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JR西 のぞみ34号重大インシデント

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新幹線のぞみ号

JR西日本で発生したのぞみ34号の重大インシデントは、ひとつ間違えれば重大な災害となるリスクを内包しているものでした。

事故の前兆と思われる多くの減少があるにも関わらず、管制員は適切な判断をすることができないまま、安易に新幹線を走らせ続けたのです。その原因がどこにあるのかを検討します。




1 事故の経緯

執筆日時:

最終改訂:


(1)事件の発生

2017年も押し詰まった12月11日、のぞみ34号(13時33分博多発東京行き)の車体において、数日後に「重大インシデント」とされ、マスコミ各社が一斉に報じることとなる事態が発生していた(※)。だが、その時は、乗車していた関係者も、列車から離れた指令室にいて走行の決定権を握っていた司令員も、自分たちが乗客・乗員併せて数百人の生命を失うことになるかもしれない、重大な事故の発生を防止するカギを握っている状況にあるとは思ってはいなかった。

※ 運輸安全委員会「鉄道重大インシデント調査報告書」(2019年(平成31年)3月)。なお、「同説明資料」が分かりやすい。

しかし、実は、きわめて危険な状況だった。JR西日本が公表した資料によると、13号車の台車には、その構造を破壊しかねない大きな亀裂が入っていたのである。

車両状態(台車枠)

図をクリックすると拡大します

資料出所:JR東海「新幹線車両の台車に亀裂などが発見された重大インシデントについて」(2017年12月19日公表資料)より(車両状態1)

図1:車両状態(台車枠)

現実には、同のぞみ34号は、JR東海が17時03分頃に名古屋駅に停車させたため、重大な事故には至らなかった。マスコミはあまり評価していないようだが、事故に至る前に止めたことは評価されてよいだろう。また、詳細な事故の経緯を将来に向けて遺すための調査を的確に行うためには、保全や走行などの直接の関係者への処分は行われるべきではないと、私自身は考えている。


(2)事故の可能性

ア 事故につながる可能性

朝日新聞(※)によると、JR西日本としては、「上がつながっているので、すぐに破断するということではな」かったという認識のようだ。

※ 朝日新聞DIGITL 2017年12月20日付け記事「(時時刻刻)運行停止、遅れた判断 保守担当、停車を提案 のぞみ34号トラブル

しかし、図2を観ても分かるように、台車の重要な梁の部分が8割近く破断しているのである。走行を続けていれば、振動やカーブなどでは大きな荷重がかかり、応力は破断した箇所に集中するから、完全に破断する可能性がなかったとは、当時の時点ででも言い切れなかったのではないかと思える。

台車枠の一部に亀裂

図をクリックすると拡大します

資料出所:JR東海「新幹線車両の台車に亀裂などが発見された重大インシデントについて」(2017年12月19日公表資料)より(車両状態1)

図2:台車枠の一部に亀裂(図1の拡大図)

そして、仮にそうなれば、脱線して、かなりの数の死傷者を出す大惨事となった可能性があることを、当時、複数の専門家が指摘している。

イ 亀裂はいつ生じたのか

朝日新聞の同記事によれば、梁の高さは17cmで、亀裂は16cm、梁の幅は16cmで亀裂は全幅に渡っていたという。また亀裂の開口部は1.3cmあった。

この亀裂がいつの時点で生じたのかは、現時点ではわからない。だが、それまでの定期点検などの際に行った検査では発見できなかったのであるから、事件の直前の点検から事件の日までの間に、亀裂が目で見て分かる=外部に達した=ということになろう。

(ア)直前の目視検査の実施時期

前回の点検がいつ行われたかは公表文には掲載されていないが、12月12日付の読売新聞の記事(※)では、関係者への取材によるとして、JR西日本の担当者が前日の10日に目視検査を行ったが発見できなかったとされている。

