労働衛生コンサルタント試験 2021年 労働衛生関係法令 問15

じん肺法及び粉じん障害防止規則




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 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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本問が最後の問題です
2021年度(令和3年度) 問15 難易度 じん肺法、粉じん則について、かなり詳細な内容を問うている。かなりの難問であろう。
じん肺法と粉じん則

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問15 じん肺法及び粉じん障害防止規則による健康障害の防止等に関する次の記述のうち、法令上、正しいものはどれか。

(1)新たに常時粉じん作業に従事することとなった労働者で、当該作業に従事することとなった日前1年以内にじん肺健康診断を受けて、じん肺管理区分が管理3ロと決定された者に対しては、その就業の際、じん肺健康診断を行わなくてもよい。

(2)常時粉じん作業に従事する労働者でじん肺管理区分が管理3であるものが、離職の際にじん肺健康診断を行うよう求めた場合でも、当該労働者を離職の日までに使用していた期間が1年以内であるときは、じん肺健康診断を行わなくてもよい。

(3)研磨材を用いて可搬式動力工具により金属を裁断する作業を行う箇所に、局所排気装置を設置することが困難な屋内作業場では、当該箇所に湿潤な状態に保つための設備を設置して粉じんの発散を防止し、作業を行うようにしなければならない。

(4)屋内作業場において、金属を溶断し、又はアークを用いてガウジングする作業に常時従事させる労働者に対しては、その就業の際、粉じんの発散防止及び作業場の換気の方法等の所定の科目について、特別の教育を行わなければならない。

(5)じん肺法及び粉じん障害防止規則において、粉じん障害の防止対策、健康管理等の措置を講ずべき作業として粉じん作業を定めているが、同法令のいずれも、粉じん作業は、有機粉じんを除き、石綿以外の鉱物性粉じんに係る作業を対象としている。

正答(2)

【解説】

問15試験結果

試験解答状況
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本年の問題では、正答の肢よりも誤答の肢を選んだ受験生の方が多い問題が複数あるが、これもそのひとつ。やや問うている内容が細かすぎるように思える。

(1)誤り。じん肺法第7条(及びじん肺則第9条(第三号))は、作業に従事することとなった日前6月以内にじん肺健康診断を受けて、じん肺管理区分が管理3ロとなった者について、就業時健康診断の実施義務を除外している。

本肢は、1年以内としているところが誤りである。

【じん肺法】

(就業時健康診断)

第7条 事業者は、新たに常時粉じん作業に従事することとなつた労働者(当該作業に従事することとなつた日前一年以内にじん肺健康診断を受けて、じん肺管理区分が管理二又は管理三イと決定された労働者その他厚生労働省令で定める労働者を除く。)に対して、その就業の際、じん肺健康診断を行わなければならない。この場合において、当該じん肺健康診断は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を省略することができる。

【じん肺法施行規則】

(就業時健康診断の免除)

第9条 法第七条の厚生労働省令で定める労働者は、次に掲げる労働者とする。

一及び二 (略)

 新たに常時粉じん作業に従事することとなつた日前六月以内にじん肺健康診断を受けて、じん肺管理区分が管理三ロと決定された労働者

(2)正しい。じん肺法第9条の2第1項(第二号及びじん肺則第12条)により、常時粉じん作業に従事する労働者でじん肺管理区分が管理3であるものについては、離職の日まで引き続き使用していた期間が1年以内である場合を除き、離職時健康診断を行わなければならない。

なお、じん肺法第9条の2第1項但書(及び各号で定めている期間)は、本問とは関係がない。

【じん肺法】

(離職時健康診断)

第9条の2 事業者は、次の各号に掲げる労働者で、離職の日まで引き続き厚生労働省令で定める期間を超えて使用していたものが、当該離職の際にじん肺健康診断を行うように求めたときは、当該労働者に対して、じん肺健康診断を行わなければならない。ただし、当該労働者が直前にじん肺健康診断を受けた日から当該離職の日までの期間が、次の各号に掲げる労働者ごとに、それぞれ当該各号に掲げる期間に満たないときは、この限りでない。

 (略)

