直ちに・すみやかに・遅滞なくとは




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化学物質を扱う研究者

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安衛法など多くの法令で、何かを行うべき期間を表すときに「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」という用語が使用されます。

それぞれの場合、いつまでに処理すれば法違反とはならないかが、分かりにくいという声をよく聴きます。

本稿では、安衛法の「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」という用語について、関連する通達や判例を挙げながら分かりやすく説明しています。




1 はじめに

(1)安衛法令の中の「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」

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最終改訂:

化学物質を扱う研究者

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法令の中に用いられる用語は、同じ用語はどの法令においても常に同じ意味になるわけではない。また、異なる用語が同じ意味を持つケースもまれにある。

とりわけ、歴史のある法令に用いられている用語は、個々の法令ごとに様々な意味に解釈されており、安衛法令においても同じ意味となるわけではない。

安衛法において、よく話題となるもののひとつが「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」という、ある行為をいつまでに行うべきかを示す用語がある。

法律に「直ちに〇〇を実施せよ」「遅滞なく〇〇をせよ」と言われたら、いつまでに行うべきなのだろうか?

なお、安全衛生法令の主要なものに、「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」が使われている個数(※)は、次表のようになっている。

※ ただし、機械的に調べているので、事業者に対する義務を定めた規定とは限らない。

 表:法令中の各用語の出現頻度
法令 出現頻度
直ちに すみやかに 遅滞なく
労働安全衛生法
労働安全衛生法施行令
労働安全衛生規則 62 40
特定化学物質障害予防規則 10
有機溶剤中毒予防規則 16
クレーン等安全規則 10
じん肺法

ここからも分かるように、安衛法関係法令では「すみやかに」という用語はほとんど使われていないものの、「直ちに」と「遅滞なく」が使用されるケースは多い。


(2)一般的な意味

ア 「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」という用語の法的な意味

一般的な法令において、「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」という用語の法的な意味について、最初に具体的に言及した判例は、銃刀法違反に関するものである。この判決は、次のように述べている。

「すみやかに」は、「直ちに」「遅滞なく」という用語とともに時間的即時性を表わすものとして用いられるが、これらは区別して用いられており、その即時性は、最も強いものが「直ちに」であり、ついで「すみやかに」、さらに「遅滞なく」の順に弱まつており、「遅滞なく」は正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されている。

※ 大阪高判昭和 37 年 12 月 10 日 銃砲刀剣類等所持取締法違反被告事件(下線協調引用者)

すなわち、言葉を換えれば次のようになる。そして「遅滞なく」は正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるというのであるから、「直ちに」と「速やかに」は遅滞は許されないと理解される。

  • 「すみやかに」は、「直ちに」「遅滞なく」という用語とともに時間的即時性を表わすものとして用いられる
  • その即時性は、最も強いものが「直ちに」であり、ついで「すみやかに」、さらに「遅滞なく」の順に弱まつており
  • 「遅滞なく」は正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されている

イ 刑事法の構成要件(罪の定義)に使えるのか

前記大阪高判の事件では、被告側が旧銃刀法17条1項の「すみやかに」という用語は不明確であり、その条文そのものが無効であると主張した。

【旧・銃砲刀剣類等所持取締法】

第17条 登録を受けた銃砲又は刀剣類を譲り受け、若しくは相続し、又はこれらの貸付若しくは保管の委託をした者は、委員会規則で定める手続により、すみやかにその旨を文化財保護委員会に届け出なければならない。貸付又は保管の委託をしなくなつた場合においても、また同様とする。

 (以下略)

これに対し、大阪高判昭和 37 年 12 月 10 日は、被告の主張を採用して被告を無罪(※)とした1審判決を破棄し、次のように述べて被告を有罪とした。

※ 原審は、法条中の「すみやかに」という文言は、「その内容があいまい不明確であつて、憲法第三十一条の趣旨に照らし、適用不能の無効な規定であるから、被告人にその刑責を問うことはできない」として無罪とした。

