国家資格等のオンライン・デジタル化




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デジタルイメージ

※ イメージ図(©photoAC)

デジタル庁は「国家資格等のオンライン・デジタル化」を図ると案内しています。

このオンライン・デジタル化により、各種申請がオンラインによって可能となる他、デジタル資格者証(PDFファイル)を取得することができるようになるとされています。なお、このシステムを利用するためには、電子証明書が有効なマイナンバーカードを取得している必要があります。

デジタル庁によると、2024 年8月6日以降、順次、国家資格等のデジタル化が進められてゆきます。労働安全衛生関連の資格は、衛生管理者等の免許(20種)、労働安全衛生コンサルタント試験、作業環境測定士、各種の技能講習修了(69種)等が対象となり、いずれも2025年度以降に予定されています。

制度実施後は、デジタル資格証をメールで送付することを求められる場合も増える(※)と考えられます。有資格者の方や、逆に資格証明を求める側の方で、その内容や仕組みなどが気になっている方も多いと思います。

※ デジタル資格証は、偽造が事実上不可能になるため、今後、急速に利用が広まることが考えられる。なお、デジタル資格証はその資格が真正であることを証明するにすぎず、本人証明は別途必要になる。

その内容と仕組みについて、分かりやすく解説します。



1 はじめに

執筆日時:

一部改訂:


(1)国家資格等のオンライン化の導入とスケジュール

マイナンバーカードと免許証

※ イメージ図(©photoAC)

マイナカードの利用促進というねらいもあるのだろうが、政府(デジタル庁)は「国家資格等のオンライン・デジタル化」を図ることとしている。

現時点では、マイナ保険証の推進の陰に隠れた形になっており、既存メディアでも国家資格等のオンライン・デジタル化はあまり大きな話題とはなっていない。しかし、国家資格等オンライン・デジタル化は、「マイナンバーカードと運転免許証との一体化」などとともに、すでにスケジュール化されて実施されることが決定している制度である。

デジタル庁の資料(※)によると、労働安全衛生法関連の資格では、労働安全衛生コンサルタント、作業環境測定士、衛生管理者など労働安全衛生法による免許(20種)、技能講習修了証(69種)等は、2025年度以降の導入となっている。

※ デジタル庁資料「令和6年8月6日(火)より国家資格のオンライン・デジタル化が始まります

なお、安衛法上の特別教育その他の教育の修了証は、国家資格ではないのでこのシステムの対象とはなっていない(※)

※ 日本経団連は、「DX時代の労働安全衛生のあり方に関する提言」(2023年5月16日)の中で「就業制限業務への従事に必要な免許や技能講習修了証明書、一定の危険・有害業務への従事に必要な特別教育の修了証について、各機関による書面発行と労働者の現物携帯を前提とする仕組みを見直すべきである。具体的には、マイナンバー等に資格情報を紐づけ、マイナポータル等から更新期間等も含めて把握可能にするとともに、マイナンバーカードの電子証明書等を活用して電子的に資格を確認できることを前提に、当該業務に従事する際の免許や証明書の携帯義務について、マイナンバーカード等の所持に代えることを可能とすべきである」として、一部の特別教育も対象にするべきであると主張している。

なお、特別教育については、法的には修了証の発行は予定されておらず、その携行も義務付けられていない。しかし、建設業を中心に元請けから修了証の携帯を求められるのが実情である。


(2)国家資格等のオンライン化の概要

国家資格がオンライン化することで何ができるかであるが、基本的に次の3点ができるようになる。もちろん、保険証とは異なり、これまでの紙ベースでの証明書が使えなくなるわけではないので、その点は安心して頂きたい。

【国家資格等のオンライン化で可能となること】

  • 各種申請
  • 各種申請書類のオンライン提出が可能
  • オンライン支払いが可能
  • マイナンバーの活用により住民票等の写しの提出を省略が可能
  • 申請状況の確認が可能
  • 資格の維持
  • 婚姻や引っ越し等による氏名・住所等が変更された場合や死亡時に必要となる手続きの簡略が可能
  • 資格の活用
  • 自身の保有する資格情報をマイナポータル上で参照可能
  • 真正性の確保や偽証防止機能等を設けたうえで、資格情報を電子媒体の形式で出力、表示が可能
  • マイナポータルAPIの活用により外部システムへ資格情報の連携が可能

