化学物質、粉じん等の保護具 (2/3)




トップ
化学物質の保護具

比較的大手の労働衛生担当者でも化学物質管理には苦手意識を持っておられる方は多いようです。

とりわけ保護具については、やや問題のあるケースが散見される実態にあります。

本稿では、化学物質と粉じんなどの保護具に関して、基本的な解説を行っています。また、ECETOC TRAの保護手袋の入力項目についても解説を行っています。

なお、著作権が柳川にあることにご留意下さい。内容の無断流用はお断りします。



2 呼吸用保護具について


(1)呼吸用保護具の種類と用途

呼吸用保護具に関する基本的な通達としては、令和5年5月25日基発0525第3号「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について」がある。呼吸用保護具には、様々な種類・性能のものがあるが、まずはどのような種類のものを使用したらよいかを考えなければならない。呼吸用保護具の種類には、

  • ① ろ過式マスク
  •  ア 防じんマスク
  •  イ 防毒マスク
  •  ウ PAPR(※)
  • ② 給気式マスク

 Power Air purifying Respirators=電動ファン付き呼吸用保護具のこと。これには防じん用、防毒用、防じん・防毒兼用の3種類がある。なお、労働安全衛生法の型式検定の対象は防じん用のもののみである。

などがあるが、ろ過式マスクには、防じんと防毒の双方の性能を備えたもの(※)もある。

 通常、防じん・防毒兼用のマスクは“防じん機能を有する防毒マスク”として“防毒マスク”に分類される。

【重要事項】

ここで重要なことは、以下の場合には、給気式(②)以外のマスクは使用してはならないということだ。

  • 有害物の種類が分からない場合
  • 酸素濃度が18%未満になるおそれがある場所
  • 有害物の濃度が2%(アンモニアの場合は3%)を超えるおそれがある場合
  • 有害物の濃度が、職業暴露限界の100倍(1日の使用時間が30分以内のときの特例あり)を超えるおそれがある場合

ア 給気式マスク

給気式マスクには次表のような種類がある。送気式はホース等を通して給気し、自給式はボンベから給気する。ホースマスクは給気の方法により、肺力吸引型、手動送風型、電動送風型に分かれる。

表1:給気式マスクの種類
送気式 ホースマスク 肺力吸引型
手動送風機型
電動送風機型
エアラインマスク プレッシャデマンド型 常に陽圧
デマンド型
一定流量型 常に陽圧
自給式 空気呼吸器 プレッシャデマンド型 常に陽圧
デマンド型
循環式酸素呼吸器

なお、マスクの内側が陽圧(外部よりも圧力が高いこと)であれば、陰圧になるものに比較して、外部からガスが漏れる可能性はきわめて低くなる。ただし、常に陽圧だと息を吐くときにやや苦しいため、作業者の吸気時には給気して陽圧とし、吐息時には給気しないようにして圧力を下げることで、呼吸を楽にすることができる。

そして、エアラインマスク等のプレッシャデマンド型は、作業者の吸気時のみ給気し常に陽圧になる。デマンド型も作業者の吸気時のみ給気するが陰圧になることがある。一定流量型は、常に給気しており常に陽圧となる。

イ ろ過式防じんマスク

防じんマスクは、粒子状物質にのみ対応可能である。ガスや蒸気には対応できない。タイプによってRS2とかDL3などと呼ばれる。この呼称によってタイプと性能がある程度分かる。

最初の文字は“R”又は“D”で、“R”は取替え式、“D”は使い捨て式を意味する。2番目の文字は“S”又は“L”で、“S”は粉じん又はヒュームにのみ使用でき、“L”はさらにミストにも使用できる。最後の数字は1から3までの文字で、捕集効率を表している。捕集効率については後述する。

ウ ろ過式防毒マスク

防毒マスクの吸収缶の色は対応する物質を表している。防毒マスクのうち、有機ガス用、ハロゲンガス用、アンモニア用、亜硫酸ガス用、一酸化炭素用の5種類については、労働安全衛生法の型式検定制度の対象となっているので、検定合格品以外は使用してはならない。

なお、吸収缶を重ねて使うことはできないので、複数のガスが存在しているケースでは、原則として給気式の呼吸用保護具を使用させる必要がある。

表2:呼吸用保護具の対応ガス
対応ガスの種類 吸収缶の色 試験ガス 型式検定 JIS規格
有機ガス用 シクロヘキサン
ハロゲンガス用 灰色と黒 塩素
アンモニア用 アンモニア
亜硫酸ガス用 橙色(黄赤) 亜硫酸ガス
一酸化炭素用 一酸化炭素
酸性ガス用 灰色
シアン化水素用
臭化メチル用
硫化水素用

