化学物質のリスクアセスメント手法の一つであるECETOCのTRAの具体的な使用方法を分かりやすく説明しています。
このマニュアルに従って実施することで、容易に企業内でECETOCのTRAが使用できるようになります。
内容の無断流用はお断りします。
4 最後に
(1)ECETOC TRAの精度
最後に、ECETOCのTRAの精度についてみてみましょう。Martie van Tongeren et alの作成したパワーポイントデータ「eteam Project; Results of external validation exercise.」には、欧州で開発されたいくつかの簡易なリスクアセスメントの実証の結果が記載されています。
右図は、その中のECETOC TRAのものです。左側がバージョン2のもので右側がバージョン3のものです。拡大しても図が見にくいようなら、ハイパーリンクから原典をご覧になって下さい。
この図の横軸はTRAによる推測値で、縦軸は実際の個人ばく露の測定値で、対数目盛となっています。図の中の45度の線上にプロットがあれば、その作業者についてはTRAによる推測値と測定値が一致していることになります。この線よりも上にプロットされていれば、TRAによるリスクアセスメント結果よりも、実際のリスクが高いということを意味します。逆に、下にプロットされていれば、実際のリスクの方が低いのですが、過剰な対策が求められたということになります。
これらの図は対数グラフなので、実際のバラつきは、一見して得られる印象よりもかなり大きくなる傾向があることには注意すべきです。しかし、この種の簡易なリスクアセスメントとしては、かなり正確な推測ができているのではないかと思います。なお、図中のCorrCoefとは相関係数のことです。このグラフをみた印象だけですが、プロットのうち2割程度は10倍から10分の1の誤差の範囲に収まっており、8割程度は100倍から100分の1の範囲に入っているように見えます。
また、リスクアセスメントの結果よりも実際のリスクの方が高いケースはバージョン2で29%、バージョン3では32%となっています。
(2)精度を理解した上で活用する必要
※ イメージ図(©photoAC)
これでは使い物にならないと思われる方がおられるようですが、そのように思うべきではないと思います。簡易なリスクアセスメントである以上、多少の過剰な対策は求められるにしても、7割程度は実際のリスクの方が低く出る=従って安全な対策が可能なのです。
そして、TRAによるリスクアセスメントの結果よりも実際のリスクの方が高いケースというのは、顔を発散源に近づけるような作業や、とくに発散する量が多い作業、発散源の風下での作業など、ある程度は定型的に判るだろうと思います。つまり、そのような作業については、リスクアセスメントの結果を過信しすぎないようにするなどの注意をすればよいわけです。
もちろんだからといって、化学物質管理についてまったくの知識がないまま、機械的にTRAでリスクアセスメントを行って、その結果を過信しすぎるようなことをすれば危険な結果をもたらすかもしれないということは忘れてはなりません。
要は、どのようなメリットとデメリットがあるのかをきちんと捉えた上で使用するべきだということなのです。
【関連コンテンツ】
WEB 利用化学物質リスクアセスメント
WEB を利用する化学物質リスクアセスメントについて解説しています。
CREATE-SIMPLE の使用方法
CREATE-SIMPLE を使用するための分かりやすいマニュアルです。
ボックスモデル化学物質RAツール
ボックスモデル化学物質RAツールを使用するための分かりやすいマニュアルです。
BAuAのEMKG EXPO TOOL
BAuAのEMKG EXPO TOOLを使用するための分かりやすいマニュアルです。