 常時粉じん作業に従事する労働者でじん肺管理区分が管理二又は管理三であるもの 六月

 (略)

 (略)

【じん肺法施行規則】

(離職時健康診断の対象となる労働者の雇用期間)

第12条 法第九条の二第一項の厚生労働省令で定める期間は、一年とする。

(3)誤り。研磨材を用いて可搬式動力工具により金属を裁断する作業は、粉じん則別表第3第6号に該当する。なお、粉じん則別表第2第7号から除かれており、特定粉じん作業ではない。

従って、粉じん則第27条の適用があり、当該作業に従事する労働者に有効な呼吸用保護具を使用させれば、当該箇所に湿潤な状態に保つための設備を設置して粉じんの発散を防止することは求められない。

なお、同条第1項本文のカッコ書きの同規則第7条に該当する場合とは、臨時の粉じん作業を行う場合であり、本肢の正誤には影響を与えない。

【粉じん障害防止規則】

(定義等)

第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 (略)

 特定粉じん発生源 別表第二に掲げる箇所をいう。

 特定粉じん作業 粉じん作業のうち、その粉じん発生源が特定粉じん発生源であるものをいう。

2~6 (略)

(呼吸用保護具の使用)

第27条 事業者は、別表第三に掲げる作業(次項に規定する作業を除く。)に労働者を従事させる場合(第七条第一項各号又は第二項各号に該当する場合を除く。)にあつては、当該作業に従事する労働者に有効な呼吸用保護具(別表第三第五号に掲げる作業に労働者を従事させる場合にあつては、送気マスク又は空気呼吸器に限る。)を使用させなければならない。ただし、粉じんの発生源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置、粉じんの発生源を湿潤な状態に保つための設備の設置等の措置であつて、当該作業に係る粉じんの発散を防止するために有効なものを講じたときは、この限りでない

 事業者は、別表第三第一号の二、第二号の二又は第三号の二に掲げる作業に労働者を従事させる場合(第七条第一項各号又は第二項各号に該当する場合を除く。)にあつては、当該作業に従事する労働者に電動ファン付き呼吸用保護具を使用させなければならない。

 (略)

別表第1 (第二条、第三条関係)

一~六 (略)

 研磨材の吹き付けにより研磨し、又は研磨材を用いて動力により、岩石、鉱物若しくは金属を研磨し、若しくはばり取りし、若しくは金属を裁断する場所における作業(前号に掲げる作業を除く。)

八~二十三 (略)

別表第2 (第二条、第四条、第十条、第十一条関係)

一~六 (略)

 別表第一第七号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、研磨材を用いて動力(手持式又は可搬式動力工具によるものを除く。)により、岩石、鉱物若しくは金属を研磨し、若しくはばり取りし、又は金属を裁断する箇所

八~十五 (略)

別表第3 (第七条、第二十七条関係)

一~五 (略)

 別表第一第七号に掲げる作業のうち、屋内、坑内又はタンク、船舶、管、車両等の内部において、手持式又は可搬式動力工具(研磨材を用いたものに限る。次号において同じ。)を用いて、岩石、鉱物若しくは金属を研磨し、若しくはばり取りし、又は金属を裁断する作業

六の2~十七 (略)

(4)誤り。安衛法第59条第3項による特別教育を行うべき業務は、安衛則第36条に定められている。同条第二十九号は、特定粉じん作業について特別教育を行うべきことを定めている。粉じん則第22条は、これを受けたものである。

そして特定粉じん作業は、粉じん則第2条第1項第三号により「粉じん作業のうち、その粉じん発生源が特定粉じん発生源であるもの」であり、「特定粉じん発生源」とは同項第二号により「別表第二に掲げる箇所」である。

しかし、「屋内で金属を溶断し、又はアークを用いてガウジングする作業」(※1)は粉じん則別表第1に定められているが、同別表第2には定められておらず特定粉じん作業ではない(※2)従って、粉じん則第22条による特別教育を実施する義務はない。