 有機ガスと一酸化炭素の双方に使用できる隔離式のマスクで、赤と黒で表示されているもの(JIS規格が定められている)がある。なお、一酸化炭素用とシアン化水素用のマスクには直結小型式のものは存在していないようである。

使用可能な最大の濃度については、平成9年3月25日基発第197号「建設業における有機溶剤中毒予防のためのガイドラインの策定について」の別紙4「有機ガス用防毒マスクの種類別の使用可能な範囲」には、次のように定められている。なお、この値は1日の使用時間が短時間の場合であっても変わらない。

表3:保護具のタイプごとの使用可能な濃度
タイプ 使用可能な最大の濃度
直結式小型 0.1%
直結式 1.0%(アンモニアは1.5%)
隔離式 2.0%(アンモニアは3.0%)

また、日本呼吸用保護具工業会技術委員会は、半面型か全面型かによって使用可能な最大の濃度を次のように推奨している。

表4:日本呼吸用保護具工業会技術委員会による最大濃度
タイプ 使用可能な最大の濃度
半面型 職業暴露限界の10倍まで
全面型 50倍まで
ただし、防護係数(※)を測定した場合は測定した値(最大100)まで

 防護係数については次項で述べる。

【重要事項】

ここで重要なことは、、吸収缶の構造による最大濃度と、日本呼吸用保護具工業会技術委員会の定める最大濃度の、いずれか一方のみを満たせばよいということではなく、双方を満たさなければならないと考える必要があるということである。


(2)防護係数

ア 防護係数とは

呼吸用保護具を使用する目的は、考えるまでもなく、化学物質の気中濃度が有害なレベルになっているとき、作業者がそれをそのまま吸引することを防ぐためのものである。そして、作業者はマスクの内側の空気を吸入するので、マスクの内側の濃度を十分に低くすることができなければならない。そして、マスクの外側の濃度と内側の濃度の比を防護係数と呼ぶのである。

つまり、ある化学物質の職業性暴露限界(OEL=許容濃度、TLV-TWA、SCOEL値、WEL値、MAK値など)が0.1ppmで作業空間の気中濃度が2.0ppmだという場合、防護係数が20以上あれば、一応は安全だということになるわけである。

【重要事項】

ここで、同じマスクを使っていても、作業者が異なれば、防護係数が同じになるとは限らないことに留意する必要がある。髭があったり、使い方を誤っていたりすると、漏れが大きくなるので、防護係数は小さくなる。

また、保護具の保管状況が悪いと変形して漏れが大きくなったり、保護具を使わないときに、有害な物質のある環境中に放置していたりすると、内部に物質が付着することもあるなど、管理が不適切だと防護係数が所与の性能値にならないことがある。

イ 防護係数の測定方法

では呼吸用保護具の防護係数はどのようにすれば分かるのだろうか。

防護係数を正確に知るためには、実際に測定してみるのが最も確実な方法である。JIS T 8150(2006)は、防護係数を測定する方法として、「試験用コンタミナンツを用いる場合」と「大気じんを用いる場合」を挙げている。

前者について簡単に言えば、まず、試験用コンタミナンツを分散した環境中にマスクを着用して入り、マスクの内側と外側の濃度を測定し、次表によって防護係数(PF)を算出する。

表5:防護係数の算定方法(JIS T 8150)
ろ過式マスク PF=100Lm+Lf PF:防護係数
Lm:面体等の漏れ率(%)
L f :フィルタの透過率(%)
給気式マスク PF=CoCi

PF:防護係数

Co:面体等の外側の試験用コンタミナンツ濃度

C i:面体等の内側の試験用コンタミナンツ濃度

なお、漏れ率は以下により算出する。また、フィルタの透過率は製造業者の情報を用いる。

【漏れ率の計算方法】

漏れ率(%)
   =(面体等の内側の濃度/面体等の外側の濃度)×100

 ①普通の呼吸、②深呼吸、③顔を左右にゆっくり振る、④顔を上下にゆっくり振る、⑤話す、のそれぞれについて1分測定し平均をとる。

現実に、通常の事業者がこのような測定をすることは困難であろうが、呼吸用保護マスクの製造業者が、呼吸用保護マスクの研修などの際に、防護係数を測定する装置のデモをサービスで行っている。JISに定める方式に比べれば略式ではあるが、実用上は十分な精度がある。

