通知対象物(RA等の対象物)とは




トップ
管理体制

通知対象物(SDS,表示、リスクアセスメントの対象物質)について、平成29年の安衛令別表第9の大幅改正時の行政の考え方に基づいて解説しています。

それは、どのような考え方で選定され、また、事業者として留意するべき事項について、合わせて解説しています。



1 2017年の通知対象物の大幅改正の経緯

執筆日時:

最終改訂:


(1)通知対象物改正の経緯

ア 2017年2月の改正前までの経緯

労働安全衛生法施行令(安衛令)別表第9にリストアップされている化学物質は、かつては「化学物質の名称等の通知」(SDSの提供)の対象となっていたにすぎなかったが、2016年(平成28年)6月施行の労働安全衛生法等の改正によって、現在ではラベル表示(容器・包装への表示)とリスクアセスメントの義務の対象ともなっている。

実は、この安衛令別表第9の対象となる物質は、化学物質の名称等の通知(SDSの提供)制度が創設された2000年(平成12年)には、有害性の観点からのみ選定されていた。なお、通知対象物には、別表第9の他に安衛令別表第3第1号に掲げる第1類物質の7物質が含まれている。

そして、対象となる化学物質のリストは、2017年に27物質が追加される改正まで、2度の改正を除けば物質が追加・削除されることはなかった。

2度の改正のうち最初の変更は、それまで対象物質だった石綿が、譲渡・提供等を禁止されたために別表第9から除外されたことである。譲渡・提供が禁止されたのであるから、仮にSDSを添付せずに石綿を譲渡した者がいたとしても、譲渡・提供の禁止の条文(安衛法第55条)で処罰すればよいことであり、SDSの提供を義務付けておく(※)ことは制度内の矛盾であると考えられたからである。

※ SDSの提供を義務付ける安衛法第57の2には罰則はない。なお、現在では、安衛令別表第9は57条のラベル表示の対象ともなっており、こちらには罰則があるが、譲渡・提供等を禁止する第55条に罰則がある以上、石綿を安衛令別表第9に入れておく必要性はない。

次の変更では、2006年(平成18年)10月に、労働者に対する危険性の観点から物質が追加(3物質)された。追加された物質数は多くはないが、それまでの有害性に関する物という観点に、危険性に関する物という観点が加わったわけであるから、比較的大きな改正だったと言えよう。

すなわち、有害性の観点からの物質の見直しは制2000年の度発足から2017年まで、一度も行われていなかったのである。なお、2006年の危険性の観点からの3物質追加によって、通知対象物の物質の種類としては640物質(※)となった。

※ あくまでも物質数は、安衛令の項目数(号の数)である。安衛令では"〇〇及びその化合物"などという定め方をされているものもあり、これらも1物質という数え方をしての640である。従って、化学物質の種類としてはもっと多い。なお、これらの物質の中には"ガソリン"や"鉱油"など混合物も存在している。

その後、10年以上そのままだったため、労働安全衛生の関係者の間では、"640物質"といえば"通知対象物質"を意味するほどになっていた(※)。もちろん法令があまりに頻繁に変更されることは望ましくない面はあるが、その使用実態や有害性に関する知見の変化に応じて、適切に改正されるべきであり、あまり長期にわたって固定されていることは望ましいことではない。

※ ちなみにGoogleで「640物質」で検索すると検索結果は512,000件と表示され、「通知対象物」で検索すると3,290,000件と表示される。やはり通知対象物の方が一般的ではあるようだ。なお、当サイトの「通知対象化学物質の見分け方」のGoogleでの検索順位は、原稿執筆の時点では、"640物質"で検索すると8位になるが、"通知対象物"では6位となる。検索結果は、この用語の違いでかなり変わるようである。

そのため、通知対象物を見直すべきだとの機運が高まり、2017年3月の安衛令の別表第9の改正につながったのである。

このとき久方ぶりの改正ということもあり、安衛令別表第9にリストアップされる物質はどのような基準で選定されるべきかについて再整理された。その議論の結果をまずみてみよう。

イ 通知対象物質の選定の基準

(ア)有害性物質

先述したように、安衛令別表第9にリストアップされている物質は、有害性と危険性の観点から選定されている。

有害性についての選定の基準は、平成12年3月24日付け基発第162号「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の施行について」において、「法第57条に基づく表示の対象となっている化学物質並びに日本産業衛生学会又は米国労働衛生専門家会議(American Conference of Governmental Industrial Hygienists, Inc)において許容濃度等が勧告された物質及び労働災害の原因となった物質から選定を行ったものである」とされている。