※1 ガウジングとは、金属を溶融して吹き飛ばすことによって、溝掘り、開先の加工、溶接裏面のはつり、穴あけなどをすることである。

なお、鋼の塊などの表面を剥がす作業をスカーフィングというが、スカーフィングとガウジングをまとめてガウジングと呼ぶことも多く、安衛法令上のガウジングはスカーフィングを含む概念であると考えられている。

もっとも、アークを用いてガウジングを行うことは可能であるがめったに行われない。ガウジングやスカーフィングはガスを用いて行うことが普通である。一般に、アークで行うのは溶接である。なお、溶断はガス、プラズマ、レーザー等を用いることが多い。

※2 なお、「金属をアーク溶接する作業」も同様であるので念のため。

【受験者が本問を間違えた原因】

本問で多くの受験者が間違えたのは、安衛則第36条第三号に「アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断」の作業が定められているため、「アークを用いてガウジングする作業」もこの「溶接、溶断等」の「等」に含まれる(※)のではないかと考えたためであろう。かなりの受験者が本肢で間違っている。

※ ガウジングは、金属を接合する作業ではなく、切断もしない。つまり、溶接でもなければ溶断でもないのである。

しかし、特化則第38条の21では、「ガウジングする作業」を金属をアーク溶接する作業又はアークを用いて金属を溶断する作業と区別して明示している。従って、安衛則第36条第三号の「溶接、溶断」の「等」にガウジングが含まれるとする解釈をとることはできないと考える。

※ 安衛則第36条第三号の「溶接、溶断等」の「等」にガウジングが含まれるなら、特化則第38条の 21 でも同じように「等」と記述したはずである。

また、この第三号の「アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等(以下「アーク溶接等」という。)の業務」に関する特別教育は、安衛則第39条によって、その細目を労働大臣が定めるとされている。粉じん則第22条とは関係がないのである。

本問の本文が「じん肺法及び粉じん障害防止規則による健康障害の防止等に関する次の記述」となっていることを想起されたい。出題者は、このことで本肢の範疇はんちゅうから第三号は除かれると考えていたのかもしれない(※)。ただ、もしそうだとすると、ひっかけ問題であり、問題の適切さが問われよう。

※ 仮にガウジングが「溶接、溶断」の「等」に含まれるとしても、「安全衛生特別教育規程」第4条によれば、安衛則第36条第三号のアーク溶接等の業務に係る特別教育に「粉じんの発散防止及び作業場の換気の方法等」という科目はないので、その意味でも本肢は誤りとなる。

なお、安衛則第36条第二十九号の特定粉じん作業の特別教育に関する「粉じん作業特別教育規程」には「作業場の管理」という科目があり、その範囲は「粉じんの発散防止対策に係る設備及び換気のための設備の保守点検の方法 作業環境の点検の方法 清掃の方法」となっている。

ただ、ほとんどの受験者が、ガウジングは「溶接、溶断等」の範疇に含まれないと知っているとは思えない。やや難問に過ぎる内容であった。なお、「安全衛生特別教育規程」は告示なので法令ではなく「労働衛生関係法令」の範囲外である(※)

※ 「労働安全コンサルタント及び労働衛生コンサルタント規則」第12条第2項には、労働衛生関係法令の範囲は「労働安全衛生法、作業環境測定法(昭和五十年法律第二十八号)及びじん肺法(昭和三十五年法律第三十号)並びにこれらに基づく命令のうち労働衛生に係るもの」とされている。告示は含まれていない。

また、試験合格後にコンサルタント業務を行うときには、アークを用いてガウジングする作業についても、安衛則第36条第三号のアーク溶接特別教育を受講させること。ここは、法令の条文に拘泥するところではない(※)

※ 日本溶接協会の「溶接および溶断の安全・衛生に係る法令」には、アークガウジングはアーク溶断に含まれると明記されている。厳密な法解釈は別として、通常は、このように理解しておくべきである。

【労働安全衛生法】

(安全衛生教育)

第59条 (第1項及び第2項 略)

 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。

【労働安全衛生規則】

(特別教育を必要とする業務)

第36条 法第五十九条第三項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。

一及び二 (略)

 アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等(以下「アーク溶接等」という。)の業務

四~二十八の五 (略)