※ 読売新聞 2017年12月12日付け記事「台車に亀裂、新幹線で初の重大インシデントに」

しかし、その時点で亀裂がなかったとは、必ずしも言い切れないようだ。というのは、JR西日本が12月19日に行った記者会見の内容の全文が、THE PAGEにアップされている。その会見後に行われた質疑によると、このときの目視検査については、「仕業検査は、外観上異常がないかという検査をします。仕業検査って非常に短い時間ですので、例えば摩耗品の寸法を測ったりとか、そういうことが主体でして、あとは車両全体を見て、なんか異常とみられるものを外観上見るということでございます(※)とのことである。だとすれば、亀裂はあったが、見落としたという可能性はあるだろう。

※ THE PAGE 2017年12月20日付け記事「新幹線の台車亀裂でJR西日本が会見(全文2)亀裂のメカニズムは確認中

(イ)直前の定期点検の実施時期

一方、東京新聞12月25日の記事によると、2017年2月21日には全般検査を行っており、その他、交番検査を11月30日に、当日の11日未明に目視検査を行っているとされている。2月の全般検査のときに、超音波探傷や磁粉探傷などの非破壊検査をしたかどうかは、同記事には書かれていない。ただ、先ほどの19日の記者会見から推測する限りでは、行っていないのではないかとも思われる。

※ 東京新聞 2017年12月25日付け記事「『新幹線は安全』思い込みに警鐘 台車や車輪、過去にもトラブル」

とはいえ、目視検査やハンマーによる打音検査は行っただろう。定期的な大規模点検で、それさえ行われなかったなどということは考えられない。すなわち、少なくとも2月の全般検査の時期には、外部から見て分かるような亀裂は入っていなかったということになる。

(ウ)亀裂の進んだ時期

だとすると、おそらく次のように考えるのが、その時点では最も可能性が高かっただろう。

【亀裂の進んだ経緯として考えられること】

  • ① 2月よりも前から、梁の内部で打音検査ではわからないような小さな疲労破壊が進んでいた
  • ② 2月から事件発生の12月11日までに、一気に外部から見て分かる形まで亀裂が進んだ。
(エ)このまま走行していたら

すなわち、亀裂は比較的短期間で大きく広がったのである。だとすれば、そのまま走行を進めていれば、いつ、亀裂がさらに広がって破断に至ったとしてもおかしくないと考えるべきなのではなかろうか。

事件後には、傷の周辺部の非破壊検査は(まだ)行っていないとのことであり、これまでに公表された情報だけで、「上がつながっているので、すぐに破断するということではない」と言われても、にわかには信じがたいというのが自然な国民感情だった。


(3)JR西日本による事件概要の公表

ア 第1報

ただ、事故後のJR西日本の対応は早かった。このことも評価されてよいと思う。事件の翌12日には事件について第1報(※)を出している。その中で、13号車の台車の亀裂の図も示している。

※ JR西日本「12月11日に発生した『のぞみ34号』の一部区間の運転取り止めについて」(2017年12月12日)

イ 第2報と定例記者会見

また、19日に第2報(※)を出し、当日の関係者の動き、車両に関する事実関係なども公表し、当面の(だと思うが)対策も示されている。なお、この中で「車両の極めて重要な部位である台車に亀裂や油漏れを発生させたこと、運行中に異常を感じたにもかかわらず走行を継続させたことに、大きな課題があったものと重く受け止めて」いるとはしているが、事故を起こす可能性があったとはされていない。

※ JR西日本「新幹線車両の台車に亀裂などが発見された重大インシデントについて」(2017年12月19日)

さらに、20日には最高責任者の定例記者会見(※)において、経緯に触れている。ここでも「お客様、関係する多くの皆様に、大変なご心配、ご不安を与えてしまいました」と、「ご心配、ご不安を与えた」とはしているのだが「危険な状態に陥らせた」とはしていない。慎重な言い回しをしているのではあろうが、危険はなかったというのがその当時(現時点でも)における考えなのかもしれない。

※ JR西日本「12月定例社長会見」(2017年12月20 日)

ウ 第3報

そして、27日にさらに第3報(※)を出して、詳細な当日の経緯と、検証内容について公表している。ただ、この時点では、さすがに台車の亀裂の原因までは判明していない。この検証内容は、ある程度までは、納得できるものではある。しかし、JR西日本の第3報では触れられていない、いくつかの重大な問題があるように思える。

