労働衛生コンサルタント試験 2023年 労働衛生一般 問03

有害物質の性状等




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2023年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2023年度(令和05年度) 問03 難易度 一般の労働衛生の解説書には、絶対に書かれていない内容。常識で正誤を判断できなければならない問題。
有害物質の性状等

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問3 有害物質の性状等に関する次のイ~ホの記述について、誤っているものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。

イ 一般に、ミストはヒュームの一次粒子に比べて粒径が大きい。

ロ メタノールは、トルエンより極性が大きい。

ハ 一般に、環境空気中の有害物質の濃度の算術平均値と、その標準偏差の間には相関関係はない。

ニ 粉じんの空気力学相当径は、光学顕微鏡による粒径測定によつて求められる。

ホ 臨界温度以下の温度において、気体として存在するものを蒸気という。

(1)イ  ロ

(2)イ  ホ

(3)ロ  ハ

(4)ハ  ニ

(5)ニ  ホ

正答(4)

【解説】

問3試験結果

試験解答状況
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本問は、ハとホで迷った受験生が多かったようだ。

イ 正しい。ミストは液体の微細な粒子が空気中に浮遊しているもので、粒径は、5~100 マイクロメートル程度である。一方、ヒュームは気化した個体が空気中で凝固したもので、球形又は結晶体の微細な一次粒子が連なっており、一次粒子の粒径は 0.1~1マクロメートル程度である。

ロ 正しい。なお、極性については、労働衛生一般2016年の問2を参照して欲しい。

ハ 誤り。一般にということであれば、環境空気中の有害物質の濃度について、算術平均値が大きくなればその標準偏差も大きくなるだろう。こんなことは、おそらくどんな作業環境測定のテキストにも書かれていないと思う(※)。しかし、あるグループのサンプルの平均値が大きくなれば、一般にはバラツキも大きくなるだろう。

※ もしかすると、「算術平均値が大きくなったからといって、標準偏差も大きくなるとは限らない」と書かれているテキストがあるかもしれない。しかし、それは、「一般的には算術平均値が大きくなれば標準偏差も大きくなるが、個別の事例について常に当てはまるとは限らない」ということに過ぎない。

例えば「0.8、0.9、1.0、1.1、1.2」というグループを2倍にすれば「1.6、1.8、2.0、2.2、2.4」となり、平均値もバラツキも2倍となる。

これは、「小学1年生と6年生では、一般に、6年生の方が身長の平均が大きく身長のばらつきも大きい」と言っているようなものだ。もっとも、仮に「日本人の子供の身長」とか「子供服の製造」というようなテキストを執筆することになったとしても、誰もそんなことは書かないだろうが。

ニ 誤り。相当径は幾何相当径と物理的相当径があるが、球形の粉じんのどの直径に相当するかを意味する。空気力学相当径は物理的相当径のひとつであるが、動力学的運動方程式を用いて比重1に換算した相当径である。光学顕微鏡による粒径測定によって求めるものではない。

ホ 正しい。一般には、蒸気とは、常温・常圧で液体又は固体の物質が蒸気圧に応じて揮発又は昇華して気体となっているもののことである(※1)。本肢は、「常温・常圧」を「臨界温度臨界温度(※2)以下」とすることにより、より科学的に厳格な表現にしただけのことである。

※1 常温・常圧で気体になるものはガスである。

※2 臨界温度とは、圧力をどれほど高くしても液体にならなくなる(PV=nRTが成立する。)ときの温度であり、このときの圧力を臨界圧力という。臨界温度以下の温度であれば、圧力を高くすれば液体となり、低くすれば蒸気として気化する。

本肢の趣旨は、臨界温度以下で圧力を下げたときに気体として存在するものは蒸気と呼ぶのか、それとも蒸気とは呼ばない(ガスと呼ぶ)のかということである。本肢は、冒頭に述べたように科学的に厳格な蒸気の定義である。

2024年01月13日執筆