技能講習・特別教育等の講師要件




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最近、高齢者が元気になっていることや、年金制度の不備もあって、定年退職後に技能講習や特別教育等の安全衛生教育の講師になりたいという方が増えています。

しかし、技能講習は、資格制度の一部であることから講師になれる者の条件が安衛法に法定されています。従って、十分な知識や講師としての資質を備えていても、法定の要件に合致しないと講師にはなれません。

一方、特別教育など資格制度ではない教育は、講師要件は法令には定められておらず、十分な知識と講師としての資質さえあれば講師になることは可能です。なお、通達で、望ましい講師の要件を定めているケースはあります。

本稿では、技能講習や特別教育その他の安全衛生教育の講師になりたいと希望する方のために、安全衛生関連の教育等の講師になるための要件をまとめています。



1 はじめに

執筆日時:

最終改訂:


(1)安衛法令等に定める安全衛生教育等の種類

学習する男女

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労働安全衛生法では、資格制度に関する民間機関が行う講習として、技能講習制度(安衛法第 14 条(作業主任者)及び第 61 条(就業制限業務))の他、免許試験の免除要件としての教習(安衛法第 75 条)を定めている。

また、実施を義務づける教育として、雇入れ時等の教育(安衛法第 59 条第1項及び第2項)、特別教育(安衛法第 59 条第3項)、職長教育(安衛法第 60 条)、能力向上教育(安衛法第 60 条の2)等を定めている。

この他、安全管理者等に対する教育等(安衛法第 19 条の2)、健康教育(安衛法第 69 条第3項)についての規定も置いている。

2020年5月には、化学物質管理者に対する講習についても定められた。また、新たに義務付けられる保護具着用管理責任者については、通達で一定の講習の受講が求められている。

さらに、刈払機取扱作業者に対する教育建設業等「携帯用丸のこ盤」作業従事者に対する教育、高所作業車やローラー運転業務などに関する危険再認識教育など、通達によって各種の教育も定められている。

このように、労働安全衛生に関する教育は、きわめて幅広く、様々なものが定められている。

なお、2018 年(平成 30 年)には、国土交通省等と連携を図り、「石綿を含有する建材を建築物の解体時などに調査する者のための講習制度」を創設している。


(2)教育の講師要件の考え方

教育を行う女性

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まず、安衛法上の資格制度に関するものとして、技能講習、及び、免許の免除要件の教習については、講師となるものの資格(※)は、安衛法第 77 条第2項第二号によって定められている。

※ ただし、技能講習又は教習は、都道府県労働局長の登録を受けた登録教習機関でなければ行うことはできない。従って、登録教習機関の講師とならなければ、技能講習等の講師となることはできない。

そのため、技能講習又は教習に関して十分な知識・経験を有し、かつ講義の能力に優れていたとしても、それだけで講師になれるわけではない。あくまでも法定の要件を満たさなければならないのである。

一方、特別教育、職長教育などの教育については、法令では講師の要件は定められていない。従って、講義内容についての十分な知識・経験を有し、かつ講義の能力に優れていれば、原則として講師になることは可能である。

※ 告示、通達等に、講師として「望ましい者」が定められているケースはある(詳細は後述)。

以下、技能講習等を安全系と衛生系の2つに分けて具体的な内容を解説する。


2 各種、安全衛生教育等の講師の要件

(1)技能講習及び免許の免除要件の教習

ア 全般的事項

技能講習及び免許の免除要件である教習の講師の要件は、先述したように、安衛法第 77 条第2項第二号によって定められている。

具体的には、技能講習の講師の要件は安衛法別表第 20 各号、免許の免除要件である教習の講師の要件は同法別表第 21 及び別表第 22 に定められている。

そして、これらの「条件」の欄には「前〇号に掲げる者と同等以上の知識経験を有する者であること」という号が付されている。この「同等以上の知識経験を有する者」については、労働基準局長通達によって示されている。

その通達とは、平成16年3月19日基発第0319009号「公益法人に係る改革を推進するための厚生労働省関係法律の整備に関する法律の施行並びにこれに伴う関係政令、省令及び告示の改正等について」のことで、講師要件は「別添8(※)に示されている。

※ なお、この通達の記のⅠの1の(8)の[3]講師等(第2項第2号関係)を参照されたい。

また、この通達の解釈が、令和3年9月1日基安安発 0901 第4号・基安労発 0901 第3号・基安化発 0901 第2号「技能講習の講師要件に係る質疑応答について」の「別紙」に記されている。