ここに"許容濃度等"とあるが、日本産業衛生学会が勧告しているのが"許容濃度"で、米国労働衛生専門家会議(ACGIH)が勧告しているのは"TLV"(Threshold Limit Value)である。このTLVには、8時間(※1)の時間加重平均値であるTLV-TWA(Time-Weighted Average)の他、最大のばく露量の制限(※2)を示すTLV-Stel(Short-Term Exposure Limit)がある。TLV-TWAとTLV-Stel値のいずれかが勧告されていれば、別表第9の選定の対象となる。

※1 厳密には1週40時間を前提とした1日8時間の時間加重平均である。

※2 厳密には、1日のどの 15 分間においても、その 15 分間の平均が超えてはならない値である。たとえ8時間の時間加重平均値が TLV-TWA よりも低かったとしても、ある 15 分間で TLV-TWA を超えれば、健康影響が現れる確率が容認できるレベルを超えるおそれがあることになる。

ここで、ややわき道にそれるが、留意しなければならないことを述べておきたい。厚生労働省は、2016年1月21日の労働政策審議会に提出した資料中に、「労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「令」という。)別表第9に追加されることにより、取扱事業者自らがその化学物質の有害性(ハザード)を調査しなくとも、国際的に評価された有害性情報等が安全データシート(SDS)として取扱事業者に提供されるため、適切に危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)を行うことにより、安全に使用することができる化学物質となる」と記している。

安衛令の規制の対象になったと聞くと、その物質は「有害性の高い物」なのだろうと思われるかもしれないが、これは、そのように考えるべきではないということである。要は、産業衛生学会やACGIHが許容濃度等を定めたということは、どのように扱えば安全なのかが分かる物質であるということでもあるのだ。

言葉を変えると、通知対象物質になっていない物質とは、"どのように使用すれば安全なのかが分かっていない物質"だということもできるのである。

別表第9の改正(2016年1月21日労働政策審議会資料より)

図をクリックすると拡大します

図1-1:別表第9の改正(2016年1月21日労働政策審議会資料より)

すなわち、通知対象物質とそうでない物質のどちらかを使用するという場合に、安易に通知対象物質以外の物質を選択することは、リスクの減らすという観点からは望ましくない結果をもたらすおそれがあるのである。なお、これについての詳細は当サイトの「「無害」な化学物質は本当に無害か」も参照して頂きたい。

【留意事項】

通知対象物質を通知対象物質以外の物質に代替化することは、職場のリスクを増加させるおそれがある。

ここでは、通知対象物に指定されたからといって、安易にそれ以外の物質に代替してしまうことは、必ずしも好ましくはないということを、まず押さえておいていただきたい。

(イ)危険性物質

一方、危険性の観点からの選定の基準については、平成18年10月20日付け基発第1020003号「労働安全衛生法等の一部を改正する法律等の施行について」に示されている。これによると、「文書交付制度について労働者に危険を生ずるおそれのある物で政令で定めるものを新たに対象とした」とされている。

ここにいう政令で定めるものとは、安衛令別表第1に規定するものと考えられている。別表第1は、有害性の観点からの規制物質のようには、頻繁に改正されることはないので、通知対象物も危険性の観点から改正されることは多くないものと考えられる。

なお、平成18年10月に危険性の観点からの物質追加が行われたとき、3物質の追加にとどまったのは、危険物の多くは有害性を有しているため、すでに別表第9にリストアップされていたためである。

なお、有害性の観点から選ばれた物質であっても、危険性を有するものについては、SDSやラベルに危険性についても記載しなければならないことはいうまでもない。

ウ 2017年(平成29年)3月改正の経緯

さて、2017年3月の政令改正の経緯に話を戻そう。通知対象物が640物質となってから、本改正の作業が始まるまでに、日本産業衛生学会やACGIHが許容濃度等を勧告した物質の数は、38物質であるとされている(※)

※ 厚生労働省「平成27年度化学物質のリスク評価に係る企画検討会報告書」(2015年9月)による。

なお、ACGIHは物質のグループについてTLVを勧告するケースがある。この場合はそのグループを1物質と数えている。このため、実質的な化学物質の種類は38物質よりも多い。これは、安衛令別表第9の考え方と同様である。

そして、厚労省の企画検討会において、この38物質について通知対象物とするべきかどうかについて詳細な検討を行っている。なお、この企画検討会の参集者には、化学物質や毒性学、医学等の専門家等の他、労使の代表も含まれている。

