労働安全コンサルタント試験 2023年 産業安全関係法令 問01

事業場の安全管理体制




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 このページは、2023年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2023年度(令和05年度) 問01 難易度 安全管理体制は基本中の基本。本問は正答できる必要がある。しかし正答率は低かった。
労働安全管理体制

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問1 安全管理体制に関する次の記述のうち、労働安全街生法令上、正しいものはどれか。

(1)事業者は、常時10人以上50人未満の労働者を使用する老人福祉・介護事業の事業場においては、安全衛生推進者を選任しなければならない。

(2)事業者は、総括安全衛生管理者が職務を行うことができないときに、その代理者を選任したときは、遅滞なく、所定の様式による報告書を、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

(3)安全管理者は、少なくとも毎週1回作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

(4)都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、安全委員会を設置することを要しない事業場について、事業者に対し、安全委員会又は安全衛生委員会の設置を命ずることができる。

(5)事業者は、安全委員会又は安全衛生委員会の開催の都度、委員会の意見及び当該意見を踏まえて講じた措置の内容並びに委員会における議事で重要なものを記録し、これを3年間保存しなければならない。

正答(5)

【解説】

問1試験結果

試験解答状況
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(1)誤り。安衛法第12条の2(及び安衛則第12条の2)の規定により、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場は安全衛生推進者等を選任しなければならないので、本事業場で安全衛生推進者等を選任しなければならないことは正しい。

しかし、老人福祉・介護事業の事業場は、安衛法第12条の2カッコ書きの「第11条第1項の政令で定める業種」(安衛令第3条に定める業種=同第2条第1号及び第2号に定める業種)以外の業種に該当するため、選任するべきは衛生推進者である。

工業的業種の事業場は安全衛生推進者を選任しなければならず、老人福祉・介護事業のような非工業的業種の事業場は衛生推進者を選任する必要がある。

【労働安全衛生法】

(安全管理者)

第11条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、安全管理者を選任し、その者に前条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除く。)のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない。

 (略)

(安全衛生推進者等)

第12条の2 事業者は、第十一条第一項の事業場及び前条第一項の事業場以外の事業場で、厚生労働省令で定める規模のものごとに、厚生労働省令で定めるところにより、安全衛生推進者(第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生推進者)を選任し、その者に第十条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除くものとし、第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生に係る業務に限る。)を担当させなければならない。

【労働安全衛生法施行令】

(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)

第2条 労働安全衛生法(以下「法」という。)第十条第一項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。

 林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業 百人

 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 三百人

 その他の業種 千人

(安全管理者を選任すべき事業場)

第3条 法第十一条第一項の政令で定める業種及び規模の事業場は、前条第一号又は第二号に掲げる業種の事業場で、常時五十人以上の労働者を使用するものとする。

【労働安全衛生規則】

(安全衛生推進者等を選任すべき事業場)

第12条の2 法第十二条の二の厚生労働省令で定める規模の事業場は、常時十人以上五十人未満の労働者を使用する事業場とする。

(2)誤り。このような規定はない。総括安全衛生管理者(=事業場のトップ)が旅行、疾病、事故などで職務を行なうことができないときに、いちいち代理者の氏名を報告させるのは、事業者にかける負担があまりにも大きい。一方、監督署としても代理者の選任をいちいち「遅滞なく」(※)報告されてもほとんど意味はない。

※ 遅滞なくとは、多くの場合概ね1月以内と考えられていることが多い。詳細は、「直ちに・速やかに・遅滞なくとは」を参照されたい。

少なくとも民主主義国家においては、事業者に一定の負担を課すのであれば、社会的にそれに見合う利益(公益)がなければならない。本肢のようなことを法令で義務付けるのは不自然だと気付く必要がある。

【労働安全衛生法】

(総括安全衛生管理者の代理者)

第3条 事業者は、総括安全衛生管理者が旅行、疾病、事故その他やむを得ない事由によつて職務を行なうことができないときは、代理者を選任しなければならない。

(3)誤り。安全管理者の巡視については、「少なくとも毎週1回」などの頻度に関する規定はない(安衛則第6条第1項)。衛生管理者は、衛生の専門家(医師も想定されていた)なので、その職務の性質から現場から離れた場所(事務所)で働いていることが想定されるので定期的な巡視を義務付けたのである。

これに対し、安全管理者は現場が職場であることが想定されており、日常的に巡視することが当然と考えられたために頻度を定めなかったのである。この想定が正しかったかどうかは事業場によろうが、「気が向いたときに、たまに巡視すればよい」というものではない。

【労働安全衛生規則】

(安全管理者の巡視及び権限の付与)

第6条 安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 (略)

(衛生管理者の定期巡視及び権限の付与)

第11条 衛生管理者は、少なくとも毎週一回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 (略)

(産業医の定期巡視)

第15条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一及び二 (略)

(4)誤り。このような規定はない。そもそも安衛法の事業場の規模に応じた管理体制に関する規定は、事業者の負担と労働者への安全管理を考量して定められている。行政の職員がこれを変更できるとする規定の創設は、慎重に行われるべきものなのである。

安全管理者等にその規定があるが、「安全委員会を設置することを要しない事業場について、事業者に対し、安全委員会又は安全衛生委員会の設置を命ずることができる」というのは、あまりにも事業者への負担が大きすぎるだろう。

【労働安全衛生法】

(安全管理者)

第11条 (略)

 労働基準監督署長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、事業者に対し、安全管理者の増員又は解任を命ずることができる。

(衛生管理者)

第12条 (略)

 前条第二項の規定は、衛生管理者について準用する。

(元方安全衛生管理者)

第15条の2 (略)

 第十一条第二項の規定は、元方安全衛生管理者について準用する。この場合において、同項中「事業者」とあるのは、「当該元方安全衛生管理者を選任した事業者」と読み替えるものとする。

(5)正しい。安衛則第23条第4項により、安全委員会又は安全衛生委員会の開催の都度、委員会の意見及び当該意見を踏まえて講じた措置の内容並びに委員会における議事で重要なものを記録し、これを3年間保存しなければならない。

安衛法令で記録の保存を義務付ける場合、健康診断、面接指導関係のものなどを除けば、保存期間を3年としているものが多いことは覚えておいた方がよい。

【労働安全衛生法】

(書類の保存等)

第103条 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、この法律又はこれに基づく命令の規定に基づいて作成した書類(次項及び第三項の帳簿を除く。)を、保存しなければならない。

2及び3 (略)

【労働安全衛生規則】

(委員会の会議)

第23条 事業者は、安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「委員会」という。)を毎月一回以上開催するようにしなければならない。

2及び3 (略)

 事業者は、委員会の開催の都度、次に掲げる事項を記録し、これを三年間保存しなければならない。

 委員会の意見及び当該意見を踏まえて講じた措置の内容

 前号に掲げるもののほか、委員会における議事で重要なもの

 (略)

2023年12月07日執筆