労働安全衛生基準の違反状況


産業医の女性

※ イメージ図(©photoAC)

労働安全衛生法は、違反されることの多い法令であるとの指摘があります。「労働基準監督年報(Vol.77 2024年)」によると、2024 年の定期監督等における違反率は 70.1 %であったとされています(※)が、これは違反のある事業場の方が一般的であるとさえいえる状況です。

※ 違反率は、労基法、賃確法、最賃法、安衛法、じん肺法等のいずれかに違反したものの割合であるが、安衛法違反はかなりの割合を占めている。なお、定期監督等は「違反の多そうな事業場」に対して行われるため、この違反率は実際の全事業場の違反率よりも高くなっている可能性がある。

本稿では、違反のあった事業場の件数と割合を、安全基準(安衛則中の安全基準、ボイラ則、クレーン則及びゴンドラ則)と衛生基準(安衛則中の衛生基準、化学物質関連5規則、高圧則、電離則、除染則、酸欠則、事務所則及び粉じん則)に分けて解説しています。

なお、柳川に著作権があることにご留意ください。



1 はじめに

執筆日時:


労働安全衛生法は技術的な内容であり、個々の規制を定めるには専門的な知識と関係団体との調整が必要になることもあり、委任規定を設けて具体的な義務の内容のほとんどを政・省令に定めている。

基本的な義務の内容は、安衛法第 20 条から第 25 条の2に定められ、第 27 条で具体的な内容を省令に委任している。この委任を受けて定められた省令の範囲はきわめて広範囲にわたっており、その内容を完全に覚えておくことは不可能に近いのが現実である。

【労働安全衛生法】

(事業者の講ずべき措置等)

第20条 事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険

 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険

 電気、熱その他のエネルギーによる危険

第21条 事業者は、掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

第22条 事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害

 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害

 計器監視、精密工作等の作業による健康障害

 排気、排液又は残さい物による健康障害

第23条 事業者は、労働者を就業させる建設物その他の作業場について、通路、床面、階段等の保全並びに換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難及び清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じなければならない。

第24条 事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

第25条 事業者は、労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等必要な措置を講じなければならない。

第25条の2 建設業その他政令で定める業種に属する事業の仕事で、政令で定めるものを行う事業者は、爆発、火災等が生じたことに伴い作業従事者の救護に関する措置がとられる場合における労働災害の発生を防止するため、次の措置を講じなければならない。

 作業従事者の救護に関し必要な機械等の備付け及び管理を行うこと。

 作業従事者の救護に関し必要な事項についての訓練を行うこと。

 前二号に掲げるもののほか、爆発、火災等に備えて、作業従事者の救護に関し必要な事項を行うこと。

 前項に規定する事業者は、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、同項各号の措置のうち技術的事項を管理する者を選任し、その者に当該技術的事項を管理させなければならない。

第26条 (略)

第27条 第20条から第25条まで及び第25条の2第1項の規定により事業者が講ずべき措置(中略)は、厚生労働省令で定める

 (略)

第119条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。

 (前略)第20条から第25条まで、第25条の2第1項(後略)

二~四 (略)

第120条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、50万円以下の罰金に処する。

 (前略)第25条の2第2項(後略)

二~六 (略)

そして、安衛法第 27 条の規定を受けて、安全関係の厚生労働省令として安衛則中の安全基準、ボイラ則、クレーン則及びゴンドラ則が定められている。また、衛生関係の厚生労働省令として安衛則中の衛生基準、化学物質関連5規則、高圧則、電離則、除染則、酸欠則、事務所則及び粉じん則が定められているのである。

そのため、これらの厚生労働省令に違反すると、安衛法の第20条から第25条まで、第25条の2第1項のいずれかに該当するとして、安衛法第 119 条により6月以下の拘禁刑又は 50 万円以下の罰金が科されるのである。


