通知対象物(RA 等の対象物)の見分け方

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※ イメージ図(©photoAC)

化学物質管理の在り方が自律的管理に変わることで、今後、SDSをチェックしたりリスクアセスメントを行うことがますます重要となります。

そして、リスクアセスメントの対象物は最終的に 2,900 物質になることとされています。

事業者は、リスクアセスメントに漏れがないようにするため、何がリスクアセスメントの対象となるのかを理解しておかなければなりません。

本稿では、リスクアセスメントの対象となるものの見分け方について解説しています。




1 背景事情

執筆日時:

最終改訂:


(1)リスクアセスメントの対象となる調査対象物とは

化学物質による労働災害防止のためのリスクアセスメントを義務付ける改正労働安全衛生法(労安法/安衛法)が、2016年6月1日に施行された。その対象となるものは、同法第57条の3第1項で定められており、

【リスクアセスメントの対象となる物とは】

安衛法第57条の3第1項により、次のように定められている。

  • 安衛法第57条第1項の政令で定めるもの(及び)
  • 通知対象物

とされている。

そして、前者の"安衛法57条第1項の政令で定めるもの"は、労働安全衛生法施行令(安衛令)第18条で定めてある。

【安衛法第57条第1項の政令で定める物とは】

     ↓

【安衛令第18条で定めるもの】

① 安衛令別表第9に掲げる物(イットリウム、インジウム、カドミウム、銀、クロム、コバルト、すず、タリウム、タングステン、タンタル、銅、鉛、ニッケル、白金、ハフニウム、フェロバナジウム、マンガン、モリブデン又はロジウムにあっては、粉状のものに限る。)

② 安衛令別表第9に掲げる物の混合物(製剤その他の物)で安衛則で定めるもの

③ 安衛令別表第3第1号1から7までに掲げる物(特定化学物質の第1類物質)の混合物(製剤その他の物)で安衛則で定めるもの(同号8に掲げる物を除く。)

※ ②の安衛則で定めるもの ⇒ 安衛則第30条で定める

③の安衛則で定めるもの ⇒ 安衛則第31条で定める

しかし、この安衛令第18条で定めているものは、後で説明するが、安衛法第57条の3第1項で定めるリスクアセスメントの対象となる物のうち後者の"通知対象物"と物質の種類が同じで、わずかに範囲が狭い(包含される)だけなので無視してよい。

そして、通知対象物とは、安衛法57条の2第1項に定義があり、

【通知対象物とは】

安衛法第57条の2第1項により、次のように定められている。

  • 労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの(又は)
  • 第56条第1項の物

である。

そして、前者の"政令で定めるもの"は、安衛令第18条の2で定めてあり、後者の(安衛法)第56条第1項の物とは、「安衛令第17条で定めるもの(特定化学物質等の第1類物質及び石綿分析用試料等)」である。

従って通知対象物とは、本文と順番が入れ替わっているが、

【通知対象物とは(安衛法第57条の2第1項)】

     ↓

【安衛令第17条で定めるもの】

① 安衛令別表第3第1号に掲げる第1類物質及び石綿分析用試料等

【安衛令第18条の2で定めるもの】

② 安衛令別表第9に定めるもの

③ 安衛令別表第9に定めるものの混合物(製剤その他の物)で安衛則で定めるもの

④ 安衛令別表第3第1号の1から7に掲げる物(特定化学物質の第1類物質)の混合物(製剤その他の物)で安衛則で定めるもの

※ ③の安衛則で定めるもの ⇒ 安衛則第34条の2で定める

④の安衛則で定めるもの ⇒ 安衛則第34条の2の2で定める

である。ここで、先述の安衛令第18条で定めるものと、この安衛令第18条の2で定めるものは、条文の構造がきわめて似ていることがわかるであろう。

実は、安衛令第18条で定めるものとは、ラベル(容器又は包装への表示)の対象物であり、安衛令第18条の2で定めるものとはSDSの対象物(通知対象物)なのである。かつては、ラベルの対象物の、表示対象物よりもかなり少なったのだが、2016年6月1日の改正でこの2つがほぼ一致したのである。

ラベルの対象物とSDSの対象物で条文上異なっているのは、次の3点に限られる。

表:ラベルの対象物と通知対象物の違い
別表第9の物質 混合物
安衛令別表第9のものの混合物 第一類物質の混合物
安衛令第18条
(ラベルの対象物)
一部のものについて粉状の物に限られる 安衛則第30条で定める 安衛則第31条で定める
安衛令第18条の2
(SDSの対象物)
上記のような限定はない 安衛則第34条の2で定める 安衛則第34条の2の2で定める

