労働衛生コンサルタント試験 2021年 労働衛生一般 問23

夜勤及び睡眠




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 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2021年度(令和3年度) 問23 難易度 夜勤及び睡眠に関する知識問題である。常識で判断して、正答できる問題であろう。
夜勤及び睡眠

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問23 夜勤及び睡眠に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)「寝だめ」をしようとして無理に必要以上に眠ろうとすると、かえって睡眠が浅くなってしまう。

(2)夜勤明けは、入眠開始時間が遅くなると睡眠が取りにくくなるため、できるだけ早く睡眠を取るようにする。

(3)夜勤においてガムの咀嚼そしやく、ラジオ聴取、冷風にあたる、軽い運動をすることは、主観的な眠気を減らす効果はあるが、作業成績を改善する効果はあまりない。

(4)夜勤に従事する者は、生活リズムが一定となるように、夜勤にのみ専従するのがよい。

(5)睡眠時間と労働災害の起こりやすさの調査によれば、普段の睡眠時間が7時間の群に比べて、睡眠が6時間から短くなるにつれて、労働災害は起こりやすい。

正答(4)

【解説】

問23試験結果

試験解答状況
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本問の(5)は、どの資料なのかが判然としない「調査」について問われている。睡眠に関する問題では、2019年問14の(5)でも、どの調査のことなのか判然としない「調査」について出題された。

行政の行った広範な調査や、多くの論文に引用されているような学術調査であればともかく、ほとんど知られていないような調査について問うこのような問題が国家試験の問題として適切か、疑問を感じざるを得ない。

(1)適切である。(公社)日本看護協会のガイドライン(※)によると、サーカディアンリズムに反するような「寝だめ」をして無理に必要以上に眠ろうとすると、かえって睡眠が浅くなってしまうとされている。

※ (公社)日本看護協会「夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」(2013年)の「第5章 夜勤・交代制勤務の負担を軽減する生活のヒント」の「B 夜勤前の過ごし方」には、「睡眠不足があった後は、いつもより長く眠れば疲労回復の効果があります。しかし、「寝だめ」をしようとして無理に必要以上に眠ろうとすると、かえって睡眠が浅くなってしまいます」とされている。

なお、病院の看護師の夜勤の労働衛生の観点からの調査・研究は数多く行われている。よく引用される斉藤他の調査(※)によると「夜勤中の60分の睡眠は、夜勤前の180分以上の睡眠と同等の夜勤後の疲労抑制効果を持つ」とされていることを紹介しておく。

※ 斉藤良夫他「病院看護婦が日勤-深夜勤の連続勤務時にとる仮眠の実態とその効果」(産業衛生学雑誌 Vol.40 1998年)

夜勤明けなのになかなか寝付けない看護師

©看護roo!
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(2)適切である。(1)で紹介した日本看護協会のガイドラインの「第5章」の「D 夜勤明けの過ごし方」は「できるだけ早く睡眠を取るようにしましょう。家事などが気になるかもしれませんが、一度睡眠を取ったあとで行うようにしましょう。入眠開始時間が遅くなると、睡眠が取りにくくなってしまうからです」としている。

(3)適切であるとしておくが疑問。本肢が、どのような資料を根拠にしているのか判然としないが、以下に示す調査結果などを見る限り、やや疑問は感じる。しかし、本肢の(4)が明らかに適切ではないので本肢は適切だとしておく。

ガムの咀嚼について、塚本他(※1)は、覚醒度を維持させる効果があるとしている。ラジオ聴取については、研究は見当たらなかった。冷風に当たることについて、(財)電力中央研究所(※2)が「速やかな睡眠慣性の除去という点で、「パソコン上で行うゲーム」、「ストレッチ+ラジオ体操」、「冷たいタオル+扇風機の風」という方法が有効であると示唆された」としている。覚醒度が高まったり睡眠慣性が除去されたりすれば、作業成績を改善する効果はあるのではないだろうか。

※1 塚本他「運転士の覚醒レベル保持対策の研究-特性チューイングガムの覚醒レベルの保持効果について」(日本咀嚼学会雑誌 4(1) 1994年)。なお、(公財)鉄道総合技術研究所の「運転士の眠気を防止する―対処法あれこれ―」でも「運転前に,ガムなどを噛むことでも覚醒レベルが一時的に高まります」とされている。

※2 (財)電力中央研究所「短時間休憩後の覚醒上昇方法に関する実験的検討」(2006年)

