第1種衛生管理者試験 2017年4月公表 問16

労働衛生保護具




問題文
トップ
合格

 このページは、試験協会が2017年4月に公表した衛生管理者試験問題の解説を行っています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」か「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2017年04月公表問題 問16 難易度 労働衛生保護具に関する基本的な知識問題である。確実に正答できなければならない問題。
労働衛生保護具

問16 労働衛生保護具に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)防毒マスクは、顔面と面体の接顔部とが適切な位置で密着するよう装着し、しめひもについては、耳にかけることなく後頭部において固定する。

(2)防じんマスクの面体の接顔部に接顔メリヤスを使用すると、マスクと顔面との密着性が良くなる。

(3)騒音作業における防音保護具として、耳覆い(イヤーマフ)又は耳栓のどちらを選ぶかは、作業の性質や騒音の特性で決まるが、非常に強烈な騒音に対しては両者の併用も有効である。

(4)保護クリームは、作業中に有害な物質が直接皮膚に付着しないようにする目的で塗布するものである。

(5)遮光保護具は、溶接作業における紫外線などによる眼の障害を防ぐために使用する。

正答(2)

【解説】

本問は、呼吸用保護具についての基本的な知識を問う問題である。呼吸用保護具については当サイトの「化学物質、粉じん等の保護具」の「2呼吸用保護具について」を参照して頂きたい。

(1)正しい。令和5年5月25日基発0525第3号「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について」(以下「保護マスク通達」という。)に次のような記述がある(※)

【防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について】

第1 共通事項

5 呼吸用保護具の適切な装着

(2)フィットテストの実施に当たっての留意事項

 着用者の顔面と面体とを適正に密着させるためには、着用時の面体の位置、しめひもの位置及び締め方等を適切にさせることが必要であり、特にしめひもについては、耳にかけることなく、後頭部において固定させることが必要であり、加えて、次の①、②、③のような着用を行わせないことに留意すること。

 面体と顔の間にタオル等を挟んで使用すること。

 着用者のひげ、もみあげ、前髪等が面体の接顔部と顔面の間に入り込む、排気弁の作動を妨害する等の状態で使用すること。

 ヘルメットの上からしめひもを使用すること。

※ 本問出題当時は、平成17年2月7日基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」(以下「防じんマスク通達」という。)が有効であり、本文に示した「保護マスク通達」によって廃止されたが、本通達にも「しめひもについては、耳にかけることなく、後頭部において固定させること」とあった。

なお、この通達は、合格した後の業務でも必要になる。試験までに一度は眼を通しておくこと。

(2)誤り。面体と顔面の密着性を高めるため、原則として、面体の接顔部に、接顔メリヤス等を装着して使用することは望ましくない。

本問出題当時に有効であった通達「防じんマスクの選択、使用等について」(平成17年2月7日基発第0207006号(令和5年5月25日基発0525第3号により廃止))には、接顔メリヤスについての記述があり、面体と顔面との間に接顔メリヤスなどを当てると、粉じん等が面体の接顔部から面体内へ漏れ込むおそれがあるので使用してはならないとされていた。

ただし、この旧通達では、接顔メリヤスは、防じんマスクの着用により皮膚に湿しん等を起こすおそれがある場合で、かつ、面体と顔面との密着性が良好であるときについては、例外的に使用が認められていた。

【接顔メリヤスに関する旧通達の注意事項】

第1 事業者が留意する事項

3 防じんマスクの使用に当たっての留意事項

(5)次のような防じんマスクの着用は、粉じん等が面体の接顔部から面体内へ漏れ込むおそれがあるため、行わせないこと。

 (略)

 面体の接顔部に「接顔メリヤス」等を使用すること。ただし、防じんマスクの着用により皮膚に湿しん等を起こすおそれがある場合で、かつ、面体と顔面との密着性が良好であるときは、この限りでないこと。

 (略)

※ 「防じんマスクの選択、使用等について」(平成17年2月7日基発第0207006号(令和5年5月25日基発0525第3号により廃止))

なお、防毒マスクについても、すでに廃止された通達(防毒マスクの選択、使用等について」)に、接顔メリヤスの使用を禁止する表現があり、こちらには防じんマスクのような例外規定はなかった。

【接顔メリヤスに関する旧通達の注意事項】

第1 事業者が留意する事項

3 防毒マスクの使用に当たっての留意事項

(9)次のような防毒マスクの着用は、有害物質が面体の接顔部から面体内へ漏れ込むおそれがあるため、行わせないこと。

 (略)

 面体の接顔部に「接顔メリヤス」等を使用すること。

 (略)

