化学物質の「自律的な管理」概説




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化学物質を扱う研究者

※ イメージ図(©photoAC)

2021年7月に厚労省は、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」を公表し、自律的な化学物質管理制度の導入を推進するとアナウンスしました。

化学物質管理に限らず、災害・事故防止対策の理想は、事業者が自ら災害発生のリスクを評価・判断して、合理的な対策を採ることです。その意味では、この報告書は理想に一歩近づくものといえます。

事業者が自ら自律的な管理を行う意思と能力を持って取り組んだ結果によって、そうなるのであれば、こんなよいことはありません。

しかしながら、現実を無視して国が「理想」を現実社会に適用しようとすれば問題を引き起こすことになるでしょう。本稿では、まず今回の報告書の概説を行い、問題点と疑問を洗い出します。




1 はじめに

(1)「自律的な管理」への方向は適切である

執筆日時:

最終修正:

2021年7月に厚労省から「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」が公表された。その内容は、職場の化学物質管理について「自律的な管理」を基本にしようというものであり、これまでの表示・SDS制度やリスクアセスメントのさらなる推進を図ろうというものである。

この報告書の内容そのものは、これまでの安衛法の化学物質管理の方向をさらに推し進めようというものであり驚くにはあたらない。他でも述べたがきわめて適切なものであるといえよう。

また、5年後に「その時点で十分に自律的な管理が定着してい」ることを条件に、化学物質関連特別規則(石綿則を除く。)を廃止することを想定していると述べている。

  • 特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、粉じん障害防止規則、四アルキル鉛中毒予防規則(以下「特化則等」という)は、自律的な管理の中に残すべき規定を除き、5年後に廃止することを想定し、その時点で十分に自律的な管理が定着していないと判断される場合は、特化則等の規制の廃止を見送り、さらにその5年後に改めて評価を行うことが適当である。
※ 「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」より。(引用者において箇条書きとし、下線強調を付した)

このことも、自律的な管理が定着し、かつ、有害な化学物質によって労働者の健康問題が起きなくなるのであれば、特化則等の中のかなりの規定は必要がなくなる(※)ことは当然であり、驚くにはあたらない。

※ もちろん、作業環境測定は現行のように実施方法を詳細に国が定める制度としてはなくなるかもしれないが、測定そのものがなくなるわけではなく高度の専門的な知識を有する作業環境測定士の役割もなくなることはないだろう。

また、特殊健康診断は、おそらく現行に近い形でそのまま制度として残るだろう。報告書中にも健康診断の記録の活用についての記述があり、生物学的モニタリングを含めて、その重要性を考えればなくせるような制度ではない。

とはいえ、本来、自律的な管理という言葉からは、製造し又は取り扱う化学物質について、自らその有害性を調査し、それによる労働災害を発生させない手法を自ら検討して採用し、適切な管理が行われるように自主的な対応を行うことが基礎になるはずである。

ただ、そこまで自由にすることに、委員会としては不安を感じたのであろう。自律的な管理とはいえ国の決めたルール(制約)に従って行うことを提唱しているのである。


(2)自律的な管理とはどのような管理か

この報告書のいう自律的な管理とは、誤解を恐れずに簡潔にまとめれば次のようになるだろう。

  • 政令で厚生労働省が「国のGHS分類により危険性・有害性が確認された物質」として、(さしあたり)約2,900物質を指定し、以下の事項を義務付ける。
    • これを事業者が他の事業者に譲渡・提供する場合は、ラベル表示・SDSによって危険性・有害性情報を伝えること
    • これを取り扱う事業者は、リスクアセスメントを行うこと
  • 上記化学物質のうち、数百物質について国が「ばく露管理値」(※1)を公表し、「ばく露管理値」の有無によって、以下のことを義務付ける。
    • 「ばく露管理値」がある物質については、労働者のばく露する濃度(ばく露する量ではない(※2))をばく露管理値以下とすることを義務付ける
    • 「ばく露管理値」がない物質については、ばく露濃度をなるべく低くする措置を講じることを義務づける
  • 皮膚への刺激性・腐食性・皮膚吸収による健康影響のおそれがないことが明らかな物質以外の全ての物質(上記2,900物質のことではない)について、保護眼鏡、保護手袋、保護衣等の使用を義務づける
  • ※1 「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」では「ばく露限界値(仮称)」とされている。

