労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2019年 問2

実際に発生した職業性疾病事例等




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 このページは、2019年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2019年度(令和元年度) 問 2 実際に発生した職業がんの事例に関する問題である。他社の事例にも関心を持っておく必要がある。
化学物質管理
2019年11月16日執筆 2023年09月29日改訂

問2 近年、危険性や有害性の情報を十分に把握せずに使用した化学物質のばく露をうけた作業者にがんが発生している。職業がんに関する以下の設問に答えよ。

  • (1)以下の化学物質は、2012年以降に国内で判明した職業がんの原因物質である。それぞれの化学物質による職業がんの発生が見られた作業、暴露の状況、がんの種類などについて説明せよ。
    ① オルト-トルイジン
    ② 1,2-ジクロロプロパン

    • 【解説】
      いうまでもなく、O-トルイジンは、2015年12月に福井県の化学工業の事業場において発生した膀胱がん事案の原因物質とされるものであり、1,2-ジクロロプロパンは、2012年3月に大阪府内の印刷業の事業場で発生した胆管がん事案の原因物質とされているものである。
      これも、どこまで答えるかは迷うところだが、前問と同様に正しい答えであれば量が多過ぎても減点はされないだろう。ただし、間違った答えを書けば減点されるだろうから、自信がなければ自信を持って答えられることだけ書く方が有利になるかもしれない。
      なお、解答例ではo-トルイジンによる膀胱がんについて、安衛研の調査による「再生有機溶剤からの経皮ばく露」について記したが、当該事業者は現時点ではこのことを否定しているようである。また、具体的な数字を挙げたが、実際には「濃度は職業ばく露限界を大きく上回っていた」程度の解答だけでも十分だろう。
       当サイトの「安衛法の経皮ばく露対策規制」も参照されたい。
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    • 【解答例】
      ① O-トルイジン
      O-トルイジンによる職業性疾病の事案は、この物質などを原料として染料中間体(固体)を製造する工場で発生している。その事業場の様々な工程で発生しており特定の作業に限定されないが、直接取り扱う作業において発生している。
      災害が発覚した段階では、気中濃度は問題となるレベルではなかったが、過去の作業環境測定の結果から判断すると、過去に経気道ばく露した疑いは持たれる。また、この工場では再生有機溶剤で保護手袋を洗浄しており、この再生有機溶剤にo-トルイジンが含まれていたため、保護手袋に付着したo-トルイジンが経皮吸収された可能性がある。また、化学防護手袋の使用状況・管理状況に問題があり、そのために経皮吸収された可能性もある。
      作業者に膀胱がんが多発した。
      ② 1,2-ジクロロプロパン
      地下室の換気の十分ではない校正印刷の作業場において、きわめて頻繁にジクロロメタンと1.2-ジクロロプロパンの混合溶剤を用いて、ローラーやブランケットを洗浄する作業に従事していた。
      作業場における気中濃度は、後に行われた再現実験では、ジクロロメタンが70~190ppm(許容濃度:50ppm、TLV-TWA:10ppm)、1,2-ジクロロプロパンが30~80ppm(許容濃度:1ppm(現在)TLV-TWA:10ppm)程度と推測された。適切な呼吸用保護具の着用が行われていなかったことから、経気道ばく露をしたものと考えられる。
      作業者に胆管がんが多発した。
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  • (2)国際がん研究機関(IARC)による発がん性の分類「グループ1」、「グループ2A」、「グループ2B」及び「グループ3」について、それぞれ説明せよ。