ところで「すみやかに」というのは、「何日以内に」という数量的な観念とちがつて、価値判断を伴う用語であつて、その判断には解釈を必要とするのであるが、このことは「直ちに」「遅滞なく」についても同様であり、さらに広く法律用語の大部分についても共通の性格であつて、ひとり「すみやかに」の用語にのみ限られたものではない。一定の行為を命ずる場合に「何日以内」というような確定期限をもつてするか、或いは「直ちに」「すみやかに」というような定め方をするかは、その法令の立法趣旨、要求される行為の直接の目的、性質、方式等によつて合目的的合理的に考えられるべきであつて、作為又は不作為を命ずる場合に確定期限による定め方のみですべての場合に対処することは、複雑多岐にわたる社会生活事象に照らせば、現実に不可能、不適当であることは明らかである。

※ 大阪高判昭和 37 年 12 月 10 日 銃砲刀剣類等所持取締法違反被告事件(下線協調引用者)

すなわち、判決文は、まず、「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」という用語は、解釈を要する用語であり、確定できるものではないことを認めている。そして、その上で、刑事法(違反者に罰則を科す法)であっても、これらの用語を用いることは許されるとしているのである。

なお、その後、旧銃刀法は改正され、問題の条文は現行の銃刀法では第 12 条第2項となり、「すみやかに」は「2週間以内」と改正されている。警察庁としては「すみやかに」とは「2週間以内」という考えだったのだろう。


2 通達に示された解釈と条文ごとの理解

(1)遅滞なく

ア 遅滞なくの行政解釈

では、安衛法に「遅滞なく」とあった場合、どの程度の遅延まで許されるのであろうか。これについて、いくつかの通達が解釈を示している。

 表:「遅滞なく」の解釈を示す行政通達(例)
通達番号 該当法令 解釈
昭和53年8月31日
基発第479号
有機則
第30条の3
本条(現行第30条の3:引用者注)の「遅滞なく」とは、健康診断完了後(第二次健康診断を行つた場合は、その完了後)おおむね一月以内をいうこと。
平成18年2月24日
基発第0224003号
安衛則
第51条の4
「遅滞なく」とは、事業者が、健康診断を実施した医師、健康診断機関等から結果を受け取った後、速やかにという趣旨であること。
安衛則
第52条の3
第2項
「遅滞なく」とは、概ね1月以内をいうこと。
安衛則
第52条の3
第3項
「遅滞なく」とは、申出後、概ね1月以内をいうこと。
平成27年5月1日
基発 0501 第3号
安衛則
第52条の12
「遅滞なく」とは、ストレスの程度の評価等ストレスチェック結果が出力された後、速やかにという趣旨であること。
安衛則
第52条の16
第1項
「遅滞なく」とは、概ね1月以内をいうこと。
安衛則
第52条の16
第2項
「遅滞なく」とは、申出後、概ね1月以内をいうこと。
安衛則
第52条の19
意見聴取は、面接指導が行われた後、遅滞なく行われる必要があるが、遅くとも面接指導を実施してから概ね1月以内に行うこと。なお、労働者の心理的な負担の程度等の健康状態から緊急に就業上の措置を講ずべき必要がある場合には、可能な限り速やかに行われる必要があること。
平成30年9月7日
基発 0907 第2号
安衛則
第13条
第4項
「遅滞なく」とは、おおむね1月以内をいうものであること(以下同じ。)。
平成31年2月14日
基発 0214 第9号
安衛則
第478条
第1項
「遅滞なく」とは、職長等への作業の支援要請、必要となる機材の搬送等によるかかり木の処理の作業における安全の確保、かかり木の処理の作業に従事する労働者以外の労働者の退避等の措置を講じた後、なるべく早急に、かかり木の処理の作業を行うこと。
平成31年3月25日
基発 0325 第1号
安衛則
第52条の7の4
第2項
「遅滞なく」とは、おおむね1月以内をいうものであること(以下同じ。)。

「概ね1月以内」としているものがほとんどであるが、例外もいくつがある。そのひとつに、平成18年2月24日 基発第0224003号及び平成27年5月1日 基発0501第3号が、「遅滞なく」とは「速やかに」という趣旨であるとしていることが挙げられる。

「遅滞なく」というよく分からない用語を、「速やかに」という同程度によく分からない用語で説明されても、分かりやすさという観点からはあまり意味はないという気がするが、1月以内よりかなり短いという趣旨であろうか。

