一般消費者の用に供せられる物とは




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労働安全衛生法の化学物質管理において「主として一般消費者の生活の用に供される製品」という用語が用いられています。そして、一般消費者の用に供される製品については、安衛法の多くの規定が除外されています。

しかし、この言葉から受ける印象と、法令用語の「一般消費者の用に供する製品」とは、かなり異なっています。具体的な例も挙げつつ説明します。




1 一般消費者の生活の用に供する製品の適用除外規定

執筆日時:

最終改訂:

化学物質を譲渡又は提供する場合の、容器等への表示義務やSDSの提供義務については、一般消費者の用に供するものは除かれている(※)。これについては、本サイトの「通知対象物質の見分け方」にも簡単な解説を付している。そのため一部、重複することにはなるが、要望があったので、独立して稿を起こすこととした。

※ 化学物質を容器に入れ又は包装して譲渡・提供する場合の表示義務については、労働安全衛生法第57条第1項によって規定されているが、その但書で「ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない」とされている。

また、文書交付等の義務、いわゆるSDSの提供の義務は、同57条の2第1項によって規定されており、やはりその但書で「主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない」と定められている。

2016年6月に改正された労働安全衛生法においては、化学物質のリスクアセスメントの実施義務が労働安全衛生法第57条の3第1項で規定されている。ところが、この条文については一般消費者の生活の用に供するものを除くとの表現はない。

このため、リスクアセスメントについては、一般消費者の生活の用に供するものも、法律上は適用除外となっていないのではないかという質問を受けることがある。しかし、改正後の労働安全衛生規則の第34条の2の7第1項の括弧書きにおいて、「主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く」とされており、これがリスクアセスメントについて一般消費者の生活の用に供するものが適用除外となる根拠とされている。

このことは、平成27年8月3日基発0803第2号(以下「省令通達」という)において、「主として一般消費者の生活の用に供される製品については、法第57条第1項の表示義務及び法第57条の2第1項の文書交付義務の対象から除かれていることから、法第57条の3第1項に基づくリスクアセスメントの対象からも除くこととした」と明確に記述されている。

なお、省令通達では、「安衛則第34条の2の7第1項に規定する「主として一般消費者の生活の用に供される製品」には、法第57条第1項及び法第57条の2第1項と同様に、第3の1の(2)に掲げるものが含まれること」とされている。

ここで留意するべきことは、「法第57条第1項及び法第57条の2第1項と同様に」とあることである。すなわち、「主として一般消費者の生活の用に供される製品」に含まれるものとして、省令通達に掲げられているものは、表示義務、SDSの交付等の義務、リスクアセスメントの実施義務のいずれにおいても同じなのである。


2 一般消費者の生活の用に供する製品の例

そして、主として一般消費者の生活の用に供される製品として、省令通達(第3の1の(2))に示されているものには、以下のものが含まれるのである。なお、これはあくまでも例示である。これ以外の物は一般消費者の生活の用に供される製品にならないということではない。

  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)に定められている医薬品、医薬部外品及び化粧品
  • 農薬取締法(昭和23年法律第125号)に定められている農薬
  • 労働者による取扱いの過程において固体以外の状態にならず、かつ、粉状又は粒状にならない製品
  • 表示対象物が密封された状態で取り扱われる製品
  • 一般消費者のもとに提供される段階の食品。ただし、水酸化ナトリウム、硫酸、酸化チタン等が含まれた食品添加物、エタノール等が含まれた酒類など、表示対象物が含まれているものであって、譲渡・提供先において、労働者がこれらの食品添加物を添加し、又は酒類を希釈するなど、労働者が表示対象物にばく露するおそれのある作業が予定されるものについては、「主として一般消費者の生活の用に供するためのもの」には該当しないこと。

ちょっと考えると、なぜこれが「一般消費者の用に供されない物」なのか不思議な気がするものもあるが、法令上の扱いだと考えて頂きたい。

具体的な例としては、政府が公表している「化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)」のQ6及びQ7には、「ガソリンを使った発電機での作業」と「ホームセンターで売っている物」が例として挙げられている。また、「化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)」には、食品に関する説明があるが、これにつては後述する。