二十九 粉じん障害防止規則(昭和五十四年労働省令第十八号。以下「粉じん則」という。)第二条第一項第三号の特定粉じん作業(設備による注水又は注油をしながら行う粉じん則第三条各号に掲げる作業に該当するものを除く。)に係る業務

三十~四十一 (略)

(特別教育の細目)

第39条 前二条及び第五百九十二条の七に定めるもののほか、第三十六条第一号から第十三号まで、第二十七号、第三十号から第三十六号まで及び第三十九号から第四十一号までに掲げる業務に係る特別教育の実施について必要な事項は、厚生労働大臣が定める。

【粉じん障害防止規則】

(定義等)

第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 (略)

 特定粉じん発生源 別表第二に掲げる箇所をいう。

 特定粉じん作業 粉じん作業のうち、その粉じん発生源が特定粉じん発生源であるものをいう。

2~6 (略)

(特別の教育)

第22条 事業者は、常時特定粉じん作業に係る業務に労働者を就かせるときは、当該労働者に対し、次の科目について特別の教育を行わなければならない。

一~五 (略)

 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号。以下「安衛則」という。)第三十七条及び第三十八条並びに前項に定めるもののほか、同項の特別の教育の実施について必要な事項は、厚生労働大臣が定める。

別表第1 (第二条、第三条関係)

一~十九 (略)

二十 屋内、坑内又はタンク、船舶、管、車両等の内部において、金属を溶断し、又はアークを用いてガウジングする作業

二十の二 金属をアーク溶接する作業

二十一~二十三 (略)

別表第2 (第二条、第四条、第十条、第十一条関係)

一~十五 (各号は略すが、金属を溶断し、又はアークを用いてガウジングする作業は示されていない。)

(5)誤り。じん肺法の「粉じん作業」の範囲は、じん肺法第2条第3項の規定によりじん肺則別表に定められているが、その第二十四号には石綿を取扱う作業の一部が定められている。

一方、有機粉じんについては、同規則別表の「粉じん作業」の対象とはなっていない。しかし、昭和53年4月28日発基第47号「労働安全衛生法及びじん肺法の一部を改正する法律の施行について(じん肺法関係)」の記の第二の一の(二)に、次のように記されており、現時点で適用はないものの、その対象から除いてはいないと考えられる。

【じん肺の定義から「鉱物性」を除いた理由】

じん肺を起こす起因粉じんについて、旧法では「鉱物性粉じん」としていたが、近年、特定の有機粉じんを吸入することによつても鉱物性粉じんによるものと同様のじん肺が起こるとの意見もあるところから、今後の医学的解明の結果によつては有機粉じんをも含み得る余地を残すため、「鉱物性」という文言を削除したものであること。今後の調査研究により、特定の有機粉じんについてもじん肺を起こすとの専門家の合意が得られれば、その時点で当該粉じんに係る作業を「粉じん作業」としてじん肺法施行規則に追加することとなるものであること

昭和53年4月28日発基第47号より(下線強調引用者)

なお、粉じん則については、石綿粉じんは石綿則の対象となることから対象となっていない。また、有機粉じんについても、同規則の対象とはされていない。

【じん肺法】

(目的)

第1条 この法律は、じん肺に関し、適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより、労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 じん肺 粉じんを吸入することによつて肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいう。

 (略)

 粉じん作業 当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業をいう。

四及び五 (略)

 (略)

 粉じん作業の範囲は、厚生労働省令で定める。

【じん肺法施行規則】

(粉じん作業)

第2条 法第二条第一項第三号の粉じん作業は、別表に掲げる作業のいずれかに該当するものとする。ただし、粉じん障害防止規則(昭和五十四年労働省令第十八号)第二条第一項第一号ただし書の認定を受けた作業を除く。

別表 (第二条関係)

一~二十三 (略)

二十四 石綿を解きほぐし、合剤し、紡績し、紡織し、吹き付けし、積み込み、若しくは積み卸し、又は石綿製品を積層し、縫い合わせ、切断し、研磨し、仕上げし、若しくは包装する場所における作業

2021年11月06日執筆 2022年06月18日改訂

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