また、平成31年2月14日 基発 0214 第9号は、「なるべく早急に」としている。これは、1月より短いという趣旨なのか、長くてもよいという趣旨なのか判然としないが、言葉の意味からはおそらく後者であろう。

なお、平成になってからの通達が多い。おそらく、昭和の時代には、事業者側が法令策定時にそれほど気にしなかったのだろう。近年ではコンプライアンスが重視され、どの程度の遅れまで許されるのかを企業が気にし始めたために、通達で示すようになったのかもしれない。

イ 個々の条文

(ア)雇入れ時等の教育

問題は解釈が示されていない条文の場合である。安衛令で用いられるすべての「遅滞なく」を原則として概ね1月以内と理解することはややムリがある。

例えば、雇入れ時の教育がその典型である。安衛法第 59 条第1項及び第2項によれば、雇入れ時等の教育は「雇入れたとき」に行い、同第3項の特別教育は「つかせるとき」に行わなければならない。すなわち、雇入れ時の教育は雇入れた、特別の教育は業務につかせるに行わなければならない(※)のである。

※ このように定めた理由は明らかである。特別の教育は、危険有害な業務に就かせた後に行ったのでは遅いからである。では、なぜ雇入れ時の教育は「後」なのかといえば、これも当然のことだが、雇入れる前に教育を行うことはできないからである。2項の作業内容変更時の教育もたんに1項の雇入れ時の教育に合わせたものであろう。

【労働安全衛生法】

(安全衛生教育)

第59条 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。

 前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。

 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。

【労働安全衛生規則】

(雇入れ時等の教育)

第35条 事業者は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、遅滞なく、次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について、教育を行なわなければならない。ただし、令第二条第三号に掲げる業種の事業場の労働者については、第一号から第四号までの事項についての教育を省略することができる。

一~八 (略)

 (略)

問題は、安衛則第35条が、雇入れ時等の教育は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときに、遅滞なく実施することとされていることである。、しかし、その趣旨から考えれば、雇入れ時の教育は実際の業務に就ける前に行うべきであろう(※)

※ 実際の仕事に就けずに教育期間を設けるのであれば、その間に行えばよい。教室形式の教育期間が2箇月あるのなら、その2箇月の間に行えば「遅滞」があったとはいえない。逆に、翌日から実際の仕事に就けるのであれば、雇った日に教育を行わなければ「遅滞なく」とはいえないであろう。

ところが、これについて、昭和59年3月26日基発第148号「安全衛生教育の推進に当たって留意すべき事項について」(及び廃止された昭和49年4月3日付け基発第176号「安全衛生教育の推進について」)等の関係通達には何も記されていない。

しかし、現実に、三重・松阪労働基準監督署は、雇入れ時の教育を行わずに就業させた労働者が、当日被災したケースで書類送検を行っている。「概ね1月以内に教育を行えばよいのだから、雇入れ後1日目なので罪にならない」という言い訳は通用しないということである。

※ 労働新聞社「【送検事例】雇入れ時の教育を行わず」(2021年12月28日)

(イ)労働者者死傷病報告
① 安衛則第97条の「遅滞なく」は犯罪を構成する要件か

次に、安衛則第 97 条の死傷病報告についてはどうであろうか。なお、安衛則第97条の法律上の根拠は安衛法第100条であり、罰則付きの条文である。

安衛則第97条は「遅滞なく」報告しなければならないとされており、また安衛法第120条(第五号)は虚偽内容の報告をすることも処罰の対象としている。このため、厚生労働省の「最近における「労災かくし」事案の送検状況」によると、「虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出」した場合も、安衛法第100条違反として送検されているのである。

【労働安全衛生法】

(労働者死傷病報告)

第100条 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

2及び3 (略)

第120条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。

一~四 (略)

 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者

 (略)

【労働安全衛生規則】

(労働者死傷病報告)

第97条 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

 前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実について、様式第二十四号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

これは、虚偽の内容を報告したことで安衛法第120条により違反したとされたのである(※)

では、例えば、虚偽の内容の死傷病報告書を災害発生から1週間後に提出した場合、いつの時点で安衛法第100条違反が成立するのであろうか。虚偽の内容の報告を提出した時点なのだろうか。それとも、その後、正しい内容の報告が提出されることもあり得るのだから、遅滞があった時点=災害発生後一定期間が過ぎた時点まで、犯罪は成立しないのだろうか。

