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労働衛生コンサルタント試験受験の勧め(2/7)




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政府による圧力

労働衛生コンサルタント試験は、労働衛生管理の能力を証明するための最もレベルの高い国家試験です。ここ、数年、受験者数は急増している状態です。

とはいえ、受験者数はそれほど多くはなく、他のメジャーな資格試験ほどには情報があふれているわけでもありません。

労働衛生の分野でのキャリアアップを検討しておられる方のために、労働衛生コンサルタントとは何か、その難易度はどの程度か、具体的な内容はどのようなものかなどを、私自身の受験体験を交えて紹介します。

内容の無断流用はお断りします。



2 労働安全衛生コンサルタント試験の概要等

(1)労働安全衛生コンサルタント試験の概要

ア 試験の形式と合否基準

(ア)試験の区分

この試験は、労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントに分かれており、さらにそれぞれがいくつかの試験区分に分かれている。労働安全コンサルタントは、「機械」、「電気」、「化学」、「土木」及び「建築」の5区分に分かれており、労働衛生コンサルタントは「労働衛生工学」と「保健衛生」の2区分に分かれている。

(イ)試験の形式

この試験は、一次試験である筆記試験と二次試験である口述試験からなっている。

筆記試験は、私が受験した保健衛生区分では「衛生一般」「衛生法令」「健康管理」の3科目で、労働衛生工学は「衛生一般」「衛生法令」「労働衛生工学」の3科目である。なお、安全コンサルタント試験でも、すべての試験区分が3科目であることには変わりはない。

このうち「衛生一般」と「衛生法令」は、5肢択一形式の問題となっており、「労働衛生工学」と「保健衛生」の2つの試験区分で共通の問題である。「健康管理」と「労働衛生工学」は記述式になっており、それぞれの試験区分に独自の問題が4問が出題され、問1又は問2から1問、問3又は問4から1問を選択し、計2問に解答するようになっている。

(ウ)合否基準

気になるのは合否基準であるが、筆記試験では正答率が概ね60%以上の場合に合格(※)となる。ただし、足切があり、筆記試験の科目の一つでも40%未満なら不合格になる。この基準は免除科目があっても変わらない。

科目 出題数 配点(重み)
労働衛生関係法令 15題 150点
労働衛生一般 30題 300点
記述式 - 300点

 全体の配点だが、「衛生一般」が300点、「衛生法令」が150点、「労働衛生工学」と「保健衛生」はそれぞれ300点となる。択一の法令は15問、衛生一般は30問出題されるので、それぞれの1問は同じ重みということになる。また、「労働衛生工学」と「保健衛生」は4問中の2問を解答するので1問当たりは150点と同じということになる。

なお、口述試験は、4ランクに分けて上位2ランクを合格としているが、質問のうちどれだけ回答できればどのランクにするという基準が公開されていないので、あまり気にしても仕方がない。

イ 試験の実際の合格率

(ア)筆記試験
筆記試験合格率の推移

図をクリックすると拡大します

右図にこれまでの筆記試験の合格率を示している。ほぼ 30 ~ 40 %の前後で推移しており、全体に保健衛生の方が合格率が高い。ただ、保健衛生の受験者と労働衛生工学の受験者では、受験資格の違いから科目免除の割合が大きく異なっているので、単純に比較することはできない。

 試験協会の「安全衛生技術試験協会事業報告書」(各年版)のデータから作成した。(以下同じ。)

なお、過去10年間の衛生コンサルタント試験全体の合格率は次表のようになっている。筆記試験の合格率は安全に比べて、一部で思われているほど高いわけではないが、2023年度は衛生 42.5 %に対して安全が 17.3 %だったので極端に高くなった。

表:筆記試験の受験者数と合格率
2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
筆記 受験者数 262 285 207 309 328 325
合格率(%) 30.9 23.5 31.3 27.2 32.9 35.1
2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
筆記 受験者数 358 424 439 524 608 749
合格率(%) 27.4 40.1 25.1 33.6 33.2 42.5

