労働衛生コンサルタント試験 2023年 労働衛生一般 問16

金属類による健康障害




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2023年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2023年度(令和05年度) 問16 難易度 金属類による健康障害の問題は初出。やや内容が細かく疑問のある内容も。棄て問と割り切ってよい。
金属類による健康障害

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問16 金属類による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)マンガンによる慢性中毒では、神経質になるなどの精神症状、歩行障害、発語障害などのパーキンソン病に似た症状がみられる。

(2)クロム酸などの六価クロムの化合物は、皮膚に接触すると、局所の刺激で充血、水ほうや潰瘍がみられ、長期間のばく露によってアレルギー性接触性皮膚炎がみられる。

(3)鉛中毒では、貧血、腹部のせん痛、末しょう神経障害、伸筋麻による下垂手がみられる。

(4)ニッケルは、粉じんやヒュームが経気道的に吸入されると、気管支ぜん息などのアレルギー症状や肝障害がみられる。

(5)砒素の慢性中毒では、色素沈着症、黒皮症、角化症、鼻中隔穿せん孔、末梢神経障害がみられる。

正答(4)

【解説】

問16試験結果

試験解答状況
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本問もかなりの難問である。なお、本問は、医師である受験者の正答率は 25.0 %、医師以外の受験者の正答率は 24.6 %で、医師と医師以外の受験生で正答率に差がなかった。

(1)正しい。マンガン中毒は、マンガン鉱山の労働者や皮なめし業の労働者に発生している。これは、固縮、動作緩慢、歩行障害、突進現象などのパーキンソン病に似た症状を呈し、2次性パーキンソン症候群と呼ばれる。

(2)正しい。無水クロム酸などの六価クロムの化合物は、皮膚に接触して局所の刺激で充血による発赤や、皮膚熱傷(水ほうや、水疱による潰瘍)が起きる。なお、眼に接触しても発赤、痛み、重度の熱傷が起きる。

また、皮膚への長期間のばく露(接触)によってアレルギー性接触性皮膚炎がみられることも正しい。

(3)正しい。中毒は、かつて花柳界で用いられた白粉に含まれており、女性が肌につけて中毒になった例や、また乳児が乳房についた鉛粉を摂取した例があるため、その症状についての知見は多い。

鉛中毒の、三大症状は、貧血、腹部症状、神経症状である。このうち、腹部症状のひとつに激しい痛み(鉛疝痛)がある。また、神経症状としては、末梢神経の障害で運動神経が障害を受けて腕が垂れる、いわゆる垂れ手が起きる。幽霊絵で、腕を垂らした女性が描かれることがあるが、鉛中毒による垂れ手の女性にヒントを得ているとの説がある。

(4)試験協会は誤りとしている。ニッケルが、粉じんやヒュームが経気道的に吸入されると、気管支ぜん息などのアレルギー症状がみられることは正しい。問題は肝障害がみられるかどうかであるが、動物実験ではニッケルのウサギ気管内投与で肝機能障害がみられるという報告がある(※)が、試験協会はこれだけでは肝機能障害がみられる(本肢が正しい)とは言えないという考えのようである。

※ 厚生労働省「リスク評価書 ニッケル(金属および合金)」(平成27年2月28日)参照。なお、US NIOSH「Registry of Toxic Effects of Chemical Substances (RTECS), #:QR5950000 (update2009)

(5)正しい。砒素中毒には急性中毒と慢性中毒があるが、慢性中毒では、とくに皮膚に症状が現れ、角化症、黒皮症などの皮膚障害が発症する。また、ボーエン病、皮膚がん、膀胱がん、肺がんの他、鼻中隔穿孔や末梢神経障害などもみられる。

2024年01月24日執筆 2024年02月11日改訂