法律解釈について分かりやすく説明する




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天秤(法律のイメージ)

※ イメージ図(©photoAC)

最近の労働安全衛生法令の改正は、非常に分かりにくくなっていて、公布された条文を専門家が読んでも、すぐには意味が分からないようなものもあります。

しかし、これは条文の記述を厳格なものにして、法律の専門家であれば誰が読んでも同じ意味に理解されるようにした結果、このような条文になっているという面があります。

とはいえ、誤解の余地のない単純な文章の条文だったとしても、それが適用される「現実」の方は単純ではないため、どうしても「この場合はどうなるんだろう」という疑問がわきます。

そのため、民事であっても刑事であっても当事者(民事であれば原告と被告、刑事であれば検察と被告人)が法令の解釈で争うことがあります。最終的に、これをどう判断(解釈)するかは、日本では裁判所ということになります。

では、その法解釈にはどのようなものがあるのか、架空の条文を例にとって、どのような解釈があり得るのかについて解説します。




1 分かりにくい条文とは

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(1)分かりにくいという言葉の意味

考える女性

※ イメージ図(©photoAC)

「分かりやすい」という言葉には、2つの意味がある。例えば「人を殺すな」「他人の物を盗むな」という規定があるとしよう。これらの規定は分かりやすい。誰にでも何をしてはいけないのか、その意味は分かるだろう。

ところが、現実にはこれらの規定に該当するかどうかが、必ずしも明確には分からないような事態が起こり得るのである。例えば女性の胎内の胎児を殺した場合はどうなるだろうか。日本の法令では、これは堕胎罪とされて人を殺す罪よりも法定刑は軽いのである。

では、女性が子供を産もうとしているまさにそのときに、その子供を殺した場合はどうなるだろう。その場合、堕胎罪になるのか殺人罪になるのかが分からないのである。「人を殺すな」という規定は殺す対象が人でなければ適用されない。しかし、その対象が人なのかそれとも胎児なのかは、どの時点で胎児が人になるのか(※)によるだろう。人になった後に殺害すれば殺人罪、人になる前であれば堕胎罪になる。これは「人を殺すな」という規定だけでは分からないからである。

※ 学説は、一部露出説、全部露出説、独立呼吸時説が対立している。民法では全部露出説が定説であり、刑法では判例が一部露出説を採る。

なお、死体を損壊した場合は死体損壊罪となり、傷害罪や殺人罪よりも法定刑は軽い。この場合は、3兆候(独立呼吸停止、心拍停止、瞳孔拡大(反射停止))が現れるまでは生きており、人であって死体ではないと考えられている。3兆候が現れる時点までに身体を侵害すると、死体損壊罪ではなく傷害罪又は殺人罪となる。

そうなると、「人(母親の体から一部でも露出してから3兆候が表れるまでをいう。)を殺すな」と書けば、分かりやすくなるかもしれない。しかし、日本語としては、元の規定よりも分かりにくくなっている。

「他人の物を盗むな」という規定にしても、親・兄弟は他人なのか、自分が盗まれたものを取り返した場合はどうなのか、他人が落したものを拾って自分のものにした場合は「盗んだ」と言えるのかなど、様々な疑問が出てくる。

こうなると「他人の物を盗むな」という規定は、分かりにくい規定ということになる。であれば、「民法に定める親族以外の者が占有するものを盗んではならない」とすれば、分かりやすくなるかもしれない。だが、これでは法律の専門家でなければ、読んでもすぐには意味は分からないだろう。

このように分かりにくいという言葉には、2つの意味があるのである。そして、前者の意味で分かりにくい条文があり、現実に適用しなければならなくなったときには、誰かがそれが何を意味しているのかを決めなければならない。これを法令の解釈なのである。

本稿では、法令では、どのような解釈が行われるのかを解説する。


(2)意味の分かりにくい条文の例

最近の安衛法令には、法律の専門家でも何のことか分からない条文がある。その最たる例としては、安衛則第 34 条の2の7第2項がある。

【労働安全衛生規則】

(調査対象物の危険性又は有害性等の調査の実施時期等)

第34条の2の7 (第1項 略)