そして、混合物についても、規定している安衛則の条文は異なっているが、その内容は、ほぼ同じで、ラベルの対象物からは原則として「運搬中及び貯蔵中において固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物」が除かれていることと裾切り値に差異がある程度である。そして、ラベルの対象物は、SDSの対象物に包含されているのである(※)

※ 四アルキル鉛で若干の例外があるが、通常の事業者は気にしなくてよい。

以上をまとめると次のようになる。

意 味 法令上の名称 定 義
表示(ラベル)の対象物
  • 令第十八条各号に掲げる物(及び)
  • 第1類特定化学物質等
通知(SDS)の対象物 通知対象物
  • 令第十八条の2各号に掲げる物(及び)
  • 第1類特定化学物質等
リスクアセスメントの対象物 調査対象物
  • 令第十八条各号に掲げる物(及び)
  • 令第十八条の2各号に掲げる物(及び)
  • 第1類特定化学物質等

このため、条文上は、

リスクアセスメントの対象物 = ラベルの対象物 + SDSの対象物

なのだが、テキストなどでは

リスクアセスメントの対象物 = SDSの対象物(通知対象物)

と書かれているのである。

よく、これは間違いではないかという問い合わせを受けることがあるが、もちろん間違いなどではない。ただ、調査対象物のうち、最初の「令第十八条各号に掲げる物」は、すべて「令第十八条の2各号に掲げる物」に(たまたま)包含されるので、無視してよいのである。

そして、2023年1月3日現在、①のうち純物質は7物質(※1)、②は純物質(※2)のみで669物質列挙されており、計674物質となる(※3)。ただし、自律的な化学物質管理の法令改正が行われ、今後、最終的に物質の種類は約 2.900 種類まで増加することとなる。

※1 ①には7つの純物質の他、これらを一定の割合で含む製剤その他の物も含まれる。なお、7つの「純物質」には、「〇〇及びその塩」、「〇〇及びその化合物」と定められているものもあるため、7種類の物質というわけではない。

※2 厳密には「純物質」という表現は正確ではなく、「安衛令で、物質として指定されている物」という程度の意味である。ガソリンやクレオソートオイルなど、混合物も含まれている。また、ここでも「〇〇及びその化合物」などと定められているものもあり、669種類の物質というわけではない。実際には669種類よりもかなり多い。

※3 2017年(平成29年)3月1日にそれまでの640物質に27物質が追加され、このとき複数の物質を1項目にまとめたりしたため663物質となった。さらに、2017年(平成29年)8月3日にシリカが結晶質シリカと変わったが、このときは号の数には変更はない。そして2018年(平成30)年7月1日に10物質が追加され673物質となった。その後、1物質の追加が行われ、2023年1月現在で674物質となっている。

通知対象物は640物質だった期間がかなり長かったため、労働衛生の関係者の間では、かつては通知対象物を"640物質"と呼ぶことがあった。

ここで、③は、②の混合物(製剤その他の物)である。また、④は、①の第一類特定化学物質等の重量濃度の下限よりも裾切り値の方が低いため、裾切り値と①の重量濃度の下限の間の濃度の物質を定めたものである。

化粧品のイメージ

※ イメージ図(©photoAC)

ところで、安衛法第57条の3には、同第57条の2にある但書(ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない)がないため、一般消費者の用に供するものもリスクアセスメントの対象に含まれるのではないかという疑問があるかもしれない。

しかし、これは安衛則第第34条の2の7の括弧の中の「主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く」という表現によって除いているのである。なお、主として一般消費者の用に供されるものが何かについては、平成27年8月3日付基発0803第2号の第3の1の(2)の他、本サイトの「「主として一般消費者の生活の用に供される製品」とは何か」を参照して頂きたい。

なお、表示(ラベル)、文書交付(SDS)、リスクアセスメントの対象の異動について、詳細な説明を当サイトの「労働安全衛生法の化学物質の表示制度」に示したので参考にして頂きたい。


(2)少なくない事業者を困惑させていること

〇と×のカードで迷う女性

※ イメージ図(©photoAC)

