初めて労働衛生コンサルタント試験の口述試験を受けるときに、「試験場の雰囲気が分からなくて不安」、という声があります。
口述試験を受験するとき、余計な不安はなくして知識を十分に発揮できるようにしておくことが望ましいことはいうまでもありません。
不安をなくして実力を発揮できるように、口述試験の流れや事前に準備しておくとよい事項をまとめてみました。筆記試験が終わったら参考にしてみてください。
内容の無断流用はお断りします。
労働衛生コンサルタント試験
口述試験マニュアル(2/4)
(2)試験場で考えるということ
ア 当たり前のことが答えられない
普段だと少し考えれば誰でも判るようなことが、試験という特殊な状況の下では答えが出てこないことがあるものだ。
例えば、勤務医である産業医が、「病院で職業性疾病のリスクとなるハザードにはどのようなものがあるか」と尋ねられると、院内感染のリスクの病原菌、腰痛のリスクの患者を運ぶときの体重などは、すぐに思いつくだろう。
「他にないか」と尋ねられると、無理矢理に考えて、過労死リスクの長時間労働、精神的疾病の原因となるセクハラ、パワハラを答えればいいのかなと思うかもしれない。
ところが、分かり切ったことであるにもかかわらず、「レントゲン撮影装置のⅩ線」、「抗がん剤」、「バネ指(病院では意外に多い)のリスク原因となる注射器」などが出てこないのである。
また、「アーク溶接のハザードにどのようなものがあるか」と尋ねられると、真っ先に「ヒューム」が思い浮かぶだろう。やや溶接に詳しい受験生だと、「一酸化炭素(シールドガスに炭酸ガスを用いる溶接で発生する)」や「酸欠(シールドガスが多ければあり得る)」が出る。ところが、分かり切った「有害光線」が出ないのである。
イ テキストに印象が残るように書かれていないと答えが出ない
このように、当然のことが思いつかないのは、あまりにもわかり切ったことで、それほど災害も出ていないことは、テキストなどに印象に残るように書かれていないからであろう。
溶接の例で言えば、最近のじん肺対策ではアーク溶接の比重が増しているため関連テキストに必ず記載されているのである。そのため誰でも答えが出るのだ。また、アーク溶接における一酸化炭素中毒や酸欠は、通達が出されたり関係雑誌によく記事が出るので答えが出るのである。
ところが、有害光線はあまりにも分かり切ったことで、それほど災害も出ていないためテキストに詳しく出ていないのである。そうなると思いつかないのだ。
ウ 記憶をたどるのではなく、考えることが重要
判り切ったことで、普通の状況だと誰でも思いつくことが、試験場で緊張していると思いつかないことがあるのである。しかし、落ち着いて考えれば答えが出ることも多いので、有効と思われる答えが思いつかない質問を受けても、あきらめずにしばらくは考えることがきわめて重要となる。
記憶をたどるのではなく、その場で考えること、これが口述試験では重要となる。
また、その他、試験場の現場で慌てないための有効な対策として、過去問をリサーチしておき、意外な質問で意表を突かれないようにすることや、試験の雰囲気に慣れるために、模擬的な受験を実施しておくことなどもあろう。
(3)絶対に避けるべき解答
試験官が嫌う解答例をいくつか挙げておく。これらの解答は、労働安全衛生の世界のみならずリスク管理の世界では最も嫌われる解答である。
① 災害防止対策について問われて
・ 安衛法で禁止されたことをしていなければ災害は起きないことを前提とした解答をすること。
② 化学物質管理で何をするかを問われて
【禁忌解答例】 有害な化学物質を安衛法で規制のかかっていない物質に代替することが重要と考えます。
③ 化学物質管理で何をするかを問われて(その2)
【禁忌解答例】 有害な化学物質を無害なものに切り替えることが重要と考えます。
再質問 化学物質が有害か無害かをどのように調べますか
答 GHSの分類と区分をみて調べます。
④ 〇〇について、どのように調べればわかりますかと問われて
【禁忌解答例】 専門家に尋ねようと思います(又は、〇〇に問い合わせます)。
再質問 専門家は、コンサルタントであるあなたですよ(これは、専門家としての能力を調べる試験ですよ)。
答 ・・・。
なぜ、これらの解答が嫌われるかだが、①及び②については「法律を守っていれば良いという考え方では事故は防げない」ということが分かっていないのである。③は「有害だという情報がないものは無害だとは言えない」ということが分かっていないのである。④は解説するまでもないだろう。
こういう答えをしているようでは、コンサルタントができる専門家とは言えないのである。