    • 【解説】
      本問については、本サイトの「SDSの読み方シリーズ① 発がん性について 」を参照して欲しい。
      IARC(国際がん研究機関)は、発がん性の区分を4段階に分けている。他の機関でも同じであるが、あくまでも“発がん性の証拠の確からしさ”、ヒトへの発がん性の証拠があるのか、動物実験によっているのかなどで区分しており、発がん性の強さによって区分しているのではない。
      なお、IARCの発がん性区分については、かつては3が3と4に分かれており、全体で5段階に分けられていた。現在では、「Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–134」にあるように4段階となっている。従来のグループ4(probably not carcinogenic to humans(ヒトに対して恐らく発がん性がない))は、2019年1月にIARCの諮問グループによる改訂で廃止が発表された(※)
      ※ 一般公衆に誤解があることに留意して、従来のグループ4に該当していたものはグループ3(not classifiable as to its carcinogenicity to humans(ヒトに対して発がん性を分類できない)に統合された。
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    • 【解答例】
      国際がん研究機関(IARC)による発がん性の分類「グループ1」、「グループ2A」、「グループ2B」及び「グループ3」はそれぞれ、次のような意味がある。
      ここでグループ3は分類できないということであって、発がん性が弱いということではない。グループ3は、原則として、ヒトについて「発がん性の不十分な証拠」があり動物実験で「発がん性の不十分な証拠又は限定的な証拠」がある場合に分類される。
      ヒト発がん性がある
      2A おそらくヒト発がん性がある
      2B ヒト発がん性の可能性がある
      ヒト発がん性については分類することができない
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  • (3)化学物質による「多段階発がん」について説明せよ。

    • 【解説】
      ヒトなどの生体ががんを発症するには、段階を経ると考えられている。この一連の過程が多段階発がんといわれる。
      最初の第1段階は、イニシエータ(発がんの原因)によって細胞の遺伝子に傷(変異)がつく段階(イニシエーション作用)である。次の第2段階は、プロモータ(がんを増殖させる原因)や他のイニシエータによって、傷ついた遺伝子を持つ細胞が増殖する段階(プロモーション作用)である。第2段階まではがんは発症していない(前がん状態)。
      ここで、増殖要因となる原因にばく露しなければ、修復作用によって元に戻ったり、淘汰されたり(アポトーシス)、あるいは、そのままの状態を維持することが多い。
      第2段階以降に、再度遺伝子に障害等を受けると、細胞は「がん化」する(プログレッション作用)。一旦がん化した細胞は、そのままでは正常細胞に戻ることはない。
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    • 【解答例】
      生体ががんを発症するまでの段階を「多段階発がん」と呼ぶ。
      第1段階は、イニシエーションである。細胞が傷ついた場合、通常は修復されたり、細胞自体がなくなったりして問題とはならない。しかし、イニシエータ(化学物質や放射線など)によって損傷したDNAが修復されずに固定されることがある。この場合、腫瘍発生に関与する遺伝子に機能異常をもたらす。この過程がイニシエーションである。
      第2段階は、プロモーションである。第1段階の傷ついた細胞の発がんが促進される。この原因となるものをプロモータと呼び、それ自身は発がんを引き起こさないが、イニシエータによる発がん作用を促進する。一般的には、プロモータがなくなれば、第1段階の細胞の増殖を促す作用もなくなると考えられている。
      第3段階は、第2段階で増殖している細胞に、なんらかの重要な遺伝子異常が生じると、細胞は腫瘍性変化を起こす。この段階をプログレッションという。
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  • (4)化学物質の有害性をスクリーニングするエームス(Ames)試験について説明せよ。

