= 労働安全コンサルタント試験はどのような人が受けているのか =

安全コンサルタント試験受験状況(2022年)




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調査データを分析するイメージ

※ イメージ図(©photoAC)

労働安全コンサルタント試験は、労働安全管理の能力を証明するための最もレベルの高い国家試験で、近年、受験者数は増加傾向にあります。

受験者は、職場の安全衛生の担当者のみならず、医師、技術士など他の分野の専門家も数多く受験しています。

本サイトは、この試験を受験するほとんどの方のご利用を頂いています。そこで、択一試験の解答した状況と、受験した方の属性についてのアンケート調査をWEB上で行いました。

その結果を公開します。内容の無断流用はお断りします。



1 調査の方法と回答数

執筆日時:


(1)調査の方法

学習する女性

※ イメージ図(©photoAC)

当サイトは、過去問の解説を中心に労働安全衛生コンサルタント試験の受験支援を行っている。そして、Googleアナリティクスの分析結果を見ると、労働安全衛生コンサルタント試験この試験を受験しようとしている方のほとんどすべての方にご利用いただいているといってよい状況になっている。

過去問の解説のうち択一試験については、私の主観に基づいて「難易度」を付けていたが、あくまでも私の感覚に頼っており、必ずしも客観性があるわけではなかった。そこで、このサイトを閲覧頂いている方に、WEB上でお願いして、2021年(令和3年)から実際の試験で解答した内容のアンケート調査を行うことにしたのである。

そして、解答を入力して頂いた方には会員サイトのIDコードとパスワードをお知らせし、それまで一般に公開していた試験直後の「正答予想」を本年から会員サイトで行うことにしたのである。


(2)回答数

実際に解答して頂いた方の数は、次のようになった。

表:回答者数
実施年度
2021年度 2022年度
労働安全 労働安全法令 269 243
労働安全一般 252 246

2022年度の労働安全コンサルタント試験の筆記試験の受験者は、1,236人(2021年度1,290人)である。

実際には、労働安全衛生コンサルタントは、各科目の免除を受ける受験者がきわめて多いので、それぞれの科目については、全体の受験者の半数程度しか受験しないのが実態である。

そのように考えると、全受験者の半数近い方が解答を寄せて下さったと考えてよいのではないかと思う。解答数だけを考えれば、統計的には十分に全体を代表できる結果が出たと考えられる。

今回のアンケートでは、受験者の属性についてもいくつかの質問をさせて頂いている。氏名(ハンドルネーム可)と受験区分だけは必須入力としたが、他の項目は任意入力としている。実際には、ほとんどすべての方から御回答を頂いた。


2 択一式試験の解答結果

(1)難易度の区分と正答率の分布

ア 難易度区分

択一試験の個々の問題の解答状況はグラフにして各問題の解説の冒頭に掲げている。また、それとは別に「難易度」を示している。難易度は、正答率によって次のように分類してある。

表:難易度と正答率
正答率 難易度
80%以上
70%以上 80%未満
60%以上 70%未満
50%以上 60%未満
      50%未満

イ 難易度ごとの問題数分布

その結果、各科目の難易度ごとの問題数は、次のようになった。例えば、2022年度の産業安全一般だと、80%以上の方が正答した難易度1の問題が6問あり、50%未満の方しか正答できなかった難易度5の問題が10問あったわけである。

表:難易度ごとの問題数
年度 難易度 正答率
40%未満
(内数)
労働安全 産業安全法令 2021年度
2022年度
産業安全一般 2021年度
2022年度 10

ただ、受験の結果を入力して頂いている方は、正答予測が知りたいという方が多いであろうから、本気で受験している受験者や合格の可能性がある受験者に集中している可能性はある。当然のことではあるが、成績は良い方向へバイアスがかかっていると考えるべきであろう。

とくに、2021年の産業安全一般については、70%以上正答された問題が半数以上ある。これは、個々の問題をみてみると実感できるが、この科目が易しいということではない。解答を入力して頂いた受験者が優秀だということだと思える。

なお、現実の2021年度の筆記試験の結果は、合格率が40.1%と、2015年の43.4%以来、6年ぶりに40%台の好成績となった(※)

※ 筆記試験の結果の詳細は、当サイトの「労働安全コンサルタント試験受験の勧め(2/7)」を参照されたい。


(2)2022年度と2021年度の難易度の変化

ここで、60%以上正答すれば合格という観点から考えると、正答率が60%以上の難易度が1~3の問題数は2022年度が26問、2021年度が28問、である。総合的に見れば、この意味ではそれほど難易度に変化はないと評価できる。