※ 「防毒マスクの選択、使用等について」(平成17年2月7日基発第0207007号(令和5年5月25日基発0525第3号により廃止))

現在有効となっている「保護マスク通達」には、タオル等についての記述があり、その使用は例外なく禁止されている。2024年4月の公開問題の問20はタオル等に関する出題となっており、今後は、接顔メリヤスに関する出題は行われなくなるものと考えられる。

【タオル等の使用に関する通達の注意事項】

第1 共通事項

5 呼吸用保護具の適切な装着

(2)フィットテストの実施に当たっての留意事項

 着用者の顔面と面体とを適正に密着させるためには、着用時の面体の位置、しめひもの位置及び締め方等を適切にさせることが必要であり、特にしめひもについては、耳にかけることなく、後頭部において固定させることが必要であり、加えて、次の①、②、③のような着用を行わせないことに留意すること。

 面体と顔の間にタオル等を挟んで使用すること。

②及び③ (略)

※ 「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について」(令和5年5月25日基発0525第3号)

(3)正しい。厚生労働省の、「騒音障害防止のためのガイドライン」「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」(令和5年4月20日基発0420第2号))の「騒音障害防止のためのガイドラインの解説」に、「聴覚保護具には耳栓と耳覆い(イヤーマフ)があり、耳栓と耳覆いのどちらが適切であるかは、作業の性質や騒音の特性で決まるが、非常に強烈な騒音に対しては耳栓と耳覆いとの併用が有効であること」とされている。

※ なお、出題当時は「騒音障害防止のためのガイドラインの策定について」(平成4年10月1日基発第546号)(※)が有効であった。その後、2021年度に「騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会」が開催され、2022年3月22日に「騒音障害防止のためのガイドライン見直し方針」が作成されて、本文の通達により改訂されているが、結論は変わらない。

(4)正しい。保護クリームは、作業中に有害な物質が直接皮膚に付着しないようにする目的で塗布するものである。ただし、保護クリームは保湿の役には立つが、皮膚保護対策としては限界がある。

あくまでも、皮膚への接触防止のため、保護メガネ、保護手袋で保護されていない皮膚部分(※)に、作業開始前に塗布し、作業終了とともに完全に洗い落とすべきものである。

※ 職場のあんぜんサイトの災害事例「有機溶剤を使用する作業に従事していた作業者に発生した肝機能障害」の対策の項を参照

実務においては、「職業性皮膚疾患の防止」(Safety Management December 2005)に、「保護(防護)用クリームを手に塗れば保護されるといまだに信じている企業も数社あるが、これは、このような保護クリームの性能に疑いを投げかけている多くの調査について無知なのである。HSEが次のような声明を発表し、これらの調査結果を裏付けている(※)とされていることに留意すること。

※ 「化学物質への皮膚のばく露に起因する業務上のリスクの評価と管理」(HSEブック、ISBN 0-7176-1826-9 、HSG205)によると「作業前に手に塗布するクリームを皮膚の予備的防護方法として信頼することはできない。クリームの化学物質浸透率にかかわる情報がないからである。またクリームを塗り忘れる部位がよくあるため、手全体を完全に被覆することは保証できない。クリームによる防護効果がすでに完全になくなっていたり、弱まっていたりしても、必ずしもそれが明らかにはならない。これらの理由により、作業前に手に塗布するクリームは個人用保護具と見なしてはならない。クリームは手袋と同水準の保護を提供できないため、適正に選定した個人用保護具の代用として使用してはならない」とされている。

(5)正しい。遮光保護具は、1952年(昭和27年)にJIS B 9902(シャ光保護具)が制定され(※)、その後、JIS適合品が溶接作業や炉前作業などに広く普及し、紫外線による眼への障害の防止に大きな効果を挙げてきた。

※ JIS B 9902は、1970年のJIS改編により、現在ではJIS T 8141:2016(遮光保護具)として制定されている。

なお、眼の保護具としては、遮光保護具(有害光線からの保護)の他に、保護めがね(粉じん、ミスト、飛来物等からの保護)及びレーザー用保護めがね(レーザーからの保護)がある。

保護めがね関連のJISとしては、1971年にはJIS T 8146(強化ガラスレンズ人り保護めがね)、1972年にJIS T 8147(硬質プラスチック入り保護めがね)、1989年にJIS T 8148(産業用ゴーグル形保護めがね)が制定され、この3つのJISは後にJIS T 8147(保護めがね)に統合された。

また、レーザー用保護めがねのJISとしては、1994年にJIS T 8143(レーザ保護フィルタ及びレーザ保護めがね)が制定されている。

2020年08月08日執筆 2024年04月07日最終改訂