さて、同企画検討会の検討の結論を、安衛令別表第9へ追加するべきかどうかの結論ごとの物質数を示すと表1-1のとおりである。

表1-1:企画検討会の結果の概要
別表第9へ追加するべき物質 27物質
継続検討するべき物質 12物質
別表第9への追加を見送るべき物質  2物質

ところで、表1-1の物質数を合計すると41物質となり、38物質よりも3物質多いが、これは次のような理由である。

【報告書の物質数が38よりも多い理由】

  • ① ACGIHは、「アルミニウム(金属)及び不溶性化合物」についてTLVを定めていたので、当初はこれを1物質として算定した。
  • ② 企画検討会において、アルミニウムの不溶性化合物のすべてを通知多少物とする必要はないとされ、政府がモデルSDSを策定しているものに限ることとされた。
  • ③ アルミニウムの不溶性化合物でモデルSDSが策定されていた物質物は、4物質であった。そこでこの4物質を個別に通知対象物に加えることとした。
  • ④ このため、逆に数の上では物質数が3だけ増えることとなったわけである。

ここで、12物質については継続検討とされているが、これは以下のような理由である。

【12物質が継続検討とされた理由】

  • ① これらの12物質は、いずれも政府によるモデルGHS分類及び区分が行われていなかった。
  • ② そして、ある化学物質を安衛令別表第9に追加するときは、安衛則で裾切り値(※)を定めなければならないが、この裾切り値は政府によるGHSの分類及び区分の結果によって定めている。
  • ③ そのため、GHSの分類及び区分の結果がないと、裾切り値が決められないため安衛令別表第9に追加することができなかったのである。
  • ④ そこで、これらの物質のGHS分類及び区分を2016年度(平成28年度)に行うこととし、通知対象物とするか否かの最終的な結論はその結果を待って行うことにしたものである。

※ ある通知対象物が混入している混合物については、ある濃度未満なら規制がかからなくなるが、その濃度を裾切り値と呼ぶ。この値は労働安全衛生規則別表第2に示されている。

なお、裾切り値を定めるときの考え方とは次のようなものである。

【裾切り値の定め方の考え方】

  • ① 国連勧告のGHS(化学品の分類及び表示に関する世界調和システム)に基づき、濃度限界とされている値とする。ただし、それが1%を超える場合は1%とする。これにより、裾切り値は下表のとおりとなる。
  • ② 複数の有害性区分を有する物質については、①により得られる数値のうち、最も低い数値を採用する。
  • ③ ただし、リスク評価の結果などにおいて、特別な事情がある場合については、上記によらず、専門家の意見を聴いて定めるものとする。
表1-2:通知対象物質の裾切り値の考え方
GHSの有害性クラス 区分 表示
(ラベル)
通知
(SDS)
急性毒性 1~5 1.0 1.0
皮膚腐食性/刺激性 1~3
眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 1~2
呼吸器感作性(固体/液体) 1.0 0.1
呼吸器感作性(気体) 0.2
皮膚感作性 1.0 0.1
生殖細胞変異原性 0.1 0.1
1.0 1.0
発がん性 0.1 0.1
1.0
生殖毒性 0.3 0.1
1.0
標的臓器毒性(単回ばく露) 1~2 1.0 1.0
標的臓器毒性(反復ばく露) 1~2
吸引性呼吸器有害性(※) 1~2

※ 「吸引性呼吸器有害性」が現在では「誤えん有害性」と変更されている。

エ 通知対象物とするべきとされた化学物質

ここに、通知対象物に加えるべきとされた27物質を裾切り値と共に示せば、表1-3の通りとなる。

表1-3:通知対象物に加えるべきとされた物質
物  質  名 裾切値
ラベル表示 SDS(通知)
リスクアセスメント
亜硝酸イソブチル 1%未満 0.1%未満
アセチルアセトン 1%未満 1%未満
アルミニウム 1%未満 1%未満
エチレン 1%未満 1%未満
エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート 1%未満 0.1%未満
クロロ酢酸 1%未満 1%未満
O―3―クロロ―4―メチル―2―オキソ―2H―クロメン―7―イル=O′O′′―ジエチル=ホスホロチオアート 1%未満 1%未満
三弗化アルミニウム 1%未満 0.1%未満
N,N―ジエチルヒドロキシルアミン 1%未満 1%未満
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 1%未満 1%未満
ジクロロ酢酸 1%未満 0.1%未満
ジメチル=2,2,2―トリクロロ―1―ヒドロキシエチルホスホナート(別名DEP) 1%未満 0.1%未満
水素化ビス(2―メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム 1%未満 1%未満
テトラヒドロメチル無水フタル酸 1%未満 0.1%未満
N―ビニル―2―ピロリドン 1%未満 0.1%未満
ブテン 1%未満 1%未満
プロピオンアルデヒド 1%未満 1%未満
プロペン 1%未満 1%未満
1―ブロモプロパン 1%未満 0.1%未満
3―ブロモ―1―プロペン(別名臭化アリル) 1%未満 1%未満
ヘキサフルオロアルミン酸三ナトリウム 1%未満 1%未満
ヘキサフルオロプロペン 1%未満 1%未満
ペルフルオロオクタン酸 0.3%未満 0.1%未満
メチルナフタレン 1%未満 1%未満
2―メチル―5―ニトロアニリン 1%未満 0.1%未満
N―メチル―2―ピロリドン 1%未満 0.1%未満
沃化物 1%未満 1%未満

