法令施行の時と、その実施をすべき時期




トップ
法改正のイメージ

※ イメージ図(©photoAC)

事業者に何かの行為を義務付ける法令が施行された場合、事業者が迷うことのひとつに、施行後あるいは施行前のいつまでに、それを実施しなければならないのかということがあります。その答えは、条文に定められていますが、意外に分かりにくいばかりか、それに従うと好ましくない結果となることさえあります。

自律的管理に関する安衛法令改正では、様ざまな義務が新たに課されるとともに、約 2,900 種類の化学物質が SDS の公布やリスクアセスメントの対象物として指定されることとなっており、順次、公布・施行されます。では、これらの化学物質を製造・取扱いをしている事業場では、それらの対策をいつまでに行えばよいでしょうか。

例えば、リスクアセスメントの実施時期は、改正前の安衛則第第 34 条の2の7第1項に記されています。すなわち、施行の時以降に安衛則第第 34 条の2の7第1項に定められている事項が起きたときに行えばよいこととなります。

しかし、そのような解釈では、著しくおかしなことになってしまいます。すなわち、施行の時よりも前にその化学物質を使い始めており、施行の時から安衛則第第 34 条の2の7第1項に記されているようなことが起きなければ、いつまで経ってもそのまま対策を取る必要がないことになってしまいます。

本稿では、自律的な管理における各種の対策について、法令と必要性の両面から、いつの時点で行うべきかについて解説します。




1 化学物質の自律的管理で新たに法定される専門家

(1)自律的管理で法定される2種類の専門家

執筆日時:

化学物質を扱う研究者

※ イメージ図(©photoAC)

厚労省は、自律的な化学物質管理の普及を目指して 2022 年2月 24 日に改正安衛令等を公布し、同5月31日には改正安衛則等を公布した。

この改正によって、事業者に(一定の場合に)義務付けられる措置のうち、いつからそれらの措置を実施すればよいのかを迷いそうなものに、次のものがある。

【化学物質の自律的管理において新たに義務付けられる事項】

  • 化学物質管理者及び保護具着用管理責任者の選任
  • リスクアセスメントの実施及びそれに基づく対策
  • 化学物質への直接接触による災害の防止
  • SDS 交付・ラベル表示、事業場内のラベル表示
  • 第3管理区分となった作業場に対する措置
  • 監督署長の指示への対応
  • 作業記録の作成と保存
  • 化学物質によるがん発生の把握

これらには、施行期日が定まっており、その一方で、SDS の交付やリスクアセスメントの対象物質が、順次追加される。これらについて、施行の日までに行うべきか、施行の日以降のある時期までに行うべきなのか、事業者に疑問があるようだ。そこで、これらの各項目について、いつまでに実施するべきかについて以下に解説する。


(2)労働安全衛生法令が改正された場合の実施の時期(一般論)

ア 公布のときと施行時期

個別の項目の説明に入る前に、まず、法令が改正された場合の実施時期について一般論を解説する。

法令が改正される場合、国民が改正法が記された官報を最初に閲覧・購入できる状態になった時が公布のときとなる。そして、改正法に施行時期が記されていなければ、公布された時点で施行される(※)

※ 最大判昭和 33 年 10 月 15 日によると、東京で官報が購入可能になれば、地方都市ではまだその官報が購入できないとしても、全国で有効となるのである。戦前の価値観が反映されているのではないかという気がするが、現在では、官報は WEB に公開されるので、その時点で公布されたと考えるのが自然である。

もっとも、労働安全衛生法令の場合、施行日の記されていない改正法令は、ほとんど存在していない(※)

※ 実際には、具体的な日付ではなく「公布の日から起算して◯月(◯年)を超えない範囲内において政令で定める日」などと定められることもある。また、「◯◯人以下の事業場に関しては◯年◯月◯日までの間、この法律の規定は、適用しない」などと、猶予措置を定めることもある。

