労働衛生コンサルタント試験 2023年 労働衛生一般 問23

高年齢労働者の感覚と反応




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2023年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2023年度(令和05年度) 問23 難易度 本問は、過去に類問が多いこともあるが、正答率は高かった。
高年齢労働者

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問23 高年齢労働者の感覚や反応に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)加齢による聴力低下では、高い周波数から聞こえにくくなる。

(2)静止視力は、動体視力よりも加齢により著しく低下する。

(3)加齢により、単純反応時間及び選択反応時間は、ともに長くなる。

(4)加齢に伴う明暗順応の遅延は、明順応よりも暗順応の方が顕著である。

(5)平衡機能は加齢により徐々に低下し、60歳代以降に大きく低下する。

正答(2)

【解説】

問23試験結果

試験解答状況
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高齢化による感覚機能や反応に関する問題は、過去にも出題例は多いものの、本問はこれまでになく詳細な知識を問うているようにも思える。しかし、正答率はかなり高かった。

受験者の知識レベルの高さによるものであろう。

年代別による純音オージオグラムの変化

丹羽英人他「老人性難聴」(日本老年医学会雑誌:1990年)

図 年代別による純音オージオグラムの変化

(1)適切である。加齢による聴力低下では、高い周波数から聞こえにくくなる。なお、騒音性難聴では、4000Hz程度の周波数から聞こえにくくなる。(本肢については、2018 年問 14に類問がある。)

(2)適切ではない。静止視力とは健康診断等で通常の視力表を用いて計測する視力であり、動体視力とは動いているものを見たり動きながらものを見たりするときの視力である。

静止視力も動体視力も加齢とともに衰えることは当然である。そして、動体視力は、加齢によって眼球を動かす筋肉の反応が衰えることから、静止視力よりもさらに低下するのである。

本肢は、静止視力と動体視力が逆になっている。

(3)適切である。単純反応時間(Simple Reaction Time:SRT)とは、予め定められた刺激(1種類)の呈示から反応までにかかる時間であり、選択反応時間(Choice Reaction Time:CRT)とは、複数の刺激系列の呈示に対して予め定められた特定の反応を行う反応時間である。

加齢により、ともに長くなることは当然であろう。

(4)適切である。明順応とは、読んで字のごとく、暗い場所から明るい場所へ出たときに、明るさに目が慣れることである。一方、暗順応とは、明るい場所から暗い場所へ入ったときに暗さに目が慣れることである。経験的にもわかるように、明順応は1分程度であるが、暗順応は30分から1時間程度かかる。

そして、加齢による遅延は、明順応よりも暗順応の方が顕著である(※)

※ 例えば、石原治「高齢者の認知機能とバイオメカニズム」(バイオメカニズム学会誌 2003年 Vol.27 No.1)など

(5)適切である。平衡機能が加齢により徐々に低下することは当然である。問題は、60歳代以降に大きく低下するといえるかどうかである。この点について、吉本(※)は次のように述べる。適切としてよいであろう。

※ 吉本裕「高齢化社会におけるめまい・平衡障害を巡る諸問題」(Equilibrium Res Vol.65(1))

【高齢化社会におけるめまい・平衡障害を巡る諸問題】

Ⅱ.高齢化社会におけるめまい・平衡障害を巡る諸問題

2.平衡機能検査所見の加齢変化を巡って

1)身体の平衡に関連して

  体力を構成する諸要素(握力、瞬発力、筋持久力、全身持久力、平衡性、敏捷性、柔軟性)の中で、加変化がもっとも著しいのは平衡性である。

  身体の直立姿勢や平衡を維持するためには、前庭系、自己受容器系、視覚系という3つの機能系からの信号源の統合や微妙な調節が必要である。それはおもに小脳で行われる。小脳の退行変性(40 歳代から始まり、加齢とともに加速)が、老人における身体の平衡機能低下にもっとも大きな影響力を持つ。

(1)単脚起立検査(閉眼下):単脚起立能(体の平衡性を診る上でもっとも鋭敏な検査。所見にバラツキが多いが)で平衡性をみると、健常者では平均的に 20 ~ 25 歳を頂点として、以後、それは加齢とともに直線的に低下する。20 歳代を100%(基準値)とすると、30 歳代より低下が始まり、40 歳代では基準値の約 60 %、50 歳代では約 40 %となる。以後、単脚起立能は急速に低下し、60歳代では約 20 %、70歳代では約 10 %にすぎない(→老人のバランスの悪さに繋がる)。

(2)重心動揺記録:健康者において、高齢になるにつれて動揺面が増大することはよく知られている。

2)眼の平衡について

(1)視運動性眼振(OKN)検査:緩徐相速度では、20歳代を 100%(基準値)とすると、30 歳代では低下はみられないが(101.4 %)、以後、加齢とともに低下する。40 歳代では 96.4 %、50 歳代では 87.1 %、60 歳代では82.9 %となる。

(2)視標追跡検査(ETT):健常者群における異常出現率は、60 歳以下群では約 20 %にすぎないが、60 歳以上群では約 80 %と高率である

※ 吉本裕「高齢化社会におけるめまい・平衡障害を巡る諸問題」(Equilibrium Res Vol.65(1))(下線強調:引用者)
2024年01月26日執筆