ここで電子媒体の資格情報(デジタル資格者証・電子資格証)とは、PDF で提供される資格の証明書であり、そこに記載されている情報は、次の項目である。

【資格情報(デジタル資格者証・電子資格証)に記載される情報】

  • 資格名称
  • 氏名(旧姓 ⁄ 通称には対応していない)
  • 生年月日
  • 登録番号
  • 発行日 ⁄ 登録日 ⁄ 交付日
  • QRコード(検証用)
  • 交付機関 ⁄ 者名
  • 本人写真
  • その他項目

この中の QR コードを読み取ることにより、その資格が真正なものであると確認することが可能となる。これは原理的に偽造が不可能に近い(※)ので、資格制度の信頼性の向上に寄与することとなろう。

※ 国のサーバーと同じものを偽サイトとして構築すれば、偽造は可能であろうが、現実には困難だろう。

QR コードには、デジタル証明書確認ページの URL 及び登録情報(署名済み)が含まれている。登録情報には、①資格保有者の登録情報やデジタル国家資格者証の識別情報及び、②登録情報に対する署名値(※)が含まれる。

※ ②を用いて検証することで、①の真正性を容易に確認できるようになっている。

なお、デジタル証明書確認ページで確認できる情報には、発行機関、資格名、本人氏名、登録番号、登録年月日、発行年月日が含まれる。また、デジタル証明書確認ページには、確認日時と検証結果も合わせて表示されるようになっている。


(3)国家資格等のオンラインシステムを利用できる条件

ア 資格保有者側

資格保有者が、これらのサービスを受けるためには、電子証明書が有効なマイナンバーカードを持っている必要がある。

さらに、このシステムを利用するためには、①初期設定申請、②設定変更、③デジタル資格者証の取得の各段階で、マイナンバーカードを読み取ることができるスマホを所有していることも必要となる(※)。なお、カードリーダを備えたパソコンでも可能だと思うが、デジタル庁の WEB サイトにはそのことに関する記述はない。

※ 詳細は、デジタル庁「国家資格オンライン化サービス紹介」を参照して欲しい。

また、対象となる国家資格を保有している必要があることは当然である。


イ デジタル資格証の提出を受けた側

デジタル資格証の提出を受けた側が QR コードで検証を行うには、二次元コードが読み取れるスマホ等があればよい。


(4)国家資格等のオンライン化のメリット

国会議事堂

※ イメージ図(©photoAC)

国家資格等のオンライン化でできることをごく簡単に要約すれば、①各種の国への申請がオンラインでできるようになるということと、②資格情報(デジタル資格者証)を電子媒体(QR コードの付された PDF ファイル)の形で出力できることの2点である。

ただ、①のオンライン申請については、すでに取得した安衛法関連の資格に関して、資格取得者が国に何らかの申請をすることはまれであろう。従って、それほどメリットがあるとは思えない。

メリットがあるとすれば、②の資格情報の電子媒体による表示であろう。これは、付されている QR コードで直接、国のサーバーの情報を確認できるので、先述したように資格証の偽造ということが事実上不可能になる。

最近では、国家資格等の証明書を偽造する犯罪組織があり(※)、極めて精巧な偽造資格証が作成されている現状がある。そのため、従来の紙ベースの資格証では本当に資格があるかどうかを確実に確認することが困難となっている。

※ 平成14年5月21日基安安発第0521001号「技能講習修了証の偽造に係る情報について」参照

今後は、資格を確認する必要のある企業などから、資格を証明する電子媒体の提出を求められるケースも出てこよう。


2 個別の資格と国家資格のオンライン等

(1)労働安全衛生コンサルタント

労働安全衛生コンサルタントは、ある意味で国家資格のオンライン化等の影響を最も強く受ける職種の一つかもしれない。実は、安全衛生コンサルタントは、資格といっても業務独占が認められているわけではない。

そればかりか、名称独占でさえなく、安衛法上のコンサルタントの資格を有しないものが、労働安全衛生コンサルタントを名乗っても処罰する法令はないのである(※)

※ このため、労働安全衛生コンサルタント試験に合格して、登録を受けていない者が労働安全衛生コンサルタントを名乗るケースが後を絶たない。もちろん、このようなことは望ましいことではない。