このほか、平成28年3月29日基発0329第5号は、労働安全衛生法施行令別表第9(通知対象物)への新たな27の物質の追加に関する通達であるが、この中において「令別表第9第37号のアルミニウムについては、アルミニウム単体又はアルミニウムを含有する製剤その他の物(以下「アルミニウム等」という。)であって、サッシ等の最終の用途が限定される製品であり、かつ当該製品の労働者による組立て、取付施工等の際の作業によってアルミニウム等が固体以外のものにならずかつ粉状(インハラブル粒子)にならないものは、一般消費者の用に供するものとして名称等の表示義務、名称等の通知義務及び危険性又は有害性等の調査等の対象にならないものとして取り扱って差し支えない」とされている。


(1)医薬品及び農薬

さて、省令通達で、医薬品と農薬は、主として一般消費者の生活の用に供するものであるとされている。しかし、労働安全衛生法施行令別表第9の通知対象物の中には、実は、けっこう農薬が含まれているのである。例えば、223号のパラチオン、268号のマラチオン、338号のDDT、343号のダイアジノン、508号のリンデンは殺虫剤だし、251号の2,4-ジクロロフェノキシ酢酸は除草剤である。

もちろん、たまたま医薬品や農薬に用いられる化学物質であったとしても、他のものの原料となるようなことが予定されているような場合は、それらが適用除外にならないことは当然である。

また、医薬品や農薬の原料についても、医薬品工場や農薬工場で混合されて他の医薬品や農薬となる場合、その原料が一般消費者の用に供されるわけではないので適用除外となることはない。

この点について、平成27年6月23日に公表された労働安全衛生規則の改正に関するパブコメの結果で、「表示義務の適用除外を規定するに当たって、医薬品、医薬部外品及び化粧品等並びに業者間で取引されるこれらの原料については、表示義務の適用除外の対象にしていただきたい」というご意見に対し、行政の考え方は、「医薬品、医薬部外品及び化粧品の原料であって業者間で取引されるものについては、当該原料から医薬品等を製造等する際に、当該原料(化学物質)により労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれもあることから、表示を行っていただく必要があるものと考えております」とされている。


(2)固体(粉状又は粒状にならない製品)

固体については、一部のWEBサイトで誤った解説がされているが、省令通達にいう「労働者による取扱いの過程において固体以外の状態にならず、かつ、粉状又は粒状にならない製品」の「労働者」というのは、その企業の労働者だけではない。一般消費者の手に渡るまでのすべての企業において取扱われる過程における労働者のことを指すのである。

従って、「A社⇒B社⇒C社⇒一般消費者」の順で、ある化学物質が流通してゆく場合、A社とB社では固体でかつ粉状にも粒状にもならないとしても、C社で粉状になるのであれば、A社はB社に対して、B社はC社に対してSDSを交付しなければならない。そして、この場合は、C社においても、その化学物質が一般消費者の生活の用に供するものになるまでは、その化学物質を取扱う過程においてリスクアセスメントをしなければならないのである。

だとすれば、A社とB社においては、それがそれらの企業においては固体で扱われ、かつ粉状にも粒状にもならないとしても、言葉の意味から考えても、「一般消費者の生活の用に供するもの」だとはいえないであろう。

【労働安全衛生法第30条第1項但書の位置づけ】

なお、労働安全衛生規則第30条第1項但書の中の括弧書きの中にある「運搬中及び貯蔵中において固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物」については、一定の物を除いて表示義務が適用除外となるが、これは一般消費者の生活の用に供するものかどうかとは無関係な話である。

上記の例でいえば、A社からB社に譲渡・提供する過程において塊状以外の物にならず、かつ危険物でなく、可燃性・爆発性、皮膚腐食性等もないのであれば、A社からB社に譲渡・提供するときの包装や容器には表示をする必要はないことになる。しかし、A社やB社において、リスクアセスメントの義務がないわけではない。

なお、省令通達では、「粉状」とはインハラブル粒子を含むものをいうとしている。インハラブル粒子とは、ストークス径(流体力学的粒子径)が0.1mm以下の粒子のことである。また、同通達は、顆粒状のものは、外力によって粉状になりやすいため、「粉状にならない」ものとはいえないとしている。