    ※2 ばく露量ではなく、ばく露濃度であることから、いくつかの種類のコントロールバンディングはリスクアセスメントの手法として使用できなくなるはずだが、ここは厚労省のガイドラインの公表を待ちたい。

これを図式化したものが次の図である。

化学物質規制対象の見直し

クリックすると拡大します(厚生労働省資料より)

要は、これまでのRA、ラベル表示、SDS公布の対象物質の範囲を上下に大きく広げようということである。そして、合わせて RA の結果から一定のばく露低減措置を義務付けるわけである。

化学物質規制対象の模式図

クリックすると拡大します


(3)「自律的な管理」とは「自由な管理」ではない

ア ラベル・SDS・リスクアセスメントの対象物質

すなわち、新しい自律的な管理とは、その言葉から受ける印象とは異なり、必ずしも自由な管理ではない。これは、企業の意識の現状や、現実に存在している化学物質管理の専門家の質と量から判断してやむを得ないことである。

ラベル・SDS・リスクアセスメントの対象物質(リスクアセスメント対象物質)は、国が決める(政令で定める)(※1)のであり、事業者が自由に決めてよいわけではない。従って、受領したSDSにGHS有害区分がないと記載されていても(※)それだけでリスクアセスメントをしなくてよいということにはならない。

※1 国のGHS分類により危険性・有害性が確認された全ての物質(2900物質)がリスクアセスメント対象物とされる予定である。詳細は「自律的な管理」の対象とその問題点を参照されたい。

※2 制度上は、ラベル・SDSの内容は譲渡・提供する側が決めることになり、国のGHS分類には拘束されないので、可能性は低いがあり得ないことではない。

なお、ラベル・SDSの手法についても、WEBサイトによる提供が認められること、濃度表示を10%の範囲で行うことができなくなることなどの改正が行われる。

大量のラベル・SDSを作成している事業者にとっては、かなりの業務量が発生することを見込んでおく必要がある。詳細は2022年安衛法令改正(ラベル•SDS)を参照されたい。

イ 「ばく露管理値」の対象物質

また、リスクアセスメント対象物質のうち、リスクアセスメントの基礎となる「ばく露管理値」が定められる物質とその値も国が決めるのであって、事業者がその判断によって自由に決めてよいわけではない(※)

※ 産業衛生学会が許容濃度を定めている物質とACGIHがTLV-TWAを定めている物質について、それらの値を参考に定められることとなる。当然のことだが、事業者の判断で、許容される濃度を「ばく露管理値」より厳しくすることが禁止されるわけではない。

【労働安全衛生規則】

(ばく露の程度の低減等)

第577条の2 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない。

 事業者は、リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならない。

3~12 (略)

※ ここで、第1項は2023年4月1日施行であり、第2項は2024年4月1日施行となる。従って、2023年4月1日から2024年3月31日までは第1項が適用され、2024年4月1日以降は第2項が適用となる。

問題は、労働者のばく露濃度が「ばく露管理値」よりも低いことをどのように確認するかである。これについては、すべてを測定することを義務付けることも論理的にはできないわけではない(※)が、費用対効果の観点からは現実的ではないので、国がガイドラインを示すことになっている。

※ 「ばく露管理値」が定められる物質については、測定する方法は確立しているはずである。

従って、「ばく露管理値」が定められる物質については、これらを国が定めることによって、労働者の安全は(制度が正しく運営されるなら)担保されることとなる。

ウ 「ばく露管理値」の定められない物質

リスクアセスメント対象物質のうち、国が「ばく露管理値」を定めない物質については「ばく露濃度をなるべく低くする措置を講じる」ことが義務付けられる。「努力義務」とはされていないが、「なるべく」とあるので、実質的に努力義務と変わらなくなってしまうのではないかという気がする(※)

※ 違反の有無をどのように判断するのか、違反があった場合に労働基準監督官が是正勧告書を発効するのか指導票を発効するのかはひとつの問題であろう。

なお、リスクアセスメント対象物質のリスク低減措置は、ばく露管理値がある物質とない物質で、2024年3月31日まで安衛則上の条文は共通となる。

【労働安全衛生規則】

(ばく露の程度の低減等)

