= 私のコンサルタント試験受験記 =

労働衛生コンサルタント試験受験の勧め(4/7)




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政府による圧力

労働衛生コンサルタント試験は、労働衛生管理の能力を証明するための最もレベルの高い国家試験です。ここ、数年、受験者数は急増している状態です。

とはいえ、受験者数はそれほど多くはなく、他のメジャーな資格試験ほどには情報があふれているわけでもありません。

労働衛生の分野でのキャリアアップを検討しておられる方のために、労働衛生コンサルタントとは何か、その難易度はどの程度か、具体的な内容はどのようなものかなどを、私自身の受験体験を交えて紹介します。

内容の無断流用はお断りします。



2 労働安全衛生コンサルタント試験の概要等

イ 筆記試験(衛生法令(択一)の内容

(ア)出題のレベル等

“衛生法令”は、衛生管理者テキストのしっかりしたものを用いて、かなり細かな部分まで、理解しておけば、合格可能圏に入ると思う。ほとんどが条文レベルであるが、中には告示や通達レベルの問題もあるようだ。

なお、試験の範囲は、試験のある年の4月1日現在で施行されている法令が前提となる。従って、それ以降に施行される法令は試験の範囲ではない(※)

 試験の申込書に同封されている「試験案内」に「法令等の基準日」が記載されているので、参照して頂きたい。

(イ)学習のための資料等

法律系の国家試験といえば、最難関試験として司法試験や司法書士試験が思い浮かぶ。これらの試験では、受験の3種の神器として、よく基本書、条文、過去問が挙げられることが多い。

労働衛生コンサルタント試験の“労働法令”にこれを当てはめてみよう。まず基本書だが、残念ながらこの試験では専用の基本書といえるようなものは存在していない。そこで、衛生管理者テキストのうち、しっかりしたものを選ぶとよいと思う。

衛生管理者テキストで、コンサルタント試験に本当に合格できるのかと不安に思うかもしれないが、衛生法令の科目はそれほど難しいわけではなく、この科目に関してはとくに問題はない。これだけで十分に合格できるので、安心して使用すればよい(※)

 意外に思われるかも知れないが、国家試験の択一の問題では試験のレベルが違っても、問題のレベルはそれほど変わらない。司法試験と司法書士試験と行政書士試験の憲法の問題など、ほとんど変わらない内容で出題される。それぞれの試験は、合否の水準や論文試験の内容が異なっているのである。

(ウ)過去問の活用

次に過去問だが、労働衛生コンサルタント試験の過去問は、このサイトに詳細な解説をアップしている。もちろん、労働衛生コンサルタント試験では、衛生管理者の試験のように過去の試験問題が繰り返して出題されるようなことはない。

しかし、労働衛生コンサルタント試験においても過去問の利用は、きわめて重要な意味を持つ。まず、出題の傾向が過去問から明確になるのである。このサイトの「労働衛生コンサルタント試験 関係法令」は、過去問を出題分野ごとに配列したものである。これを見れば、過去の出題分野が一目瞭然である。

そして、個々の分野ごとの問題を参照することにより、出題の内容や傾向を知ることができるのである。なお、過去問をどのように利用するかについては、別稿を起こす予定である。

(エ)条文の活用

条文については、もちろん、司法試験や司法書士試験ではないので、細かな条文を覚える必要はない。しかし、学習するときにテキストに条文が出てきたときは参照する癖をつけておくと、合格後の仕事に役立つ。

このサイトの法令問題の解説にも最低限必要な条文を抜粋して載せてはいるが、安衛法便覧でなくてもかまわないので条文集を1冊購入しておくとよいと思う。

ウ 筆記試験(健康管理(記述式))の内容

(ア)出題の形式、内容等

“記述式の問題は、保健衛生区分の場合、出題は4問である。問1又は問2から1問、問3又は問4から1問、合計2問を選択して解答する。ほぼ例年、問1及び問2は有害化学物質関連、問3及び問4はその他の分野から出題されるが、問2が酸欠関連だったこともある。内容は、このサイトの「労働衛生コンサルタント試験 健康管理」を参照して頂きたい。