オ 通知対象物とすることを見合わせた化学物質

また、通知対象物質とすることを見合わせた2物質は表1-4の通りである。これらについては、有害性が低いと考えられたために見送られたものである。

表1-4:通知対象物質とすることを見合わせた物質
硫酸カルシウム
3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセン

平成27年第2回企画検討会においても硫酸カルシウムについては、櫻井座長が「あまり毒性の弱いのも一律に入れてしまうと、かえって他のものに対する危機感が減ってしまうという副作用が出る可能性もある」と述べておられる。

なお、硫酸カルシウムのTLV-TWAは10mg/m3であるが、ACGIHは10 mg/m3をTLV-TWAの上限としている。このため、仮に動物実験などの結果を機械的にヒトに外挿すると10 mg/m3よりも大きな値になる物質については、一律に10 mg/m3としているのである(※)

※ TLV-TWAが10 mg/m3の物質は、一律に別表第9の対象にしないというわけではない。

また、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセンについても、有害性が低いとして見送られた。ただし、こちらは硫酸カルシウムとはややニュアンスが異なっている。硫酸カルシウムが明確に安衛令別表第9に入れる必要がないとされたのに対し、前記の企画検討会報告書では「有害性について判断するべき情報が必ずしも十分ではなく、今後の情報の集積を待つべき」とされている。

なお、この物質は液体であるが、TLV-TWAは100ppmとなっている。


(2)継続検討とされた物質等のその後の検討結果

ア 検討結果の概要

継続検討とされた12物質については、2017年2月21日に企画検討会の検討結果が報告書として公表されている。この報告書では、ACGIHが新たにTLVを勧告したフェニルイソシアネートについても検討が行われているので計13物質の検討が行われた。

また、過去にACGIHがTLVを取り下げた一部のシリカについて、令別表第9からの除外の是非についても検討されている。これら14物質の検討結果の概要は表1-4の通りである。

表1-5:平成28年度企画検討会の結果の概要
別表第9へ追加するべき物質 9物質
継続検討するべき物質 4物質
別表第9から除外すべきとする物質 1物質

ここで、別表第9へ追加すべきとされた物質は以下の通りである。

表1-6:別表第9へ追加すべきとされた物質
1 1-クロロ-2-プロパノール及び2-クロロ-1-プロパノール(※)
2 テルブホス
3 ほう酸
4 ジアセチル<2,3-ブタンジオン>
5 硫化カルボニル
6 ポートランドセメント
7 アスファルト
8 t-アミルメチルエーテル<TAME又は2-メチル-2-メトキシブタン>
9 フェニルイソシアネート

※ 令別表第9へ規定する際に、百五十五の二号と百五十五の三号の2物質に分かれた。

一方、現行の安衛令別表第9に掲げられている物質のうち、ACGIHがTLVを取り下げた物質についての検討内容は以下の通りである。

現在、安衛令別表第9の第212号は"シリカ"とされている。このシリカを別表第9に定めたときは、ACGIHがとくに限定せずにシリカについてのTLVを定めていたため、別表第9のシリカについてもとくに限定はしてはいなかった。

ところが、非晶質シリカについて、ACGIHが2006年にTLVを取り下げたのである。そのため、非晶質シリカについては別表第9から除外するべきではないかが検討されたわけである。そして、その結果、非晶質シリカについては除外されることとなった。

表1-7:別表第9から除外すべきとされた物質
10 非晶質シリカ

イ 今後、考え方を整理すべきとされた化学物質

さて、今回の企画検討会の報告書では、以下の4つの化学物質については、令別表第9への追加に当たっての考え方を今後整理した上で、制度的な対応を検討するとされている。

表1-8:考え方を整理すべきとされた物質
11 酸化マグネシウム
12 滑石<タルク>
13 ポリ塩化ビニル<クロロエテン重合物又はPVC>
14 綿じん(未処理原綿)

