安衛法の「使用」と「取扱い」とは




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安衛法には化学物質や設備に関して「使用」と「取扱い」というよく似た用語が用いられています。これらは日常で用いられる用語なので、安易に理解することで、法の意味を大きく取り違えることがあります。

本稿では、安衛法の「使用」と「取扱い」の意味について、具体的な例を挙げながら分かりやすく説明しています。




1 はじめに

執筆日時:

最終改訂:

ある事業場の安全衛生担当者の方から、次のような相談を受けた。

【某事業場の安全衛生担当者からの相談】

  • ある大型設備の中にゴミ袋のようなものがあることが判り、中を見たら 石綿のようだった。石綿だとすれば、安衛法第55条(製造等の禁止)違反になるのだろうか。
  • また、処分のためにこの袋に触れたりすれば法違反になるので、そのまま置いておかなければならないのだろうか。

労働安全衛生法(安衛法)では、化学物質等について「使用」と「取扱い」という、感覚的によく似ている2つの用語が使用されている。これらの意味を一言でいえば、“使用”とは「その本来の用法に従って用いること」で、“取扱い”とはまさにその物を「労働者や機械がハンドリングすること」をいうのである。

もちろん、まったく別な意味なのだが、意外に事業場の安全衛生の担当者の方でも誤解しておられることがあるようだ。この相談をされた方も、その誤解があるのではないかと思えた。

安全衛生に関する厚生労働省の行政文書では、この2つの用語は意図して書き分けているのだが、一般の事業者の方では誤解をされているケースもあろうと思う。そこで、本稿では、この2つの用語について簡単に解説してみたい。


2 安衛法における「使用」と「取扱」

(1)労働安全衛生法における2つの用語の例

安衛法第55条は次のようになっている。

【労働安全衛生法】

(製造等の禁止)

第55条 黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない。

条文をよく読んでいただければ、ベンジジンなどの一定の化学物質等について、「使用」することは禁止されているが、「取り扱う」ことは禁止されていないということがお分かり頂けると思う。冒頭の相談をされた方も、そこのところを誤解しておられるようだ。なお、「貯蔵」することも禁止されてはいないので、ごみ袋の中に入れて、設備の中に放置されていたことは、それだけでは安衛法第55条違反になるわけではない(※)

※ 石綿障害予防規則第32条については後述する。

石綿等の製造や使用などがこの規程によって禁止されたとき、労働安全衛生法施行令(安衛令)平成18年8月2日附則第2条第1項によって、次のように経過措置が定められた。

【労働安全衛生法施行令平成18年8月2日附則】

(経過措置)

第2条 石綿又は石綿をその重量の〇・一パーセントを超えて含有する製剤その他の物(以下この条において「石綿等」という。)のうち、次の各号に掲げる石綿等の区分に応じ、当該各号に定める日前に製造され、又は輸入された物(次項に規定する既存石綿分析用試料等を除く。)であって、この政令の施行の日において現に使用されているもの(以下「既存石綿含有製品等」という。)については、同日以後引き続き使用されている間は、労働安全衛生法(以下「法」という。)第五十五条の規定は、適用しない。

 アモサイト若しくはクロシドライト又はこれらをその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物 平成七年四月一日

二 石綿(アモサイト及びクロシドライトを除く。以下この号において同じ。)を含有するこの政令による改正前の労働安全衛生法施行令別表第八の二に掲げる製品であって、その含有する石綿の重量が当該製品の重量の一パーセントを超えるもの 平成十六年十月一日

 前二号に掲げる物以外の石綿等 この政令の施行の日

すなわち、石綿等が製造や使用などの禁止の対象となったとき、対象となった時点ですでに使用されていたものについては、そのまま使用を続けている限りは、使用をしていても違反にはならないとされたわけである。

石綿等の製造・使用等が安衛法第55条で禁止されているにもかかわらず、石綿等の取扱い等についての規制である石綿障害予防規則(石綿則)が定められているのは、安衛法第55条が試験研究のための“使用”を禁止していないことのほか、同条が“取扱い”を禁止していないことや、この経過措置が一定の場合には“使用”を容認しているためなのである。