事業者団体などで、作業者や衛生管理者などに対する呼吸用保護マスクの教育・研修を行うときは、製造業者に依頼すれば、デモを行ってくれるかもしれないので、活用を検討するとよいと思う。

なお、基発1130第4号平成28年11月30日「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び特定化学物質障害予防規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」によって、平成27年9月30日付け基発0930第9号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について」が改正されている。その内容は次の下線部の通りである。

【平成27年9月30日付け基発0930第9号(抄)】

  • (ク)特化則第38条の20第3項第2号の「有効な呼吸用保護具」とは、各部の破損、脱落、弛(たる)み、湿気の付着、変形、耐用年数の超過等保護具の性能に支障をきたしていない状態となっており、かつ、100以上の防護係数が確保できるものであり、(ケ)の方法により、労働者ごとに防護係数が100以上であることが確認されたものが含まれること。ただし、電動ファン付き呼吸用保護具の規格」(平成26年厚生労働省告示第455号)に定める粒子捕集効率が99.97%以上かつ漏れ率が1%以下のものに限っては、(ケ)の方法により労働者ごとに防護係数が100以上であることを確認することまでは要しない
  • (ケ)(ク)の労働者ごとの防護係数の確認は、当該確認に係る電動ファン付き呼吸用保護具を特化則第38条の20第3項の規定に基づき、当該労働者に初めて使用させるとき及びその後6月以内ごとに1回、定期に、日本工業規格T8150で定める方法により防護係数を求めることにより行うこと。
  •    なお、事業者は、当該確認を行ったときは、労働者の氏名、呼吸用保護具の種類、確認を行った年月日及び防護係数の値を記録し、これを30年間保存すること。

※ 記の第2の2の(2)のキの(ク)について、下線部分が改正されている。なお、引用者が下線を付すとともに、告示にリンクを張っている。

電動ファン付呼吸用保護具(捕集効率99.97%以上かつ漏れ率1%以下のものに限る)については、JIS T 8150に定める方法で、労働者ごとの防護係数を確認しなくてもよいとするものである。現実的な改正と言えよう。

なお、JISでは、「実測で得られた防護係数は,着用者個人の測定時の値であり,実作業時の防護係数は,より低下する可能性があるので,十分な安全性を考慮しなければならない」とされていることにも留意すべきである。

ウ 指定防護係数(APF)

測定ができない場合について、JIS T 8150(2006)では、測定を行わない場合には、「指定防護係数(APF)による」とされている。

指定防護係数は、JIS T 8150(2006)付表2の他、令和5年5月25日基発0525第3号「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について」の別表1-2に示されているが、平成21年3月31日基発第0331013号「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について」に次のように示されているのが分かりやすい。

表:指定防護係数    JIS T 8150付表2から引用
マスクの種類 指定防護係数 a
防じんマスク
(動力なし)
使い捨て式 3~10 b
取替え式(半面形)
取替え式(全面形) 4~50 b
電動ファン付き
呼吸用保護具
半面形 4~50
全面形 4~100
フード形 4~25
フェイスシールド形 4~25
送気マスク デマンド形 半面形 10
全面形 50
一定流量形 半面形 50
全面形 100
フード形 25
フェイスシールド形 25
プレッシャデマンド形 半面形 50
全面形 1000
送気・空気呼吸器複合式プレッシャデマンド形全面形マスク 1000
空気呼吸器 デマンド形 半面形 10
全面形 50
プレッシャデマンド形 全面形 5000
酸素呼吸器 陽圧形 全面形 5000

a)呼吸用保護具が正常に機能している場合に、期待される最低の防護係数

b)ろ過式(防じんマスクや電動ファン付き呼吸用保護具)の防護係数は、面体等の漏れ率[Lm(%)]及びフィルタの透過率[Lf(%)]から100/(Lm+Lf)によって算出

しかし、この指定防護係数はかなり分かりにくい概念だと思っておいた方がよい。

というのは、このようにJISで防護係数を定められてしまうと、保護具の製造業者が防護係数を高めるために、技術的な様々な努力をしても評価されないことになってしまうのではないかとの疑問があり得る。また、ユーザー企業にとっても、より良い製品を購入して使用しても意味がないということになりかねない。しかし、実際には、製造業者の努力もあって、製品によって防護係数もかなり異なるのである。