 リスクアセスメントは、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務ごとに、次に掲げるいずれかの方法(リスクアセスメントのうち危険性に係るものにあつては、第一号又は第三号(第一号に係る部分に限る。)に掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用により行わなければならない。

 当該リスクアセスメント対象物が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又は当該リスクアセスメント対象物により当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度及び当該危険又は健康障害の程度を考慮する方法

 当該業務に従事する労働者が当該リスクアセスメント対象物にさらされる程度及び当該リスクアセスメント対象物の有害性の程度を考慮する方法

 前二号に掲げる方法に準ずる方法

これは、化学物質のうちリスクアセスメント対象物のリスクアセスメントの方法を法定したものである。これは、リスクアセスメントについての知識がないと、法律の専門家では日本語としての意味は分かっても、具体的なリスクアセスメントの方法は分からないだろう。

一方、リスクアセスメントの知識があっても、法律文を読みなれていないと、全く意味不明な文章にしか思えないだろう。

まして、第3項については、日本語としてはよく分かるが、具体的に何をすればよいのかはまったく意味不明である。その意味を知るためにはどうすればよいのだろうか。


(3)解釈をするのは誰か

前項で示した安衛則第34条の2の7第2項の第三号は、どうにでも解釈が可能である。そうなると、事業者(同条の名宛人(義務主体))としても、何をすればよいのかが分からない。

分からなければ、第三号がある意味はないので、行政が解釈を示している。しかし、立法権は国会にあり、行政府はそれを実現するのが仕事である。いくら省令とはいえ、府省の長がその解釈を勝手にしてよいものだろうか(※)

※ 省令に「厚生労働大臣告示で定めるところにより」とか「労働基準局長の定めるところにより」などと書かれていれば、もちろん省令の規定の範囲内で行政府で解釈を定めることは可能である。しかし、同第三号にはそのような規定はない。

法令解釈は、本来は司法権(裁判所)の権限である。すなわち、法令の最終的な解釈の権限は裁判所にあるのである。しかし、裁判所は、具体的な争いがなければ判断をしないし、判断をする場合でも必要な範囲でしか判断しない。そのため、誰かが送検されて裁判を受けるまで、裁判所の解釈(判例)は出されないこととなる。

そのため、裁判所が判例を出すまでの暫定的な解釈として、厚生労働省が解釈を出すのである。なお、安衛法違反についての捜査機関である労働基準監督署はこの解釈に拘束されるので、事実上、この解釈に従っていれば処罰されないことになる。

また、裁判所が厚労省の解釈に拘束されないことは当然であるが、現実には、厚労省の解釈を尊重することが多い。また、一般の警察にも安衛法違反で司法処分(捜査・送検)を行う権限はあり、その場合は厚生労働省の解釈には縛られない。しかし、現実には、一般の警察が安衛法違反で司法処分を行うことはまれである。

このため、安衛法の場合、厚労省の解釈が、きわめて重要となる。


2 実際の解釈の例

(1)想定する条文

ここで、仮の条文を想定して、その解釈を解説することとしよう。ある村の条例に、次のような条文があったとしよう。

【想定する仮の条文(条例)】

  • 第〇条 10歳以上の子供は、甲公園内の遊具は使用してはならない。

この場合、甲公園には、中央の広場にブランコ、シーソー及び雲梯・ジャングルジム・滑り台を組合せた遊具が設置されている。また、中央の遊具から離れて南側の端には高さ2メートルの鉄棒があり、その他にベンチが設置されているとする。なお、甲公園に隣接して名称のない付属公園が隣接しており、周辺住民はこの付属公園を含めて甲公園と呼ぶことがある。


(2)解釈の例

ア 文理解釈

法令を解釈する場合、最も基本となることは、文理に従って解釈するということである。ここで、次のような疑問が生じたとしよう。

【疑問1】

  • 甲公園にはベンチが設置されている。ベンチと遊具を区別する合理的な理由はないのではないか。10歳以上の子供は、甲公園内のベンチを使っていいのだろうか。

ここで、日本語の意味としてベンチは遊具とはいえないであろう。従って10歳以上の子供でも使用可能と判断するのが自然である。

これを文理解釈と呼び、法令解釈の基本となる。法令の中には、現実の方が変わってしまい、制定したときには考えられなかったような事態が発生することがある。そのような場合に、法令の文理に従って解釈すると妥当性を欠くようなことがあるが、そのような場合であっても文理から極端に離れるような解釈をすることは望ましくないのである。