※ JR西日本「『のぞみ34号』で異常を感じたにもかかわらず運転を継続させたことについて」(2017年12月27日)

そこで、本稿では、この第3報の中の問題点だと筆者が考えることについて解説をしたいと思う。


2 当日の関係者の動き

(1)異臭、モヤ、異音、振動

第3報の別紙1-1では、「におい」「モヤ」「音」「振動」の状況について記載されている。確かに、これらを見る限りでは、それぞれの事象が単独で発生していたのであれば、走行を止めるべきだと判断しろというのは、乗務員に対して酷かもしれない。

しかし、実際には、列車に乗り込んだ保守担当社員は、列車を止めて点検をするべきだと司令員に提案したのである。ところが、おどろくべき理由でそれは行われなかった。だが、その話に入る前に、まずそのときの状況を見てゆこう。

ア 異臭

13:50に8号車付近で焦げたような臭いがあったが、遅くとも45分後にはなくなった。また、14:59に13号車付近で焦げ臭いにおいがし、15:31にも確認されたが、15:55にはなくなっていた。

確かに、これだけで異状な状況だと判断せよというのは無理があるだろう。新幹線は気密性が良いとはいえ、外気は取り入れているから、車外のにおいが入ってくることもあり得るからだ。

ここでの最大の問題は、そのような臭いが、いつもと違う、普段はめったにない異常なことだったのか、それともさして珍しくもないことだったのかである。しかし、司令員がそれを乗務員に尋ねた形跡は、JR西日本の報告書の中にはない。

また、珍しくないことだったにせよ他の異常を思わせる状況と関連付けたときに、どう判断するべきだったかという問題はあろう。

イ モヤ

モヤは14:59に観測されたが、その後になくなった。また15:31には車内空調を通して曇っているような感じがしたが、遅くとも15:55にはそれは消失した。ただ、モヤについては時期が時期だけに、車外で野焼きが行われていたと判断するようなことは考えにくいだろう。車体に異常な状況がある可能性も疑われたはずだ。

ただ、これだけ単独で見れば、車両を停止させるという判断をするかについては、難しかったかもしれない。これも異臭と同じような問題があるからだ。

ウ 異音

(ア)当日の異音

音については、13号車で甲高い音がしたとされているが、気にならなかった乗務員もいたようだ。だが、パーサーGは15:16から15:30までのどこかの時点で「天井付近からキーン、下からドンドン、うるさく感じるくらい大きい)を確認した」とされている。

(イ)異音があった場合の対応

JR西日本では、異音があった場合に、列車を止める判断をする権限は誰が持っているのだろうか。19日のJR西日本の記者会見では「音で申し上げますと、たちまちに何かが壊れる音でありますとか、そういった非常に危険を感じる音であれば現地の運転手なり、車掌がすぐ止めます。今回の場合のように、すぐにはそういった危険を感じないような連続的な音の場合、それを指令に話をして、・・・(略)・・・指令(運用指令員=引用者)がそれを止めるという判断をするかと思います」とされている。

そして、「いろんな音がございまして、指令のほうでは、例えばこういう音のときには少し対処が必要である。で、こういう音の場合は、そのまま継続的に注意をしていこうというような分類をしておりました。それをもって判断をしているということであります」という。

すなわち、止めるかどうかの判断をする権限は、明らかに異常な事態を除けば運用司令員にあるのだ。ということは、今回の場合、走行停止の判断をするべきは、運行司令員だということになる。そして、彼らはマニュアルに従って停止の判断をすることになっていたということなのだ。

ここで問題になるのは、運用指令員は電車には乗っていないということである。彼らは別な場所=指令室にいるのだ。彼ら自身は、音を直接、聴くことはできない。すなわち、止めるかどうかの判断ができるだけの情報=異音がどの程度、深刻なものなのかを判断すべき情報をどのように得るかということが大きな問題となるのである。

さらには、判断をする基準(マニュアル)が正しかったのかということも問題となろう。

(ウ)「いつもと違う」は重要な事故の兆候

川西一仁氏の「スッチー裏物語-奥様は元スチュワーデス」(※)に、次のようなエピソードが紹介されている。ある客室乗務員がフライト中に、飛行機の音がいつもと違うと言い出し、目的地到着後に検査をしてみたところ、ある部分が緩んでいたというのである。そのとき他の乗員はいつもの音と変わりはないと思っていたそうだ。