なお、記述式といっても、司法試験のような論文式ではない。1問の中の小設問数はかなり多く、それぞれの設問に短い文章で簡潔に答えればよい。なお、普通であれば、司法試験や司法書士試験のようには時間が足りなくなるというようなことはない。

私が受験したときは、化学物質管理、酸欠対策、ストレスチェック、過重労働対策の4問だった。私は、化学物質管理とストレスチェックを選んで回答した。さすがに現職時代に、直接、関わっていた分野なので、他の受験生に比較すれば、はるかに有利だったろうと思う。

(イ)出題のレベル等

記述式の試験問題は、全体として厚労省から出ているガイドラインや通達等に関する知識を問うものが多いようである。この内容やレベルは衛生管理者のテキストクラスでは歯が立たない。

また、たんなる知識ではなく、考え方を問うものも多い。そのため、厚労省のガイドライン類の内容をたんに皮相的に覚えているだけではあまり役には立たない。

(ウ)具体的な出題事例と解答の考え方
ⅰ 出題例とその出題意図

例えば、私が受けた化学物質管理では、次のような問題が出題されている。

これに答えるには衛生管理者のテキストでは太刀打ちできない。テキストに載っているのは、有害性の明確な物質についての対策である。従って、自らの知識と経験を用いて、試験場で考えなければならない。

(4)ある事業場で有害性が十分把握されていない化学物質 A を使用していたところ、他の事業場において化学物質 A による健康障害が発生した事例が報告された。この場合の当該事業場における化学物質 A による健康障害の発生の有無を把握するためにはどのようにすべきか。また、健康障害が発生している場合はどのように対応すべきか。箇条書きでそれぞれ三つ述べよ。

もしかすると、少なくない受験生が、大阪の胆管がん事案や福井県の膀胱がん事案を思い浮かべたかもしれない。しかし、少なくとも福井県の事案は有害性の明確な化学物質によって発生しているのである。また、大阪の事案も哺乳類に対する発がん性が確認された物質であった。従って、これらの事案とはやや趣を異にしていると考えるべきであろう。

すなわち、最初のポイントは化学物質 A の有害性が十分に把握されていないというところなのである。常識的には、GHS の分類と区分が行われておらず、職業暴露限界も勧告されていないと考えるべきであろう。当然ながら通知対象物ではないと考えるべきである。なぜなら通知対象物は、有害性が明らかな物質を指定しているからである。

そのような物質について、ヒトへの健康障害がいきなり確認されたというのである。おそらく統計的に有意な数の健康障害の事例が発生したということなのであろう。かなり稀有な事態であり、現実に発生したとすれば驚くべき事案である。ただこの場合は、健康障害の内容(どのような疾病か)は分かっているのである。また、災害を発生させた事業場におけるばく露状況もおそらく分かっているのであろう。

ⅱ 事業場における発生の有無を知る方法

ここでまず留意すべきは、最初の設問は、当該事業場における化学物質 A による健康障害の発生の有無を訊かれているのであって、健康障害発生のリスクの有無を訊かれているのではないということである。

従って、いきなり、“SDS を調べる”などと答えてはいけない。どのような健康障害が発生したかは、他の事業場で健康障害が発生したという報告があったから分かったのである。そして、その報告があるまでは、そのような健康障害を発症することは分かってはいなかったのであろう。SDS などたぶんないだろうし、あったとしてもこの設問に対する答えとしては見る意味はないだろう(※)

 もちろん、実務の世界では SDS は見るべきである。あくまでも、この設問の答えとしては意味がないということである。

また、いきなり“作業環境測定を行う”などと答えてもいけない。職業暴露限界が分かっていないであろうから、この段階で測定などしても健康障害の発生の有無を知るためには、さしたる意味はない。そもそも測定の方法も確立してはいないだろう。

“生物学的モニタリングの実施”はどうだろうか。やや微妙ではあるが、求められている答えではないように思える。そもそもばく露指標が分かっていないのではなかろうか。また、“生物学的モニタリングの実施”は必ずしも健康障害を判定するためのものではない。

ここで、最初に答えるべきは、“退職者を含めた当該健康障害に関する健康診断”であろう。私自身は、それだけで、十分な答えになっているのではないかと思えた。化学物質 A を取扱っているか取り扱っていた労働者に、当該健康障害が発生しているのであれば、それは化学物質 A によるものだと考えるべきではなかろうか。だが、設問は“3つ答えろ”となっている。他の2つはなんだろうか。