企画検討会の報告書によると、これは以下のようなことである。

まず、前提となるべき一般論を述べると、固体として使用される化学物質については、有害性があるとされているものであっても、塊状のままであれば職業性疾病の原因となる(すなわち有害性がある)ものはほとんどない(※)

※ 一部には、固体のままでも皮膚腐食性や皮膚刺激性のある物が存在しているが、その種類は多くはない。例えばニッケル鋼は、ニッケルが溶出してアレルギーを引き起こすことがある。ただし、ニッケルアレルギーの職業性疾病の例はそれほど多くはない。

一部の固体では、蒸気等となって、これを吸引したときに職業性疾病を引き起こすものもあるが(※)、ほとんどのものはヒュームやパウダーなど、粒子状となって吸引されることによって、職業性疾病を引き起こすものである。

※ ヒュームは、一旦は蒸気となったものが、空気中で固化して粒子状となったものである。

そして、粉じんによる職業性疾病には、次のようなものがある。

表1-9:粒子状物質による職業性疾病
  • ① 粉じんによるじん肺と合併症(労働基準法施行規則別表1の2第5号)
  • ② 化学物質に起因する疾病(労働基準法施行規則別表1の2第4号)
  • ③ 発がん性物質等による職業がん(労働基準法施行規則別表1の2第7号)

そして同企画検討会の報告書は、この②と③について「単なる粉じんとは異なる・・・(中略)・・・当該物質固有の有害性」であるとする。

すなわち、仮にA物質についてACGIHがじん肺以等の肺障害以外の理由(TLV Basis)でTLVを定めていたり、GHS分類でじん肺等の肺障害以外の分類において高い区分があったりすれば、次のような考え方は誤っていることになる。ここを混乱しないようにして頂きたい。粉じんとしての有害性と、その物質固有の有害性とは異なるのである。

【常温で固体である物質の有害性に関する誤った考え方】

  •  A物質は、粉状にならなければ有害性はないのだから、これはA物質の有害性ではなく、粉じんの有害性である。
  •  どのような物質でも粉じんになれば有害性があるのだから、A物質だけを問題とすることは誤っている。

なお、同報告書も指摘しているように、有機、無機を問わず、すべての粉じんは、一定の量を吸引すると肺障害を引き起こすことは当然である。

ここで、企画検討会報告書が、今後、考え方を整理すべきとした4つの物質について、ACGIHによるTLV勧告の理由(TLV Basis)、TLVの値、GHS分類と区分の結果を表1-8にまとめた。

ここで、特定標的臓器毒性(単回ばく露)は、呼吸器が標的臓器になる場合であってもじん肺とは無関係であろう。

表1-8:考え方を整理すべきとされた物質

企画検討会の報告書は、これらの4物質については、「有害性が比較的低いと考えられ、固有の有害性というより、不活性の粉状物質の吸入自体が問題となる」とした上で、「同様の状況にある粉じん(粉状物質)の種類は多岐にわたる。そのため、令別表第9への追加を検討するに当たっては、法に基づく表示通知義務を課すべき固有の有害性があるか等に留意し、検討する必要がある」としている。

そして、「固有の有害性というより、不活性の粉状物質の吸入自体が問題となる」化学物質についての、安衛令別表第9への追加するにあたっての検討の課題として、次の3点を挙げる。

【検討の課題】

  • ① 肺胞の線維化、じん肺等の肺障害以外の臓器等への影響の有無
  • ② 肺障害の発現する気中濃度レベル等
  • ③ 諸外国での情報伝達がどのように行われているか

すなわち、「固有の有害性というより、不活性の粉状物質の吸入自体が問題となる」化学物質については、今後は、①肺障害以外の疾病の原因となる物質や、②肺障害のみを発現する物質であったとしても職業暴露限界の低い物質について、③諸外国の規制の在り方も参照しつつ、別表第9への追加を行うということになるものと思われる。

また、仮に別表第9へ追加しない場合であったとしても、これらの物質については、以下のような対策を行うべきであるとしている。

【企画検討会報告書による対策】

  • ● 「粉状であって、化学物質対策において取り扱いに際して粉じん対策を講じることが健康障害の防止に有効であると考えられる物質」を取り扱うことの注意喚起として、呼吸器有害性、講ずべき対策等を行政通達で改めて示す。
  • ● 「粉状物質を吸引することによる有害性」が認められる場合には、GHS 分類に基づく危険有害性情報をSDSに記載すべきことを指導する。