※ 川西一仁「スッチー裏物語-奥様は元スチュワーデス」(2008年バジリコ)

普段、現場で仕事をしている職員が、たとえ一部の者のみであったとしても「いつもと違う」と感じたとすれば、それがマニュアルでは正常な範囲だったとしても、重大な事故の前兆だということはあり得るのである。

(エ)上司が、職員の「いつもと違う」を無視した事故の例

これは、別な例だが、ある空港で、航空機の貨物室の扉を閉めた作業員が、いつもとはレバーを回したときに感じる抵抗が違うと感じた。彼が上司に伝えたところ、上司は扉を再び開けてから自ら閉め直し、レバーの位置がマニュアルに示された所定の位置にあることを確認した。そして、問題はないと判断したのである。この上司は、普段は扉の開け閉めをしなければならない立場にはなく、レバーを回したときの正常な抵抗感を知らなかったのだ。

だが、外から見ただけではわからない異状が内部で起きていたのである。その扉は、レバーを回転させたときに、機体側にある穴に扉側のピンが入ってロックさせる構造になっていた。しかしピンは穴にうまく入らず、無理矢理にレバーを回したことで、ピンを差し入れる機構全体が歪んでいたにすぎなかったのである。

結局、これが原因となって飛行機は墜落し、乗客・乗員は誰も助からなかった。「いつもと違う」よりも「マニュアル」を重く見た結果の悲劇であったといえよう。

エ 振動

さて、話を戻そう。振動については13号車で14:59に発生していたとされている。もちろん新幹線では走行中は常に振動は発生している。これは、いつもと違う振動だったということであろう。そして、15:16分には洗面所付近で床下からビリビリ伝わる振動があり、15;55には再び13号車で振動があったとされる。


(2)車両側と運用司令員との連絡

先ほどの19日のJR西日本の記者会見でもみたように、止めるかどうかの判断をする権限は運用司令員にある。これを前提に、車両に乗っている職員と運用司令員の間のやりとりを見てゆこう。なお、鍵カッコで表示した部分以外は、JR西日本の資料を短く略して記している

【車両と運用司令員のやりとり】

  • 14:18 車両側から 7・8号車よりにおいがする
  •     指令員から 他のお客様の申告の有無および、他に異常な音などはないか
  •     車両側から お客様の申告はない、他に異常な音はない
  • 14:30 指令員 (岡山支所の車両保守担当当直に車内でにおいがあることを伝え、車両保守担当社員の乗車を手配)
  • 14:35~車両側から8号車のにおいがしなくなった
  •     指令員から 岡山から車両保守担当社員が乗車する
  • 15:15 車両側から 13号車にモヤがある
  • 15:16     ※ 車両保守担当社員H・I・J乗車
  • 15:31 車両側から 13・14 号車ににおいがある。車内も空調を通して曇っているような感じがする。
  •     車両側から 「においはあまりしない」「音が激しい」「床下を点検したいんだけど」
  •     指令員から 「走行に支障があるのか」
  •     車両側から 「そこまではいかないと思う、見ていないので現象がわからない」
  •     車両側から 「モーター関係が少し大きい音を出している可能性がある」
  •     指令員から 「ちょっと待ってください」
  •     車両側から 「安全をとって新大阪で床下をやろうか」
  •    (司令員側は、この提案を聞き取れなかったとされている)
  •     車両側から 「13号車のモーター開放の処置がいいと思うが、もう一度調査して連絡する」
  •     指令員から 7・8号車のにおいは
  •     車両側から 「今はもうしない」「13 号車の音が高いことが気になる」
  •     車両側から 13 号車のモーター開放をし、音の変化を確認してはどうだろうか
  •     指令員から (運転士に)13 号車のモーター開放をせよ
  •     指令員から (車掌に)13 号車のモーターを開放する
  •     指令員から 体調不良のお客様や苦情の有無はどうか
  •     車両側から 今のところはない
  • 15:55 車両側から 「13 号車のモーター開放をするも音に変化がなく、台車まわりではないかと思う」
  •     指令員から 13 号車のモーター開放を復位せよ
  •     指令員から 「走行に支障があるという感じではないか」
  •     車両側から 「判断できかねるんで、走行に異常がないとは言い切れないかな」「音が変わらず通常とは違う状態であることは間違いないと思います」
  •     司令員から 「台車関係かどうかというのは疑わしいけれど分からないということですよね」
  •     車両側から 「そうですね、はい」