イ 安全系

(ア)全般的事項

まず、安全系として、技能講習(就業制限業務/安全関係作業主任者)及び免許の免除要件の教習について解説する。なお、現実には、安全系の講師要件に該当する講師希望者はきわめて少ない(※)のが実態である。そのため、ほとんどの登録教習機関が講師不足に悩んでおり、講師の平均年齢は極めて高い。

※ 建設機械などの運転の実務経験がある場合で、教育の講師をしたいというケースがほとんどないのである。また、実技講習は屋外で行われることも多く、夏は炎天下、冬は吹き曝しで、雨が降る中で教育を行うことも多い。

このため、講師要件に合致する希望者はきわめて少ないのである。なお、報酬・勤務時間などの条件は機関によってばらつきがある。

従って、講師の要件を満たしさえすれば、高齢者であっても講師として就職することはそれほど難しいことではない


(イ)学科講師

学科の講師については、ほとんどの科目で実務経験が必要となる。高校、大学で一定の学部・学科を修了していれば、この実務経験は短くてもよいこととなる。しかし、学歴要件を満たさなくても、10 年の実務経験があればクリアできる。個別の区分についての詳細は、前記の法令、通達を参照して頂きたい。

求められる実務経験の内容は、科目によって様々だが、それぞれの該当する機械の運転の経験が求められる場合や、自動車の設計、製作(※)、検査又は整備の業務が求められる場合もある。

※ 「製作」の実務経験とは何を意味するのかについての解釈は示されていない。現在の自動車の製造現場の業務のかなりの部分は、マテハン作業(材料を機械に取り付けたり取り外したりといった、物を扱う作業)であるから、講師の要件としては疑問を感じる規定である。

しかし、法令・通達によれば、自動車の製造工場で 10 年間、マテハン作業を行っていれば、該当する科目の講師になれることとなる。

関係法令の科目についてのみ、講師になるには安全の実務経験が必要で、学歴に応じて必要な実務経験の長さは、大卒で1年、高卒で5年、その他の場合は 10 年となる。

要するに、「実務経験」を重視した規定となっているのである。そのため、労働安全の専門家が講師となる可能性は、「関係法令」の科目を除き(※)ほとんどないといってよい。

※ 技能講習の実務においては、実技と学科の講義のすべてを同じ講師が担当することが多く、法令だけを専門に担当する講師はほとんどいないのが実態である。そのため、技能講習や教習の講師に労働安全衛生の専門家が就任するケースはほとんどない。


(ウ)実技講師

実技の講師の要件は、それぞれの機械の運転の業務の実務経験のみといってよい。ただし、一定の学部・学科の高卒者、大卒者は、実務経験が短くてよい。

必要な実経験の長さは、大学卒が1年、高卒が3年、その他が 10 年である。

実技講師については、実務経験がとくに重視されているのである。この分野では、安全衛生の専門家が講師として活躍する機会はないと考えてよい。


イ 技能講習(衛生関係作業主任者)

書類と化学物質

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衛生関係の作業主任者に関する技能講習の講師要件は、安全関係とは大きく異なっている。また、酸欠関係を除けば実技講習がなく、酸欠関係の実技講習も室内で実施できるものなので、技能がなくても知識・経験と講師としての資質があれば講師となることは可能である。

科目によって、医師、歯科医師又は薬剤師(いずれも実務経験が必要)であることを要するもの、労働衛生に係る工学に関する研究又は実務に従事した経験(学歴によって期間は異なる)や労働衛生コンサルタント(衛生工学)であることを要するもの、労働衛生保護具に関する研究又は実務の経験を要するもの、労働衛生の実務に従事した経験を要するものなどがある。

すなわち、科目によって、医師、歯科医師又は薬剤師であるか、労働衛生各分野の実務経験を要するのである。このため、医師又は労働衛生の専門家が講師になるケースがほとんどである。


(2)雇入れ時教育・特別教育・職長教育

雇入れ時教育、特別教育、及び、職長教育については、法令上は講師の要件は定められていない。特別教育規程にも、講師に関する規定はない。

ただし、通達(昭和47年9月18日基発第601号の1「労働安全衛生規則の施行について」等)により、「講師は、教育事項について必要な知識および経験を有する者とすること」とされている。