しかし、この制度でデジタル資格者証を入手すれば、確実に自分が安衛法上のコンサルタントであることを証明できることとなる。

制度創設後は、労働安全衛生コンサルタントが、WEB サイトにデジタル資格者証や QR コードを掲示するようなケースも増えるのではないかと思える。


(2)衛生管理者その他の免許

打合せをする男女

※ イメージ図(©photoAC)

衛生管理者の場合、国家資格のデジタル化のメリットはほとんどないかもしれない。証明書は、通常は勤務先の会社にしか提出しないであろうし、各種申請も氏名変更のときに必要になる程度だからである。

この制度を活用する機会があるとすれば、転職する場合に、履歴書にデジタル資格者証を添付する程度のことであろうか。

しかし、この制度は監督官庁にとっては役に立つ可能性がある。

衛生管理者選任の違反があった場合、臨検監督が入ると衛生管理者の選任をするように是正勧告される。その場合、ほとんどの事業場で、自社で雇用している労働者の一人に衛生管理者の資格を取得させて衛生管理者として選任し、選任報告及び是正報告を提出することになる。

しかし、そのような形で衛生管理者の選任を行った事業場の場合、選任した有資格者が辞職したり異動したりして事業場からいなくなっても、そのまま放置されるケースが多いのである。

この場合、辞職又は異動した有資格者が、他の事業場で衛生管理者として選任されると、一人の有資格者が複数の事業場で衛生管理者として選任されている状態となる(※)

※ 選任されている衛生管理者が労働衛生コンサルタントでない限り、少なくともどちらかの事業場が違法状態である。

仮に、監督官庁が、衛生管理者の選任報告の際にデジタル資格者証の提出を求めるようになれば、将来的に、このシステムを用いて調べることで(※)、一人の有資格者が複数の事業場で選任されている状況を把握することは容易になろう。

※ 国は、この制度を監督のために使用するとは明言していない。また、衛生管理者の選任報告の際にデジタル資格者証の提出を求めるとも言ってはいない。

将来的な話だが、この制度によって衛生管理者の選任違反が、監督官庁に発見されるということもあるかもしれない。これは、有資格者にとっては、必要とされる機会の増加につながるので、間接的には有利になると言えるだろう。


(3)技能講習修了

ア 技能講習修了証の特殊な問題

(ア)完全なデータベースが存在していないこと
安衛法の資格等

※ イメージ図(©photoAC)

技能講習修了証は、他の国家資格とは実施体制が大きく異なっているため、統一的な資格のオンライン化がきわめて困難な資格である。

というのは、技能講習の実施機関(従って修了証の発行機関)は、単一の国の組織ではなく都道府県労働局長の登録を受けた個々の登録教習機関だからである(※)

※ それぞれの機関が独自に修了証を発行し、その記録もほとんどが電算化処理をされているとはいえ、データの形式や種類、長さ、順序等はまちまちなのである。そればかりか、手書きで修了証の発行やデータ保存を行うことも禁止されているわけではなく、一部の登録教習機関では実際に手書きのデータしか保有していないケースもある。

なお、廃止された登録教習機関のデータは、登録省令第25条の規定により、指定保存交付機関(登録省令第4章の2)が保有している。また、指定保存交付機関は、登録省令第24条第1項但書の規定によって、任意に引渡しを受けたデータも保有している(※)

※ 現実には、登録省令第24条第1項但書の規定による台帳の引き渡しが行われるケースはきわめてまれである。

さらに、国は登録教習機関に対して、データの指定保存交付機関へ提供(※)するように指導しており、指定保存交付機関にはかなりのデータが集まっていることは事実である。しかし、データの提供はあくまでも登録教習機関の任意であって、制度的・原理的に完全なものではないのである。

※ 引渡しと提供は異なる概念である。登録省令第24条による「引渡し」は原本を渡す行為なので、その後は、保存したくてもできないし、修了証の再発行や書換えもできなくなる。これに対し行政指導による「提供」は、原本を残して、写しを提供するだけである。従って、登録教習機関の原本の保存義務はなくならないし、再発行や書換えも必要である。

なお、国は、登録教習機関に対して、技能講習受講者の利便性向上のため、可能な限り早期の指定保存交付機関へ帳簿の写しの提供又は引き渡しを要請している(令和元年12月12日基安安発1212第2号)。