また、一般と法令を合わせて27問を正答できれば合格できるのである。2022年度は、難易度1と2の問題を全てと難易度3の問題を3問正答できれば合格である。2021年度は、難易度3の問題を6問正答できなければならなかったのであるから、2022年度の難易度はやや緩和したとさえ考えられよう。

しかし、現実の筆記試験の合格率は、2022年度が29.9%であり、2021年度の40.1%からかなり低下した。正答率 40%未満の問題数が増加したことが原因となっている可能性はあろう。


3 受験者の属性

(1)産業安全法令

ア 試験区分

受験者・試験区分

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試験区分は、ほぼ昨年と同様な傾向であるが、土木が60.1%(2021年度 56.5%以下カッコ内 2021 年度)と過半を占め、建築が16.0%(23.0%)、機械が12.3%(10.0%)、化学6.6%(4.8%)、電気4.9%(5.6%)であった。化学が急増しているが、化学物質の自律的管理が始まることと関連しているのかもしれない。

イ 合格までの学習時間

受験者・学習時間

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合格までの学習時間については240名とほとんどの方に御回答を頂いている。100時間以内が39.6%(42.6%)で、200時間以内の受験者が合わせて73.3%(70.2%)となる。この傾向は労働衛生法令とほぼ同じであった。勤務や家庭内での責任のある方が多いであろう多くの受験者にとって、試験勉強の時間は200時間以内しか確保できないということのようだ。

ただ、200時間超の方が全体で 24.2%(21.5%)おられ、800時間を超えると回答した方も 0.4%(1.9%)おられる。やはり、多くの学習時間を費やす必要のある試験ということでもあろうし、2022年度は2021年度より学習時間が長くなっているようだ。

ウ 受験者の年齢

受験者・年齢

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年齢は234名の方に御回答を頂いている。やはり試験の性格からか20代の方は0.9%(1.9%)と少なかった。30代が10.3%(9.6%)、40代が21.4%(28.4%)と働き盛りの方が多いのは衛生コンサルタントも同様である。

意外なことに50代の方が 45.3%(39.5%)とかなりの割合を占めている。退職準備という意味合いがあるのだろうか。

一方、60代が 20.9%(19.5%)、70代以上の方が 1.3%(1.1%)と高齢になっても、産業安全の分野で働きたいという希望を持たれる方も多いようである。

エ 受験者のジェンダー(性別)

受験者・ジェンダー(性別)

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ジェンダー(性別)は 233 名の方に御回答を頂いている。男性が 97.9%(94.3%)と圧倒的な多数となった。労働安全の分野には、まだまだ女性の進出は進んでいないようだ。

女性は 2.1%(3.8%)と2021年度よりも減少している。その他の方は2022年度は、いらっしゃらなかった(1.9%)(※)

※ このことはSOGI(LGBTQ+)の受験者の方がいないということを意味しない。そもそも本項では性的指向を訪ねてはいないし、性的指向が多数派と異なる方の多くは男性又は女性である。さらに言えば、トランスジェンダーの方も多くは男性(FtM)又は女性(MtF)だし、Gender Nonconforming、gender fluid、agender などの方でカミングアウトしていない場合も多いだろう。

オ 労働安全衛生業務の経験

受験者・労働安全衛生業務の経験

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労働安全衛生業務の経験は234名の方に御回答を頂いている。回答は、「なし」から「20年以上」まで、ばらついている。20年以上が 20.5%(18.8%)と、長期の経験者が多いということが分かる。

原則として受験のためには実務経験が必要なのだが、実務経験が必要でない資格をお持ちの方も多く受験しておられるようだ。

カ 所属事業場の業種

受験者・所属事業場の業種

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所属事業場の業種は 233名の方に御回答を頂いている。なお、「コンサルティング(社労士事務所等)」までは通常の選択肢で、「電力」以下は「その他」の項目の自由回答に記載された内容である。とくに修正せずにそのまま記載している。

建設業が最も多く 67.0%(72.0%)を占めた。次いで多いのが製造業の 17.2%(16.3%)で、この2つで 84.1%(88.3%)と8割を超える。「労働安全」という職能がこの2つの業種に限られているということであろうか。その他は、コンサルティング(社会保険労務士等)の4.3%(3.9%)が目立つ程度で、「運輸交通/貨物取扱」が 0.0%(0.4%)、「商業」が 0.9%(1.4%)と、他の業種が意外なほどに少なかった。

このことは、建設業、製造業以外の業種では、社内に労働安全の専門知識を有する職員がほとんどいないことを示している。運輸交通業で「墜落・転落災害」の現象がみられないことの原因はこんなところにもあるのかもしれない。

