労働衛生コンサルタント試験 2019年 労働衛生一般 問14

睡眠




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合格

 このページは、2019年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2019年度(令和元年度) 問14 難易度 一部にやや不適切な肢があるが、難易度はそれほど高くはない。
睡眠

問14 睡眠に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)ヒトの体内時計としての役割を果たすのは、脳の視床下部にある視交叉上核である。

(2)ヒトの概日リズムの周期は、通常、24時間より短い。

(3)遅寝・遅起きの生活を続けると、睡眠相後退型概日リズム睡眠障害を起こすことがある。

(4)夜勤中に短時間仮眠を取ると、その後の勤務中の眠気が減る。

(5)自動車運転免許保有者に対する調査では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断されたことのある運転者の居眠り運転のリスクは、SASと診断されたことのない運転者に比べて約3倍である。

正答(2)ただし、問題そのものが不適切である。

【解説】

(1)本肢は必ずしも正確ではないが、(2)が明らかに誤りなので正しいとしておく。

体内時計は、目、心臓、肺などの末梢器官など各部に存在している。脳の視床下部にある視交叉上核は、概日リズムの中枢としての役割を果たしているのである。すなわち、視交叉上核が時刻に関する情報を全身に送り出し、各臓器に存在する概日時計の位相を調律していると考えると分かりやすいだろう。

(2)誤り。ヒトの概日リズムの周期については、一般に25時間説が広く信じられているが、現在では、日本人の場合、24時間10分前後(23.9~24.3時間)とされている1)。「通常、24時間より短い」ということはない。

(3)必ずしも誤っているとは言い切れない。睡眠相後退型概日リズム睡眠障害(DSPS)とは、主要な睡眠時間帯が、希望する睡眠時間帯よりも遅くなるため、不眠や過剰な眠気が生じる病態である。夕方~深夜にかけて著しく覚醒し、午前中に眠気や疲労感が強くなる。

その原因が何かとなると明確ではない。先天的なものという理解が一般的であるが、厚生労働省のサイト「夏休みなどの長い休暇や受験勉強などによる昼夜逆転生活が発症の契機となる」とされている。

(4)正しい。斉藤良夫他「病院看護婦が日勤‐深夜勤の連続勤務時にとる仮眠の実態とその効果」など参照。

(5)必ずしも誤っているとは言い切れないとしておくが疑問。そもそも「居眠り運転」という定義の明確でないものについて、3倍と言い切っている時点で不適切というべきである。このような値は調査によって数字はかなり異なるのが実態なのである。

内外において、SASの運転へのリスクに関する様々な調査は行われている。しかし、本肢のようなことを述べているものは見当たらない。駒田とFindleyが2.5倍という数値を出しているが、これらは事故の発生率であって、「居眠り運転のリスク」ではない。また、Findleyは交通事情の異なる米国の調査であり、ただちに日本でも同様な状況であるとは言い難い。

  • 警察庁交通局「睡眠障害と安全運転に関する調査研究
  • アンケート調査結果によって「SAS と診断されたことがあると回答した者については、気を許すとウトウトする程度と答えた者の割合が回答者全体の 2.2 倍となっている」としている。
  • 文献調査の結果についても「SAS患者による交通事故率は一般人よりも高く、重症度の悪化に伴い事故率が増加する」とされているが、SASと診断されたことのある運転者の居眠り運転のリスクが何倍になるなどと具体的な数字は挙げていない。
  • 塩見利明他「睡眠時無呼吸症候群における居眠り運転事故調査
  • AHI重症度別で正常群とSAS全体の事故発生率を比較し、その比は1.7倍としている。
  • 駒田陽子他「運転免許保有者の居眠り運転に関連する要因についての検討
  • SAS の自覚若しくは診断がある者の居眠り運転の経験は38.8%と、ない者の19.5%に比して約1.9倍であったとされている。
  • SAS の自覚若しくは診断がある者の居眠り事故等の経験は24.4%と、ない者の9.6%に比して約2.5倍であったとされている。
  • 様ざまな先行研究の結果が紹介されているが、本肢のような数字を挙げているものはない。
  • Findley L: Am Rev Respir Dis 138:337(1988)
  • SAS患者は健常者と比較して5年間で約6.8倍交通事故の発生率が高く、全運転者との比較では約2.5倍高いとされている。なお、具体的な数値については、内閣府の規制改革会議に2013年に提出された資料「SAS患者の交通事故発生率は?」を参照されたい。
  • Karimi M,Hedner J,Häbel H,et al「Sleep apnea―re lated risk of motor vehicle accidents is reduced by continuous positive airway pressure:Swedish Traffic Accident Registry data.」(Sleep 2015年)
  • OSA(閉塞性のSASでSASのほとんどを占める)患者についての調査で、18歳から44歳でOSA患者は健常者の2.4倍、45歳から64歳で2.4倍、65歳から80歳で3.5倍事故の発生件数(比率ではない)が多いという数字を報告している。

しかし、そのような研究報告が仮に数多く行われているとすれば、その中に3倍という結果が出たものがあるかもしれないので、誤りとは言い切れないというだけのことである。

  1. 1)国立精神・神経医療研究センター「2012年8月14日プレスリリース」(国立精神・神経医療研究センターWEBサイト)
2019年12月07日執筆