一方、安衛法では“取扱い”という用語が用いられている条文はかなりあるが、その一例としては安衛法の第31条の2がある。

【労働安全衛生法】

第31条の2 化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物を製造し、又は取り扱う設備で政令で定めるものの改造その他の厚生労働省令で定める作業に係る仕事の注文者は、当該物について、当該仕事に係る請負人の労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

こちらは「取り扱う」である。「使用する」とは書かれていない。

では、「使用」と「取扱い」の違いについて、次項で詳細にみてみることにしよう。

(2)「使用」と「取扱」について

ア 「使用」について

安衛法にいう「使用」とは、その本来の用法に従って用いることをいうのである。例えば機械設備の部品であれば、その機械設備に取り付けてある状態をいうのである。建物の断熱材であれば、建物に取り付けられていれば使用されているわけだ。

従って、労働者が全く触れることがなくても「使用」に当たるケースもあるのである。では、労働者の保護等を目的とする安衛法で、なぜ“使用”について規制するのかといえば、“使用”されていると、何かの機会に労働者が取り扱うことがあるからである。

例えば、石綿の例でいえば、自動車の部品に使用されていれば、点検・修理の際に労働者が触れることがあろう。また、建物に吹き付けられていれば、普段は誰も入ることのない建物だったとしても、解体されるときには労働者がばく露するおそれがある。このために安衛法第55条は、取扱ではなく“使用”を禁止するのである。

一方、取り扱いを禁止されてしまうと、もし(法令違反などで)それらの物質が事業場内に存在していると、いつまでもそのまま放置しておかなければならなくなってしまう。しかし、そのようなことは不合理であるから、取り扱いを禁止することはできないのである。

では、概念を理解して頂くために、具体的にいくつかの例を挙げてみよう。

(ア)例1:禁止された時点で“使用”しているケース

先述したように、石綿等については安衛法第55条で“使用”が禁止されているが、禁止された時点で現に“使用”しているものについては経過措置によって使用が認められている。まず、この経過措置に関する具体的な例を挙げてみよう。

【例1】

ある事業場(甲工場)では、石綿の製造・使用等が禁止された時点で、一つの設備(以下「A 設備」という。)が稼働していた。

  •  A設備には、石綿を含有する部品(以下「a部品」という。)が取り付けられている。
  •  甲工場の倉庫には、a部品が予備として多数保管されている。

さて、この状況で、安衛法第55条違反はあるだろうか。答えは、先ほど挙げた2つの条文の中にある。

正解を言えば、“例1の状態だけでは違反にはならない”のである。①の設備に取り付けられている部品は、石綿の使用が禁止された時点で現に使用されているといえる。その本来の使用目的に従って用いられているからである。そのため、安衛令平成18年8月2日附則第2条第1項により、使用することができるのである。

一方、②についてはどうだろうか。先述したように安衛法第55条は、“所有”や“保管”“貯蔵”などを禁止しているわけではない。そのため保管されているだけでは、同条には違法しないのである。ただ、石綿を含有する部品を保管していれば誤って使用することもあるだろうし、使用することができないにもかかわらず取扱うようなことにもなろうから、望ましくはないとはいえよう。

さて、この事業場での話を続けよう。

【例1】(続き)

  •  甲工場ではA設備の保守点検を行い、a部品を倉庫に保管されていた 予備の部品と取り換えた。

今度はどうだろうか? これは法違反になるのである。なぜなら、倉庫に保管されていたa部品は、石綿の使用が禁止された時点では“使用”されていないので経過措置による適用除外には該当しないのである。従って、これを“使用”することは安衛法第55条に違反することになるのである。

では、次の例はどうだろうか。

【例1】(続き)

  •  甲工場ではA設備の保守点検を行い、いったんa部品を取り外し、点検後に再度、その部品を取り付けた。

これも安衛法第55条違反になるのである。“適用除外になるので違反にはならない”と思われた方は、もう一度、安衛令平成18年8月2日附則第2条第1項をよく読んでみて頂きたい。「同日以後引き続き使用されている間は」と書かれているのがお分かり頂けるだろう。すなわち、点検のために取り外した時点で「引き続き」使用されているとはいえなくなるので、それ以降は適用除外にはならないのである。