最近では、最初の公布時点で定めた公布日を、後の改正法令で改正するということも、珍しいことではなくなっている。その例としては、「アーク溶接関連特化則改正の経過措置」に記した、アーク溶接等で必要になる呼吸用保護具のフィットチェックがある。これは、2022年(令和4年)4月1日から施行される予定だったが、規格(JIS)の改正作業が遅れたことから、再度の改正が行われ2023年(令和5年)4月1日に延期された。


イ 施行の時期と実施すべき時期

そして、法令の改正条文が施行された場合に、措置義務者がいつまでにその法令で定められたことを実施するべきかは、その条文の文言によるのである。

表 改正された条文と、施行以降のいつ実施するべきかの対比
条文 実施すべき時期
(前提条件なしに)◇◇しなければならない。 施行のときまでに実施しなければならず、その後もその状態を維持する必要がある。
◯◯したときは◇◇しなければならない。 施行のとき以降に◯◯したときに実施すればよい。施行日前に◯◯したとしても、原則として実施する必要はない。
◯◯となったときは◇◇しなければならない。 施行のとき以降に◯◯となったときに実施すればよい。施行のときに◯◯となっている場合は、施行のときまでに実施しなければならない。
◇◇すべき事由が発生したときから◯◯日以内に◇◇しなければならない。
  • 施行の日の時点までに◇◇すべき事由が発生してその事由が持続しているときは、施行の日以降◯◯日以内に実施すればよい。
  • 施行の日に◇◇すべき事由が存在していないときは、◇◇すべき事由が発生したときから◯◯日以内に実施すればよい。
◇月を超えない期間ごとに定期に◇◇しなければならない。 施行の日から◇月を超えない期間までに実施し、その後は、◇月を超えない期間ごとに定期に実施すればよい。

表にしてしまうと当たり前のように思えるかもしれないが、現実の条文では意外に迷うものである。では、この表を前提に、以下、個別に解説しよう。読者は目次から関心のある所だけを参照して頂きたい。


2 個別事項

(1)化学物質管理者及び保護具着用管理責任者の選任

ア 化学物質管理者及び安衛則による保護具着用管理責任者

握手をする上司と部下

※ イメージ図(©photoAC)

化学物質管理者(※)は、「化学物質管理者を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること」(改正後の安衛則第12条の5)とされている。これは、安衛則による保護具着用管理責任者も同様である(改正後の安衛則第 12 条の6)。

※ 詳細は「化学物質管理者の選任の留意事項」を参照して頂きたい。

従って、化学物質管理者は、施行の日にリスクアセスメント対象物を製造又は取扱っているのであれば、施行の日から 14 日以内に選任する必要がある。施行の日にリスクアセスメント対象物を製造又は取扱っていないのであれば、条文の通り、リスクアセスメント対象物を製造又は取扱いを開始したときから14日以内に選任する必要がある。

なお、その事業場で製造又は取扱っている物質について、SDSやリスクアセスメントの対象物として安衛令別表第9に定める政令が施行された場合は、その施行の日から 14 日以内に選任しなければならない。

一方、安衛則の保護具着用管理責任者(※)は、リスクアセスメント対象物のリスクアセスメントを実施し、その結果に基づく措置として労働者に保護具を着用させるときに選任しなければならない管理者である。そして、選任は労働者に保護具を使用させた時から 14 日以内に選任すればよいこととなる。

※ 詳細は「保護具着用管理責任者選任の留意事項」を参照して頂きたい。

従って、施行のとき以降の最初のリスクアセスメントを実施した後、その結果に基づく措置として労働者に保護具を着用させた後、14 日以内に選任すればよいということになる。

ただ、実務においては、保護具の着用を決める時点で、保護具着用管理責任者を選任し、その者に保護具の決定等についてかかわらせるべきであろう。選任された後で、保護具着用管理責任者がその保護具は適切なものではないと判断した場合、保護具を交換する等の問題が発生する可能性がある。


