アーク溶接関連特化則改正の経過措置




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アーク溶接作業

※ イメージ図(©photoAC)

安衛令、特化則等が改正され、2021年4月よりアーク溶接等の作業が特化則で規制されることとなった。ところが、この経過措置が施行の直前に改正されるなど、きわめて分かりにくいものとなっている。

そこで、これを図式化して分かりやすくすると共に、若干の解説を加えた。

なお、本稿の文責はあくまでも柳川にあり、厚労省の責任ではないことをお断りしておく。



溶接ヒューム関連、特化則改正の経過措置

執筆日時:

1 法令改正の概要

2021年(令和3年)4月1日に施行されるアーク溶接等に関する労働安全衛生法施行令(安衛令)、特定化学物質障害予防規則(特化則)等の改正の内容は、かなり複雑だが大きく4つあると考えると分かりやすい。

 溶接ヒュームの特定化学物質(第2類物質)への追加(作業環境測定は義務付けない)

 これまで、第2類特定化学物質であった「マンガン及びその化合物(塩基性酸化マンガンを除く。)」を「マンガン及びその化合物」と変更する(※)

※ すなわち、マンガンの化合物についての特定化学物質としての規制は、これまで塩基性酸化マンガンは有害性が低いとして除いていたが、今後は除外しないということ。

なお、以下、これを「マンガン等」と表現するが、改正前と改正後で塩基性酸化マンガンが含まれるかどうかが異なるものとして読んでいただきたい。

 特化則に新たに第38条の21を追加して、「金属アーク溶接等作業」時の規制を設けたこと。

 その他

・ 管理濃度を「マンガンとして0.05mg/m3」に 引き下げたこと(改正前は0.2mg/m3)。これに伴い、局所排気装置の具備すべき性能について、マンガン等についての抑制濃度を「マンガンとして0.05mg/m3」に引き下げたこと。

・ なお、今回の改正とは別件であるが、これまでもアーク溶接・溶断等の作業において、母材又は溶接材(溶接棒、ワイヤ等)にマンガン等が含まれている場合は作業環境測定が義務付けられていたが、その方法として「個人サンプリング法による作業環境測定」の方法が認められる(※)。関連する法令改正なので、併せて解説する。

※ その試料採取方法は、分粒装置(レスピラブル粒子(肺胞に到達する粒径の粒子)を分粒できるもの)を用いるろ過捕集法とされている。

【関連記事】として、「溶接ヒューム関連、安衛法令改正」及び「化学物質 Q&A 被覆アーク溶接に必要な呼吸用保護具」も参照して頂きたい。

2 改正の経過措置

さて、この経過措置をまとめたものが次図である。上記③の新たな特化則第38条の21の関係が特に複雑なので、これを中心にまとめている。以下、上側の欄から説明を加えてゆく。

アーク溶接等関連の法令改正の経過措置

図をクリックすると拡大します

(1)溶接ヒュームの気中濃度の測定

新たな特化則第38条の21第2項で、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場について、ヒュームの気中濃度の測定(※)及び結果の記録の保存が義務付けられている。これは、換気量の増加その他必要な措置の前提となるものである。

※ これは「作業環境測定」ではない(作業環境測定は、安衛令第21条第7号のカッコ書きにより義務付けられていない。)。

従って、本項による測定は作業環境測定士が行う必要はないが、第一種作業環境測定士、作業環境測定機関等、その測定について十分な知識及び経験を有する者が行うべきであろう。なお、結果の記録の保存は、作業を行わなくなった後3年間であるが、電磁的記録でもかまわない。

そして、これは2022年(令和4年)の4月1日以降に、「新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするとき」に実施するべきものである。

しかし、経過措置によって、2021年(令和3年)4月1日から2022年(令和4年)4月1日前までには、少なくとも1回、実施する必要がある(※)

※ 改正省令の附則第2条に第2項が加わったことにより、結果の記録の保存も必要となった。

(2)空気中の濃度の測定の結果に基づく措置

次に、同第3項では「空気中の溶接ヒュームの濃度の測定の結果に応じて、換気装置の風量の増加その他必要な措置を講じなければならない」としている。これは、上記「2021年(令和3年)4月1日から2022年(令和4年)4月1日前まで」の間に実施したものも含まれる。しかしながら、その「措置」は法令上は2022年(令和4年)の4月1以降でよいということになっている(※)

※ 改正省令附則第3条では、「令和四年三月三十一日までの間は、同条第三項、第四項、第六項から第八項まで及び第十項(同条第六項の呼吸用保護具の使用に係る部分に限る。)の規定は、適用しない」とされていたが、施行の直前になって「令和四年三月三十一日までの間は、同条第三項、第四項、第六項及び第十項(同条第六項の呼吸用保護具の使用に係る部分に限る。)の規定は、適用しない」と修正された。どちらにしても第3項の適用はない。

しかし、厚生労働省のパンフレットでは、「測定を行った場合は、令和4年3月31日までに『換気風量の増加その他必要な措置』を講じていただく必要があります」とされている。上図では、このパンフレットの記述を採用している。