この点、監督の実務においては、虚偽内容の報告書が提出された時点とされているようだ。

② 「遅滞なく」とはいつまでをいうのか

では、虚偽の内容の死傷病報告書を提出していないとして、災害発生後、いつまでに死傷病報告を提出すれば、「遅滞なく」といえるのであろうか。実は、具体的な期間についての解釈を示す行政の通達はない。しかし、第2項の休業4日未満の災害が、最短で翌月末まで(1箇月以内)と定められているのであるから、第1項の報告が1月を超えてしまえば、条文からも「遅滞なく」とはいえないであろう。

これについて、長野労働局の作成したパンフレットには「「遅滞なく」とは、「正当又は合理的な理由(被災者本人と面談できない等)がある場合を除き、事情の許す限り最も速やかに」という意味であり、概ね1週間から2週間以内程度と解されています」とされている。

一方、仙台労働基準監督署が作成したパンフレットでは、休業4日以上の死傷災害では「災害発生後遅滞なく(1ヶ月以内)」とされている。行政の内部でも、やや混乱がみられるようだがが、弁護士や社労士でも(※)意見の相違がみられるところである。

※ 例えば、弁護士法人 咲くやこの花法律事務所「労災が発生した際の報告義務のまとめ。遅滞なく届出が必要な場合とは?」は「災害発生から1~2週間以内を目途に、できる限り速やかに提出しましょう」としている。一方、武田社会保険労務士事務所「労働災害発生3週間後の労働者死傷病報告書の提出は労安法違反?」は「4日以上休業見込みの労働災害については、遅くとも1か月以内に報告すれば足りるものと解されます」としている。

なお、1月より遅れて死傷病報告を提出する場合は、労働基準監督署から「遅延理由書」の提出を求められることがある(※)

※ 例えば、諫早労働基準監督署が2020年に作成したパンフレットには、「本年 6 月末日までに当署あてに提出された労働者死傷病報告 126 件のうち 23 件(18.3%)は災害発生から1か月以上も遅延していたことから、「遅延理由書」の提出を求める等、何らかの行政指導をさせていただいております」としている。

しかし、労働災害が発生した場合には、同種災害の再発防止のためにも労働基準監督署が迅速に調査を行うべき場合もあろう。そのため、災害の報告も迅速に行われるべきであり、通常、2週間以上報告が遅れることに合理的な理由があるとは思えない(※)。労働者死傷病報告の場合の「遅滞なく」は概ね1週間から2週間以内と理解するべきであろう。

※ 休業4日以上の死傷災害を発生させておきながら、2週間以上も報告をしないのでは、災害について反省しておらず、再発防止を考えていない事業者だと、監督署に思われてもしかたがないのではないか。

③ 災害の発生から約1月後に死傷病報告が提出された事例

現実に、災害の発生から約1月後に死傷病報告が提出された事例で、送検されたケースがあるのだ。労働安全衛生広報(※)によると、「A社災害発生から約1力月後、所轄労働基準監督署へ労働者死傷病報告書を提出。しかし所轄労基署が調査を行ったところ、A社が報告を行うまでの聞に社内に「労災かくし」の意思形成がなされたこと等を重<見て悪質と判断し、安衛法違反の疑いがあるとしてA社とA社の安全管理担当である安全グループ長Wを書類送検した」という。

※ 労働安全衛生広報編集部「社内の「労災かくし」の意思を悪質と判断 発生約1カ月後に災害報告するも送検」(労働安全衛生広報 2022.11.1 Vol54)

もちろん、悪質かどうかは犯罪が成立するかどうかとは関係がない。悪質だということは、送検したことに理由にすぎない。言葉を換えれば、災害発生の後、約1月後に死傷病報告を提出した場合は、「遅滞なく」提出したとはいえず安衛法第100条違反となるが、悪質でなければ送検はしないというに過ぎない。

なお、この記事には「災害発生日から約1カ月が経過したところで所轄労働基準監督署に死傷病報告書を提出した」とあるのみで、災害発生日、死傷病報告提出までの正確な経過期間、所轄労基署の名称などは書かれていない。そのため、1か月を超えていたのか1ケ月以内だったのかは分からない。また、この監督署が、災害発生後、いつの時点までに死傷病報告書を提出しないと安衛法違反となると判断しているのかについても書かれていない。