ところが、少なくない事業者にとって、自社で使用している化学物質が通知対象物に該当するかどうかが分からないのである。そればかりか、どうやれば見分けられるのかすら判らないことも多いのだ。

古参の労働基準監督官が新人への教育で、「事業場へいって『有機溶剤を使っていますか』と聞いたら、『うちはシンナーを使っていますが、有機溶剤のような化学物質は使っていません』という答えが返ってくることがある」という話をすることがある。もちろん、シンナーの中にはトルエンやキシレンなどの有機溶剤が含まれているし、仮に有機溶剤でなかったとしても化学物質には違いはない。このような誤解は、通知対象物となるとなおさらのことであろう。

しかも、なぜか、この見分け方について解説した書籍や雑誌の記事というものが見当たらないのである。おそらく、化学物質の専門家であればあまりにも常識的なことなので、そのような解説書がないのだろう。あるいは、特に制度改正に関わるようなことでもなく、目新しいことでもないので、雑誌等でも誌面の一部を割いてまでは取り上げにくいのかもしれない。しかし、一般の事業場の実務家は、意外にこのようなことで苦労しているのである。

もちろん、このように言うと、安衛令の別表第9を見ればよいではないかという反論が返ってくることがある。しかし、ことはそう簡単ではない。

例えば、2017年(平成29年)3月に施行された安衛令改正で、新たに通知対象物として追加された27物質の中に「ブテン」がある。一方、事業場で使用している物質の中に、その名称として容器に「α-ブチレン」と書かれている物質があるとしよう。

そうなると、(改正後の)安衛令別表第9をいくら調べても「ブテン」という物質はあっても、「α-ブチレン」という物質は記されていない。大学で化学を専攻した社員がいれば、α-ブチレンがブテンの異性体だということはすぐに分かるだろうが、そういう職員がいる事業場ばかりとは限らない。

また、パラ-メトキシフェノールと-メトキシフェノールが同じものだと分からない安全衛生担当者でさえかなりいるのではなかろうか。

しかも、別表第9の中には「○○及びその化合物」と書かれているものがかなりある。従って、この「○○の化合物」に該当するものは、その化学物質の名称で安衛令別表第9を検索してみてもヒットすることはありえない。つまり、「安衛令別表第9を見ればわかる」などと、簡単にいえるようなものではないのである。

実をいえば、我が国には多くの種類の化学物質を規制している法令が、数多く存在しているが、ある化学物質がそれらの法令の規制対象に該当するかどうかを判断するのは専門家にとっても意外に難しいものなのである。

以下の質問のすべてに正しく答えられる専門家がいれば、相当な高度の専門家だといってよい。なお、①から⑤と番号が増えるにしたがって、難しくなっていく。

【化学物質の同名クイズ】

① o-トリジンとo-トルイジンは同じ物質か別な物質か?

② プロパンとプロペンとプロピレンで、物質数はいくつか?

③ 航空燃料のケロシンで、添加剤を改良することにより、安衛令別表第9に該当しないようにした製品はあるか?

④ 安衛令別表第9に「クレオソート油」があるが、木クレオソート(ウッドクレオソート)はこれに該当するのか?

⑤ ある化学物質が通知対象物だったとき、その物質の水和物は通知対象物質になるのか?

答を言えば、

【化学物質の同名クイズ 正答】

① 別な物質である。o-トリジンは第一類の特定化学物質(製造許可物質)であるが、o-トルイジンは第2類の特定化学物質(2016年12月31日まではたんなる通知対象物であった)、福井県の化学工場で膀胱がんの原因物質であったとされるものである。

② 2物質である。プロペンとプロピレンは同じものである。これは、化学物質の命名法であるIUPAC命名法によって、プロピレンがプロペンと呼ばれるようになったものである。化学の専門家には簡単な問題であろうが、工学部でも化学出身でないと間違うことがある。なお、最近は、法令改正で条文中に新たに化学物質の名称を記すときは、法律又は政令にすでにその物質が定められていればその名前を用い、いなければIUPAC命名法によることが多い。

③ あり得ない。ケロシンの主成分は灯油(厳密には同じものというわけではないが)であり、灯油は安衛令別表第9の対象である。

④ 該当しない。「クレオソート油」と「木クレオソート」は、まったく別なものである。ところが、公的な機関のWEBサイトで、該当すると書かれているものを見たことがある。そのくらい、化学物質の見分け方は難しいということである。