もちろん現実には、A社とB社の取扱いの全過程において、固体以外の物にならずかつ粉状にも粒状にもならないもので、かつ、危険物でもなければ、可燃性・爆発性もなく、皮膚腐食性もないとすれば、化学物質としての災害発生のリスクがあるようなものはほとんど存在していないであろう。しかし、それは、リスクが低いことが容易に判断できるというだけのことであって、法的にリスクアセスメントをしなくてよいということではない。

もっとも、ステンレススティールの丸棒をたんに運搬するというような作業の場合、確かに、ステンレススティールにはニッケルやモリブデンなどが含まれてはいる。従って、形式的に考えるとリスクアセスメントが必要ということにはなろう。しかし、そのような作業に有害性や危険性があるとは思えず、リスクアセスメントを行わなかったとしても問題になることはないと思う。


(3)表示対象物が密封された状態で取り扱われる製品

これについてもWEBサイトに誤った解説を見かけることがあるが、ここにいう製品とは一般消費者の生活の用に供される製品のことである。ある企業の製品であったとしても、最終消費者向けの製品ではない材料や試薬のようなものは、ここにいう製品には含まれない。

また、あくまでも「通知対象物が密封された製品」であって「密封された通知対象物」ではない。すなわち、ここにいう「製品」とは、インジウム化合物がパソコンの液晶の部品などに密封されているような場合の、そのパソコンのことなのである。パソコンの取扱いをするのにリスクアセスメントの必要がないのは当然であろう。

ある企業が通知対象物を密閉容器に入れてその会社の製品として販売している場合、その製品が一般消費者が用いるようものでなければ、いくら密閉容器に入っているからといって、一般消費者の生活の用に供するものとはいえないことは当然であろう。

【密封された物の取扱いは「取扱い」ではない】

なお、ある対象となる化学物質を密封された容器に入れたまま、たんに貯蔵したり運搬したりする場合は、「取扱い」に該当しないというのが行政の解釈である。従って、リスクアセスメントを実施する義務はない。

しかし、一般消費者の生活の用に供するものかどうかとは、関係のない話である。


(4)食品

食品の中に添加物として通知対象物が入っているからといって、リスクアセスメントの必要がないことは当然であろう。しかし食品中の添加物は微量であるから健康に影響がないとされているものである。

【食品添加物の基準】

やや専門的な話となるが、食品添加物は原則として閾値(摂取量がこれ以下なら健康影響が起きないという値)があるものでないと認定されないような扱いとなっている。

様々な動物実験によって得られたNOAEL(無毒性量=動物実験で、動物に影響の出なかった最大のばく露量)のうち、最小の値を安全率(原則として100)で除してADI(1日摂取許容量)を算出している。そのため、NOAELのない物質は原則として食品添加物として認められないのである。

しかし、食品に添加する前の物質は、通知対象物の濃度が十分に低いものだとばかりはいえないから、食品添加物であるという理由だけでは適用除外とはならないのである。

この点について政府が公表している「化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)」のQ37においても、「そのまま喫食することが想定されない段階の食品(保存料、香料、食品添加物等)については、労働者が食品を製造する工程において希釈・混合等の作業によって化学物質にばく露することが想定されることから、ラベル・SDSによる情報提供が必要です」と明記されている。

なお、指針通達のいう「酒類を希釈」とは、例えば、純粋なエタノールを希釈して惣菜や菓子類を製造するような場合などである。パーティの席でコンパニオンがウイスキーの水割りを作るような場合は、そもそも元のウイスキーが「一般消費者の生活の用に供するもの」であるから、リスクアセスメントが必要ないことはいうまでもない。

また、アルコールについては、平成27年9月18日に公開されたリスクアセスメント指針案についてのパブコメの結果で、「エタノールは、飲酒による経口暴露であり、労働者の安全対策としてコントロールバンディングが示すような化学防護服を着て実際の作業はできない」とのご意見に対し、「リスクアセスメントは、有機溶剤中毒予防規則等による個別具体的措置を規定する規制と異なり、事業者が自ら取り扱う化学物質等の危険性又は有害性を認識した上で、必要な措置を判断し実行する仕組みであり、エタノールを取り扱う作業においても、様々なばく露防止措置の中から必要なものを選択して実施することが可能となっています」という行政の考え方が示されている。

