労働衛生コンサルタント試験 2020年 労働衛生一般 問20

作業姿勢と健康影響




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 このページは、2020年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2020年度(令和2年度) 問20 難易度 作業姿勢に関する知識問題ではあるが、常識で考えれば正答できる問題だろう。
作業姿勢と健康影響

問20 作業姿勢に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)膝を曲げた中腰で上体を前屈する姿勢では、しゃがんだ姿勢と比べて腰部等にとって無理な姿勢となり筋負担が大きくなる。

(2)長時間一定の姿勢を持続する作業によって、眼精疲労や近視等を起こすことがある。

(3)作業の機械化が進んだ結果として、作業者の筋負担の内容は変化している。

(4)良い作業姿勢のための適正な視野は、左右にそれぞれ30°、計60°である。

(5)前屈姿勢やひねり姿勢は、不良作業姿勢とはいえない。

正答(5)

【解説】

(1)正しい。これは解説するまでもないだろう。膝を曲げた中腰で上体を前屈する姿勢では、しゃがんだ姿勢と比べて腰部等にとって無理な姿勢となり筋負担が大きくなる。

(2)正しい。子供のスマホの長時間の使用で問題となっているが、近距離のディスプレイを見つめた姿勢を維持していると、眼がその距離を見やすいように順応し、近視が進むことがあり得ると言われている。

また、一定の姿勢を持続する作業では、長時間にわたり同じ距離で物を見つめることになりやすいが、この場合もその距離で目のピントを合わせたままになり、眼精疲労の原因となり得る。なお、蒲山他(※)は眼精疲労の原因を視器に起因するものと内環境に起因するものとに分類し、視器に起因するもののひとつに調整性眼精疲労を挙げている。

※ 蒲山俊夫・松崎浩著 市川宏編「眼精疲労(新臨床眼科全書第2巻B 眼機能学(2)」(金原出版 1993年)

(3)正しい。作業の機械化は、作業者に機械に合わせた姿勢や筋負担を長時間にわたって強制することになりやすい。それは、従来の重筋作業などとは異なる内容となっている。

※ 例えば、大西徳明「労働形態の変化にみる労働負担と健康」(東京農大農学集報 vOL51 (4) 2007年)など

(4)正しいとしておくが不明。本肢の文章は、意味が分かりにくい。本来「視野」とは、目を動かさないでも物が見える範囲のことである。本肢の文章を自然に読めば「良い作業姿勢のためには作業者の視野が左右にそれぞれ30°、計60°あることが必要だ」と読める。しかし、病気でもなければヒトの視野は左右90~100度程度あり、このように理解することはばかげている。

常識的には「視線が狭い範囲に拘束されると姿勢に影響を与えるので、良い作業姿勢のためには、作業者の視点の中心から左右にそれぞれ30°、計60°の範囲に見るべきもの(メータや警報ランプなど)が配置されていることが望ましい」というのであろう(※)。なお、高速道路を運転するような場合には視野が狭まるので自動車のメータ類を狭い範囲に配置するようにする必要があるが、本肢には「高速での運転」とは書かれていないので、そのような状況が問われているわけではないだろう。

※ ことによると、「左右の視界が遮られて、視界が、左右にそれぞれ30°、計60°より狭くなると姿勢が悪くなる」という趣旨かもしれないが、それなら「視野」ではなく「視界」と書くだろうし、正しい姿勢とならないのではなく、姿勢が拘束されることが問題となるだろう。従って、そのような趣旨ではないだろう。

そのように解釈した上で、作業姿勢と見るべきものの配置に関して、何か公的な文書や学術論文等に根拠があるかと思って調べてみたが見当たらなかった(※)。考えてみれば、何かを見たければ作業者は顔を動かしてそちらを見るだろう。はっきりしないが(5)が明らかに誤りなので、本肢は正しいとしておく。

※ 例えば、藤澤祐基他「ノート型パソコンの画面表示角度が生体に及ぼす影響」(理学療法科学 16(4)2001年)は、「NPC(ノートパソコン=引用者)使用においての視野角度の狭さが姿勢に影響を及ぼすことが示唆された」としている。これを含めて同種の研究は多いが、角度に言及したものは見つからなかった。

なお、通常であれば、情報受容能力に優れる有効視野は水平 30 度(左右に15度)、垂直 20 度程度とされる(※1)。一方、畑田他(※2)によると「人間の視野の特性は、細かな情報を正確に受容する中心視野(10°以内)、視力・色弁別は少し低下するが、ちらつき、動きの検出はあまり低下しない周辺視野(20°より外側)、図形識別が注意力などと相関のある有効視野(20°以内)や前述の誘導効果がよく生ずる誘導視野(20°~120°)などに分類できる」とされている。参考までに紹介しておく。

※1 光産業技術振興協会「技術動向調査報告書『広画角高精細ディスプレイにおける最近1年の技術動向』」(2002年)

※2 畑田豊彦・坂田晴夫「視覚心理とディスプレイ」(テレビジョン第31巻 第4号 1977年)

(5)誤り。厚生労働省の職場における腰痛予防対策指針及び解説」の「2 作業管理」の「(2)作業姿勢、動作」の解説において、「『不自然な姿勢』には、上半身が前傾する前屈姿勢、膝関節を曲げて立つ中腰姿勢、上半身と下半身の向きが異なるひねり姿勢、体幹を後方に傾けながらねじる後屈ねんてん姿勢、しゃがむ・かがむ等の姿勢が含まれる」とされている。前屈姿勢やひねり姿勢は、不良作業姿勢といえる。

2020年12月03日執筆 2020年12月05日修正 2021年01月11日修正