【ルーテンフランツの9原則】

  • 1.連続夜勤は2~3日にとどめる
  • 2.日勤の始業時刻を早くしない
  • 3.交代時刻は個人毎の弾力化を認める
  • 4.勤務の長さは労働負担で決め、夜勤は短くする
  • 5.短い勤務間隔時間は避ける
  • 6.2日連続の休日が週末にくるように
  • 7.正循環の交代方向
  • 8.交代周期は短くする
  • 9.交代順序は規則的に

(4)適切ではない。夜勤・交代制勤務の負担軽減に関する国際的なガイドラインであるルーテンフランツの9原則によれば、夜勤の連続は2~3回までとすること、負担を考慮して夜勤は短くすること、交代の周期を短くすることなどという原則が挙げられている。

また、例えば、大島(※)によると「深夜勤の場合は最も疲労が大きく翌日への疲労の持ち越しがあり、つぎが宵勤で昼勤は最も疲労が軽い」とされ、「深夜勤務は反生理的なものであり、これを続けるとストレスがたまるので長く続けることは望ましくない」、「勤務の組み合わせにちえを出すべきである」とされている。

※ 大島正光「生理的リズムと交代勤務」(人間工学 Vol.15 No.5 1979年)

夜勤に専従することは労働生理の面からも、社会生活の面からも好ましくない。

(5)適切であるとしておくが疑問。平成20年4月3日基安安発第0403001号「交通労働災害防止のためのガイドラインに係る留意事項について」には「普段の睡眠時間が5時間未満の場合、勤務前24時間前の総睡眠時間が5時間以下である場合等に交通事故等が発生しやすくなることについて、統計上有意な関連を認める調査結果があること、また、睡眠不足が累積した場合、視覚刺激に対する反応ができなくなる回数(ラプス)が増加すること、特に就床3時間程度を数日間連続した場合にラプスが著しく増加することを認める複数の調査結果がある」とされている。

しかし、本肢は「普段の睡眠時間が7時間の群に比べて、睡眠が6時間から短くなるにつれて、労働災害は起こりやすい」としている。そこで、本肢の「睡眠時間と労働災害の起こりやすさの調査」について調べてみたが、どの調査のことか判然としなかった。そもそも本肢には統計調査(調査票によるアンケート)なのか、実験による調査なのかも書かれていないが、統計調査でこのような調査を行っても本肢のような結果が出るとは考えにくい(※)

※ 実際に発生した労働災害について、直前の一定期間(1日とか1週間とか)の睡眠時間を調べてみても、ほとんどのケースで6時間以上となるだろうから、よほど広範囲に調査をしなければ統計的に意味のある結果は出ない。しかし、そのような広範な調査は、国が実施するのでない限り事実上困難であり、現実には国が実施する統計には様々な制約があり不可能に近い。

なお、過重労働・睡眠問題とヒヤリハットに関する広範な調査として、⼭内貴史他「過重労働を背景とする事故関連事例の分析(労災疾病臨床研究事業費補助⾦)」(2019年3月)において、「睡眠問題があることもヒヤリハット・事故の報告と有意に関連していた。その⼀⽅で、⻑時間労働や睡眠問題の有無とヒヤリハット・事故との関連は業種により異なっていた。運輸・郵便業においては、週当たり労働時間が 51 時間以上の者でヒヤリハット・事故ともに報告が有意に多かった⼀⽅、睡眠問題の有無は事故の報告とは有意な関連が⾒られなかった」とされていることを紹介しておく。ただし「睡眠問題については、Sleep Quality Index(PSQI)⽇本語版を⽤いて評価した」とされている。睡眠時間そのものについての調査ではない。

本肢には「普段の睡眠時間」とあるので、おそらくボランティアに対して単純な作業をさせてミスの発生比率を調べボランティアの普段の睡眠時間とミスの発生頻度を調べたものであろう。仮にそうだとすると、常識で考えても、睡眠時間が7時間の群に比べて、睡眠が6時間から短くなるにつれて、ミスは起こりやすくはなるだろう(※)

※ それにしても、普段から6時間以下しか眠っていないような多忙な人々を、よくボランティアで集められたものである。そう考えると、かなりバイアスのかかった無理な調査ではないかという気がしないでもない。なお、普段の睡眠時間は年齢が高くなるにつれて短くなるだろうから、同じ年齢のボランティアで調査をしなければ意味がないと付言しておく。

2021年11月27日執筆