考えられることは、健康診断で問題となっている健康障害がみつかったとしても、それが化学物質 A によるものだとただちに判断することはできないので、その判断のために必要なことなのではないだろうか?もちろん、個々の事例について、ばく露と疾病の因果関係を科学的(演繹的)に判断しろといわれてもそんなことは不可能である。

実際には、一定の割り切りが必要になる。まず、その健康障害が一般の発症率が低いものであれば、化学物質 A によるものと判断してよいであろう。また当該事業場の化学物質 A を取扱っている労働者数が少ない場合も A によるものと判断すべきだろう。さらに発症した労働者等の業務歴やばく露状況の調査も必要になろう。

従って、回答として挙げられるのは、

  • ① 退職者を含めた当該健康障害に関する特殊健康診断の実施
  • ② 当該健康障害の一般の発症率の調査(できれば性別・年齢別)
  • ③ 退職者を含め、当該健康障害に罹患した労働者の、過去におけるその化学物質の取扱の履歴やばく露状況の調査

といったところであろうか。

この③のところでは、個人ばく露濃度測定や、作業環境測定、生物学的モニタリングが意味を持つかもしれない(※)。すなわち報告のあった事業場の気中濃度や個人ばく露濃度測定結果と比較が可能かもしれないからである。

 測定する方法が確立していなければ、そもそも不可能であるが。

ⅲ 実際に健康障害が発生した場合の対応

次に訊かれているのが、実際に健康障害が発生した場合の対応である。実際に健康障害が発生した場合の対応といわれると、三次予防と補償の話が真っ先に思い浮かぶかもしれない。それはそれで重要であるが、安全衛生の分野においては、他の労働者を含めたばく露防止措置をどのようにとるかがより重要であろう。

そこで、以下のようなことを回答することになろうか。

  • ① 健康障害を起こした労働者の治療と補償の実施、配置転換等の検討、治療と職業の両立の検討
  • ② すべての労働者に対するばく露防止対策の実施(化学物質の代替化・遠隔操作の採用の検討、密閉設備・局所排気装置等の設置、有効な個人用保護具の配布と使用のための教育、適切な管理の実施など)
  • ③ 当該化学物質による健康障害の内容及びばく露防止対策等に関する安全衛生教育の実施

なお、ここで“リスクアセスメントの実施”というのは、求められている回答ではないように思える。確かに、リスクアセスメント指針では、労働災害が発生した場合にはリスクアセスメントを行うこととされてはいる。しかし、これは「過去のリスクアセスメント等の内容に問題がある場合」という限定がついているのだ。A物質については「有害性が十分把握されていな」かったのである。有害性が十分把握されていなかったのであるから、疾病が発生していたとしても、必ずしも「過去のリスクアセスメント等の内容に問題があ」ったとはいえないだろう。

そもそもA物質についていえば、すでに化学物質 A による職業性疾病が発生している以上、リスクアセスメントを行うまでもなく“リスクは高い”のである。リスクが高いことを前提に確実な対策を採るべきである。他の物質については、実務上はこの機会にリスクアセスメントをすることは望まれるが、受験テクニックとしては、ややリスクがあるかもしれない。書くなら、「他の物質についてこの機会に行う」と明記しておかないと、不正解とされる恐れがあろう。

なお、化学物質Aについては、リスクアセスメントを行おうにも、職業暴露限界も分からず、GHS区分も行われていないであろうから、せいぜい急性中毒事故や(皮膚吸収されることを前提に)経皮吸収などについてのリスクアセスメントをする程度であろうが、実際に疾病が発生している状況でリスクアセスメントを行うことに意味があるとは思えない。

また、労働者死傷病報告の提出については、問題文に“休業をした”との記述がないことから、出題者の意図は、それを求めているのではないように思える。実務上は、監督署へ(非公式にであっても)報告をするべきであるが、受験テクニックとしては、正答として扱われないリスクがあり、得策ではないように思える。

なお、労働安全衛生規則第96条による事故報告については、工業中毒は含まれていない。





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