2025 年労働災害統計の起因物分類区分の変更


張り出された付箋を見て協議する男女

※ イメージ図(©photoAC)

2026 年5月に厚生労働省から公表された労働災害統計は、起因物の区分が、それまでのものとは大きく異なっています(※)。

※ 労働災害統計の区分が異なることはこれまでにもあったが、かなり小規模なものにとどまっていた。これは、統計の分類区分を変更するとその前後で統計の連続性が失われるため、あまり大きな変更は行わなかったものである。

今回の変更は、起因物の大分類項目である「仮設物、建築物、構築物等」を「仮設物、建築物、構築物等」と「床面、通路」に分離するというもので、その他にも中分類項目の「一般動力機械」の中にあった小分類項目の「食品加工用機械」を新たに中分類項目として独立させるという変更などが行われています。

※ その他にもいくつかの変更点が見られる。

今回の変更の主眼は、墜落・転落災害及び転倒災害について、より詳細な分析を行うことを目的としているように思われます。統計区分の変更は、労働災害統計のより適切な分析を可能とする一方で、それまでの統計とのして連続性は失われてしまいます。

このため、例えば 2014 年統計までの「仮設物、建築物、構築物等からの墜落・転落災害」と 2015 年統計以降のそれとは、数字が大きく異なっていても単純に比較してはならないということとなります。

本稿では、この分類区分の変更について解説をしています。




1 労働災害統計の分類区分の変更

執筆日時:

真剣な表情で討議する男女

※ イメージ図(©photoAC)

厚労省の労働災害統計は、例年、1月1日から 12 月 31 日までに発生したもののうち、翌年の4月1日までに事業者から死傷病報告を受けたものを取りまとめている。

公表は、最近では5月末に報道発表によって行われることが多い。このとき、同時に職場のあんぜんサイトに、詳細な統計が Excel ファイルの形で公表される。

これは、所属事業場の業種ごとに、事故の型、起因物、被災者の年齢、事業場規模が詳細に公表され、事故の型と起因物のクロス集計も併せて公表される。これらの統計項目の分類区分は、統計の連続性を保つためにほぼ固定されているが、まれに改正されることもある(※)。

※ 2015 年に起因物の分類が一部変更されているが、小規模なものであった。詳細は、平成 27 年2月4日基安安発 0204 第1号「労働災害統計に係る起因物の分類の解説について」を参照されたい。

このうち、起因物の分類区分が、2026年5月27日に公表された 2025 年の労働災害統計から大きく変更されている。

従って、この前後で労働災害統計のうち、起因物に関するものは連続性がないことに留意しなければならない。例えば、「仮設物、建築物、構築物等を起因物とする災害」と言った場合に、それが 2024 年までの災害なのか、2025 年以降の災害なのかによって、意味するところは大きく異なるのである。


2 2025年労働災害統計の起因物区分の変更

(1)新しい起因物の分類区分

2015年の統計における起因物の変更は次のことである。

【2015年の統計における起因物の変更】

  • 大分類動力機械
  • 中分類「一般動力機械」の中の小分類項目の一つである「食品加工用機械」を中分類として独立させた。
  • 中分類「動力伝導機構」及びその唯一の小分類項目である「動力伝導機構」が「動力伝導機」と修正された。
  • 大分類物上げ装置、運搬機械
  • 中分類「動力運搬機」の中の小分類項目の一つである「その他の動力運搬機」から小分類項目として「無人搬送車」を分離した。
  • 大分類その他の装置等
  • 中分類「用具」の中の小分類項目の一つである「はしご等」を2つの小分類項目「はしご」と「脚立」に分離した。
  • 大分類仮設物、建築物、構築物等
  • 中分類「仮設物、建築物、構築物等」の中の小分類項目の一つである「通路」を中分類「床面、通路」として独立させた。
  • なお、従来は、大分類「仮設物、建築物、構築物等」には中分類は「仮設物、建築物、構築物等」しかなく、大分類と中分類が同じ名称であった。
  • 新分類では、中分類が「仮設物、建築物、構築物等」と「床面、通路」の2つになったにもかかわらず、中分類の一つが大分類と同じ名称となり、かなりややこしくなっている。
  • 大分類仮設物、建築物、構築物等
  • 中分類「危険物、有害物等」の2つの小分類項目「有害物」と「その他の危険物、有害物等」が「有害物(特別規則対象物質に限る。)」、「危険物・有害物(通知対象物に限る。)」及び「その他の危険物、有害物等」の3小分類項目に再編された。