(イ)例2:稼働していな設備に使用しているケース

では、例を変えよう。

【例2】

ある事業場(乙工場)に、石綿の製造・使用等が禁止された時点で、一つの設備(以下「B設備」という。)を購入・所有していたが、その時点では稼働はしていなかった。

  •  B設備には、石綿を含有する部品(以下「b部品」という。)が用いられている。
  •  乙工場では、石綿の製造・使用が禁止された後で、B設備をラインに組み込み、稼働を開始した。

これは意見が分かれるかもしれない。適用除外の条件の基準となる石綿の使用が禁止された時点では、b部品はB設備に取り付けられてはいたが、B設備が稼働していなかったのである。これで、b部品は使用されていたと言えるのだろうか? 言えれば安衛法第55条に違反していないことになるが、言えなければ違反である。

答えを言えば、この場合は違反とはならないのである。これは、設備そのものが稼働していなくても、“設備に取付けられていたこと”をもって、その部品は“使用”されていたと考えられるからである。

なお、設備が一時的に稼働しなくなった場合についても同様に考えることができる。部品レベルでは使用され続けていると考えることで、設備を再稼働することができるのである。

同様に考えることで、石綿が禁止された時点で石綿を含有する部品が取り付けられていた設備を、社内での稼働をやめて他社に中古品として販売することも可能であるし、自社の他事業場に移設することも可能である。

(ウ)例3:設備を輸入するケース

【例3】

ある企業(丙社)のC国の海外工場には、石綿の製造・使用等が禁止された時点で、一つの設備(以下「C設備」という。)が稼働していた。

  •  C設備には、石綿を含有する部品(以下「c部品」という。)が用いられている。
  •  丙社では、C設備を国内に移送して、国内のC工場において使用を開始した。

この例3は、本稿の趣旨からやや外れるかもしれない。しかし、石綿等の第55条についての経過措置の関連として挙げてみた。どのように思われるだろうか。実は、これは違反になるのである。

その理由であるが、これも条文の中にある。先ほどの安衛令平成18年8月2日附則第2条第1項は、あくまでも「当該各号に定める日前に製造され、又は輸入された物・・・であって、この政令の施行の日において現に使用されているもの」について適用しないとする。

「製造され、又は輸入された」なので、この「製造」が海外における製造を含み、かつ「現に使用されている」を海外で使用されているものを含むと解釈すると、違反にはならないような気がするかもしれない。

だが、そのように解釈すると「又は輸入された」という文言が意味をなさなくなるのである。輸入されたものは、必ず輸入されるよりも前に製造されているだろうから、製造された時点だけ考えればよく、いつ輸入されたかは問題ではなくなるのである。それをあえて「又は輸入された」という文言を入れてあるということは、この「製造され」は国内で製造されたものに限っているからだと理解するしかないのである(※)

※ 実際にこのような解釈をして送検された事例がある。なお、このように説明すると、我が国で製造され、他国で現に使用されているときに、安衛法第55条の対象となったものを、その後で我が国に輸入できるかが疑問になるかもしれない。しかし「製造され、又は輸入された物」の「製造」を我が国での製造に限ると解釈する以上、「現に使用されている」も我が国内で使用されていると限定的に解釈するとしても許されるのではなかろうか。やはり、そのような行為も許されないと考えるべきであろう。

実際上も、海外で製造されたものを含むとなると、石綿を使用している古い機械・設備をいくらでも輸入できるということになってしまう。そのような解釈をするべきではあるまい。

イ 「取扱い」について

(ア)リスクアセスメントと“取扱い”

先ほども述べたが、安衛法には“取扱い”という用語が用いられている条文は多い。これも先述したが、これは“使用”と違って、実際にハンドリングをすることをいうのである。なお、ハンドリングを行っていれば、労働者が実際に触れることがなくとも“取扱い”に当たるケースもあることにご留意頂きたい。

ところで、通知対象物についてリスクアセスメントの実施を義務付けた安衛法第57条の3は、“使用”や“取扱い”を行っている場合に限定されてはいない。そのため、この条文を見る限りでは、“使用”も“取扱い”もしていなくてもリスクアセスメントを行わなければならないと読めるのである。

