労働安全コンサルタント試験 2018年 産業安全一般 問06

玉掛けワイヤロープにかかる張力




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合格

 このページは、2018年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2018年度(平成30年度) 問06 難易度 中学生レベルの物理の知識で正答可能な問題である。ただし、引っ掛け問題なので注意が必要。
玉掛けと張力

問6 下図のように、等しい長さの4本の玉掛け用ワイヤロープを用いて直方体の荷を吊ったときのワイヤロープ1本の張力の値に最も近いものは、次のうちどれか。

ただし、つり荷の全質量は800kgであり、ワイヤロープ及び荷のつり金具の質量は考えないものとし、ワイヤロープ1本当たりの張力は等しいものとする。

(1)2,450N

(2)2,750N

(3)3,050N

(4)3,250N

(5)3,500N

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正答(1)

【解説】

この問題には、やや引っ掛け問題的なところがある。それは、4本の「ワイヤロープ1本当たりの張力は等しい」とされているところである。つまり、実際の玉掛けについての知識は、本問では忘れなければならない

ここを見落とさなければ、これも単純な幾何と力学の問題である。玉掛の知識など必要ない=というよりあるとかえって間違える=ので、玉掛の知識がないからとあきらめないこと。フックから荷までの鉛直の距離さえ分かれば、あとは単純な中学校の物理の問題である。このことは、わざわざ図中の荷の上面に斜めに補助線が惹かれており、これがヒントになっている。

まず、荷の上面の対角線の長さは、複雑な計算をしなくてもよいように中学校のときに習った3:4:5の三角形で表せるので(忘れていたら、各辺の二乗和の平方根を計算する)、300cmになるとすぐ分かるだろう。

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従ってワイヤロープが繋がれている荷の上面の端から、荷の中心(フックの真下)までの距離は、150cmとなる。

従って、フックから荷までの鉛直の長さは、これまた親切にも3:4:5の三角形になっているので、200cmだとすぐに分かる。

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一方、この荷をつるためには、荷の4つのコーナーに上向きに、次の力FRをかけなければならない。なお、 [kgm/s2] が [N](ニュートン)と同じ意味だということは知っておかなければならない。

FR=800[kg]×g[m/s2]4=200×g [N]

従って、ワイヤロープにかかる力Fは、

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F=FR×250200=250×g=2,450 [N]

となり、(1)が正答となる。

[実務における重要な留意点]

なお、本問の場合は「等しい長さの4本の玉掛け用ワイヤロープ」を用いるため、「ワイヤロープ1本当たりの張力は等しい」と記されているので、これが正答となるが、実務においてはこのような考え方はしてはならない。

本問のように、4本の玉掛け用ワイヤロープを用いて4点つりする場合は、すべての長さが同じになるとは限らない。1本のワイヤロープがわずかに長いと、そのロープには張力がかからなくなる。そうなると、重心位置の関係でその反対側のロープにもほとんど張力はかからない。

このため、本問のようなケースでは、つり点数を3とする。クレーン協会の「安全な玉掛作業のポイント」の「2 各論」の「(7)玉掛け用ワイヤロープの選定計算」も「4本4点つりの場合、安全をみて3本つりとみなして計算する」としている。

本問は、玉掛けの理論に詳しい受験生は、誤って(4)と回答したケースも多かったのではなかろうか。その意味ではやや疑問も感じられる設問であったように思える。

2018年10月27日執筆 2020年02月08日修正