すなわち、法令によってSDSの提供等を義務付けるのではなく、通達によって取扱いについての指針等を示すとともに、SDSの提供を指導するというのである。

また、同企画検討会の報告書は、「新たな枠組みの検討」として「現在対象となっている物質とは有害性の程度に相当な違いがある」化学物質については、「今後、SDS のみを義務付ける等のより柔軟な情報伝達の方法を検討することも考えられる」としている。

もちろん、当時の663物質(+9物質(※))に比較して有害性の低い物質についてのことであり、その時点での663物質について見直すということではないことはいうまでもない。

※ その時点で検討されていた9物質。追加されるときは計算上では10物質になった。

そもそも2017年3月の改正までの640物質については、もともとSDSについてのみ義務付けられていたものが、2016年6月の改正で表示とリスクアセスメントが義務付けられたものである。表示については(※)、それ以前の姿に戻すということであろう。

※ 企画検討会報告書には、リスクアセスメントについての言及はない。しかし、リスクアセスメントは、有害性情報を入手した場合、労働災害の発生のおそれについて検討するということであり、あえて義務を外す必要性があるとは思えない。

ウ 4つの化学物質についてどのように扱うべきか

では、事業者は安全配慮義務や企業の社会的責任の観点から、今回、考え方を整理すべきとされた物質について、企業としては、当面、どのような対応をとるべきであろうか。

まず、表1-8に示したように、これらの化学物質については有害性がないわけではないということである。安衛令別表第9へ追加すべきとされた化学物質に比較しても、必ずしもTLV(※)の値が高いわけではない。

※ 有害性の内容にもよるが、一般的には数値が低い方が有害性が高いといえる。いずれにせよ気中濃度は、TLVよりも低い濃度に管理するべきである。

表1-9に、今回、考え方を整理すべきとされた4物質と、安衛令別表第9へ追加された物質等の比較を示しているが、必ずしもTLVの値が高いわけではないことがお分かりいただけよう。

表1-9:別表第9への追加とTLV
別表第9へ追加したもの
及び
追加するべきとされたもの
ほう酸 2mg/m3(I)
ジメチル=2,2,2―トリクロロ―1―ヒドロキシエチルホスホナート(別名DEP) 1mg/m3(I)
ポートランドセメント 1mg/m3(I)
アルミニウム 1mg/m3(R)
2-メチル-5-ニトロアニリン 1mg/m3(I)
考え方を整理すべきとされたもの 滑石<タルク> 2mg/m3(E、R)
ポリ塩化ビニル 1mg/m3(R)
綿じん 0.1mg/m3(T)

また、企画検討委員会の報告書でも、SDSの提供を通達レベルで指導することが示されている。であれば、安全配慮義務という観点からは、これらの4物質については、次のように対応することが望ましいものと思われる。

【考え方を整理すべきとされた物質への企業のとるべき対応】

Ⅰ 譲渡提供する側の事業者

  • ① 譲渡提供先にSDSを提供する。
  • ② 容器又は包装にGHSラベルの表示を行う。

Ⅱ 取り扱う事業者

  • ① 譲渡を受ける事業者にSDSの提供を求める。
  • ② 自ら製造・輸入したなどの理由でSDSの提供が受けられない場合は、自ら危険性及び有害性について調査する。
  • ③ 危険性及び有害性が明確にならないときは、使用中止を検討する。
  • ④ 自主的にリスクアセスメントを行って、作業環境中の気中濃度の管理を適切に行う。

2 改正の内容

さて、次に改正の内容に入ろう。2017年の改正は、基本的に別表第9の物質への追加であるから、SDSの提供、容器又は包装への表示、リスクアセスメントの実施が義務付けられることとなる。それまでの別表第9等の既存の640物質の扱いと、基本的には変わることはない。従って、これらの取扱いについては平成12年3月24日付け基発第162号「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の施行について」や、平成27年8月3日付け基発0803第2号「労働安全衛生法施行令及び厚生労働省組織令の一部を改正する政令等の施行について(化学物質等の表示及び危険性又は有害性等の調査に係る規定等関係)」を参考にすればよい。

ただ、今回の改正についていくつか留意すべき点があるので、平成28年3月29日基発0329第4号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」によっていくつかの解説をしておきたい。


(1)基本的な考え方

まず、今回の改正のみのことではないが、基本的な考えとして「行政として、事業者に対して令別表第9以外の物質への代替化を推奨するものではない」ことが通達によって明確に示されていることが挙げられる。

残念ながら、行政によってある化学物質が規制されると、他の化学物質によって代替化をしようとする動きが出てくることがある。むしろ、規制されるときに、"代替物がない"ということを理由に新たな規制に懸念を示す事業者もいるほどである。しかし、これでは話が逆であろう。そもそも"代替化する"という発想の方がおかしいのである。