⑤ 法律上、当然に該当する。これは行政機関の公的な解釈である。


2 通知対象物の見分け方

そこで、本稿では、ある化学物質が通知対象物かどうかを見分けるごく簡単な方法を説明したい。

ただし、このサイトは、実務家を対象とする方針で作成しており、専門家を対象とはしていない。あまり、ディープ(?)な世界(水溶性化合物の範囲は何かとか、鉱油の定義はなんだとか)に入り込むことはせず、ごく常識的な説明にとどめたい。


(1)まずはSDSを見てみよう

当たり前すぎるようであるが、通知対象物質かどうかを見分ける最初の方法は、SDSを見てみることである。SDSがJISに従って記述されていれば、16の項目に分かれており、15番目は「適用法令」となっている。従って、ここをみれば分かる(ことになっている)。なお、まれに3番目の「組成及び成分情報」のところに書かれているものがある。

【SDSの「適用法令」には何が書かれているか】

① 安衛生令の規定と解釈通達

ア 通知対象物についての規定

通知対象物(労働安全衛生法によるSDSの義務の対象物質)に関しては、SDSに「適用される法令」を記載しなければならないと、労働安全衛生規則第34条の2の4第1項第4号に定められている。

そして「適用される法令」とは、平成18年10月20日(平成22年改正)基安化発第1020001号「労働安全衛生法等の一部を改正する法律等の施行等(化学物質等に係る表示及び文書交付制度の改善関係)に係る留意事項について」によると、「化学物質等に適用される法令の名称を記載するとともに、当該法令に基づく規制に関する情報を記載すること」とされている。

従って、SDSの第15の項目の「適用法令」には、少なくとも安衛法令に基づく規制に関する情報を記載しなければならないこととなる。

イ 特定危険有害化学物質等についての規定

また、特定危険有害化学物質等(SDSの努力義務の対象物質)についても、「適用される法令」をSDSに記載するべきことが労働安全衛生規則第24条の15第1項第10号によって求められている。

これも、平成24年3月29日基発0329第10号「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進について」に「特定危険有害化学物質等に適用される法令の名称を記載するとともに、当該法令に基づく規制に関する情報を記載すること」とされている。

② JISの記述、及び、JISと安衛法の関係

ア JISの記述

「JIS Z7253:2012」には「この項目には、化学品のSDSの提供が求められる国内法令の名称を記載する。また、その法令に基づく規制に関する情報及びその他の適用される法令の名称を含めることが望ましい」とある。

イ JISの記述と安衛法の関係

平成18年基安化発第1020001号(改正平成22年12月16日)によれば、JIS Z7251:2010 に従っていれば、安衛法令は満たされるとされている。(JIS Z7251は平成24年にJIS Z7253 に移行している。)

③ 結論

ア 現行のSDSの「適用法令」に表示されていること

従って、「JIS Z7253:2012」に従うならば、SDSの「適用法令」の項目には、"日本国内でSDS提供を義務付けている法令の名称"を記載する必要があり、かつそれで安衛法の規定を満足したことになる。つまり、安衛法の通知対象物等であるということについては、記載がなければならないことになる。しかし、その他の法令の適用関係についての記載は「望ましい」にすぎないので、すべての法令が書かれているとは限らないことに留意しなければならない。

イ 専門家による有力な見解

この問題について、専門家による有力見解として、JISには「解説4a)」で、「法令とこの規格が一致しない場合は、法令が優先される」とあり、労働安全衛生規則第34条の2の4第1項第4号が優先される。そして、労働安全衛生法の目的は「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する」ことであるから、SDSに記載されるべき「適用される法令」もこの目的に沿う法令についてはすべて書かれるべきだとするものもある。

ところが、現実のSDSの中には、特化則や有機則の対象物の場合にはそう書かれていても、通知対象物だとは書かれていないものがあるのだ。また、「適用法令」の項目については、残念ながら内容が誤っているSDSがかなりあるというのが現実なのである。

従って、SDSに通知対象物質と書かれていないからといって、信用することはできないのが現状だと思っていただきたい。ただし、通知対象物質だと書かれていれば(たぶん)そうだと思って間違いない。

SDSの交付状況

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また、そもそも SDS がない場合もあるだろう。化学物質の提供元からSDSの提供を受けなかったからといって、その化学物質が通知対象物ではないとはいえないことは当然である。