3 事件の問題点

(1)車両側と指令との会話の問題点

ア 点検の提案が実施されなかった

これを見ればわかるように、乗車した保守担当社員は、安全のために一旦駅で停止して床下の点検をするべきだと運行司令員に提案している。複数の異常を思わせる兆候があるのだから、点検をして状況を確認するべきだというのだ。この判断こそが、この状況においては、唯一の正しいものであった。この判断に従っていれば、その時点で事故発生への可能性は断ち切られたのである。

ところが、おどろくべきことに、運行司令員は、この提案を聞き漏らしたという。

だが、提案を聞き漏らしたにせよ、運行司令員のような立場にいるものであれば、自らが、床下の点検をするという判断をするべきであったろう。ところが、そうはならなかったのである。

イ 司令員の不思議な質問

次に問題とされるべきは、指令員の側から2度にわたって「走行に支障があるのか」「走行に支障があるという感じではないか」と聞いていることである。

最初は車両側から「そこまではいかないと思う、見ていないので現象がわからない」という回答があり、2度目は「判断できかねるんで、走行に異常がないとは言い切れないかな」「音が変わらず通常とは違う状態であることは間違いないと思います」との回答がある。


(2)あいまいな言葉を用いていること

ア なぜあいまいな言葉を使ってはならないのか

まず、司令員の「走行への支障」の質問についてみてみよう。なぜ、これが問題かと言えば、ひとつには「走行への支障」の意味があいまいだということだ。事故への対応では、誤解のない言葉を使わなければならない。あいまいな言葉は、重大な問題を引き起こす原因となるのだ。

そもそも「走行に支障がある」とはどういう意味だろうか。激しい振動があったり、どこかが燃えていたり、すさまじい異音がしたりしているということであろうか。もしそうであれば、司令員に連絡をするまでもなく運転士が判断して止めているだろう。走っているということは、支障はないと考えているからである。支障があれば走っているはずがあるまい。

では、走行に支障があるとはどういうことなのか?これが判らないのである。そのため、質問者と回答者で、理解が異なってしまう可能性があるのだ。

イ あいまいな言葉による事故の例

ここで、ある一つの事故の例を挙げよう。ある小規模な空港に、近くの大規模空港が一時的に使えなくなったため、多数の航空機が一度に着陸を余儀なくされたことがある。やがて近くの空港が使用可能になったので、管制官は航空機を順に発着させ始めていた。

管制官は、ある大型機(A機)に1本しかない滑走路の端へ移動するように指示した。そのとき、平衡に走っている唯一の誘導路には他の航空機が一時的に駐機していたため、別な大型機(B機)を、滑走路を誘導路代わりにして移動させようとしていた。

そのとき、空港にはガスがかかり、A機が滑走路の端まで行って、滑走路の側に向き直ったときは、ガスのためにB機が見えなかった。A機が離陸許可を求めると、管制官はまず、A機が誘導路を移動しているときに言っておくべきことを言ってから要求を拒否した。「〇〇の飛行計画を許可する。離陸は待て」

ところが、この前半を聞いたB機が無線に割って入った。「待ってください。我々はまだ滑走路から出ていません」

管制官の「離陸は待て」とB機の通信が重なったため、A機にはこの部分はザーっというノイズにしか聞こえなかった。A機の機長は離陸許可が出たと思い込み離陸を開始する。このとき副操縦士は不安を感じたためか、管制官に対して「我々は離陸を開始中」と連絡した。機長の顔を立てたうえで、もし問題があれば管制官から止めてもらおうと思ったのだろう。

ところが、管制官はA機が許可もなく離陸を始めるとは思ってもいない。しかもこの通信の英語がややあいまいなものだった。そのため、「離陸の準備中」と誤解して「了解」と言ってしまったのだ。