第577条の2 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない。

2~12 (略)

※ ここで、リスクアセスメント対象物質のうち、国が「ばく露管理値」を定めない物質については第1項のみが適用となり、同項は2023年4月1日施行である。

エ 経気道ばく露について、ばく露濃度の軽減の方法

問題は、国が「ばく露管理値」を定めない物質のばく露濃度を低減させるための方法であるが、これは以下の優先順位の考え方に基づいて事業者が自ら選択することとなる。あくまでも優先順位が定められており、安易に保護具の着用を選ぶことのないようにするべきである。

  • ① 有害性の低い物質への変更
  • ② 密閉化・換気装置設置等
  • ③ 作業手順の改善等
  • ④ 有効な呼吸用保護具の使用

なお、④の有効な呼吸用保護具を選択する場合は、保護具着用管理責任者(※)を選任することが義務付けられる。

※ 選定のための要件は法的には定められないが通達によって定められる。通達を遵守するのみならず、事業者が自律的(自主的)に保護具着用責任者に専門的な知識を身に着けさせるようにするべきであろう。これについての詳細は、「保護具着用管理責任者選任の留意事項」を参照されたい。

オ 経皮ばく露について、ばく露濃度の軽減の方法

また、経皮ばく露については、国のGHS分類により危険性・有害性が確認された全ての物質に限定せず、皮膚への刺激性・腐食性・皮膚吸収による健康影響のおそれがないことが明らかな物質以外の全ての物質について、保護眼鏡、保護手袋、保護衣等の使用が義務付けられる(※)

※ これについての詳細は、「皮膚等障害化学物質等による障害防止」を参照されたい。

しかし、化学物質の種類や使用量等によって、これらの保護具の選定、廃棄基準を適切に行う必要があり、実務上は簡単ではないということは意識しておいた方がよい。

※ 化学防護手袋の廃棄基準は、使用開始後の短時間で定められており、しかも安くはない。台所やトイレの清掃用の手袋は保護手袋ではないということは理解しておかなければならない。


(4)「自律的な管理」における管理体制

自律的な管理を行うための体制も、事業者が自主的に決めてよいということにはならない。

化学物質規制対象の見直し

クリックすると拡大します(厚生労働省資料より)

国のGHS分類により危険性・有害性が確認された全ての物質を製造し、取扱う事業場では業種規模を問わす「化学物質管理者」の選任(※)が必要になる。

※ これについての詳細は、「化学物質管理者の選任の留意事項」を参照されたい。選任は事業場ごとになるが、必ずしも専属である必要はない。

この化学物質管理者の実施するべき事項は、次のように定められている。

  • ① ラベル・SDSの確認及び化学物質に係るリスクアセスメントの実施
  • ② リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施
  • ③ 自律的な管理に係る各種記録の作成・保存
  • ④ 化学物質に係る労働者への周知、教育
  • ⑤ ラベル・SDSの作成(化学物質を譲渡・提供する場合)
  • ⑥ 化学物質による労働災害が発生した場合の対応

すなわちこれだけのことができる能力がなければならないのである。ラベル・SDSの作成は化学物質を譲渡・提供する場合限られるし、そのような場合にはこれまでもそのような能力を有する者がいたはずではあるが、化学物質の種類が大幅に増加することで、新たにそのような能力を有する者が新たに多数必要になるはずである。

この化学物質管理者になる者の要件は、GHS分類済物質(※)の製造事業者は「専門的講習」の修了者から選任しなければならないが、その他の事業者は「専門的講習」の修了者から選任することが推奨はされるが、制度上は誰でも選任することができることとなる。

※ GHS分類済物質の混合物も含まれる。従って、他社から購入したGHS分類済物質を混合して他の事業者に譲渡提供する者も「GHS分類済物質の製造事業者」に含まれる。塗料や香料の製造業者は多くが含まれることとなろう。

この「専門的講習」の詳細は決まっていないが、民間の教育機関が実施する2日程度の研修になるとのことである。2日程度の研修を受けることで、リスクアセスメントの実施やSDSの作成などができるようになると、本気で信じる者がいるかどうかは私には分からない。