イ 特別規則による保護具着用管理責任者

特別規則による保護具着用管理責任者は、作業環境測定を行った作業場が第3管理区分に区分されて、法定の措置をとっても第1管理区分又は第2管理区分とすることが困難な場合に、直ちに選任するべきものである(※)

※ 詳細は「作業環境測定の第3管理区分への対応」を参照して頂きたい。

従って、施行の日以降の最初の作業環境測定の結果、第3管理区分となり、法定の措置をとっても改善が困難となったときにただちに選任すればよいこととなる。

しかし、実務上は、施行の日までに第3管理区分となっている作業場があれば(※)選任をしておくべきである。また、施行の日以降に新たに第3管理区分となる作業場があれば、法定の措置を取る前に選任をするべきであろう。

※ 施行の日よりも前に第3管理区分となり、施行の日に第3管理区分のままであったとしても、安衛法上は改正法による措置をとる必要はない。しかしながら、労働者に対する私法上の責任(安全配慮義務)として、法定の措置をとるべきである。


(2)リスクアセスメントの実施及びそれに基づく対策

リスクアセスメント(※)の実施時期は、安衛則第34条の2の7第1項に示されている。なお、第3号については、後に説明する。

※ 詳細は「ばく露濃度を低下させる方法」を参照して頂きたい。

【労働安全衛生規則】

(調査対象物の危険性又は有害性等の調査の実施時期等)

第34条の2の7 法第五十七条の三第一項の危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。次項及び次条第一項において「調査」という。)は、次に掲げる時期に行うものとする。

 令第十八条各号に掲げる物及び法第五十七条の二第一項に規定する通知対象物(以下この条及び次条において「調査対象物」という。)を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。

 調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。

 前二号に掲げるもののほか、調査対象物による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。

 (略)

従って、施行の日よりも前にリスクアセスメント対象物をその事業場で製造又は取扱っており、施行後も継続していたとしても、安衛則第34条の2の7第1項に示されている状況が起きない限り、未来永劫に渡ってリスクアセスメントを行う必要はないことになる。

これは、問題だというので、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」は、リスクアセスメントの実施時期を次のように定める。

【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】

5 実施時期

(1) 事業者は、安衛則第 34 条の2の7第1項に基づき、次のアからウまでに掲げる時期にリスクアセスメントを行うものとする。

 化学物質等を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。

 化学物質等を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。

 化学物質等による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。具体的には、化学物質等の譲渡又は提供を受けた後に、当該化学物質等を譲渡し、又は提供した者が当該化学物質等に係る安全データシート(以下「SDS」という。)の危険性又は有害性に係る情報を変更し、その内容が事業者に提供された場合等が含まれること。

(2) 事業者は、(1)のほか、次のアからウまでに掲げる場合にもリスクアセスメントを行うよう努めること。

 化学物質等に係る労働災害が発生した場合であって、過去のリスクアセスメント等の内容に問題がある場合

 前回のリスクアセスメント等から一定の期間が経過し、化学物質等に係る機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合

 既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメントの対象物質として新たに追加された場合など、当該化学物質等を製造し、又は取り扱う業務について過去にリスクアセスメント等を実施したことがない場合

(3) 事業者は、(1)のア又はイに掲げる作業を開始する前に、リスク低減措置を実施することが必要であることに留意するものとする。

(4) 事業者は、(1)のア又はイに係る設備改修等の計画を策定するときは、その計画策定段階においてもリスクアセスメント等を実施することが望ましいこと。

この(1)のア~ウが、安衛則第34条の2の7第1項の各号に該当し、(2)は指針の独自の規定である。この(2)のウにおいて、法律上は、施行の日よりも前からリスクアセスメント対象物を製造し、取扱っている場合は、リスクアセスメントを義務付けられないが、それらについてもリスクアセスメントを実施するようにと言っているのである。