しかし、仮に1月以内だったとすれば、先述した仙台労働基準監督署が作成したパンフレットで、休業4日以上の死傷病報告は1月以内に提出すればよいとしていることと矛盾する。おそらく、1月はわずかに超えていたのであろう。いずれにせよ、休業4日以上の死傷病報告は概ね1月以内に提出すればよいという発想は、かなり危険だと認識した方がよさそうだ。


(2)直ちに

ア 「直ちに」はいつまでかについての行政解釈

「直ちに」という法律用語は、後回しにせずに、すぐに、という意味である。それが分かり切っているということからか、行政解釈はほとんど示されていない。

わずかにボイラー則で解釈を示した例があるが、合理的な期間の遅延は許されるというものであり、具体的な期間を定めているわけではない。

 表:「直ちに」の解釈を示す行政通達(例)
通達番号 該当法令 解釈
昭和63年9月16日
基発第 602 号
ボイラ則
第52条の3
他2箇条
「直ちに」とは、施設、設備、作業工程又は作業方法の点検及び点検結果に基づく改善措置を直ちに行う趣旨であるが、改善措置については、これに要する合理的な時間について考慮されるものであること。

イ 個々の条文

(ア)安全管理者、衛生管理者等の巡視

安衛則で「直ちに」という用語が用いられるケースは多い。多くは、労働災害発生の恐れがある場合の対策の実施について用いられている。

その例の一つに安全管理者等の巡視に関する規定がある。

【労働安全衛生規則】

(安全管理者の巡視及び権限の付与)

第6条 安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 (略)

(衛生管理者の定期巡視及び権限の付与)

第11条 衛生管理者は、少なくとも毎週一回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 (略)

(産業医の定期巡視)

第15条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一及び二 (略)

化学物質を扱う研究者

※ イメージ図(©photoAC)

安全管理者や衛生管理者が職場巡視において、危険のおそれがある状況を発見すれば、対策を後回しにすることはあってはならないことである。遅延が許されるはずはないだろう。

産業医の場合、その権限にもよろうが、労働者の健康障害を防止するため必要な措置は直ちに実施しなければならない。現に、労働者の健康障害のおそれがある以上、その対策に遅延が許されると考えるべきではない。

もちろん、可能性が低く、かつ、軽微な災害の恐れがある場合であって、その対策に大きなコストがかかるようなときは、合理的な遅延は許されることもあるだろう。

しかしながら、例えば、機械設備の安全装置に不具合があることを発見した場合や、有害な化学物質への過剰なばく露のおそれのある状況を発見した場合には直ちに対策を取らなければならない。

また、床に水がこぼれていて、労働者が転倒のおそれがあると思われるような場合にも、すぐに水を拭き取るなどの対策を取るべきである。

少しくらいならと思って、後回しにしていて、その間に災害が発生すれば、まさに「後悔先に立たず」ということになる。災害防止対策は、原則としてすぐに実施する必要がある。

(ア)個々の安全装置の不具合等

また、安全装置を取りはずしたとき、安全装置に異常を認めたとき、点検結果に異状を認めたときなどにも「直ちに」対策を取るようにとされている。

【労働安全衛生規則】

第29条 労働者は、安全装置等について、次の事項を守らなければならない。

 (略)

 臨時に安全装置等を取りはずし、又はその機能を失わせる必要があるときは、あらかじめ、事業者の許可を受けること。

 前号の許可を受けて安全装置等を取りはずし、又はその機能を失わせたときは、その必要がなくなつた後、直ちにこれを原状に復しておくこと。

 (略)

 (略)

(木材加工用機械作業主任者の職務)

第130条 安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一及び二 (略)

 木材加工用機械及びその安全装置に異常を認めたときは、直ちに必要な措置をとること。

 (略)

(点検)

第151条 事業者は、産業用ロボツトの可動範囲内において当該産業用ロボツトについて教示等(産業用ロボツトの駆動源を遮断して行うものを除く。)の作業を行うときは、その作業を開始する前に、次の事項について点検し、異常を認めたときは、直ちに補修その他必要な措置を講じなければならない。