例えば、非意図的に自然発生する化学物質(屋内で内燃機関やフライヤーを用いる場合に発生する一酸化炭素など)についても、リスクアセスメントを行う義務があると読めるのだ。この場合、望まないにもかかわらず発生するのであるから製造しているとはいえないだろうし、誰も取り扱ってもいない。このような場合であってもリスクアセスメントの義務はあるのだろうか。

もちろん、有害な化学物質が発生するおそれがあるのであれば、リスクアセスメントはするべきである。ここで問題としているのは、法律上の義務はどうなのかである。

それを知るためには、まず条文をよく読む必要がある。条文には、「厚生労働省令で定めるところにより」と記されている。

そして、この省令とは、労働安全衛生規則(安衛則)第三十四条の二の七のことである。つまり安衛則第三十四条の二の七に従って、リスクアセスメントを行う必要があり、かつそれで足りるのである。そして、同条には、次のように記されている。

【労働安全衛生規則】

(調査対象物の危険性又は有害性等の調査の実施時期等)

第34条の2の7 法第五十七条の三第一項 の危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。次項及び次条第一項において「調査」という。)は、次に掲げる時期に行うものとする。

一 令第十八条 各号に掲げる物及び法第五十七条の二第一項 に規定する通知対象物(以下この条及び次条において「調査対象物」という。)を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。

 調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。

 前二号に掲げるもののほか、調査対象物による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。

 調査は、調査対象物を製造し、又は取り扱う業務ごとに、次に掲げるいずれかの方法(調査のうち危険性に係るものにあつては、第一号又は第三号(第一号に係る部分に限る。)に掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用により行わなければならない。

 当該調査対象物が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又は当該調査対象物により当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度及び当該危険又は健康障害の程度を考慮する方法

 当該業務に従事する労働者が当該調査対象物にさらされる程度及び当該調査対象物の有害性の程度を考慮する方法

三 前二号に掲げる方法に準ずる方法

この第2項には、リスクアセスメントの実施単位が、「調査対象物を製造し、又は取り扱う業務ごとに・・・行わなければならない」と定められているのである。すなわち、逆から言えば「製造」又は「取り扱う」業務について行えば、「厚生労働省令で定めるところにより」行ったことになり、違反には問われないのである。

すなわち、先ほどの例でいえば内燃機関から発生する一酸化炭素などは、製造しているわけでもなければ、取り扱っているわけでもないのでリスクアセスメントの対象にはならないことになるのだ(※)

※ もちろん、法令の規定を遵守することはもちろん、危険有害な化学物質の発生が予測されるのであれば、リスクアセスメントについても行うべきである。

(イ)“取扱い”の範囲

そこで、次は「取扱い」という用語が具体的に何を指すかが問題となる。ところが、実を言えば安衛法の中には“取扱い”という用語について定義がないのである(※)。そこで、一般的な日本語の意味からこの「取扱い」について、検討する必要がある。

※ なお、実務上はこのような場合についての一般的な対応としては、通達等に行政解釈が示されていればそれに従い、示されていなければ言葉の意味から自ら判断するか、行政機関(通常は所轄の労働基準監督署)に問い合わせることになる。問い合わせを受けた行政機関は、より上位の機関に問い合わせるか、その言葉の意味から離れない範囲で妥当な判断をすることになる。

例えば、私は、今、このコンテンツを、パソコンを用いて書いている。私のパソコンの液晶の電極の原料等にはインジウム・スズ酸化物(ITO)が使用されているかもしれない。だが、仮にITOが使用されていたとしても、私が、今、ITOを取扱っているとは誰も思わないだろう。

同様に、自動車を運転しているときにガソリンを取扱っているなどとは誰も思わないし、クーラーをつけたときにフロンを扱っているなどとも思わないだろう。

このようなことについては特に問題とはならない。

しかし、セルフスタンドでガソリンを給油するときは、“取り扱って”いると考える者もいるだろうし、取り扱っているとは思わない者もいるかもしれない(※)

※ ただし、個人で自家用車にガソリンを給油する行為に、安衛法が適用されるわけではないことは当然である。また、一般消費者にも許可された行為である以上、さしたるリスクがあるとも思えない。