そもそも制度の創設時には、事業場内で教育を行うことを想定していたのである。講師の要件を、厳しく規定してしまうと、教育ができなくなってしまうと考えられたのであろう。その事業場で、教育の内容に関して知識・経験を有している者が行えばよいのである。

このため、登録教習機関が特別教育を行っている場合は、技能講習の講師が兼任しているケースが多い。一方、大規模な事業場等で事業者が直接教育を行う場合は、安全コンサルタントや衛生コンサルタントなど、安全衛生の外部の専門家が委託を受けて講師を務めることも多い。


(3)危険有害業務従事者安全衛生教育/能力向上教育

安衛法第 62 条の2による教育のうち、危険有害な業務に従事している者に対する教育は「危険有害業務従事者安全衛生教育」(※)と呼ばれ、作業主任者に対するものは「能力向上教育」と呼ばれる。

※ 法令上、決まった呼び方があるわけではなく、正確には「危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育」と呼ぶべきであろうが、「危険有害業務従事者安全衛生教育」と略されるケースが多い。

講師の要件は、「危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針」に「当該業務についての最新の知識並びに教育技法についての知識及び経験を有する者とする」とされている。

そして、平元年5月 22 日基発第 247 号「危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針の公示について」には、講師について「研修」を行うことを求めている。

(4)講師

   安全衛生教育の適切な実施には、講師が特に重要な位置を占めており、その人材の養成と確保が必要である。

   このため、安全衛生教育を実施する安全衛生団体等は、原則として研修等の実施により人材の養成を図り、特に地域に配慮した人材の確保に努める必要があること。

   事業者自らが行う教育の講師についても、同研修等の修了者を活用することが望ましいこと。

   なお、「教育技法についての知識及び経験」とは、具体的には、教育の対象者、教育の内容等に応じた教育方法の選択、教材の作成又は選定、講師間の調整等教育実施前の準備、教育の実施並びに教育実施後の効果の評価方法に関する知識及び経験をいうものであること。

※ 平元年5月 22 日基発第 247 号「危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針の公示について

この通達にいう「講師が受講するべき研修」については、個別の教育の区分ごとに通達が示されている。例えば、玉掛け業務であれば、次のような通達がある。

(3)安全衛生団体等が実施する安全衛生教育に関しては、社団法人日本クレーン協会が実施する玉掛業務従事者安全衛生教育講師養成講座を修了した者又は教育カリキュラムの科目について学識経験を有する者を講師に充てること。

   また、労働安全コンサルタントも講師として適切であること。

   なお、事業者が実施する教育についても、玉掛業務従事者安全衛生教育講師養成講座を修了した者を充てることが望ましいこと。

※ 平成5年 12 月 22 日基発第 709 号「玉掛業務(労働安全衛生法施行令第20条第16号の業務)従事者安全衛生教育について

この他、平成2年3月1日基発第 114 号「フォークリフト運転業務従事者安全衛生教育について」、平成4年9月 17 日基発第 518 号「機械集材装置運転業務従事者安全衛生教育について」、平成5年6月 11 日基発第 366 号「車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転業務従事者安全衛生教育について」など(※)が定められているので参考にされたい。

※ これらはごく一例に過ぎない。他は、1990年(平成2年)から数年間の通達のうち、表題が「業務従事者安全衛生教育について」又は「作業主任者能力向上教育について」となっているものを参照されたい。

このように通達によって、講師として望ましい要件(受講するべき研修)が定められている。登録教習機関などの教育機関が実施する教育では、これらの通達の要件を満たす講師が研修を行っているケースがほとんどである。


(4)通達による教育

ア 概論

通達による安全衛生教育の種類はきわめて多い。ここでは、実施機関数と受講者数の最も多いものとして「刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育」及び「建設業における安全衛生責任者の選任時教育」、また、実施機関数は多くはないが注目されるものとして「危険再認識教育」を取り上げる。


イ 刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育

通達による安全衛生教育は、ややもするとあまり実施されないことが多い。しかし、刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育は、公的な機関から刈作業の受注を受ける場合に委託の条件とされることが多いこともあり、教育の実施機関、受講者ともに多い教育である。

この教育は、基発第66号平成12年2月16日「刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育について」によって「刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育実施要領」が示されている。

これによると、講師については次のように定められている。

(4)講師については、労働安全コンサルタント若しくは労働衛生コンサルタント、林業・木材製造業労働災害防止協会に所属する安全管理士若しくは衛生管理士又は別紙の教育カリキュラムの科目について学識経験を有する者を充てること。