しかも、多くの登録教習機関が、定期的に指定保存交付機関にテータを提供しているとはいえ、実際には1年に1回というケースが多い。従って、ある作業者が資格をとっても、多くの場合に、最長で1年程度は指定保存交付機関にはデータがないことになるのである。


(イ)個人を特定できる情報が完全とは言い難いこと
① 個人を特定する情報の少なさ

また、かつては個人を特定するためのデータとして、①氏名、②生年月日の他、③本籍地及び④性別を保有していた。しかし、性別の情報はかなり前に廃止されており、さらに2017 年には省令改正により本籍地のデータも廃止された(平成29年3月10日基発0310第1号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について」参照)のである。

性別と本籍地のデータ収集を廃止したことは、人権の観点から正しい判断であった。しかしながら、そのときに、本人を特定するための他の情報が追加されなかったため、個人を特定する情報が氏名と生年月日のみになってしまったのである。そして、実際に運用してみて、氏名と生年月日が同一の有資格者が意外に多いということが分かってきたのだ(※)

※ 名前には年代によって流行があり、ある年代にある名前が多いということがままある(明治安田名前ランキング参照)。そのようなこともあるのか、同じ生年月日で同姓同名というケースが意外に多いのだ。


② 個人を特定できないことによる問題

個々の登録教習機関の中だけであれば、母数が少ないので同姓同名で生年月日が同じという実例は多くはない。また、あったとしても本人に直接確認することができるし、そもそも問題が生じるような状況が考えにくいのである。そのため、問題が顕在化することはなかったのだ。

しかし、国全体となると同姓同名で同じ生年月日の人物はかなりいるだろう。しかも、このシステムでは、個々のユーザ(有資格者)が初期設定をするときに、登録が可能な資格をすべて表示して、その中からユーザーに自由に登録する資格を選ばせるようになっているのだ。

そのため、同姓同名で同じ誕生日の有資格者が2名以上いると、そのうちの一人が最初にこのシステムを使用し、初期設定で資格を登録するときに、悪意がなくても他人の資格を登録してしまう可能性があるのだ。故意に他人の資格を登録する気がなくても、他人の資格が登録可能な資格として表示されれば、それを自分の正当な資格と考えて登録してしまうことは、十分に考えられるのである(※)

※ 現在まで、同姓同名で同じ生年月日の有資格者がいることによる問題は起きていないのだから、そのような事態は起きないと思われるかもしれない。しかし、指定保存交付機関は、これまでは、複数の機関で取得した資格を1枚の証明書にまとめて発行したり、すでに廃止された機関の修了証をなくしたときに新たに証明書を発行するサービスを提供しているのである。現実には、これまではそのようなサービスを利用する有資格者がほとんどいなかったため、問題になることはなかったのであろう。今後、それが大きな問題となる可能性は大きいのではなかろうか。

意外に思われるかもしれないが、技能講習の有資格者は、自分が、①どの登録教習機関で、②いつ頃、③どの資格を取得したのかが明確に分かっていないケースが意外に多いのである。そのため、資格証(技能講習修了証)を紛失してしまうと、どの登録教習機関へ再発行を依頼してよいか分からなくなるということさえあるのだ。


イ 技能講習修了証のデジタル化の方法

厚生労働省の担当者に直接尋ねたところ、技能講習の修了証のオンライン・デジタル化の元となるデータベースは、指定保存交付機関の保有しているデータ(の一部又は全部)を基に構成されることとなるとのことであった。

実は、数年前に各登録教習機関のデータを基にするという構想もあったようだが、現実には各機関ごとにバラバラのデータを利用するなど不可能に近いというべきである(※)

※ もし、各登録教習機関のデータを基にするのであれば、一旦、各機関のデータをすべて指定保存交付機関に集約して、統一したフォーマットで単一のデータベースに集積するしかない。そして、それ以降は、①技能講習の受講を申し込む者は共通の入力フォームから指定保存交付機関のデータベースへ入力し、②各登録教習機関も、直接指定保存交付機関のデータを操作・利用し、③国がそのデータベースを利用するという方法でしか実現することは不可能であろう。