文章だと分かりにくいので、表の形にすると次のようになる。

表 起因物分類基準新旧対照表(変更された部分のみ)
2025年以降 2024年以前
大分類 中分類 小分類 大分類 中分類 小分類
1 動力機械 動力伝導機 動力伝導機 動力機械 動力伝導機構 動力伝導機構
一般動力機械 (削除) 一般動力機械 食品加工用機械
食品加工用機械 切断機、切削機 (新設) (新設)
混合機、粉砕機
ロール機
成形機、圧縮機
その他の食品加工用機械
2 物上げ装置、運搬機械 動力運搬機 無人搬送車 物上げ装置、運搬機械 動力運搬機 その他の動力運搬機
その他の動力運搬機
3 その他の装置等 用具 はしご その他の装置等 用具 はしご等
脚立
4 仮設物、建築物、構築物等 仮設物、建築物、構築物等 (削除) 仮設物、建築物、構築物等 仮設物、建築物、構築物等 通路
床面、通路 段差 (新設) (新設)
凹凸
可動な障害物
固定の障害物、溝
液体で濡れた床面、通路
雨や夜露等で濡れた床面、通路
水場
凍結した床面、通路
積雪、天候により凍結した床面、通路
斜面
その他の床面、通路の状態
5 物質、材料 危険物、有害物等 有害物(特別規則対象物質に限る。) 物質、材料 危険物、有害物等 有害物
危険物・有害物(通知対象物に限る。) その他の危険物、有害物等
その他の危険物、有害物等

※ 厚生労働省の統計表から作成

ここで、きわめて分かりにくいのが、「仮設物、建築物、構築物等」である。中分類が2つに分かれたにもかかわらず、大分類と同じ名称のままでしかも従来と同じ名称であるから、かなり混乱をするのではなかろうか。

ここは、新しい中分類項目の名称は、変更して欲しかったところである。

また、「一般動力機械」も従来の名称と同じままで「食品加工用機械」が外されているので、2024 年から 2025 年にかけて大きく減少したように見えるのである。ここも名称で工夫して欲しかったところである。


(2)2024 年から 2025 年にかけての労働災害発生件数の変化

起因物別労働災害発生件数

図をクリックすると拡大します

労働災害発生件数の推移を起因物別に著すと図のようになる。この図では左下部に起因物の分類が変更になったことを記しているが、そのことに気付かなければ、「仮設物、建築物、構築物等」が急減少したという印象を受けるであろう。

現実には、グラフになっていればこのような急激な減少は不自然であると分かるだろうが、グラフ化されていなければ、そのまま納得してしまいかねない。企業内などで安全関連の教育を行う方は、十分に注意するべきところであろう。

ところで、2025年の「仮設物、建築物、構築物等」と「床面、通路」を起因物とする災害件数が、前年の「仮設物、建築物、構築物等」を大きく上回っている。これもやや不自然という印象を受ける。

実は、労働災害の型別や起因物別の分類は、死傷病報告を受理した労働基準監督署の職員が行うこととなっている。WEB サイトなどで公開はされていないが、事前に本省から通達があったはずである。

また、厚労省としては、職員に伝えるために通達を文書で流すのみならず、なんらかの研修の機会を設けられたものと思われる。そのために、この項目に分類される災害が例年よりも増加した可能性はあろう。

このような数値上の増減は、統計の分類区分を変更した場合には、ほぼ必然的に起こることなので留意が必要である。


3 最後に

厚労省は、労働災害統計の起因物の分類の変更を詳細にはアナウンスしていない。筆者は、「労働災害の発生状況の推移」のグラフに 2025 年のデータを追加しようとして気付いたのである。

今後、起因物の変更に関する情報は、増えてくるのではないかと思われるが、「仮設物、建築物、構築物等」や「一般動力機械」が同じ名称なので、純粋な統計データのみならず、関連する厚労省の過去の文書を読むに際して注意する必要があろう。

繰り返しになるし、また、今更ではあるが、厚労省もなんらかの工夫ができなかったものかとは思う。


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