なお、(1)のウは、やや分かりにくいが、平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」は次のように述べる。要は、新たな危険有害性の情報がSDSなどにより提供された場合などをいうのである。

【平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号】

5 実施時期について

(1) 指針の5は、リスクアセスメントを実施すべき時期について定めたものであること。

(2) (略)

(3) 指針の5(1)ウの「化学物質等による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき」とは、化学物質等による危険性又は有害性に係る新たな知見が確認されたことを意味するものであり、例えば、国連勧告の化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(以下「 GHS 」という。)又は日本工業規格 Z 7252に基づき分類された化学物質等の危険性又は有害性の区分が変更された場合、日本産業衛生学会の許容濃度又は米国産業衛生専門家会議(ACGIH)が勧告する TLV-TWA 等により化学物質等のばく露限界が新規に設定され、又は変更された場合などがあること。したがって、当該化学物質等を譲渡し、又は提供した者が当該化学物質等に係る安全データシート(以下「SDS」という。)の危険性又は有害性に係る情報を変更し、法第57条の2第2項の規定に基づき、その内容が事業者に提供された場合にリスクアセスメントを実施する必要があること。

(4)~(7) (略)

コンピュータで分析する作業衣の男女

※ イメージ図(©photoAC)

従って、施行日前から取り扱っている物質を、施行日前と同様の作業方法で取り扱う場合であっても、危険有害性等が変化しなければ法律上はリスクアセスメントを行う必要はない。しかし、指針では、過去にリスクアセスメントを実施したことがない、または実施結果が確認できない場合は、リスクアセスメントを実施するよう努める必要がある。

なお、法律上の義務がないからといって、「努める」だけでよいとは考えてはならない。事業者は、私法上、労働者への安全配慮義務を負っているのであり、確実にリスクアセスメントを行わなければならない(※)

※ この点については「安衛法の遵守では足りない理由とは」を参照して頂きたい。いずれにせよ、有害と分かっている化学物質について、リスクを評価しないまま労働者に使用させることは、違法性の高い行為と考えるべきである。


(3)化学物質への直接接触による災害の防止

化学物質への直接接触による災害の防止(※)は、最終改正後の安衛則第594条の2~第596条(2023年4月~2024年3月までは第594条から~第596条)によって規制される。

※ 詳細は「皮膚等障害化学物質等による障害防止」を参照して頂きたい。

この規定は、皮膚等障害化学物質等(※)については、前提条件なしの義務規定(2023年4月~2024年3月までは努力義務規定)であり、その他の化学物質(皮膚等障害化学物質等及び皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなものを除く。)については、前提条件なしの努力義務となっている。

※ 皮膚等障害化学物質等とは、「皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質又は化学物質を含有する製剤」である。


(4)SDS 交付・ラベル表示、事業場内のラベル表示

ア 混合物の SDS 及びラベル表示の内容について

リスクアセスメント対象物は、今後、毎年追加され、最終的に 2,900 種類の化学物質が対象となることとされている(※)

※ 詳細は「「自律的な管理」の対象とその問題点」を参照して頂きたい。

ところで、混合物である SDS の対象物質(通知対象物)について、一部の事業者に次のような誤解があるようだ。

【化学物質の自律的管理と SDS に関するよくある不安感】

混合物の SDS は、その混合物中に含まれる成分で SDS の対象となるものについての危険性・有害性を記入すればよい。

従って、混合物の SDS は、「その混合物中に含まれる成分のうち SDS の対象となるもののみからなる混合物」であるとして記載するべきである。

法令(安衛令別表第9等)の改正によって、新たに、混合物中の他の成分が SDS の対象となった場合、SDS の内容の変更が必要となる。

実は、これは法的には、誤解というべきである。通知対象物は、安衛令第18条の2に定められている。ある混合物に安衛令別表第9等の成分が裾切り値(安衛則別表第2下欄参照)以上含まれている場合、法的には、SDS の対象となる成分以外の成分を含めた、その混合物そのものが通知対象物となるのである。