やや意味の分かりにくいやりとりだが、意見を出された方は"厚労省がWEBに公開しているリスクアセスメント"を実施してその結果に基づく対応を行うことを前提に、リスクアセスメントを実施することは困難との意見を述べておられるのであろう。これに対する行政の考え方は、リスクアセスメントは適切な手法を用い、その結果予想されたリスクの大きさに応じた対応をとればよいのであり、リスクアセスメントそのものを行わなくてよいということにはならないというものなのである。

なお、食品添加物が一般消費者の用に供するものか否かについて、具体的な例が食品業界向けのパンフレットに公表されている。


3 まとめ

要は、最終の一般消費者の手に渡るまでに、労働者がその化学物質にばく露するなどのおそれのある工程があれば、そのようなものは「主として一般消費者の生活の用に供するもの」とはいえないと考えればよい。

例えば、ボルトやナットを自動車修理工場に納入するような場合、ボルトやナットの中に通知対象物が含まれていたとしても、通常はボルトやナットは締め付けるだけで、研磨したり溶断したりするようなことは考え難いので、そのようなものは「主として一般消費者の生活の用に供するもの」になるのである。

しかし、ボルトを締めつけた後で、ボルトの一部を研磨するというような場合であれば、そのようなボルトは「主として一般消費者の生活の用に供するもの」とはいえないことになる。

なお、境界事例ではあるが、ガソリンスタンドにガソリンを納入する場合はSDSの提供は必要であるが、自動車学校にガソリンを納入する場合にはSDSの提供は不要であると考えられている。

これは私の個人的な経験だが、ガソリンスタンドでガソリンを入れてもらっていたとき、何かのはずみで給油ノズルが自動車の給油口から外れてガソリンが漏れたことがある。店員の女性(高校生か大学生くらいの年齢で、アルバイトだという印象を受けた)はすぐに丁寧に謝り、こぼれたガソリンの値段は引きますからと説明して、雑巾を使って素手で車にこぼれたガソリンを拭き始めたのである。

慌てて素手で拭いてはいけないと注意したのだが、彼女は意味が判らなかったようで「素手でもお車は汚れませんから」と応じた。そうではなくて、ガソリンには有害なものが入っているし、皮膚から体に侵入するから素手で扱ってはいけないのだと説明したのだが、きょとんとしていた。おそらく雇い入れ時の教育がされていないか、されてもガソリンの有害性について教えられていないのであろう。

彼女は、若いにもかかわらず接客応対はよかったし、言葉遣いもきちんとしていた。そういう教育はしっかりと受けているのであろう。しかし、アルバイトとはいえ、化学物質にばく露するおそれはあるのだ。SDSを分かりやすく周知する必要があると思ったものである。


4 最後に

SDSは、労働安全衛生法のほか化管法や毒劇法によって、特定の化学物質について提供が義務づけられているものである。しかし、法令で提供が義務付けられていない物質であっても、SDSを提供せずに化学物質を納入して、相手側の企業で災害が発生した場合、状況によっては、被災者や相手企業から損害賠償請求訴訟を引き起こされることもあり得るのである。

一部にSDSを添付することによって「風評被害」が起きると心配する向きがあるが、それは本末転倒というものであろう。まずは相手側企業に正しい情報を伝えなければならない。また、SDSを受け取った企業も労働者に正しい知識を伝えるべきである。

その上で、風評被害が心配なら、きちんと教育をするべきなのである。風評被害が心配だから正しい知識を伝えないというのは、話が逆であろう。

もちろん、化学物質についてのリスクコミュニケーションを国や地方自治体がきちんと行ってゆくことも必要であろうと思う。しかし、正しい情報というものは、たとえそれが一時的には不利に思えたとしても、長い目で見た場合、伝えなかったときの悪影響は伝えた場合の悪影響よりもはるかに大きいのだということをご理解いただきたいのである。





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