で植民地支配を進め、ガザは封鎖して経済的自立を防止するとともに無差別爆撃を繰り返すというものである。

西岸は旧約聖書に記載されている重要な事件の起きた場所であり、ネタニヤフとしては手放すつもりは全くないのである。A、B、C の3地域に分けて、ユダヤ人専用道路と封鎖壁でパレスチナ人の居住区を狭い範囲に閉じ込めると共に交通の自由を妨げ、入植地を拡大してイスラエルの実質的な支配を広げるというものである。

形式的には、パレスチナ自治区であるから、イスラエルの選挙権を与える必要はない(※)。これによってイスラエルは西岸を支配しつつ、パレスチナ人の選挙権を与えないでユダヤ人国家を実現できているわけである。

※ 入植者には完全な選挙権が認められている。仮に、西岸とガザをイスラエルに併呑すると、パレスチナ人に選挙権を与えざるを得なくなり、そうなるとパレスチナ人の方がユダヤ人よりも人口が多いために、ユダヤ人国家であり続けることができなくなるのである。このために、西岸を形式的にパレスチナ自治区として、実質的にイスラエルが支配するという政策をとっているわけである。

このため、西岸では完全なアパルトヘイト体制が敷かれており、入植者によるパレスチナ人への暴行、殺人、強姦、農地の破壊などが後を絶たない。もちろん、それはイスラエル政府公認で行われているのであるが。

その一方で、ガザ地区は経済的にほとんど価値がないため、完全に封鎖して経済的な自立を妨げると共に、ときどき無差別爆撃を行って、パレスチナ人の人口増大を防止するという政策を採ってきた。


ウ 海底油田の発見がガザの価値を変えた

ところが、ガザ沖に海底ガス田が発見されたことが、イスラエルの方針を大きく変えたのである。ガザを完全に支配して、ガス田からの利益を得ようと考えたのだ(※)。そのために、ガザにおけるパレスチナ人の民族浄化が必要だったのである。

※ これについては、涌井秀行「資源略奪戦争としてのイスラエル・ガザ(ハマス)戦争」、藤田進「戦争の裏に天然ガスあり」、宮本善文「イスラエル:巨大ガス田発見による期待と不安」が参考になる。

10月7日の事件は、結果的にネタニヤフに格好の口実を与えることになった。イスラエルは、ガザの封鎖による経済自立の妨害から、パレスチナ人の民族浄化によるガス油田の直接支配という政策に切り替えたのである。


3 イスラエルを放置することは国際的な不安定をもたらす

第二次大戦後に発生した米国が「テロ」と批判する事件の多くは、パレスチナ解放のための活動であった。圧倒的な軍事力でパレスチナを占領したイスラエルに対して、国際的な支持の得られなかったパレスチナの民衆は、民族解放の闘いのために自爆攻撃やハイジャックなどの手段を取らざるを得なかったのである(※)

※ イスラエルも、ファタハ、PFLP、ハマスの幹部を他国において暗殺している。これもテロであることは間違いはない。また、米国もカダフィと家族が滞在していた家屋を爆撃しその子供(民間人)と孫を殺害している(日本経済新聞2011年5月2日「カダフィ氏の息子死亡」)が、これはテロではないのだろうか?

もちろん、民間人を殺害するテロ行為は批判されるべきではあるが、少なくとも民間人(非戦闘員)の殺害ということであれば、イスラエルと米国はパレスチナを批判することはできないだろう。パレスチナ人が民間人を危険に陥らせることはテロで、イスラエルと米国の軍隊が民間人を殺傷するのは正義の戦争だというのはグロテスクな人種差別(ダブルスタンダード)以外の何物でもない。

筆者は、世界中の人々、パレスチナ人も、ユダヤ人も、米国人も、他国の市民を殺害しないような世界の実現を望んでいる。イスラエルの行っていることは、それ自体がテロ行為であるしジェノサイドでもある。そして、少なくないパレスチナ人をさらなる民族解放の闘いへといざなうことになるだろう。

国際社会は、イスラエルによるガザでの大規模テロ行為=ジェノサイドをやめさせるために、イスラエルに対して圧力を加えるべきである。そして、ガザでのテロ行為をただちにやめて、パレスチナの民族自決権を補償することこそ、イスラエルの安全の保障に資するだろう。


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