区分ごとの合格率は以下のようになっている。筆記試験は保健衛生の方が高いが、次項に示すように口述試験は保健衛生の方が低くなっている。

表:筆記試験の区分ごとの受験者数と合格率
保健衛生 労働衛生工学 合計
2022年 受験者数 361 247 609
合格者数 138 64 202
合格率(%) 38.2 25.9 33.2
2023年 受験者数 452 297 749
合格者数 256 62 318
合格率(%) 56.6 20.9 42.5
(イ)口述試験
口述試験合格率の推移

図をクリックすると拡大します

一方、口述試験の合格率はかなり低い。長期的には上昇傾向にあるが、近年の合格率は5割程度で推移している。

労働衛生工学の合格率は、2007年度から2015年度まで急速に向上した。この原因は明確ではないが、この時期に受験生の能力が向上した他、行政としても衛生工学の衛生コンサルタントの増員が必要だと考えられたためかもしれない。

いずれにせよ、2016年度以降は再び低下し、60%前後で推移している。

表:口述試験の受験者数と合格率
2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
口述 受験者数 336 285 301 292 386 386
合格率(%) 47.6 54.0 50.2 45.5 48.2 49.7
2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
口述 受験者数 388 516 270 327 361 523
合格率(%) 42.8 52.5 52.6 62.1 52.6 47.8

 以下、すべての表において口述試験の受験者は、筆記試験の合格者である受験者と筆記試験の全免除者の受験者(口述試験申請者)の合計である。

表:口述試験の区分ごとの受験者数と合格率
保健衛生 労働衛生工学 合計
2022年 筆記試験合格者 138 64 202
口述試験申請者 210 2 212
受験者数 295 66 361
合格者数 155 35 190
合格率(%) 52.5 53.0 52.6
2023年 筆記試験合格者 256 62 318
口述試験申請者
受験者数 458 65 523
合格者数 208 42 250
合格率(%) 45.4 64.6 47.8
(ウ)試験区分ごとの合格率

次に、試験区分ごとの受験者数と合格者数をグラフの形で示しておこう。こここら分かるように、保健衛生と労働衛生工学で、筆記試験の受験者数や合格者数には、そう極端な差はないのである。

保健衛生区分受験者数等の推移

保健衛生区分

労働衛生工学区分受験者数等の推移

労働衛生工学区分

それぞれの図をクリックすると拡大します

大きな違いは、口述試験の受験者数である。保健衛生では筆記試験全免除者数がきわめて多く、筆記試験の受験者数よりも多いのである(※)。このため、労働衛生コンサルタント試験の口述試験の合格率が安全よりも悪いのは、筆記試験全免除者が合格できないからであり、筆記試験合格者の口述試験合格率は高いのではないかとよくいわれる。

※ 筆記試験全免除者のほとんどは医師免許の保持者であることはいうまでもない。なお、かつては医師、歯科医師以外にも筆記試験を全免除される者が若干いたが、現時点では対象者は医師及び歯科医師のみである。

しかしながら、これは必ずしも正しくない。2020年にコロナ禍の影響で、筆記試験全免除の受験者数が大きく減少した。筆記試験受験者数はむしろ増加しているため、仮に筆記試験全免除者の口述試験の合格率が低いために、口述試験全体の合格率が悪いのであれば、2020年の口述試験の合格率は上がるはずである。

実際には、2020年の口述試験合格率もほとんど前の年と変わらなかったのである。すなわち、労働衛生コンサルタント試験の口述試験の合格率が低いのは、筆記試験に合格した受験者も同様だと考えられるのである。

筆記試験の合格率が低い理由は、学科試験で評価される能力とは異なる能力が口述試験で評価されており、その基準が安全コンサルタントに比しても厳しいからだと考えるべきであろう。

ウ 試験の性格(実務家の試験であること)

この試験の性格として、いずれの国家試験でも同様であるが、実務家としての試験だということが挙げられる。その意味で、現場の経験がないと口述試験に合格することは難しいかもしれない。

私が受けた口述試験でも、“現場で〇〇のような場合にどうするか”、“職業性疾病のリスクを見つけるために現場で何を見るか”、“現場の責任者にこのように言われたらどう説得するか”などの質問を受けている。