最近では、テールゲートリフターを安衛則で「貨物自動車の荷台の後部に設置された動力により駆動されるリフト」と定義したために問題が起きたことがある。というのは、おそらく安衛則改正の担当者は知らなかったのだろうが、「貨物自動車の荷台の横部に設置された動力により駆動されるリフト」が存在していたのである。規制の必要性という観点からは、リフトが荷台の後部に設置されていても横部に設置されていても同じである。

しかし、法令の定義に会わないことから、荷台の横部に設置されたリフトには、法令の適用をすることができなかった。安全という観点からは望ましくはないが、法令の文理に反するような解釈は避けるべきなので、荷台の横部に設置されたリフトの適用が外れてしまったのである。


イ 拡張解釈

だからといって、あまりにも法令の文理に拘泥することも好ましいことではない。合目的的な拡張解釈が許されないわけではない。例えば次のような場合を考えてみよう。

【疑問2】

  • 甲公園の隣には付属公園がある。ここにある遊具には適用があるのだろうか。

この場合、付属公園には特に名称はなく、正しくは付属公園は甲公園の一部ではないのである。

だからといって甲公園の遊具は10歳以上の子供は使ってはならないという規定を定めたことには理由があるはずで、その理由は付属公園についても該当するであろう。しかも、近隣住民はこの付属公園を含めて甲公園と呼んでいることもあるのだ。

そこで、付属公園についても甲公園に適用されるルールを適用するのである。これを拡張解釈と呼び、刑法でも使われることがある。刑事法では類推解釈は許されないのであるが、合目的的な拡張解釈まで許されないわけでない。


ウ 縮小解釈

拡張解釈では適用される範囲を拡張することによって妥当な結論を導き出したわけであるが、現実には縮小した方が妥当な結果が出る場合がある。例えば、次のようなケースを考えてみよう。

【疑問3】

  • 10歳以上の子供が遊具の使用を禁じたのは、本来は小さな子供のために作られた遊具を大きな子供が独占してしまい、小さな子供が遊べなくなるからである。一律に10歳以上の子供の使用を禁止してしまうと、年長の子が小さな子供の付添いをしているときに、一緒に遊ぶこともできなくなってしまう。

この場合、小さな子供の付添いの年長の子供が、小さな子供を遊ばせるために一緒に遊ぶことは、むしろ規則の目的に合致する。小さな子供だけで遊ばせると危ないこともあり、むしろ年長の子供が一緒に遊ぶことが望ましい。

そこで、年長の子供が小さな子供と一緒に遊ぶことは、「小さな子供の世話」であって、この規則の「使用」には当たらないと解釈するをすることで、妥当な結論を出すことができるのである。

これを縮小解釈と呼び、条文が現実に適合しない場合にこのような解釈をすることがある。


エ 変更解釈

また、特殊なケースではあるが、法令が明らかに間違っていることがある。例えば次のような疑問である。

【疑問4】

  • 公園の南端にある鉄棒は、10歳未満の子供が遊べるようなものではない。これを10歳以上の子供の使用を禁止したら誰も使えなくなってしまう。

このような場合、法律が間違ってるのだから仕方がないというので、無視することもある。現に、旧商法や旧手形小切手法などでは、条文が間違っているからというので、無視することもあったのである。

刑法でさえ、非現住建造物等放火罪で、「及び」と「又は」を間違っているというので、変更して適用していた(※)ことがあるのだ。

※ 現在は、条文が修正されている。

戦後の混乱期を別とすれば、高度経済成長期を過ぎた後で創設された法令の条文が間違っていることはあまり多くはないのだが、ここ 10 年程はよく目立つようになっているようだ。