実際の職場における保護具の漏れ率の状況

図をクリックすると拡大します

図:実際の職場における保護具の漏れ率の状況

さらに、十文字学園女子大学の田中茂教授によれば、実際の現場での保護マスクの性能は必ずしも性能通りには出ていないケースが多いとされている。右図は、平成23年1月24日の「第3回化学物質による労働者の健康障害防止に関する意見交換会」における田中教授のパワーポイント資料からの引用である。実際の現場で、労働者の呼吸用保護マスクの漏れ率を調査したものである。

この調査の場合は、漏れ率10%が以下であれば合格とのことだが、かなりのバラつきがあり、10%をこええるケースがかなりあるばかりか、そもそも平均値が15.1%と合格値に入っていないのである。

つまり、指定防護係数を示されても、実際にその値だけの性能が出ていないのではないか、数値そのものについてあまり信頼をおくことができないのではないかとの疑念があるのだ。

では、指定防護係数(APF)とは、いったいどのようにして定められるものなのだろうか。いや、その前に指定防護係数(APF)とは、そもそも、いったいなんなのだろうか。これの定義は、JIS T 8150(2006)と米国 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が、それぞれ次のように定めている。

表:指定防護係数(APF)の定義
JIS T 8150(2006) 実験室内で測定された多数の防護係数値の代表値。訓練された着用者が,正常に機能する呼吸用保護具を正しく着用した場合に,少なくとも得られるであろうと期待される防護係数。
NIOSH(※) 顔面に正しく密着し、かつ訓練を受けた使用者の一定割合を前提とする、適切に機能する呼吸用保護具又はある等級の呼吸用保護具によってもたらされる、予測される最低の防護係数。

※ Jay A. Parker「呼吸用保護具の防護係数(protection factor:PF)のなぞを解き明かす」(仮訳:国際安全衛生センター)より

すなわち、「適切に使えば(理想的な使い方をすれば)、最低でもこれだけの性能は出るという値」なのである。ということは、労働者に対して、その保護具の適切な使い方を教育し、かつ適切な管理をしない限り、この値は出ないかもしれないのである。

また、髭を生やしていれば期待される性能は出ないし、最近では女性用の呼吸用保護マスクが製造されるようになっているが、顔の小さな女性が男性用のマスクをしていても所与の性能は出ないと思った方がよい。

また、Jay A. Parker「呼吸用保護具の防護係数(protection factor:PF)のなぞを解き明かす」には、米国の複数の機関による指定防護係数(APF)の表が掲載されている。次の表はその一部だが、意外に数字がばらついていることが分かるだろう。

表:基準ごとの指定防護係数(電動ファン付ろ過式マスク)
マスクの
種類
ANSI Z88.2 OSHA
アスベスト基準
OSHA
鉛基準
OSHA
建設業鉛基準
OSHA
カドミウム基準
OSHA
ベンゼン基準
OSHA
ホルムアルデヒド基準
NIOSH RDL
半面形 50 100 1,000 50 50 50
全面形 1,000 100 1,000 50 250 100 50
フード/
保護帽
1,000 100 1,000 25 25 25
密着度の
緩い面体
(ANSI)
25 100 1,000 25 25 25

※ Jay A. Parker「呼吸用保護具の防護係数(protection factor:PF)のなぞを解き明かす」表3より

いずれにせよ、指定防護係数(APF)を信頼して労働衛生対策を立てるのであれば、労働者に対する保護具の使用についての教育は不可欠だということである。なお、WEBを探すと、製造業者が画像付きの説明や、動画でマスクの使用方法を説明しているものを見つけることもできる。

エ 使用時のフィットチェック(定性的)

防護係数が確保されているかどうかを調べるために、作業者が着用したときは、毎回、必ずフィットチェックをする必要がある。その結果、漏れがあるようなら、ひもの締め具合を調整したり、マスクをずらしたりして調整する。それでも漏れがあるようなら、別な製品と交換することも考えなければならない。最近では、接顔部が様々な形状の製品も売り出されている。

フィットチェックの方法は、フィットチェッカーのある製品ならフィットチェッカーを引き、なければマスクの空気取り入れ口を手で押さえて、呼吸が苦しくなれば漏れがないと判断する。厚生労働省のリーフレットに図が載っているので参照されたい。なお、フィットチェック用のツール(空気取り入れ口を覆う道具)を別売している製造業者もある。

問題は、使い捨て式の防じんマスクの場合である。これについて、ほとんどの製造業者はマスク全体を手で覆って、息を吐きだして漏れがないことを確認する方法(陽圧法)を紹介している。ただ、重松開三郎氏は、「使い捨て式の場合は(中略)、サッカリンテスト等を用いる必要がありますが、この方法は、味覚テストですので、繰り返していると判定ができなくなる恐れがあります」(※)としており、陽圧法には否定的なような印象を受ける。

