労働衛生コンサルタント試験 2023年 労働衛生一般 問21

化学物質等の有害性等




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 このページは、2023年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2023年度(令和05年度) 問21 難易度 採光・照明などは過去問にあまり類例はないが、常識的な内容の問題。確実に正答しておきたい。
化学物質等の有害性等

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問21 化学物質等の有害性等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)変異原性試験は発がん性のスクリーニングとして実施されているが、発がん性のあるものが変異原性を有するとは限らない。

(2)特定標的臓器毒性(反復ばく露)とは、反復ばく露によって起こる特定臓器に対する特異的な致死性の毒性をいう。

(3)神経毒性とは、神経機能を障害する性質をいい、神経毒性を持つ金属として、有機水銀などがある。

(4)窒息性とは、窒素やヘリウムなどのガスが、酸素の供給を妨げることで窒息させる性質をいう。

(5)感作性とは、皮膚や呼吸器にアレルギー反応を引き起こす性質をいう。

正答(2)

【解説】

問21試験結果

試験解答状況
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(1)正しい。変異原性とは、遺伝子に作用して遺伝情報を変える性質のことである。ある化学物質が、変異原性を有しているかどうかを調べる試験が変異原性試験である。

発がん性物質は、遺伝情報に異常を起こしてがんの原因を作るので、その多くが変異原性を有する。そのため、変異原性試験は、発がん性のスクリーニング試験として位置づけられている。

だからといって、すべての発がん性物質が変異原性を有するとは限らない。

(2)誤り。JIS Z 7252:2019「GHS に基づく化学物質等の分類方法」では、特定標的臓器毒性(反復ばく露)とは、反復ばく露によって初めて生じる特異的な致死性の特定標的臓器・全身毒性を対象とされている。特異的な致死性の毒性をいうのではない。

【JIS Z 7252:2019】

3.29.18 特定標的臓器毒性、反復ばく露(specific target organ toxicity, repeated exposure)

  反復ばく露によって起こる特定臓器に対する特異的な非致死性(注)の毒性。

  なお、反復ばく露は、可逆的若しくは不可逆的、又は急性若しくは遅発性の機能を損なう可能性がある、全ての重大な健康への影響を含む。

注 非致死性の作用となっているものの、死亡動物で観察されたことをもって該当しないと判断することは不適切。瀕死など全身状態が悪化した状態で生じる2次的影響は除外が適当であるが、非致死的用量でも影響が生じるかどうかが重要。例えば神経毒性や麻酔作用を示す物質でも大量投与すれば致死的となり、これらは特定標的臓器毒性として分類すべきである。

※ JIS Z 7252:2019「GHS に基づく化学物質等の分類方法

(3)正しい。神経毒性とは、読んで字のごとく神経細胞に作用する毒性のことであり、頭痛、腹痛、手や足のしびれや筋肉の麻痺による歩行困難、重篤になると呼吸困難などの症状が現れる。有機水銀の毒性は、水俣病によって一般に知られるようになったが、中枢神経系に対して障害をもたらす毒性が極めて強い。

(4)正しい。ACGIH では、単純窒息性ガスとは「高濃度で空気中に存在しても、単に窒息性であるだけで、ほかに明らかな生理的作用を呈しないガス」とされており、本肢の通りの性質を持つガスである。なお、GHS に窒息性ガスの規定はない。危険物輸送勧告(UNRTDG)では、「区分 2.2 非引火性・非毒性ガス①窒息性」が「大気中において通常酸素を希釈又は置換するガス」と規定されている。

一方、軍事用語で、国際法で使用が禁止されている毒ガスの一種である「窒息性ガス」とは、ホスゲンや塩素など呼吸を困難にさせるガスを意味する。

本肢を正答(誤っている肢)として選んだ受験者は、おそらく、問題文に「単純窒息性」と書かれていれば本肢は選ばなかっただろう。このようなことで誤りに導こうとすることが、試験問題として適切なのか疑問は残る。なお、本問を正答とした受験者は、医師では 36 名中 15 名(41.7 %)、医師以外では 62 名中 26 名(41.9 %)で、ほぼ差がなかった。

(5)正しい。感作性(sensitizing)とは、厚労省の「有害性・GHS関係用語解説」によれば、「個体をある抗原(感作性物質)に対してはじめてばく露することで、その結果として免疫反応により抗体(免疫グロブリン)が体内に形成される。後にその抗原にばく露されると抗体が存在することにより、初回よりはるかに強い免疫反応(アレルギー反応)が生じる。このような反応の生じる素因を体内に形成させるばく露を感作という」とされている。

2024年01月26日執筆