ただし、そのためには法令改正が必要となり、しかも最初のデータの変換のためにかなりの予算が必要となる。デジタル庁が公表しているように、2025年度以降から利用を可能とできるようなものではない。

実際には、不完全なデータであることを前提に、その時点で指定保存交付機関が保有しているデータを基にすることになりそうなのである。つまり、このシステムを活用しようとしても、データが不完全なものであり、しかも最新のデータがないのであるから、結局は使えないシステムということになり、壮大な無駄になることも予想されるのだ。

デジタル庁の仕事のやり方は、とりあえず様ざまな問題は無視して方針を固め、実際に事務が動き出してから顕在化する問題点を個別に解消する(又は無視する)という方法のようである。大きな制度改革のためには、ときにはこのようなやり方も必要なのかもしれないが、あまりにも杜撰ずさんという気がしなくもない。


ウ 技能講習修了証のデジタル化の潜在的なメリット等

技能講習には作業主任者(安衛法第14条)と制限業務(安衛法第61条)の2種類がある。就業制限業務のうち、安全関係の資格については、システムが導入されれば、資格証明の手段として、電子媒体の資格情報への要望が大きくなる可能性はあろう。

これまで、大手の建築現場などでは、入場する作業者の資格関係を技能講習修了証等の資格証のコピーを提出させることで確認することが多かった。また、元請けが本人の入場の際やパトロールのときなどに資格証を所持していることを確認したりしていたのである。

しかし、修了証は発行した登録教習機関や、発行した時期によっても、形式が異なっているので、偽造されていても見破ることは困難である。また定期的に書き換えが行われるわけでもないので顔写真が古くなっていることも多く(※)、その確認には不安が伴うことも事実である。

※ 法的には技能講習の修了証に顔写真を載せることは義務付けられていない(安衛則様式第 17 号)が、実際には顔写真を付けることがむしろ普通である。ところが、60代、70代の作業者が、10代、20代の頃の顔写真の資格証を持参していることも多いのである。

そのため、システム稼働後は、元請けが電子媒体の資格情報の利用したいと考えることも多いと思われる。データが完全なものであれば(実際にはそうではないのだが)資格を確認する側にとって大きなメリットがある制度なのかもしれない。


(4)その他の資格

国家資格のデジタル化の対象となっているものは、安衛法関連では他には作業環境測定士があるのみである。先述したように、特別教育その他の教育は、一部に資格のように扱われているものもあるが、あくまでも法的な性格は教育であって資格ではないのでこの制度にはなじまない。

なお、安全衛生法以外の労働関連の資格としては、職業訓練指導員、技能士、キャリアコンサルタント、特定社会保険労務士が対象となるとされている。社会保険労務士ではなく特定社会保険労務士となっている理由は不明だが、すべての社会保険労務士を特定する(マイナンバーと紐づけする)ことが困難と思われたのかもしれない。


3 最後に

情報社会のイメージ

※ イメージ図(©photoAC)

国家資格制度のオンライン・デジタル化に限らず、国家が保有する個人情報のオンライン・デジタル化は、好むと好まざるとにかかわらず、その流れを押しとどめることができるようなものではないだろう。

今後は、有資格者は、資格を確認するべき企業等から電子媒体の資格情報を求められるようになることも増えるだろう。また、士業やコンサルタントなどがそのホームページにデジタル資格証や QR コードを掲示するようなケースも多くなるだろう。

だが、技能士や技能講習修了などの資格を保有する者の一部には、このようなデジタル化に慣れていない者もかなり含まれているだろう。そのときに、会社の側がパスワードを作業者から聞き出して、マイナンバーカードを直接読み込む作業を行うというケースが出ることも予想される。

すなわち、個人のプライバシーが侵害されたり、そもそも個人の側がプライバシーを守る権利を会社に対して放棄させられたりするケースも出かねないという懸念はあろう。

また、マイナンバーカードの利用の促進は、その紛失や盗難のリスクも必然的に増やすこととなる。

様ざまな問題点は無視して、とりあえず一つの方向に制度を変えるというデジタル庁のやり方は、大きな制度改革のためにはときには必要なのかもしれない。しかし、個々の国民のデジタル化への意識やセキュリティの知識が十分ではない中で、このような急速な動きが正しいことなのかについては疑問を感じざるを得ない。


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