※ 重松開三郎「安全保護具の種類と正しい使い方(5)」(日本クレーン協会WEBサイト)より

これについて、平成17年2月7日基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」も、「使い捨て式防じんマスクの取扱説明書等に記載されている漏れ率のデータを参考とし、個々の着用者に合った大きさ、形状のものを選択すること」として陽圧法は紹介していない。なお、この通達では、「大気中の粉じん、塩化ナトリウムエアロゾル、サッカリンエアロゾル等を用いて密着性の良否を確認する機器もあるので、これらを可能な限り利用し、良好な密着性を確保すること」とされていることを紹介しておく。


(3)捕集効率について誤解してはいけない

なお、ろ過式の呼吸用保護具のカタログを見ていると、“捕集効率”という数値が記載されていることに気付くだろう。防じんマスクについての捕集効率は次表のようになっている。

表:防じんマスクの捕集効率
対象 捕集効率
粉じん、ヒューム 粉じん、ヒューム、ミスト
RS1、DS1 RL1、DL1 80%以上
RS2、DS2 RL2、DL2 95%以上
RS3、DS3 RL3、DL3 99.9%以上

労働衛生の専門家は、呼吸用保護具の捕集効率が95%だからといって、防護係数が20にならないということは誰でも知っている。ところが、一般の事業主は言葉の雰囲気からそう思い込むことがあるのだ。

有害物をフィルターが95%以上捕集する(とらえる)なら、マスク面体の内部の濃度は外部の濃度の5%以下になるはずだ。従って、防護係数が20以上になるだろうというわけだ。

実際には、ここにいう捕集効率は“ろ過材”の性能であって、マスクの性能そのものを表しているわけではない(※)。これは、言うならば、“漏れ率がゼロのときの防護係数”なのである。実際には、着用者の身体と面体等とのすき間からの漏れや、排気弁,弁座部及びその他各部のすき間からの漏れがあるため、捕集効率が95%だからといって、使用者の吸気中に含まれる粉じんの濃度が空気中の濃度の5%にはならない。

※ そのため、給気式マスクでは捕集効率は問題にならない。防護係数を測定によって算出するときの式が、給気式とろ過式で異なっていることを思い出していただきたい。

なお、ろ過材で補修される割合(捕集率)は、粉体の粒径によって異なる。ただし、粒径が小さくなればなるほど捕集率が低くなるというわけではない。ある粒径のときに捕集率は最も低くなり、それより粒径が大きくても小さくても捕集率は高くなる。

(4)破過時間

ろ過式の防毒マスクは、一定時間使用していると性能が低下するために取り替えなければならないことは、防毒マスクを使用している事業場では、誰でも知っていることであろう。

交換時期の求め方は次のようになる。ただし、様々な要因がからむため、この方法を過信するべきではない。

 作業場所における対象となる化学物質の気中濃度を求める。

 対象となる化学物質の濃度がx【ppm】であれば、標準ガス(シクロヘキサンなど)のx【ppm】のときの破過時間を破過曲線から求める。

 ②で求めた破過時間に、カタログに記されている対象となる化学物質のRBTを乗じれば、その化学物質のその濃度における破過時間が求められる。

【重要事項】

交換時期については、以下のことに留意する必要がある。

  • ① 破過時間は、温度、湿度、断続的な使用などによっては、短くなる傾向がある。
  • ② 臭気、味、刺激を感じたときはただちに交換する。
  • ③ 防じん機能付きのマスクは息苦しくなったら交換する。
  • ④ 一酸化炭素用、シアン化水素用の吸収缶は、使い捨て式にする(使用ごとに交換する。)

なお、ろ過式の粉じんマスクは、ろ過材そのものは使用時間の経過に伴って性能が上がることがある。取替式の場合は「ろ過材に堆積した粉じんの色を見て交換する」「息苦しくなったら交換する」などの方法があるが、堆積した粉じんの色から判断するには一定の経験が必要である。

また、使い捨て式のマスクは着脱を繰り返すと、形が崩れたり、雑菌が繁殖したりすることもある。使用時間の限度を厳守するだけでなく、「息苦しくなったら交換する」「息苦しさがなくなったら交換する」「味、刺激を感じたら交換する」なども重要である。

また、取替式のマスクは、ろ過材以外の部品も適宜、交換するようにしなければならない。





プライバシーポリシー 利用規約