問題は、安衛法の“取扱い”という用語が何を意味するのかなのである。例えば、次のような場合はどうであろうか。

① 倉庫において密封された材料を取扱っている場合

② 保管、貯蔵を行っている場合

①の“倉庫において密封された材料を取扱っている場合”については、通達等による解釈(解釈例規)は示されていないようだが、安全衛生行政の実務においては、“密封された容器”を取扱っているのであって、その内部の物質を取扱っているわけではないとされているようである(※)。従って、内部の物質についてリスクアセスメントを行う必要はないことになる。

※ 私自身が担当者から確認したものである。ただし、通達等に文書化されてはいないようなので、解釈が変更されることはないとはいえない。

なお、 平成29年8月28日 基安化発0828第3号「 化学物質に係る労働安全衛生規則第585条(立入禁止等)の適用について」は次のように言う。

問2 (中略)一方で、例えば関係者以外の者がその場所に立ち入ったとしても、密閉設備で化学物質が扱われており、当該非関係者が誤って化学物質に接触するおそれがなく、また、その化学設備の取扱い労働者の作業に支障を及ぼして漏えいのおそれが生じるようなこともない場合は、本号の適用はないと解して良いか(有害物のタンクが劣化により漏えいのおそれが高いと認められるような場合を除く。)。

  なお、有害物のタンクが劣化により漏えいのおそれが高いと認められるような場合は、本条の適用があると解して良いか。

答 貴見のとおり。

この通達が、「密閉設備で化学物質が扱われており」かつ「漏えいのおそれが生じるようなこともない場合」は、そもそも「取扱い」に当たらないというのか、「取扱い」には当たるが第585条の適用はないというのか、やや曖昧ではある。

しかし、文章を素直に読む限り後者のようであり(※)、密閉設備で取り扱う場合であっても、突発的な事故による大量漏洩や、非定常作業時のばく露、想定外のわずかな隙間からの漏洩等の可能性もあることも考えれば、いずれにせよリスクアセスメントを行うべきではあろう。

※ この通達は明確に「取扱い労働者」という言葉を用いている。

また、②の“保管、貯蔵を行っている場合”についても、取扱いに当たると明記した通達はないようだ。

しかし、平成27年9月18日基発0918第3号「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」(リスクアセスメント指針)に次のような記述がある。

【リスクアセスメント指針から】

「製造量又は取扱量」は、化学物質等の種類ごとに把握すべきものであること。また、タンク等に保管されている化学物質等の量も把握すること

すなわち、少なくともリスクアセスメント指針は、“保管”は“取扱”に含まれるとしていると考えられているようなのだ(※)。また、厚生労働省がWEBに公開している簡易なリスクアセスメントツールにおいては、最初の“作業内容の選択”を入力するときに、選択項目の中に「貯蔵及び保管」が含まれている。

※ なお、平成12年3月31日基発第212号「化学物質等による労働者の健康障害を防止するため必要な措置に関する指針」には、「保管、貯蔵、運搬等の過程における漏え い、不適切な取扱い等による労働者の健康障害の事例も生じている」とされ、保管、貯蔵、運搬についても適切な管理が必要であるとされている。

従って、貯蔵又は保管については、“取扱い”であるとの理解がなされているようである。もちろん、容器に密封された化学物質が貯蔵又は保管されている場合には、容器が貯蔵又は保管されているのであって、その物質が貯蔵又は保管されているわけではないと解釈されるべきであろうと思われる。


3 最後に

最後に、冒頭の質問への回答を記しておこう。

まず、質問者の事業場において、安衛法第55条の問題は発生しない。発見された石綿は“使用”されていないからである。また、これを廃棄処理するために取り扱うことも同条に違反することはない。

しかし、石綿則第32条には、石綿等の容器や保管場所等についての規定があり、これの構成要件に該当する(条文に抵触している)可能性は高いと思われる。しかし、石綿等だと知らなかったのであれば“故意”がなく、犯罪であるとは言えないのではないかと思う。

いずれにせよ、そのままにしておくべきではなく、適切な手法で堅固で漏えいの恐れのない容器に移した上で、適切な処理業者に廃棄処理を依頼するべきであろう。

なお、後日談であるが、その事業者は適切な処理を行ったようである。





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