2 安全基準に関する違反状況

(1)違反件数の推移

厚生労働省が毎年公表している「労働基準監督官年報」から、定期監督等(※)における業種別の安全基準の違反件数をグラフにすると次図のようになる。

※ 「労働基準監督官年報」は厚労省のサイトに2013年(平成25年)版から公開されている。

なお、ここにいう定期監督等には、「申告監督」と「再監督」は含まれていない。ここに、申告監督とは、労働者の申告によって監督を行うものであり、「再監督」は、一度、監督をした事業場に対して是正状況の確認を行うための監督である。

安全基準への違反状況の推移

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建設業と製造業がほとんどを占めていることが分かる。これは、この2業種の労働者数が多いこともあるが、安全に関する規定が適用される作業が多いこともあろう。

問題は、2020 年以降は増加傾向にある(※)ことである。本来であれば、違反率はゼロにはならないまでも減少していくべきものである。また、毎年の違反の認知件数も 2万件を超えている現状である。

※ 2020年及び2021年の違反件数の減少は、新型コロナ感染症の影響等により監督件数が減少したことも影響している。


(2)違反率の推移

次に、違反率を見てみよう。業種別の定期監督等の件数は次図の通りである。

業種別臨検監督件数の推移

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定期監督等の件数は、建設業、製造業が多くを占めているが、この2業種がほとんどを占めているというわけではない。近年では商業の割合が増加しつつあり、保健衛生も一定の割合が保たれている。

定期監督等の件数を母数とすると、違反率は次のようになる。

安全基準への違反率

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建設業と製造業がかなり高くなっている。農林業の違反率も高いが、農林業については定期監督件数がそれほど多くないので、ここから結論を出してしまうのは早計かもしれない。

建設業、製造業及び農林業以外の業種では、貨物取扱業、清掃・と畜業、運輸交通業が高くなっている。ただ、この3業種は監督件数が少ないため、全体的に違反率が高いとは言い切れない。

実質的には、建設業と製造業が問題だと言える。違反率が 30 %前後となっている。10 事業場のうち3事業場程度に違反があるわけであり、この数値は必ずしも低いとはいえないだろう。


3 衛生基準に関する違反状況

(1)違反件数の推移

次に、衛生基準の違反件数をグラフにすると次図のようになる。

衛生基準への違反状況の推移

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ランマを扱う作業者

※ イメージ図(©photoAC)

安全基準に比較すると数は少ないことが分かる。これは安全基準はほぼすべての事業場に適用される作業場があるのに対し、衛生基準は必ずしもすべての事業場に適用されるとは限らないからである。建設業の違反が比較的少ないのも、建設業では衛生基準が適用される作業場がそれほど多くなく、適用されるとしても定期監督のあったときにその作業が行われているとは限らないためである。

製造業と建設業以外では、商業と保健衛生業が目立つ程度である。。


(2)違反率の推移

次に、違反率を見てみよう。安全基準と同様に定期監督等の件数を母数とすると、違反率は次のようになる。

衛生基準への違反率

図をクリックすると拡大します

やはり製造業が極端に高く、建設業がこれに次いでいる。教育研究業は、かつてはかなりの高さがあったが、最近では減少している。清掃・と畜業は近年ではやや高い傾向がある。


4 最後に

指差呼称する女性

※ イメージ図(©photoAC)

安全基準及び衛生基準については、広範囲な規定がある。このため、つい見落としてしまいがちになるが、意外に身近な作業において意識せずに違反が行われていることがある。

2020 年以降、多くの事業場において定期監督等において違反が指摘されている。もちろん、監督官が見落としているような違反がある可能性もあろう。

このような違反は、通常の定期監督等であれば是正勧告書を交付されるだけである。仮に定期監督等がなく、違反がそのままとなっていれば、将来、大きな災害が発生した可能性もあろう。

定期監督等は、予告なく突然行われる。このため、「運が悪かった」と思いがちになるが、違反が見つかった場合は、むしろ将来の災害の要因をなくせたと喜んでいただきたい。

また、定期監督等で指摘を受けることを避けたいと思うのであれば、ぜひ、労働災害防止の専門家である労働安全衛生コンサルタントに、事前に事業場のチェックを受けることをお勧めしたい。


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