図は2021年の労働安全衛生調査の結果である。上側の棒グラフは対象となる化学物質を他の企業等に提供しているかどうかを表しており、下の円グラフは化学物質を提供しているときに、SDSを公布しているかどうかを表している。

対象となる化学物質を第三者に提供しておきながら、SDSを交付しない事業者がかなりいることも事実なのeある。もちろん提供元企業は違法状態だが。


(2)WEBサイトで検索する前に

そこで、次はWEBサイトで調べてみようということになる。ただし、名称で検索してもあまり意味はない。化学物質というものは、別名が多いし、ときには商品名しかわからないこともあるからである。また、事業場で使用されている化学物質のほとんどは混合物である。商品名や混合物の名称で検索してみてもあまり有用な情報はヒットしない。

そこで、まずはその成分を調べて、次に各成分のCAS RN®を調べる。成分はSDSの3番目の項目(組成及び成分情報)に記載されている。CAS RN®もここに記載されていることが多い。

【CAS RN®とは】

CAS RN®とは、1種類の化学物質に1つの番号(2つのハイフンによって3つの数字列に分かれている)を割り当てたものである。従って、その番号によって化学物質を特定することができる。米国化学会(American Chemical Society)が発行しているChemical Abstracts誌で使用される化合物番号であるが、広く一般的に用いられている。少なくとも厚生労働省、経済産業省、環境省が作成する化学物質関連の文書には、名称だけでなくかつてはCAS RN®が記載されていることも多かった(※)

※ 後述するように、2017年以降は、CAS RN®の利用にはライセンスが必要となり、商用利用には料金が発生することとなっている。このため、日本政府はCAS RN®の使用は控えるようになっている。

なお、CAS RN®は混合物に割り当てられていることもある。まれにCAS RN®のない物質もないわけではないが、現時点においては通知対象物でCAS RN®のないものはない。自律的管理で増加する2,900種類の物質の中にCAS RN®のないものもあるが、ダイオキシン類、綿じんなどの他はそれほど一般的な物質ではなく、数もそれほど多くない。

かつては、1種類の化学物質に複数のCAS RN®が割り当てられたリ、数種類の化学物質に1つの番号が割り当てられたりといった混乱があったが、最近ではかなり整理されている。

なお、2017年までCAS RN®は、自由に使用できたが、2017年に制度が変わり、CAS RN®の使用にはライセンスが必要となっている。詳細は一般社団法人化学情報協会CAS 登録番号サービス」を参照されたい。

検索は、このCAS RN®を用いると間違いが(ほとんど)ない。

なお、CAS RN®については、法令上の義務としてSDSに記載しなければならないものではないが、実務上は記載する。現実に、CAS RN®の書かれていないSDSはめったに存在しない。もし、あったとすれば、そのSDSについては他の内容は信用できないと思った方がよい。そのようなSDSを作成する企業は、何かを隠したがっているか、化学物質に関する知識がない可能性が否定できないからである。

SDSにCAS RN®が書かれていないか、そもそもSDSがない場合にはどうするべきか。場合によっては、そのような物質は、何が入っているか分からないので、リスクの判定ができないし有効な対策もとれないと判断し、使用をやめるということもひとつの選択肢である。

それができない場合は、メーカーのWEBサイトに「サイト内検索」の機能があれば、名称で検索してみて、各成分とそのCAS RN®を探してみる。メーカーのサイトになければ、他のサイトを検索することになるが、この場合は、見つかっても、複数のサイトで照合してみた方がよい。また、念のためCAS RN®CASのサイトで検索してみよう。もし、「Invalid Registry Number」と出力されたら、ハイフンが半角マイナスになっているかどうかを確認して、もう一度検索し、それでも同じように出力されるならなにかが間違っているはずだ。


(3)どのサイトで検索するか

CAS RN®が分かったら、すべての成分のCAS RN®について、WEBで検索してみる。このとき、以下のサイトを用いるとよい。

まずは、厚生労働省の職場のあんぜんサイトGHS対応モデルラベル・モデルSDS情報で検索してみる。ここには、GHS対応のモデルラベル・モデルSDSが掲載されている。通知対象物であれば、SDSの15番目の項目にそのように記載されている。このサイトには、現行の安全衛生法施行令別表第9に掲載されている物質は原則としてすべて掲載されていることとされている。