オ 反対解釈

ところで、この条文には「10歳以上の子供は、甲公園内の遊具は使用してはならない」とは書かれているが、10歳未満の子供について使用してよいとはどこにも書かれていない。これについてどのように考えるべきだろうか。

【疑問5】

  • この規則には甲公園の遊具を誰が使っていいのか書いてないけど、10歳未満の子供は使ってもよいのだろうか。

通常、公園の遊具などというものは、とくに断らない限り誰が使ってもよいというのが、一般的な考え方である。そして、この規則は10歳以上の子供について使用してはならないとしているのであるから、10歳未満の子供については使用してもよいと解釈できる。

これを反対解釈と呼び、法令解釈では広範に使われる解釈である。


カ もちろん解釈

また、この規定には大人のことは規定されていない、確かに、反対解釈では大人は遊具を使用してもよいようにも思える。しかし、年長の子供に遊具の使用を禁止した目的は、本来の遊具の使用の対象となる年少の子供が使用できなくなることを防止するためである。それなら大人も使用してはならないはずだろう。

【疑問6】

  • この規則には10歳以上の子供は遊具の使用を禁止しているが、大人については何も書かれていない。大人は使用してもよいのだろうか。

この場合、確かに大人についてはこの規定は触れていないが、年長の子供にさえ使用を禁止しているのであるから、大人が使用することは当然に禁止だと考えられる。

これをもちろん解釈という。例えば、峡谷にかけられた吊り橋に「車馬の通行を禁止する」と書かれていたとしよう。その吊り橋を象が通ることは可能だろうか。

確かに、像が通ってはいけないとは書かれていない。しかし、車馬が通ることを危険しているのは、その吊り橋は人が渡ることを前提としているので、車馬が通ると危険だからである。それなら当然に象が渡ることは禁止されると考えるべきである。


キ 類推解釈

また、ある事項について法令上の規定がないが、同様な別な事項では法令上の規定があるという場合、規定のない時効についても適用できないかが問題となることがある。例えば、この規定については次のような疑問があり得る。

【疑問7】

  • この規定は甲公園のことしか定めていない。しかし、10歳以下の子供のための遊具は他の公園にも設置されている。他の公園の小さな子供用の遊具も、年長の子供は使用してはいけないのかな。

このような疑問は、私人間の争いではあり得る。甲公園とは別な乙公園について、大きな子供が遊具を占領してしまい、小さな子供が遊べないということになれば、乙公園についても甲公園と同様に年長の子供は遊ぶべきではないと考える地域住民もいるだろう。

一方、乙公園については年長の子供の使用は禁止されていないのだから、10歳以上の子供が遊んでも問題はないと考える住民もいるだろう。

このようなときに、乙公園の遊具についても10歳以上の子供は使用禁止と解釈するのが類推解釈である。私人間の争いで、法令の規定がない場合に、妥当な結論を導き出すために用いられることがある。

ただし、刑事法では類推解釈は禁止されている。刑事法で類推解釈を認めると、刑事法の条文で禁止されていないにもかかわらず処罰されることになってしまう。そのようなことは、罪刑法定主義に反することになる。


3 最後に

女性捜査官と容疑者

※ イメージ図(©photoAC)

法解釈をする場合、できる限り条文の文理に適合するように解釈することが望ましい。また、解釈はできる限り整合性が取れた形で行うことが望ましいことももちろんである。

刑法解釈上の有名な問題に、人を「致死」又は「致傷」させる犯罪の成立に故意が必要かという問題がある。これが、必要と判断しても必要ではないと判断しても、強盗致死、強盗致傷、強姦致死、強姦致傷で、故意があるとかえって故意がないときよりも法定刑が軽くなるという逆転現象が起きるのである。

多くの刑法学者がこの問題に統一的な解釈を示そうと頭を悩ませてきたが、そもそも条文の整合性が取れていないのであるから、統一的な解釈などできるわけもないのである。

法令解釈の目的は、「美しい理論」で解釈することではない。その目的は、より妥当な結論を出すことなのである。法令の文理によく適合するからと言って、国民が苦痛を受けるような解釈はするべきではないのである。

最後にそのことだけ述べておきたい。


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