A機がB機を見つけたとき、ブレーキをかけるには遅すぎた。慌てて操縦桿を引いた。おそらく永遠とも思われるような時間が経過した後、A機はゆっくりと浮かび上がった。B機も必死でエンジンをふかして滑走路から出ようとした。

だが、どちらもわずかに遅すぎたのだ。A機はB機の天井をこすってから墜落し、乗客乗員は全員が死亡した。B機にもかなりの死傷者が出ている。

B機の副操縦士は、激しい衝撃を受けた直後に、火災を知らせるランプが点灯するのを見た。消火設備のスイッチを入れるために天井に手を伸ばしたが、意味はなかった。そこには天井がなかった。


(3)自ら判断しようとしていないこと

ア 支障がないという根拠はどこにあったのか

さて、話を戻そう。司令員の側からの走行に支障がないのかという質問に対して、車両の側は明確な回答をしていない。最初は、「そこまではいかないと思う、見ていないので現象がわからない」と答え、2度目は「判断できかねるんで、走行に異常がないとは言い切れないかな」「音が変わらず通常とは違う状態であることは間違いないと思います」と答えている。

要するに、走ったままでは点検ができないので、支障があるかどうかわかるはずがないということである。これは当然であろう。走っている車両の中にいて、走行装置の点検もせずに、走行に支障があるかどうかを判断しろと言われても、それは無理な注文というものである。

ところが、司令員は、この回答を受けて、「車両の側は、明確に支障があるとはしなかった」と考え、走行に支障はないという判断を変えようとはしなかったというのである(JR西日本の公表文書による)。

イ 司令員には適切な人材を配置していたのか

これでは、司令員としての能力に問題があると言われてもしかたがないだろう。ただこれは、司令員個人の問題というよりも、このような人物を司令員として配置していたことに問題があるというべきだ。

車両側が、「見ていないので現象がわからない」「走行に異常がないとは言い切れない」「通常とは違う状態であることは間違いない」と言っているのである。

それにもかかわらず、車両の側が走行に支障があるとは考えていないという理由で、点検せずに走行しても問題はないと運行の責任者たる司令員が判断しているのだ。このような司令員なら、いる必要はない。

ウ 私の体験

ここで、もう一度話を変えよう。これは私自身の経験だ。私は中学校を卒業して就職したメーカで、工作機械の電気保全の仕事をしていた。工場は昼夜勤の操業体制で、保全マンは24時間をフルカバーする変則的な交代制だった。

ある日、昼勤のときだったか夜勤のときだったか忘れたが、出勤したところ、前番の18歳未満の職員が工場内の機械の修理に出ていることが伝票から分かったので交替に出向いた。簡単に引継ぎを受けたところ、原因は不明だが、工作機で材料の加工をすると、加工が終了したタイミングでヒューズが切れるという。ただ、加工しているのは重要な材料で、その機械が止まると生産に重大な支障をきたす。そのため、1回、1回ヒューズを交換して、加工をしながら原因を調査していたという。

了解して、彼が詰め所へ戻った後、ヒューズを入れてみるとそのとたんに切れてしまった。おかしいと思って、捨ててあったヒューズを調べてみると、定格の数倍のヒューズだった。前番者は、定格の数倍のヒューズを使用していたのだ。

私は、事情を機械の担当者に説明し、機械を止めて修理をすると宣言した。ところが彼は、みるみる不機嫌になった。「さっきの男は機械を動かしていた」というのだ。私も負けてはいない。「漏電しているのは明らかだ。機械が火を噴いて、2、3日使えなくなるか、あなたが感電して死ぬことになってもいいのか」とやりかえした記憶がある。

しばらく言い争ったが、「いずれにしてもヒューズを入れても切れてしまうのだから、この機械は使えない」と宣言して、修理を始めた。さっさと直してしまえば済む話なのだ。

しばらくすると、私の上司の係長が現れた。係長は、普段は詰所ではなく事務所にいる、いわゆる「ネクタイ組」で、当時の私にとっては雲の上の存在だった。機械の担当者の方から依頼したらしい。私は、係長に事情を説明した。すると係長は、いかにも得心したというように、分かったと言って、機械の担当者の方を説得してくれた。