代替される他の化学物質が有害性の低いものであればよいのだが、現実には、たんに有害性の情報がないものに代替化されるケースが多いのである。ときには、有害性があることは分かっているが規制がない化学物質によって代替化されることさえある。

しかも、そのような代替物質を販売する側も「行政によって規制されていないので安心して使えます」などとアピールすることがある。これでは、規制と代替化の"いたちごっこ"になってしまう。

代替化をするという判断をするのであれば、有害性が低いことが確認されている物質に代替しなければならない。そして、有害性が低いことが確認ができる物質がないのであれば(※)、規制に遵って規制対象物を取扱うべきなのである。

※ 現実には、新たに通知対象物に指定される物質について、有害性が低いことが確認されている代替物質があるなどということは、あまりないだろう。


(2)経過措置

2017年の改正の際には、政令改正のときに、現に存在していたものについては、名称等の表示義務に係る法第57条第1項の規定は、その後一定の期間は適用されなかった。

今後の別表第9の改正においても同様な経過措置が設定されるものと思われる。ただし、"現に存在していた"というのは、原材料として存在していたものは含まれない。容器又は包装に入った"製品"として存在していなければならないことに留意する必要がある。

また、実際に事故が発生した場合の民事上の責任が、この経過措置によって免責されるとは限らないことも留意しなければならない。


(3)アルミニウムについて

アルミニウムについては、容器又は包装への表示については、粉状の物に限られている。なお、ここで粉状の物というのは"インハラブル粒子(※)"を意味している。

※ 厳密には流体力学的径(ストークス径)が100μ以下のものをいう。実際にこれを測定することは簡単ではない。粒状でなければ(空中に舞い上がってすぐに落ちてこないようなもの)は該当すると考えた方がよい。

また、同通達はアルミニウムについて次のように述べている。

【通達によるアルミニウムについての規定】

令別表第9第37号のアルミニウムについては、アルミニウム単体又はアルミニウムを含有する製剤その他の物(以下「アルミニウム等」という。)であって、サッシ等の最終の用途が限定される製品であり、かつ当該製品の労働者による組立て、取付施工等の際の作業によってアルミニウム等が固体以外のものならずかつ粉状(インハラブル粒子)にならないものは、一般消費者の用に供するものとして名称等の表示義務、名称等の通知義務及び危険性又は有害性等の調査等の対象にならないものとして取り扱って差し支えない。

※ 平成28年3月29日基発0329第4号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について

すなわち、アルミサッシやアルミ製の家具などで、建築中の建造物等に取付けたり、消費者の住居で組み立てたりすることが予定されているものについて、SDSの添付や容器又は包装への表示、リスクアセスメントは必要ないとしているものである。


(4)裾切り値等についての若干の問題点

ブテンとメチルナフタレンについては、異性体が存在している。個々の異性体が裾切り値以上にならないと規制されないのか、すべての異性体が裾切り値以上になると規制されるのかついて、疑問があり得る。これについて通達は明確に後者であると述べている。

また、SDSに記述する成分は異性体ごとに記述する必要はない(記述したくても実際には不可能であるが)。

これらについて、通達は次のように述べている。

【通達より/異性体についての裾切り値等の考え方】

ア ブテン

令別表第9第488号の2のブテンとは、4つの異性体及びそれらの混合物を含む概念であるが、労働安全衛生規則別表第2のブテンの裾切値については、4つの異性体の総重量が製剤その他の物の重量の1%を超えるかどうかによって判断すべきものであること。またその含有量についてはブテン全体の含有量を通知することでも差し支えないこと。

イ メチルナフタレン

令別表第9第582の2のメチルナフタレンとは、1-メチルナフタレン及び2-メチルナフタレンを含む概念であり、別表第2のメチルナフタレンの裾切値については、2つの異性体の総重量が製剤その他の物の重量の1%を超えるかどうかによって判断すべきものであること。

※ 平成28年3月29日基発0329第4号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について

(5)沃素及びその化合物について

安衛令別表第9第606号には"沃素及びその化合物"とあるがここにいう「その化合物」とは、沃化物をいうとされている。やや、通常の化学用語とは異なっているが、法令の用語としてご理解いただきたい。

なお、沃化物とは沃素を陰性成分として含む化合物のことである。


3 最後に

(1)情報伝達の理想

基本的に今回の改正は、①一般消費者や廃棄物処理業者を除く化学物質の流通過程において、その化学物質の危険性・有害性についての正しい情報を流通させること、②化学物質を労働者に取り扱わせる事業者は、把握したその化学物質の危険性及び有害性の情報に基づいて、リスクアセスメントを行えることができるようになることを志向している。