なお、先述したように、ばく露防止のために保護具を使用する場合は保護具着用管理責任者の選任が義務付けられる。


2 ありかた検討会報告へのいくつかの疑問点

(1)自律的な管理の有効性をどのように担保するのか

イ 有効性の担保の方法

報告書では、自律的な管理が有効であることを担保する手段として、次のことが挙げられている。

  • ① 自律管理の実施状況について衛生委員会等により労使で共有、調査審議するとともに、一定期間保存を義務付ける
  • ② 労災を発生させた事業場で労働基準監督署長が必要と認めた場合は、外部専門家による確認・指導を義務付ける

これを図式化したものが次の図である。

化学物質規制体系の見直し

クリックすると拡大します(厚生労働省資料より)

すなわち、労使の自主的な管理に委ねると共に、災害発生時には外部の専門家を活用するとしているのである。もちろん、労働基準監督官による臨検監督も、自律的な管理が有効であることを担保するための手段にはなり得るであろう。

ただ、誰が考えてもこのような制度には不安を感じるのではないだろうか。私もまた、不安を感じている。

イ 労使自治が有効に働くのか

まず、第一に労使自治が有効に働くだろうかという不安である。私自身、日本を代表するような2つの企業で、中卒の現場労働者と大学院修了の技術者として勤務した経験がある(※)。しかし、その経験から考えても、労働者の側に化学物質の有害性についての知識がある者がそうそういるとは思えないのである。

※ その後、上級職として労働省(現厚生労働省)で勤務したが、中央省庁の職員として見るときと中卒の現場労働者として見るときでは、世の中は違って見えるものである。なお、私の経歴にご関心があれば当サイトの「私の青春」をご覧になって頂きたい。

また、事業者の側に対して労働者の側から、安全について意見具申ができるのかという疑問もある。

※ 私が中卒で働いていた企業で、上司に安全について意見具申をしたところ、その上司から「安全、安全なんてことを口にすると、赤いと思われるから言わない方がいいよ」といわれたことはいまだに覚えている。もちろん、かなり前のことであり現在は改善されているだろうが、大企業でさえそのような雰囲気が現場にはあることは簡単には変わらないだろう。

ウ 災害を発生させた事業場の確認・指導が可能か?

また、労災を発生させた場合に外部専門家による確認が挙げられているが、そもそも労働災害が発生したときはすでに遅いのである。

さらに確認・指導がどこまで有効化を考えてみて欲しい。従業員10人程度の事業場で化学物質を「ばく露管理値」の10倍程度の濃度で使用している事業場があったとしよう。そのような事業場でも、まず職業性疾病は発生しない。

仮に、災害が発生するとしても慢性中毒については数十年後である。そのときその会社が存在している確率はかなり低いといってよい。会社が存在しているにしても、労働者は転職を繰り返している可能性もある。

しかし、そのような事業場が5万とあれば、かなりの数の職業性疾病が発生することが考えられる。従って、放置してよいことではない。だが、職業性疾病の発生とその原因となった事業場をどのように把握するのだろうか?

大阪の胆管がんにしても、福井県の膀胱がんにしても、あれが単独の企業ではなく全国に点在する零細企業の集団において発生し、個々の事業場の発生は1名程度だったとしたら、露見した可能性はなかったといってよい。

必要なことは、特殊健康診断の結果とリスクアセスメントの結果をすべて報告させて、できればマイナカードで紐づけして、集中的に管理分析するべきだ。しかし、今回の報告書では、それは遠い未来の課題としてしか位置付けられていない。


(2)「自律的な管理」における管理体制

ア 専門知識を有する者の絶対的な不足

また、企業内に化学物質の管理が分かる専門家が確保できるのかという問題もある。

残念ながら日本の企業においては、かなりの大企業でも「規制のかかっていない化学物質を扱うことが化学物質対策である」という意識は、きわめて根強いのである。鶏が先か卵が先かということにななるが、そのような中で化学物質管理の専門家が育っていないことは事実なのである(※)

※ 労働安全衛生法令上の化学物質関連の規定についての専門家がいないとまでは言わないが・・・。

多くの安全コンサルタント、衛生コンサルタントが研修を行う場合などに、「大切なことは法違反をしないことではなく、事故を起こさないことだ、この2つは別物だ」と、様々な表現で繰り返しているが、状況は変わらない。