結局、修理にはそれほど時間はかからず、詰所へ戻ってから先輩にその話をしたら、笑って、よくやったと褒めてくれたものである。

重要な生産設備を止めるというのは、重い判断だ。それでも、当時、19歳の私がそれをしたのは、現場では多少気が強くないとやっていけないということもあったが、安全は重要であり、ルール違反をしてはならないという教育を徹底して受けていたからなのだ。


(4)調査のイニシアティヴをとっていないこと

ア 司令員の認識

さて、話を戻そう。今回の事故では、司令員はほとんど、主体的に情報を収集しようとしていない。技術的な内容については、車両の側からの報告を受けているだけである。13号車のモータの開放も、たんに車両側からの提案を受け入れただけである。

実際に指令の側からの車両側への質問は、「お客様からの申告」「体調不良のお客様や苦情の有無」などであり、営業やクレーム処理の方に気が向いているようである。どうも全体から見て、技術的な事項についての知識や能力がなく、十分な教育も受けていない人材が配置されているという印象を受けるのだ。

しかも、自ら状況を確認して、停車と点検の実施についての判断をしなければならないという認識がないようなのだ。これでは、車両の側も困ってしまうだろう。

イ TMI原発事故の例

ここで、もう一度、ある事故の例を挙げよう。今度は、きわめて有名な事故だ。TMIの原子力事故の最初の原因が、安全弁の開固着であることは、現在ではよく知られている。この安全弁の開固着の結果、圧力容器内の圧力が低下しているにもかかわらず、容器内の水位が上昇するという矛盾した状況となっていた。

現場では、冷却水の水位が上がった場合の、マニュアルに定められた手続きに従って、冷却水を放出するという最悪の判断を下し、原子炉が空焚き状態になってしまったのだ。

そのとき、システムに詳しい技術者が現場へ呼ばれた。彼は、現場の判断には与しなかった。状況を調べ、自らの判断で安全弁の周囲を閉鎖しようと考えた。そして、その措置を行ったときから、状況は改善され始めたのである。もし、彼が現場の判断をそのまま受け入れていたら、事故は福島第一のような深刻な災害にまで陥った可能性さえあるだろう。

彼は、TMIの構造について熟知しており、かつ適切な判断をする知識、能力そして権限があったために、事故の拡大を防止することができたのである。

4 まとめ

私が、この事件について調べていて思ったのは、運転の司令員という制度が形骸化しているのではないかということだ。形だけは立派に整えられているのだが、異状事態が発生した場合に必要な判断をする能力もなければ、その役割についての教育も受けていない人材が配置されているという強い印象を受けるのだ。

もしかしたら、たんなる人事処遇の一環のポストとしか思われていないのではなかろうかとさえ思える。乗客の安全についての判断をつかさどる立場の職員が、これでは困るのである。

報告書は、車両側と指令員側の認識のずれが問題だとしているが、そうではあるまい。情報は車両側からは伝えられているのである。要は、意識のずれなどというものではなく、指令員の側がそれを正しく認識できなかったことが問題なのである。

誤解しないでいただきたい。繰り返しになるが、私は司令員個人を批判するつもりは全くない。問題は、必要な能力のない人材が配置され、司令員のシステムが形骸化していたということの方なのだ。

もしかすると、形だけを整えることに熱心で、目的のために何をどうするべきかということを考えることをしていなかったのではなかろうか。

同社が12月27日に公表した資料は、一見するとかなりよくできていると思える。とりわけ「別紙4 新幹線重大インシデントの現時点での検証内容」は、よくまとまってはいる。

だが、この別紙4には重大な事項がもれている。「判断を相互に依存しがちな意識の存在」が挙げられているが、そこに対策としての「責任の明確化」が抜けているのである。司令員に、走行を止める判断をする責任があるということを明確にするべきだという記述がないのである。これでは「相互依存体質」が解消されることはないだろう。

たんに形式を整えるのではなく、目的にとって何が有効かを実質的に考えないと、インシデントや事故の再発は防げないということを最後に指摘しておきたい。


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