要は、①正しい情報を伝えて、②正しく使うことによって、労働災害を防止しようということである。

ここにいう正しい情報とは、本来の理想は、危険有害性が高いものも、低いものも、十分な知見がないものも、その時点で何が分かっていて、なにが分かっていないかについて、分かっている情報を伝えるということにあるのである。

【伝えることが望ましい情報】

  • ① 危険有害性のレベルはどの程度か(高い、低い、分からない)
  • ② 危険有害性について何が分かっていて、何が分かっていないか

危険有害性が高いことが分かっている場合のみ情報を伝えるのでは、情報がない場合に"有害性が低いのか、分かっていないだけなのか"が分からないという問題が発生する。すなわち、危険有害性が分からないものを"危険有害性がない"と誤解して、誤った化学物質対策をとることになりかねないのである。

【現状=これだけでは不十分】

危険有害性が高いことが分かっている場合にそれだけを伝える。

しかし、GHSの考え方の下では、危険有害性がないものと分からないものが等価になっているという問題が存在しているのである。

最近、ある雑誌で、1,000種類程度の化学物質を使用しているという研究部門で、化学物質のリスクアセスメントを厚生労働省のコントロールバンディングを用いて行い、化学物質の代替化によってリスクの低減を図っているという事業者についての記事を読んだことがある。

しかし、研究所レベルで1,000種類の物質を用いているのであれば、そのうちのかなりの物質は、GHSの分類と区分が十分におこなわれていないと考えた方がよいであろう。ところが、厚生労働省がWEBサイトで提供しているコントロールバンディングは、ハザードの大きさをGHS区分によって評価するため、GHSの分類と区分が十分に行われていない物質はリスクが低いと評価されてしまう。従って、このようなリスクアセスメントを行ってもあまり意味があるとは思えないのである。

むしろ、有害性の明確でない物質を、"リスクが低い"として導入してしまう結果、かえってリスクを増大させている可能性があるのではないかと思えるのである。

基本的に、化学物質の有害性情報で、"有害性が低い"と"有害性が分からない"の区別がついていないこと、リスクアセスメントツールの特性を理解していないことによる問題点ではないかと思えるのである。


(2)正しい情報を伝えることは伝えないよりはるかによい

残念なことに、最近でも、SDSによって危険有害性についての情報を伝えると"風評被害"が発生するのではないかと懸念する声がある。しかしながら、正しい情報を伝えることによって発生する問題は、長い目で見ると、伝えないことによる弊害よりもはるかに小さいのである。

私は大学で実験結果をまとめるときに、恩師から、くどいほど「不都合なことを隠すな」と指導された。そのときに恩師から伺った話によると、メンデルによる遺伝の法則に関する有名な論文は、データを捏造している可能性が高いそうである。もちろん、メンデルの法則そのものは正しいことが確認されているのだが、統計的に見てあの論文のような都合の良いデータが出るはずがないのだそうだ。

おそらくは、メンデルが無意識のうちに、自らの理論に適合しないデータは"ミス"として無視したか、メンデルを崇拝する弟子がメンデルの主張と異なるデータを意識的に除いてしまったことによるのではないかといわれているのだそうだ。

結果的にメンデルの法則は中学校の教科書に載るほど有名な理論になったわけだが、遠い未来において科学者としての資質を疑われる結果となったわけである。

実験の結果や統計データを集めたとき、都合の良いデータと都合の悪いデータがあった場合、都合の悪いデータは隠して都合の良いデータだけ公開したくなるものである。しかし、その結果、災害などが発生すればかえって弊害が大きくなることになる。

繰り返しになるが、SDSによる危険有害性の情報伝達制度は、正しいデータを適切に伝えて、正しく使うためのものである。過度に危険性が高いという情報を流すことを求めているわけではない。安全なものであれば、安全だと伝えればよいのである。また、リスクアセスメントもリスクが低いのであればそれを確認すればよいのである。過度な対策を採ることを求めているわけでもないのである。

その意味で、通知対象物はどのように用いれば安心して用いることができるかが分かっているものなのである。最後にもう一度、次のことを強調して本稿を終わりたい。

【本稿のまとめ】

  • ① 通知対象物質になっていない化学物質を、取扱い物質として選択する場合は、その物質を使用することが本当に必要なことなのかを慎重に検討すること。
  • ② 通知対象物質になっていない化学物質を取扱う場合は、知られていない有害性がある場合があることを認識すること
  • ③ 通知対象物質になってない物質の使用には、一定の留意が必要であること。




プライバシーポリシー 利用規約