問14 物理的因子と障害の部位との次の組合せのうち、適切でないものはどれか。
(1) | 赤外線 | ‥‥ | 水晶体 |
(2) | レーザー光線 | ‥‥ | 角膜 |
(3) | 電離放射線 | ‥‥ | 生殖腺 |
(4) | 手腕振動 | ‥‥ | 中枢神経 |
(5) | 減圧 | ‥‥ | 中枢神経 |

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2023年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。
柳川に著作権があることにご留意ください。
2023年度(令和05年度) | 問14 | 難易度 | 一部にあいまいな部分はあるが、ほぼ常識的な内容であり正答率は高かった。 |
---|---|---|---|
物理的有害因子 | 1 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問14 物理的因子と障害の部位との次の組合せのうち、適切でないものはどれか。
(1) | 赤外線 | ‥‥ | 水晶体 |
(2) | レーザー光線 | ‥‥ | 角膜 |
(3) | 電離放射線 | ‥‥ | 生殖腺 |
(4) | 手腕振動 | ‥‥ | 中枢神経 |
(5) | 減圧 | ‥‥ | 中枢神経 |
正答(4)
【解説】
本問は、(4)がややあいまいではあるものの、他の肢がほぼ常識的な内容なので、正答はできたのではないだろうか。
(1)正しい。赤外線は液体の温度を上昇させる(※)ため、水晶体の温度を上昇させて白内障の原因となる。
※ 奥野勉他「水晶体混濁を引き起こす赤外放射の照度の閾値とその曝露時間依存性」(労働安全衛生総合研究所特別研究報告 JNIOSH-SRR-NO.44 2014年)など
(2)正しい。400nm より短い紫外線及び 1,400nm より長い赤外線のレーザー波長は角膜と水晶体に強く吸収されるため(※)、強力なレーザー光線が目に当たれば角膜を損傷するおそれがある。
※ 石渡裕政他「レーザー医学・医療における安全対策」(日レ医誌 Vol.32 No.4 2012年)、石場義久「レーザー用保護めがねの使用上の留意点」(日レ医誌 Vol.40 No.2 2019年)など
(3)正しい。国際放射線防護委員会(ICRP)勧告による生殖腺の組織加重係数は、改正のたびに下がっている(0.08:2007年)が、影響がないわけではない。
(4)誤りとしておく(反対説あり)。いずれにせよ、現時点(※)では、厚生労働省は、局所振動によって中枢神経障害は起きないという立場をとっている。
※ 厚労省は、旧労働省時代の通達「振動障害の認定基準について」(昭和 52 年5月 28 日基発第 307 号)で振動障害の認定基準等について考え方を示している。明言はしていないものの、その背景には、振動障害は全身性の障害であるとの考え方があったと言われる。
しかし、約 10 年後の「振動障害の治療指針について」(昭和61年10月9日基発第585号)においては、この考え方(全身障害説)を完全に否定している。
局所振動によって中枢神経障害を生ずることを否定する例として、Taylor 他(※)は、「入手し得た論文の論評や生理学的または疫学的資料を分析しても、手腕振動が大脳の自律神経中枢に損傷を引き起こすという仮説を確認する資料は現在のところまったくないということで意見の統一見解が得られた
」としている。
※ Taylor 他著・岡田晃他訳「振動障害-その概念をめぐって-」(日本労働総合研究所 1986年)
一方、これを肯定する例として、米川(※1)は、「振動障害は(中略)最近は中枢神経障害も関与していることが明らかになっている」とし、「中枢神経障害では頭痛,睡眠障害,手掌発汗増多がみられる」などとする。また、深田他(※2)は、「重症な振動障害者では振動障害を認めない者に比し、閉眼足踏み試験異常者が多く(p<0.005)、潜在的平衡機能障害が認められ、振動工具使用による中枢神経症状の存在が示唆された
」とする。
※1 米川善晴「振動の生体反応」(人間と生活環境 2001年)
※2 深田倍行他「振動障害における中枢神経症状の検討」(脳卒中 1984年 Vol.6 No.2)
なお、桜井(※)が、「現在までのところ、振動による中枢神経性の器質的障害については諸説があり、結論づけられていないが、振動障害形成の過程で、中枢神経系の反応が関与していることは異論のないところである
」としていることを紹介しておく。
※ 桜井忠義「局所振動と健康障害」(バイオメカニズム学会誌 1984年 Vol.8 No.3)
(5)正しい。合志清隆他「潜水に伴う中枢神経障害」(産衛誌 2003年 45巻)など参照