キ 受験者の勤務内容

受験者・勤務内容

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勤務内容は、230名の方から御回答を頂いた。こちらは、「SE」以下が「その他」の項目の自由回答である。

2021年とほぼ同様な結果であるが「専門・技術」が 33.9%(39.8%)で、「管理部門」の26.5%(23.2%)、「安全衛生」の 24.3%(24.4%)がこれに次いでいる。「生産部門・生産技術」の方は 10.0%(9.1%)と意外に少なかった。

労働安全コンサルタントの多くが、たんに「安全衛生」の分野の専門家の資格にとどまらず、様々な分野の専門知識を有しておられる方の資格であるということが分かる。わが国の企業の安全を専門家として支えているのは、幅広い分野で活躍しておられる方だということが読み取れよう。

ク 受験者の保有する資格

受験者・保有資格

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受験者の保有する資格は、213名の方から御回答を頂いた。「一級土木施工管理技士」(※)以下が「その他」の項目の自由回答である。

※ 2022年度まで衛生コンサルタントと選択肢を統一してきたが、2023年度以降は、歯科医師、薬剤師、保健師・看護師の選択肢をなくし、1級土木施工管理技士及び1級建築施工管理技士を加えることとしたい。

昨年と同様な結果であるが、「技術士」が42.3%(33.9%)と半数近くとなった。また、選択肢にない1級土木施工管理技士の方が少なくとも39名(35名)おられる。

また、衛生管理者の資格を有する方が 51 名(54名)おられる。安全衛生全体の業務を行っておられる方が安全コンサルタント試験を受けておられるのであろう。衛生コンサルタントの資格を有する方も4名(4名)おられる。

また、法律関係の資格ではm社会保険労務士が1名(1名)、行政書士が1名(0名)の他、中小企業診断士が1名(0名)おられる。労働安全コンサルタント試験は、一部の法律関係の士業の多角経営の手段ともなっているようだ。


(2)産業安全一般

ア 試験区分

受験者・試験区分

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労働安全コンサルタント試験は、産業安全法令と産業安全一般で、回答者がほぼ重なっている。従って、産業安全一般も産業安全法令と大きくは変わらないので、以下、その違いに着目して説明する。

試験区分は、それほど法令と異なっていない。わずかに機械が少ない程度であろうか。

イ 合格までの学習時間

受験者・学習時間

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合格までの学習時間は243名とほぼ全員の方に御回答を頂いている。産業安全法令とそれほど変わらない。

ウ 受験者の年齢

受験者・年齢

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年齢は234名の方に御回答を頂いている。産業安全法令とほぼ同様である。

エ 受験者のジェンダー(性別)

受験者・ジェンダー(性別)

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ジェンダー(性別)は234名の方に御回答を頂いている。女性とその他の方がそれぞれ1名となっている。

オ 労働安全衛生業務の経験

受験者・労働安全衛生業務の経験

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労働安全衛生業務の経験は235名の方に御回答を頂いている。産業安全法令と大きくは変わらないが、やや経験年数の長い方が多くなっている。

カ 所属事業場の業種

受験者・所属事業場の業種

図をクリックすると拡大します

所属事業場の業種は232名の方に御回答を頂いている。ほぼ、産業安全法令と傾向は変わらない。建設業がやや多くなり製造業がやや少なくなっている。

キ 受験者の勤務内容

受験者・勤務内容

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勤務内容は、229名の方から御回答を頂いた。ほぼ、産業安全法令と傾向は変わらないが専門・技術がやや多くなっているようだ。

ク 受験者の保有する資格

受験者・保有資格

図をクリックすると拡大します

受験者の保有する資格は、213名の方から御回答を頂いた。「一級土木施工管理技士」(※)以下が「その他」の項目の自由回答である。

ほぼ産業安全法令と同様な傾向である。


4 最後に

女性トラックドライバー

※ イメージ図(©photoAC)

受験者に関するこのアンケート調査の結果からは、その年齢の高さと経験年数の長さから、労働安全という職能分野のグループは、短期間では育成が困難な専門家の集団だということが分かる。

現時点では、建設業と製造業に集中しているが、他の運輸業や商業でも職能グループが育ってくることが強く望まれる。

また、労働衛生分野と比較すると、労働安全の分野は極端に男性に集中している。かつては、女性保護の立場から、女性の参入しにくい分野だったのかもしれない。しかし、近年では女性が危険な職種に就くことも増えており、それらの女性保護の観点からも、女性の感性を有する専門家の参入が望まれる。

労働災害の発生件数は、戦後の一時期に比較すると大きく減少してはいるが、ここ10年ほどは増加傾向にある。今後も幅広い分野での専門家の参入が望まれよう。


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