労働衛生コンサルタント試験 2021年 労働衛生一般 問24

作業に伴う健康障害




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 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2021年度(令和3年度) 問24 難易度 作業に伴う健康障害や、職業性疾病等に関する用語の意味を問う基本的な知識問題である。
作業に伴う健康障害

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問24 作業に伴う健康障害などに関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)非災害性腰痛とは、重量物運搬中の転倒や腰部への予想以上の過重な負荷などにより突然発症する腰痛のことをいう。

(2)けい肩腕症候群とは、上肢の繰り返し運動によって生じるくびから手にかけての運動器障害のことをいう。

(3)長時間・過重な負荷がかかった場合、負荷がなくなっても、生体は元の状態に戻ることができず、疲労として残存、蓄積する。

(4)作業関連疾患とは、作業要因と個人的要因が関与して発現する健康障害のことをいう。

(5)職業性疾病は、一定の職業に従事し、その職業上の有害な因子にさらされることによって起きる。

正答(1)

【解説】

問24試験結果

試験解答状況
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(1)適切ではない。昭和51年10月16日基発第750号「業務上腰痛の認定基準等について」によれば、災害性の原因によらない腰痛(非災害性腰痛)とは、①腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間(おおむね3カ月から数年以内をいう。)従事する労働者に発症した腰痛、及び②重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね10年以上をいう。)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛のことである。

本肢の「重量物運搬中の転倒や腰部への予想以上の過重な負荷などにより突然発症する腰痛」は、災害性の原因による腰痛(災害性腰痛)である。厚生労働省のパンフレット「腰痛の労災認定」の2ページの具体例を参照のこと。

(2)やや疑問はあるが適切であるとしておく。けい肩腕症候群(OCD:Occupational cervico-brachial disorder)とは、廃止された昭和50年2月5日付け基発第59号では、「種々の機序により後頭部、頚部、肩甲帯、上腕、前腕、手及び指のいずれかあるいは全体にわたり、『こり』『しびれ』『いたみ』などの不快感をおぼえ、他覚的には当該部諸筋の病的な庄痛及び緊張若しくは硬結を認め、時には神経、血管系を介しての頭部、頚部、背部、上肢における異常感、脱力、血行不全などの症状をも伴うことのある症状群」と定義されていた。

現行の、平成9年2月3日基発第65号「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について」では、「『頸肩腕症候群』は、出現する症状が様々で障害部位が特定できず、それに対応した診断名を下すことができない不定愁訴等を特徴とする疾病として狭義の意味で使用している」、「頸部から肩、上肢にかけて何らかの症状を示す疾患群の総称としての『頸肩腕症候群』については、診断法の進歩により病像をより正確にとらえることができるようになったことから、できる限り症状と障害部位を特定し、それに対応した診断名となることが望ましいが、障害部位を特定できない『頸肩腕症候群』を否定するものではない」とされている。

すなわち、労働基準行政では、「頸肩腕症候群」という用語の現時点における意味は、「出現する症状が様々で障害部位が特定できず、それに対応した診断名を下すことができない不定愁訴等を特徴とする疾病」であり、「頸部から肩、上肢にかけて何らかの症状を示す疾患群」ではなく(そのうち)「障害部位を特定できない」ものを指す用語なのである。また、1973年の「日本産業衛生学会 頸肩腕症候群委員会報告」には、「運動器系のみでなく、神経系(中枢、末梢)、自律神経系、感覚器系、循環器系の障害を伴う」とされている。

本肢が「くびから手にかけて運動器障害」としていることには、二重の意味で疑問を感じるが(1)が明らかに不適切であるので、本肢は適切であるとしておく。

(3)適切である。平成18年3月17日基発第0317008号過重労働による健康障害防止のための総合対策」はその冒頭において「長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ」とし、長時間・過重な負荷がかかった場合、負荷がなくなっても、生体は元の状態に戻ることができず、疲労として残存、蓄積することを当然の前提としている。

(4)適切である。作業関連疾患(Work-related disorder)は1976年にWHOの総会で提唱された用語である。「一般住民にもひろく存在する疾患ではあるが、作業条件や作業環境の状態によって、発症率が高まったり、悪化したりする疾患」と定義されている。作業要因と個人的要因が関与して発現する健康障害のことといってよい。

(5)適切である。職業性疾病は、具体的には労基則別表第1の2に定められているが、一言で言えば「労働者が罹患する業務に起因する疾病」である。

2021年11月27日執筆