ただし、以下のことに留意する必要がある。

  • ① 前述したとおり、同別表第9で化学物質の群(「○○の化合物」などの形)で定められているものがある。その場合は、すべてが掲載されているわけではない。
  • ② また、○○物質とその水和物では異なるCAS RN®が割り振られているが、○○物質は掲載されていても、必ずしもその水和物が掲載されているとは限らない。
  • ③ さらに、あなたが調べているCAS RN®が混合物に割り振られているものだとすると、やはりここに掲載されていないからといって、ただちに通知対象物でないとは言い切れない。すなわち成分については掲載されていてもその混合物まで掲載されているとは限らないからである。
  • ④ また、特殊な例として、安衛令別表第9第140号のクレオソート油がある。これも混合物だが、組成が産出された場所によって異なり、それぞれが独立してCAS RN®をもっているのである。もちろん、すべて別表第9の対象であるが、これもすべてのCAS RN®が掲載されているわけではないのである。

従って、ここにモデルSDSが掲載されていないからと言って、ただちに通知対象物質ではないと判断することはできない。

そこで、次に、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の化学物質総合情報提供システム(CHRIP)で検索してみる。検索画面は次図のようになっている。弁号で検索にCAS RN®を入力して(図ではo-トルイジンのCAS RN®を入力してある)検索実行のボタンをクリックする。

CHIRIP検索画面

図をクリックすると拡大します

検索結果が出力されたら、画面を下方向スクロールさせる。「安衛法:名称等を表示し、又は通知すべき危険物及び有害物」の項目があって、そこに物質名が記載されていれば、通知対象物である。

CHIRIP検索結果

図をクリックすると拡大します

このサイトは日本国内のいくつかの法令の適用関係のほか、製造使用量、用途、有害性情報などの情報がある。現時点における我国の最も情報の豊富なサイトといってよい。また、水和物や混合物なども含めて、CAS RN®が割り振られている物質のほとんどが掲載されているといってよい。

ここまでやっても分からなければ、通常の事業者にはそれ以上の手立てはないといってよいと思う。方法があるとすれば、しかるべくコストを払って専門家に尋ねてみることだ。もっとも、これらのサイトで得られる情報以上の知識を持っている専門家など、ほとんどいないとは思うが。

これらのサイトでは、安衛令別表第9に記載されている名称も分かる。具体的には、職場のあんぜんサイトの場合はSDSの表題がそうであり、CHRIPの場合は「安衛法:名称等を表示し、又は通知すべき危険物及び有害物(平成28年6月1日施行分)」に記載されている名称がそれである。

なお、SDSの裾切り値は、CHRIPの「表示の対象となる範囲(重量%)」に記載されているし、元の情報は労働安全衛生規則別表第2に記載されている。


3 適用除外

なお、通知対象物であっても適用除外等となる場合があるので、それについて述べておこう。


(1)適用除外等となる物

まず、すでに述べたが、各物質にそれぞれ裾切り値(労働安全衛生規則別表第2(第三十条、第三十四条の二関係)下段)が定められており、重量濃度がそれ未満のものには適用されないこととされている。なお、この裾切り値は、政府のGHS分類結果に基づいて、GHSにおけるカットオフ値をそのまま流用して定められている。

また、これもすでに述べたが、「一般消費者の用に供する物」も適用除外となっている。政府の化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)では、「ホームセンターで売っている物」が例として挙げられている。

さらに産業廃棄物は、安衛則第34条の2及び同第34条の2の2「製剤その他の物」に該当しないので、混合物であれば法律上の文書(SDS)交付の対象にはならないと考えて良い。


(2)適用除外等とならない物

ア 塊状の物

なお、塊状のもの(固体であって粉状にならないもの)については、少なくとも、塊状の物であるということだけでは、条文上はリスクアセスメントの対象から除かれてはいない。ラベル表示の義務から塊状のもの(の一部)を除いているので誤解されることがあるが、リスクアセスメントの適用とは別な話である。

また、「主として一般消費者の生活の用に供するためのもの」の例として「労働者による取扱いの過程において固体以外の状態にならず、かつ、粉状又は粒状にならない製品」があるが、これはその事業場だけでなく、その製品が一般消費者の手に渡るまでのすべての事業場のすべての労働者の取扱いの過程において、そのような条件を満足しなければならないのである。ある事業場において塊以外の物にならないからといって、必ずしも一般消費者の用に供する物になるということでもない。