一~三 (略)

これらについても遅延が認められるようなものではない。


(3)すみやかに

山腰他(※)によると、「通例では、「直ちに」と「遅滞なく」は遅延によって罰則が生じる場合に用いられる一方、「速やかに」はあくまで訓示的な表現であって罰則は与えない場合に用いられる」とされている。

※ 山腰貴大「ランダムフォレストを用いた法律用語の校正」(人工知能学会論文誌 Vol.35 No.1 2020年)。なお、岡山県立図書館「法律に「直ちに」とあったが、どのくらいの日数か

そのようなこともあるのか、安衛法令で「すみやかに」を義務付けの条文で用いている例はきわめて少ない。安衛則で、産業医への情報の提供を定めた第 14 条の2と安全装置に関する義務を定めた第 29 条があるくらいである。

【労働安全衛生規則】

(産業医に対する情報の提供)

第14条の2 (第1項 略)

 法第十三条第四項の規定による情報の提供は、次の各号に掲げる情報の区分に応じ、当該各号に定めるところにより行うものとする。

 (略)

 前項第二号に掲げる情報 第五十二条の二第二項(第五十二条の七の二第二項又は第五十二条の七の四第二項において準用する場合を含む。)の規定により同号の超えた時間の算定を行つた後、速やかに提供すること。

 前項第三号に掲げる情報 産業医から当該情報の提供を求められた後、速やかに提供すること。

第29条 労働者は、安全装置等について、次の事項を守らなければならない。

一~三 (略)

 安全装置等が取りはずされ、又はその機能を失つたことを発見したときは、すみやかに、その旨を事業者に申し出ること。

 事業者は、労働者から前項第四号の規定による申出があつたときは、すみやかに、適当な措置を講じなければならない。

 表:「速やかに」の解釈を示す行政通達(例)
通達番号 該当法令 解釈
平成31年3月25日
基発 0325 第1号
安衛則
第 14 条の2
第2項
なお、「速やかに」とは、おおむね2週間以内をいうものであること。

第14条の2に対する解釈は、表に示したようにおおむね2週間以内とされているが、第 29 条に対する解釈は示されていないようだ。しかし、労働災害防止のための措置であることを考えれば、2週間もの遅滞が許されるようなものではない。後回しにせず、すぐに実施されるべきことである。

とりわけ第 29 条第2項については、労働者の申告があったにもかかわらず、対策を遅らせてその間に災害が発生すれば、「すみやか」ではないと判断されてしかるべきであろう。


3 最後に

以上にみてきたように、安全衛生法令では「直ちに」とあるときは、原則として遅延を認めず、すぐに実施しなければならない。

一方、「遅滞なく」とある場合は、合理的な説明がつかないような遅延は許されないが、すぐに取り掛かる必要はない。

しかしながら、「遅滞なく」とある条文ごとに、許される期間は異なっており、一律に1月以内と考えるべきではない。

  • 直ちに
  • 後回しにすることなく、すぐに実施する必要がある。
  • 合理的な理由がない限り、遅延は許されない。
  • すみやかに
  • 「直ちに」ほどではないが、後回しにすることなく実施する必要がある。
  • どこまでの遅延が許されるかは、条文ごとに判断する必要がある。少なくとも「遅滞なく」とあるほどの遅延は許されない。
  • 遅滞なく
  • すぐに実施する必要まではないが、合理的な可能性と必要性に応じて、できるだけ早く実施する必要がある。
  • 多くの場合、1ケ月以内に実施すれば足りるが、条文の性格によって許される遅延の期間は異なる。一律に1月以内であればよいと考えてはならない。
  • 雇入れ時等の教育は、現実に業務を始めるまでに行う必要がある。
  • 休業4日以上の労働者死傷病報告は概ね1週間から2週間までにできるだけ早く提出するべきである。1月以上遅れれば法違反となる。

いずれにせよ、労働者の安全と健康を守ることは、事業者の義務なのである。そこから考えれば、労働災害の防止のための措置に遅延は許されることはない。

また、雇入れ時の教育は、合理的に考えれば、業務を開始するまでに行わなければならないことは当然であろう。

すべての解釈は、「労働者の安全と健康を守ることは、事業者の義務」であることを前提に行うべきである。


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