※ 「刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育実施要領

すなわち、講師の要件はかなり緩やかに決められており、「教育カリキュラムの科目について学識経験を有する者」でかまわないというやや抽象的な要件となっている。

講師の例として、労働安全衛生コンサルタント、林災防の安全管理士・衛生管理士が挙げられているが、ほとんどの教育機関で、これらの者が講師をしているケースはないのが実態である。


ウ 建設業における安全衛生責任者の選任時等の教育

安全衛生責任者は、安衛法第 16 条によって、特定元方事業者が統括安全衛生責任者を選任しなければならない場合に、仕事を自ら行う関係請負人(下請けの事業者)に選任が義務付けられている。

現実には、職長が選任されることが多いと考えられるため、平成 12 年3月 28 日基発第 179 号「建設業における安全衛生責任者に対する安全衛生教育の推進について」によって、「職長・安全衛生責任者教育」を行うことが定められている。

その講師については次のように定められている。

(2)安全衛生団体等が職長・安全衛生責任者教育を行う場合は、次に掲げる者の中から講師を充てること。

[1]平成13年3月26日付け基発第177号「職長等教育講師養成講座及び職長・安全衛生責任者教育講師養成講座について」(以下「第 177 号通達」という。)の別紙2に示す職長・安全衛生責任者教育講師養成講座を修了した者

[2]平成18年5月12日付け基発第0512004号「建設業における安全衛生責任者に対する教育及び職長等教育講師養成講座等のカリキュラムの改正について」による改正前の第 177 号通達(以下「旧第 177号 通達」という。)の別紙3に示す職長・安全衛生責任者教育講師養成講座を修了した者(旧第177号通達の記の3に基づき所定の科目を修了した者を含む。)であって、第177号通達の別紙2の科目4の「(1)危険性又は有害性等の調査の方法」及び「(2)危険性又は有害性等の調査の結果に基づき講ずる措置」に相当する科目を受講したもの

   なお、事業者が実施する職長・安全衛生責任者教育についても、上記に示す者を講師に充てることが望ましいこと。

※ 平成 12 年3月 28 日基発第 179 号「建設業における安全衛生責任者に対する安全衛生教育の推進について

なお、[2]の規定は、旧通達の講座を修了した者であれば、新たに[1]の講座を受けなおす必要はないということを示しているにすぎない。


ウ 危険再認識教育

危険再認識教育は、以下の3つの業務について、通達によって実施要領が定められている。

【危険再認識教育について定める通達】

これらはかつて広範に実施されていたが、近年では実施機関、受講者数ともにかなり減少しているのが実態である。

この中では、高所作業車運転業務従事者が比較的堅調に続いているので、以下、高所作業車運転業務従事者危険再認識教育を例を挙げて説明する。他の2業種は、上記通達を参照して頂きたい。

上記の通達「高所作業車運転業務従事者危険再認識教育について」の別添1「高所作業車運転業務従事者危険再認識教育実施要領」によると、講師の要件は次のようになっている。

(4)講師については、別紙2の「高所作業車危険再認識教育講師養成研修カリキュラム」に基づく研修を修了した者又は当該教育カリキュラムの科目について学識経験等を有する者を充てること。

※ 「高所作業車運転業務従事者危険再認識教育実施要領

なお、この通達にある「高所作業車危険再認識教育講師養成研修」は、小規模ではあるが現在も行われている。多くの教育機関で、高所作業車危険再認識教育の講師は、この研修を修了した者が当たっている。


(5)化学物質の自律的な管理における教育

ア 化学物質管理者講習

2022年の政省令改正により、化学物質については自律的な管理に転換することとされている。自律的な化学物質管理については、当サイトの「化学物質の自律的な管理 総合サイト」を参照して頂きたい。

また、自律的な管理においては、約2,900種類のリスクアセスメント対象物を製造し又は取扱う事業場には、化学物質管理者を選任しなければならない。そして、リスクアセスメント対象物を製造する事業場では、化学物質管理者は化学物質管理者講習を受けた者から選任しなければならない。なお、化学物質管理者講習については、当サイトの「化学物質管理者講習の効果的活用」を参照して頂きたい。

厚労省は、本告示へのパブリックコメントへの回答において、化学物質管理者講習の講師について、「必要な知識や経験を有する者を想定」しているとし、具体的な講師の資格要件等を定める予定はないとしている。