すなわち、SDS の内容は、混合物の場合は、法令の条文上はその混合物についてのものとしなければならないのである。従って、混合物に SDS の対象とならない成分が含まれている場合、その成分が新たに SDS の対象となったとしても、SDS の内容を変更する必要はないはずである。

ところが、平成 18 年 10 月 20 日基安化発第 1020001 号「労働安全衛生法等の一部を改正する法律等の施行等(化学物質等に係る表示及び文書交付制度の改善関係)に係る留意事項について」において、混合物の危険有害性等について、「混合物において、混合物全体として有害性の分類がなされていない場合には」、「含有する表示対象物質の純物質として」「物質ごとに記載することで差し支えない」としている(※)

※ 法改正の際の事情から、行政がやむなく成分ごとの表示を認めたものであるが、このような成分ごとの表示は望ましいことではない。とりわけ危険性についてまで、成分ごとの表示を認めているが、これは SDS 制度における最大の誤りというべきである。

従って、この通達によって成分の純物質としての表示を行っているのであれば、それまで SDS の対象となっていない成分があらたに SDS の対象となれば、その成分の純物質としての危険有害性情報を追記しなければならなくなる。


イ SDS 交付・ラベル表示はいつまでに行うべきか

もちろん、安衛令等の改正により、新たに通知対象物が追加となった場合、それらの化学物質について SDS を公布しなければならない。その時期は次のように考えられる。

安衛法第 57 条の2は、「譲渡し、又は提供する者は、」SDS を相手側に交付しなければならないとされている。これは、譲渡し、又は提供するときまでに行う必要があることを意味している。

表 SDS 交付・ラベル表示を行うべき時期
状況 実施すべき時期
施行時期の前から継続的に譲渡提供しており、施行後も継続的に譲渡提供している場合 施行のときまでに実施しなければならない。
施行時期の前に譲渡提供したことがあり、施行後も断続的に譲渡提供している場合 施行後、最初に譲渡・提供するときまでに実施しなければならない。
施行時期の前に譲渡提供したことがあり、施行後は譲渡提供していない場合 法律的には実施する必要はない。しかし、施行時期以前に譲渡提供した量などから、譲渡提供した相手側がその化学物質を取り扱っていると思われる場合には、SDS を交付するべきであろう。
施行時期の前に譲渡提供したことがなく、施行後に譲渡・提供する場合 譲渡・提供する前までに実施する必要がある。

ウ 事業場名のラベル表示

事業場名のラベル表示(※)に関する改正後の条文は次のようになっている。

※ 詳細は「事業場内の化学物質のラベル表示」を参照して頂きたい。

【労働安全衛生規則】

第33条の2 事業者は、令第十七条に規定する物又は令第十八条各号に掲げる物を容器に入れ、又は包装して保管するとき(法第五十七条第一項の規定による表示がされた容器又は包装により保管するときを除く。)は、当該物の名称及び人体に及ぼす作用について、当該物の保管に用いる容器又は包装への表示、文書の交付その他の方法により、当該物を取り扱う者に、明示しなければならない。

従って、施行後にラベル表示の対象となる物を容器に入れ、又は包装して保管するときに実施しなければならない。


(5)第3管理区分となった作業場に対する措置

化学物質の自律的管理においては、化学物質関連の特別規則が廃止されるまでの措置として、これらの特別規則の規制の強化が行われている。

そのひとつが、第3管理区分となった作業場に対する措置(※)である。これは、施行後に最初に行った作業環境測定で、作業場が第3管理区分となった場合に実施すればよい。

※ 詳細は「作業環境測定の第3管理区分への対応」を参照して頂きたい。

法律上は、施行時期の前の作業環境測定で第3管理区分となったとしても実施する必要はない。しかしながら、第3管理区分となった作業場では、自律的管理の法令改正の前から、第1又は第2管理区分とすることが義務付けられているのであり、そのための措置をとっていなければならない。