これに対して、簡潔かつ説得力のある内容で即答しなければならない。試験が終わってから2時間後に、完璧な解答を思いついても意味がないのである。

また、形式的には正しい答えだとしても、実際の現場では通用しないと試験官に思われるような回答をすると、さらに突っ込まれてしまう。そのような答えばかりしていては合格することはできないだろう。

例えば、面接官から“職場であまり一般的ではない化学物質を使用しているが、その物質が労働安全衛生法上のリスクアセスメント実施の義務があるかどうかを調べるにはどうすればよいか”と訊かれて、“安衛令の別表第9にその物質があるかどうかを調べます”と答えるのは、形式的には正しい。しかし、一度でも実務において、特定の化学物質について、リスクアセスメントの対象になっているかどうかを調べたことがあれば分かるが、トルエンやキシレンのようなものは別として、安衛令の別表第9を調べても、実際には分からないことが多い(※)のである。

 法令の化学物質の名称は、他の法律等に前例があればその前例に従い、なければ IUPAC(アイユーパック)という命名法が用いられることが多い。ところが、一般に販売されている化学物質は、IUPAC とは異なる名称を付され、法令の名称とは一致しないことが多いのである。

このように答えると、試験官から“使用している化学物質が別表第9とは別な名称で表示されていたら、別表第9を見ても分かりませんね”と突っ込まれて終わりである(※)

 この質問にどう回答するかについては、本サイトの「化学物質のリスクアセスメントの対象の見分け方」を参照して頂きたい。

エ 基本を理解できているかということ

ただ、奇をてらったような質問をされることはない。教科書や参考書には書かれていないかもしれないが、実務経験があれば、当然に分かるというようなこと、あるいは実務を行うためには当然に知っていなければならないようなことを聞かれるのである。言葉を変えると、労働安全衛生対策の皮相的なことではなく、基本がきちんと理解できているかが問われるのだ。

いくつか例を挙げてみよう。職場の熱中症のリスクを調べるために、最近では WBGT を用いることが多いことは誰でも知っているであろう。そして、WBGT を算出する式は基本的なテキストに書かれている。だが、それだけ知っていても、衛生管理者試験なら合格できるかもしれないが、労働衛生コンサルタント試験の口述試験には対応できないと思った方がよい。

口述試験で問われるのは、熱中症のリスクを図るために、たんなる気温ではなく WBGT を用いるのはなぜなのか、あるいは例えば黒球温度で評価しているのは何かなど基本的な部分である。また、WBGT を用いるときに注意すべきことは何かなどと訊かれるかもしれない。

実際の現場は教科書に書いてあるような典型的なケースばかりではない。大小の異常な事態の連続なのである。基本が理解できていないと、ちょっと変わった状況になると応用が利かないのである。それでは、コンサルタントとしての業務はできないので、“基本を知っているか”ではなく“基本が理解できているか”を確認されるのである。

オ 皮相的ではなく実際に役立つ知識が問われる

また、熱中症対策について、“缶入り飲料の日本茶やコーヒーを用意している企業があるが、問題はないか”などと訊かれるかもしれない。利尿作用のあるカフェイン入りの飲料が熱中症対策に適さないことは、実務では知らなければならない。この質問に対して“塩分も必要です”では十分ではない。このように現場で必要な知識があるかを確認されるのである。

さらに教科書の知識では解答できない問題として、“職場に局排があったとき、それが稼働しているかどうかを確認する方法は何か”と訊かれたとしよう。現場で実務の経験がないと、一般的な常識で考えて“スイッチが入っていることを確認します”とか“電源ランプを確認します”と答えたりするかもしれない。そうすると“局所排気装置が故障していると、スイッチが入っていても稼働していないこともありえますね”と突っ込まれるだろう。そのときに“分かりません”では合格できない。

現場を知っていると、最初から“スモークテスターを使います”とか、“私は小型の風速計を使っています”という答えが自然にできるようになる。

なお、私のときは、IARC の発がん性評価の区分はどうなっているかと訊かれた。これなども化学物質管理の実務を行っているなら、当然に知っていることであろう。

これらは、かなり高度な内容と思われるかもしれない。しかし、事業者に対して有償でコンサルティングを行うつもりなら、知っておかなければならないことである。




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