従って、化物質管理に詳しい労働衛生専門家が講師を務めることとなろう。


イ 保護具着用管理責任者研修

また、化学物質の自律的な管理において、一定の場合に保護具着用管理責任者の選任が求められる。保護具着用管理責任者の選任については、当サイトの「保護具着用管理責任者選任の留意事項」を参照して頂きたい。

保護具着用管理責任者については、令和4年5月 31 日基発 0531 第9号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」によって、一定の要件を満たす者を選任することとされているが、それに該当する者を選任することができない場合は、保護具の管理に関する教育を受講した者を選任することとされている。

従って、保護具着用管理責任者は一部の専門家を除き、選任の要件として、一定の研修を受けることが義務付けられることとなる。この研修の具体的な内容は、保護具着用管理責任者に対する教育の実施について(令和4年12月26日基安化発1226第4号)別紙別添1別添2別添3)によって示されている。

講師の要件は、「対象となる保護具等に関する十分な知識を有し、指導経験がある者等、別表のカリキュラムの科目について十分な知識と経験を有する者」とされているのみである。従って、十分な専門知識があれば、誰でも講師になれると考えられる。


3 最後に(どのような研修の講師に就任できるか)

(1)安全衛生の専門家

以上のことから分かるように、安全衛生の専門家が研修等の講師を行う場合、つぎの研修の講師であれば就任することは可能である。

【安全衛生の専門家が行うことができる安全衛生教育】

  • 技能講習(衛生関係作業主任者)(一部の科目を除く)
  • 雇入れ時教育・特別教育・職長教育
  • 危険有害業務従事者安全衛生教育/能力向上教育(労働安全衛生コンサルタン等の専門知識がある者を除き、講師養成研修を受けることが望ましい。)
  • 刈払機取扱作業者に対する安全衛生教育等の様々な通達による教育
  • 建設業における安全衛生責任者の選任時等の教育
  • 危険再認識教育(講師養成研修を受ける必要がある。なお、研修講師になれる機会は多くない。)
  • 化学物質管理者講習
  • 保護具着用管理責任者研修

このうち、技能講習(衛生関係作業主任者)のうち、化学物質関連のものは5年後に廃止される可能性があり(※)、今後、需要が伸びるとは考えにくい。現時点で講師になることは、お勧めできるものではない。

※ 詳細は、当サイトの「化学物質関連の作業主任者制度の行方」を参照して頂きたい。

書類と化学物質

※ イメージ図(©photoAC)

最後の「化学物質管理者講習」及び「保護具着用管理責任者研修」は、今後の1~2年間は、需要が急増することが考えられる。化学物質管理に詳しい労働衛生コンサルタント等にお勧めの研修である

なお、技能講習(就業制限業務/安全関係作業主任者)及び免許の免除要件の教習は、安全関係の専門家であったとしても、それぞれの区分の機械等の運転等の実務経験が必要であり、講師を務めることは事実上、不可能である。


(2)建設機械、荷役運搬機械等の運転等の実務経験がある場合

ドラグ・シヨベル、高所作業作業者等の建設機械、フオークリフト等の荷役運搬機械等の運転の実務経験がある場合、技能講習(就業制限業務/安全関係作業主任者)の講師になることが(法的に)可能である。

ただし、特定の学部・学科の大学、高校等を卒業していない場合、実務経験は 10 年間が必要となる。現実には、技能講習は、登録教習機関でなければ実施できないので、それらの機関に雇われるか、講師の請負契約をしなければならない。

ほとんどの登録教習機関では、講師の不足に悩んでおり、実務経験があり(※1)、かつ安全衛生教育の講師として適格な人材(※2)を、常に募集している状況である。また、本人の状況にもよるが、かなりの高齢まで働ける状況にある。

※1 実務経験のある企業から証明を受ける必要がある。企業が倒産している場合は、一般に同僚2名の証明でも可能であるが、各都道府県、各登録教習機関によって、より厳格な証明を求められる場合もある。

※2 実務経験があれば、必ず講師になれるというわけではない。力学や法令についての講義をする必要もあり、一定の能力があることは必要である。その能力の有無の判断は、各登録教習機関の考え方による。

技能講習の資格を持ち、一定の実務経験がある場合、定年後のひとつの進路として、技能講習の講師の道が考えられるかもしれない。


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