(3)再度の空気中の濃度の測定

また、同第4項は「上記の措置を講じたときは、その効果を確認するため、その作業場について、最初の測定と同様の方法で、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない」としている(※)。上記の注記で示した厚生労働省のパンフレットの趣旨に鑑みれば、本項にいう「措置」には、上記「2021年(令和3年)4月1日から2022年(令和4年)4月1日前まで」の間に実施した「措置」も含まれると考えるべきであろう。しかしながら、本項による測定そのものは法令上は2022年(令和4年)の4月1以降でよいこととなる。

※ 結果記録は、最初の測定と同じく、作業を行わなくなった後3年保存しなければならない。

(4)有効な呼吸用保護具の使用

そして、同第5項では、金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは 、屋内又は屋外であるとにかかわらず当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならないとされ、同第6項では 「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、厚生労働大臣の定めるところにより、当該作業場についての第二項及び第四項の規定による測定の結果に応じて、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない」としている。

これらの対策は、2022年(令和4年)4月1日以降に適用される。しかし、改正前においても、粉じん障害防止規則第7条第2項により、一定の場合には呼吸用保護具の着用が必要となる。また、母材中にマンガン等を含む場合には特定化学物質障害予防規則第36条の3第3項等が適用される場合もある。

2022年4月1日前は、常に呼吸用保護具の使用が必要ないということではない。

(5)フィットチェック

さて、同第7項では、呼吸用保護具(面体を有するもの(※)に限る。)を使用させるときは、1年以内ごとに1回、定期に、呼吸用保護具が適切に装着されていることを確認(フィットチェック)しなければならないとされている。

※ 面体を有しない呼吸用保護具には、頭からかぶるフード形や、顔面の前面に付けるフェイスシールド形等がある。アーク溶接でフード形が使用されることはほとんどないと思われる。また、フェースシールド型は使用する意味がない。

これは2022年(令和4年)4月1日から施行される予定だったが、規格(JIS)の改正作業が遅れていることから、再度の改正パブコメ時の要綱)が行われ2023年(令和5年)4月1日に延期されることとなった。

※ 改正省令の附則第3条が修正され、新たに第2項が加わったことによって延期される。

(6)作業主任者の選任

安衛令第6条第十八号及び別表第3の改正により、溶接ヒュームを製造し、又は取り扱う作業(試験研究のために取り扱う作業及び厚生労働省令で定めるものを除く。)については、屋内、屋外を問わず作業主任者の選任を要することとなる。これは、改正する政令附則第2項の規定により、2022年(令和4年)4月1日より施行される。

(7)特定化学物質障害予防規則の他の規定

新たな特化則第38条の21第9項により、アーク溶接等の作業を行う屋内作業場の床等を、水洗等によって容易に掃除できる構造のものとし、水洗等粉じんの飛散しない方法によって、毎日1回以上掃除することが義務付けられる。

また、溶接ヒュームと塩基性酸化マンガンが新たに特定化学物質地されたことにより、以下の規定等が適用される。

これらはいずれも2021年(令和3年)4月1日より適用される。

  • 安全衛生教育(雇入れ時・作業内容変更時)(安衛則第35条)
  • ぼろ等の処理(特化則第12条の2)
  • 不浸透性の床(特化則第21条)
  • 関係者以外の立入禁止措置(特化則第24条)
  • 運搬貯蔵時の容器等の使用等(特化則第25条)
  • 特定化学物質作業主任者の選任(特化則第27条)
  • 休憩室の設置(特化則第37条)
  • 洗浄設備の設置(特化則第38条)
  • 喫煙又は飲食の禁止(特化則第38条の2)
  • 有効な呼吸用保護具の備え付け等(特化則第43条及び第45条)

(8)健康診断の実施

安衛令第22条第三号及び別表第3の改正により、作業場が屋内であるか屋外であるかを問わず、常時、溶接ヒュームを製造し又は取り扱う作業に従事する労働者には、特殊健康診断を行うことが義務付けられる(※)。これは、2011年(令和3年)4月1日より適用される。

※ 金属アーク溶接等作業に常時従事する労働者に対しては、じん肺法に基づく健康診断も併せて実施する必要がある。

なお、この健康診断は、新たに作業に従事させる時及びその後6月以内ごとに定期に行う。健診項目は、まず、特化則別表第3の健診を行い、その結果で異常の疑いがあり医師が必要と認めるときは、さらに同規則別表第4の健診を行う。

また、発がん性物質以外の化学物質の原則の通り、健康診断の結果は5年間保存する必要がある。

(9)作業環境測定

さて、塩基性酸化マンガンが特定化学物質に追加されたことにより、2021年(令和3年)4月1日以降は、これらの測定も必要となる。ただ、これらの測定が必要なケースでは、これまでもマンガン等の測定を行っていたであろうから、新たに測定する必要があるケースはまれだろう。

なお、個人サンプリング法(作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う作業環境測定に係るデザイン及びサンプリング)による作業環境測定の対象となる「低管理濃度特定化学物質」に「マンガン及びその化合物」が追加されるが、この適用期日も2011年(令和3年)4月1日となる。

繰り返しになるが、溶接ヒュームについては、作業環境測定は義務付けられていない。


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