また、安全配慮義務の観点からも、第3管理区分となったまま作業を行わせている場合には、適切な保護具の着用と保護具の管理を行うべきであり、施行の時期まで何もしなくてもよいなどということではないことは当然である。


(6)監督署長の指示への対応

自律的管理の法令改正では、自律的管理が適切に行われることを担保する手段として、監督署長指示の制度を創設した(※)

※ 詳細は「化学物質管理への労基署長の改善指示」を参照して頂きたい。

これは、当然のことながら監督署長の指示があってから対応するべきものである。


(7)作業記録の作成と保存

自律的管理においては、リスクアセスメント対象物を製造・取り扱う業務に従事する労働者について、1年を超えない期間ごとに1回、定期に、記録を作成して3年間(がん原性物質については 30 年間)保存しなければならないこととされる(※)

※ 詳細は「ばく露濃度を低下させる方法」の2の(2)留意事項の項を参照して頂きたい。

実施時期は、施行の時点から1年以内に記録して、その後は1年以内ごとにていきにおこなえばよいこととなる。


(8)化学物質によるがん発生の把握

化学物質の自律的管理における法令会で、「1年以内に2人以上の労働者が同種のがんに患したことを把握した場合」には、医師の意見を聴き、医師が業務に起因する疑いがあると判断した場合には都道府県労働局長に報告することが義務付けられた(※)

※ 詳細は「複数のがん発症時の疾病の報告」を参照して頂きたい。

この場合、施行の時以降に、1年以内に2人の労働者が同種のがんに罹患したことを把握した場合に実施しなければならないことは当然である。問題は、施行の時よりも前に1人の労働者ががんに罹患し、施行の時以降にべつな労働者が癌に罹患して、その間隔が1年以内だった場合に実施するべきか、また、2人の労働者が施行の時よりも前に1年以内に同種のがんに罹患したが、把握したのは施行の時以降だった場合にどうするかである。

条文からは、いずれの場合も実施しなければならないと考えるのが自然である。なお、施行通達(※)では、「趣旨を踏まえ、例えば、退職者も含め10年以内に複数の者が同種のがんに罹患したことを把握した場合等、本規定の要件に該当しない場合であっても、それが化学物質を取り扱う業務に起因することが疑われると医師から意見があった場合は、本規定に準じ、都道府県労働局に報告することが望ましいこと」とされている。

※ 令和4年5月 31 日基発 0531 第9号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について


3 最後に

禁止の表示をする女性

※ イメージ図(©photoAC)

最後になるが、法令の改正の時は、ただちに対応できない事業者がいることに配慮して、公布から施行の時機をかなり遅らせるのが通常である。

しかしながら、労働安全衛生法のような労働者の健康と安全をも盛るための法令の改正は、そもそも事業者には労働者の安全を確保する義務があることからも、できる限り早めに実施することが望ましい。

法律の義務まで余裕があるからという理由で、その実施を遅らせるようなことは、労働者の生命と健康の確保の観点から、あってはならないことであることを最後に指摘しておきたい。


【関連コンテンツ】

化学物質のイメージ

化学物質管理への労基署長の改善指示

化学物質の「自律的な管理」によって労働基準監督署長による改善の指示等の制度が創設されます。この制度について詳細に解説しています。

打ち合わせをする男女作業員

作業環境測定の第3管理区分への対応

作業環境測定の結果が管理区分Ⅲとなった場合の規制強化について詳細に解説します。

化学物質を扱う技術者

有機則、特化則等の適用除外

化学物質の自律的管理制度の導入にあたり、特別規則の廃止より前に自律的な管理が適正に実施でき、かつ優良な事業場については、特別規則の適用が除外されます。適用除外制度について解説します。

化学物質を扱う技術者

ばく露濃度を低下させる方法

自律的管理における職業ばく露濃度の低減についての基本的な枠組みを解説します。





プライバシーポリシー 利用規約