わずか、2日間の研修を終えた化学物質管理者が、どの程度、化学物質管理に必要な知識や思想を理解するかは疑問である。2日間ではリスクアセスメントの方法やSDSの読み方だけを教えるのが精一杯であろうが、それでは意識は変わらないのである。下手をすれば、教育を行う機関にさえ、そのことを理解させることができないのではないだろうか。

イ 実務経験の重視は有害無益

労災が発生した場合に確認を行う外部専門家としては、以下のものが想定されている。なお、これは普段の自律的管理において外部の専門家を活用する場合の要件ではないので誤解しないようにしたい。

  • ① 労働衛生コンサルタント(衛生工学)として5年以上その業務に従事した経験を有する者
  • ② 衛生工学衛生管理者として8 年以上 その業務に従事した経験を有する 者
  • ③ オキュペイショナル・ハイジニスト(IOHA International Occupational Hygiene Association 国際オキュペイショナルハイジーン協会)が認証している育成プログラムによる資格取得者を想定 。以下同じ。)資格を有する者
  • ④ その他同等以上の知識及び経験を有すると認められる者

普段の業務においては、これに拘泥しないようにするべきである。専門家とは、現に知識のある人材のことであって、たんなる資格と国が定めた経験を有している者のことではないのだ。前者は専門家だが、後者には専門家ではない者が混じっている。

それはともかく、ここで実務経験を要するとしている行政のセンスのなさに、いささかあきれている。実務経験など何の役にも立たないケースがいくらでもあるのだ。しかも、実務経験を誰が証明するのかという問題もある。要は、実務経験など証明する側のさじ加減に過ぎないのである。

その一方で、十分な知識・経験のある人材が、厚生労働省の定める経験がないだけで参入ができないのだ(※)。厚労省の定める実務経験を専門家の要件とするなど、有害無益だと強くいっておきたい。

※ 安全衛生行政では、様々な管理者等の専任要件や、資格試験の受験者に実務経験を要するとしているものが多い。しかし、中には非現実的としか言いようがないものも多いのが実態なのである。例えば「製造の経験」はマテハン作業だけやっていても認められるし、「設計の経験」はCADの入力だけしていても認められるのである。

しかも、この実務経験の証明は、証明する側の事業者のスタンスによってとれたりとれなかったりするのである。安全衛生の実務経験といっても、形だけ職務についていれば認められたり、酷いケースになると、どう考えても実務経験などあるとは思えないケースで証明書を発行するケースもある。残念ながらこれが実態なのだ。

また、私はコンサルタント試験の受験支援をWEBで行っているが、熱意もあり知識もある人が実務経験がないために受験資格が得られないケースを数多く見ている。この方たちが、試験を受けることができれば多くの専門家が育つだろうにと思うと残念でならない。


3 最後に

(1)現実は動き始めている

最後になるが、化学物質の自律的な管理が実現されることは理想であり、今回の改正の方向は正しいということは言っておきたい。そのことを否定する専門家はいないだろう。

問題は、現実を無視して、性急に理想を現実に当てはめるとろくなことにならないということである。

しかし、制度は動き始めていることも事実である。「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」は座長を別とすれば、公益委員、労働側委員、使用者側委員が3名づつのかなり異例な構成である。すなわち、公労使が納得した上で決めたものであろう。

基本的な方向は覆ることはないだろう。であれば、その新しい制度の中で、どのように対応してゆくかを考えなければならない。

労働衛生コンサルタントなどの化学物質管理の専門家も、自ら知識と能力を身に付けるための支出・努力をすることを検討するべきだろう。それが収入となって反ってくる可能性も出てくるのである。


(2)企業に求められること

労働災害が発生したとき、民事訴訟となるケースは、今後、増加することが予想されている。そのとき、災害発生時(原因の発生時)に公開されていた情報によって、その災害の発生を予測して防止することが可能だったと判断されれば、損害賠償を認められることもあり得るのである。

また、何よりも、これからは、有害な化学物質を労働者に取り扱わせるのであれば、専門的な知識を有する者を活用する等により、その有害性等を把握して災害発生の可能性について検討し、有効な手立てをとらなければならない。そのことを認識する必要がある。

安全の経費は、必要経費なのだということを自覚する必要がある。


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