もっとも、例えばステンレススティールについて言えば、ニッケルやコバルトなどの通知対象物を含んではいるが、そのままの状態で扱っている限り、化学物質としての危険・有害性はないといってよいだろう。しかし、それはリスクアセスメントをすれば、リスクは極めて低いという結論が簡単に得られるというだけのことであって、法律上もリスクアセスメントの義務がないということではないのである。

もちろん、現実にはステンレススティールの有害性についてリスクアセスメントをしなかったからといって、誰も気にもしないだろうとは思うが(※)

※ ステンレススティールがまったく無害というわけではない。へそ出しルックが流行りだしたため、ベルトのニッケル含有の金属製のバックルで皮膚アレルギーに罹患するようなケースが報告されている。しかし、保護メガネのつる、理容美容業のハサミなどについて、ニッケルアレルギーについて調査した例はあるが、いずれも健康障害は確認されていない。

イ 密閉された状態で取り扱われる化学物質

密閉された状態で取り扱われる化学物質も、リスクアセスメントの対象から除かれてはいない。ただ、密閉化されていれば有害性についてのリスクは低いという結論が出ることにはなるだろう。しかし、爆発の危険性については密閉化されている方が危険ということもあり得る。

なお、密閉化されている物をたんに運搬・貯蔵するような場合は、そもそも「取扱い」に該当しないというのが行政の解釈であり、リスクアセスメントの法律上の義務はない(※)

※ 安衛法第57条の3の適用が除外されているのではなく、そもそもこの条文の適用がない(該当しない)のである。

また、「主として一般消費者の生活の用に供するためのもの」の例として「表示対象物が密封された状態で取り扱われる製品」があるが、これは、通知対象物を密閉された反応容器の内部で取り扱うようなことを想定しているわけではない。これはインジウム化合物がパソコンの液晶の部品などに密封されているような場合の、そのパソコンのことを言っているのである。パソコンの取扱いをするのにリスクアセスメントの必要がないのは当然であろう。

ウ 再資源化された産業廃棄物

また、産業廃棄物であっても、再資源化が予定されていたり、すでに再資源化されていたりすれば適用除外になることはないと考えられる。ただ、これについては現時点で、行政の文書化された解釈は示されていないと思う。


4 最後に

最後に強調しておきたいこととして、リスクアセスメントの実施とSDSの提供は、法令によって定められたもののみを対処にしておけばよいというわけではないということを挙げておきたい。

これまでに述べてきたことと矛盾するように思えるかもしれないが、そうではない。そもそも、危険有害なものを他人に譲渡・提供する場合に、その相手側がその危険性・有害性について知らないのであれば、それを相手に伝えないことは違法性が強いと思った方がよい。すなわち、安衛法に規定があろうがなかろうが、伝えるべきなのである。

もし、それを伝えなかったがために、相手側に損害が発生した場合、損害賠償の請求訴訟を起こされれば敗訴する可能性が強いと思った方がよい。仮に、その危険性・有害性を知らなかったとしても、一定の注意をすればその危険性・有害性に気付くことができたのであれば、過失を認められる可能性が高いものと思われる。

また、SDSを受け取った側の事業者が、そこに危険性・有害性が記されていたにもかかわらず、必要な注意を怠って労働者に災害が発生すれば、これも民事賠償訴訟を起こされれば敗訴の可能性が高いと思った方がよい。安衛法の通知対処物でないから敗訴しないなどということはないのである。

さらにいえば、現に危険性・有害性が確認されている化学物質であるにもかかわらず、それが通知対象物でなかったためにSDSの提供を受けていなかったとしても、労働災害が発生したときに民事賠償訴訟で敗訴する可能性は高いと思った方がよい。調べれば危険性・有害性は分かったのであれば、過失を認められる可能性は高いのである。

要は、通知対象物でなかったとしても、一定の危険性・有害性があるものについては、SDSの提供を行うべきなのである。なお、このことは安衛法においても、努力義務となっている。

また、化学物質を労働者に扱わせるなら、その危険性・有害性について確認をするべきなのである。一定の危険性有害性を有するものについて、リスクアセスメントを行うことも安衛法上の努力義務である。なお、このことはSDSの提供を受けなかった場合でも同じことである。

繰り返しになるが、通知対象物を見分けることは化学物質管理を行う上で重要ではあるが、あまりそのことに拘泥するべきではない。真に重要なことは、その化学物質が通知対象物かどうかではなく、危険性・有害性があるかどうかなのである。


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