    • 【解説】
      菌はアミノ酸合成によって増殖するが、これを人工的にアミノ酸合成ができないようにしてしまうと、その菌は本来の能力を持つ方向への突然変異を引き起こしやすくなる。つまり、正常な方向に戻ろうとするのである。
      そのため、イニシエーション作用がある物質中で、この菌を培養すると、この化学物質のイニシエーション作用によって、正常に戻る菌の数が増えることになる。
      この原理を利用したのがAmes試験であり、試験したい物質中でこの菌を培養し、増殖するコロニーの数を数えてイニシエーション作用の強さを評価するのである。
      なお、新規化学物質を製造又は輸入しようとするものは、原則として 安衛則第34条の3の規定に従って、安衛法第57条の4の有害性の調査を行わなければならない。
      この有害性の調査は「変異原性試験、化学物質のがん原性に関し変異原性試験と同等以上の知見を得ることができる試験又はがん原性試験」によって行わなければならないが、この「変異原性試験」は、一般にAmes試験によって行われる。
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    • 【解答例】
      エームス(Ames)試験とは、発がん性試験のスクリーニングテストとして行われる変異原性試験である。具体的には、In vitroで行われる培養細胞を用いた突然変異試験(MLA)のことである。
      アミノ酸合成ができないように改良した菌を被験物質中で培養する。被験物質に突然変異が生じさせる効果があると、菌が突然変異を起こしてアミノ酸が合成できるようになりやすい。そこで、被験物質を加えた寒天培地上で培養して、増殖して形成されるコロニーの数によって、被験物質が遺伝子異状を引き起こすかどうかを判定し、イニシエーション作用の強さを評価するのがAmes試験である。
      なお、安衛法による新規化学物質の有害性の調査は、一般にはAmes試験によって行われることが多い。
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  • (5)有機溶剤として使用されている化学物質には、発がんのおそれがあるものがある。
    ① 発がんのおそれのある有機溶剤を二つ挙げよ。
      ただし、(1)の①及び②以外の化学物質とする。

    • 【解説】
      ① 発がんのおそれのある有機溶剤
      発がんのおそれのある有機溶剤とは、特化則第2条第1項第3の2号の「特別有機溶剤」のことだと考えればよい。
      以下の物質があるので、このうち2つを挙げておけばよい。なお、左欄は安衛令別表第三第二号中の番号である。
      号番号 物 質
      3の3 エチルベンゼン
      11の2 クロロホルム
      18の2 四塩化炭素
      18の3 一・四―ジオキサン
      18の4 一・二―ジクロロエタン(別名二塩化エチレン)
      19の2 一・二―ジクロロプロパン
      19の3 ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)
      22の2 スチレン
      22の3 一・一・二・二―テトラクロロエタン(別名四塩化アセチレン)
      22の4 テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン)
      22の5 トリクロロエチレン
      33の2 メチルイソブチルケトン
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    • 【解答例】
      ① 発がんのおそれのある有機溶剤
      エチルベンゼン、クロロホルム等がある。
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  •   ② 発がんのおそれのある有機溶剤を取り扱う作業場において、事業者が講ずべき作業環境管理及び作業管理に関する措置並びにそれ以外の措置を合わせて五つ挙げ、それぞれの内容を説明せよ。

    • 【解説】
      ② 事業者が講ずべき措置
      特化則において、特別有機溶剤を取り扱う作業に義務付けられている措置を挙げておけばよい。
      なお、特別有機溶剤は「エチルベンゼン等」、「1,2-ジクロロプロパン等」及び「クロロホルム等」の3種に分類されている。「エチルベンゼン等」と「1,2-ジクロロプロパン等」は対象となる作業の範囲がかなり限られているので、本問の場合、あまり気にせずに、クロロホルム等に関する措置について記しておけばよいだろう。
      また、発がん性を踏まえた措置として、作業記録の作成、健診結果等の記録の30年間の保存、有害性等の掲示については外さない方が良いだろう。
      本問については、法令改正時の厚生労働省のパンフレットを参考にするとよい。
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    • 【解答例】
      ② 事業者が講ずべき措置
      作業環境管理に関する措置としては「作業環境測定評価と記録の30年間の保存」があり、作業管理に関する措置としては、「作業記録の作成と30年間の保存」、「有害性等の掲示」、「堅固な容器・確実な包装の使用」等がある。それ以外の措置としては、「健康診断(生物学的モニタリングは作業管理に位置付けられる。)の実施とその結果の30年間の保存」などがある。以下、これらについて説明する。
      作業環境測定とは、作業場の気中濃度を測定し、管理濃度を用いて評価を行い、評価結果に基づいて改善を行うものである。発がん性物質については記録は30年間保存する必要がある。
      作業記録の作成と30年間の保存は、常時作業に従事する労働者について1カ月以内ごとに、「労働者の氏名」、「従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間」並びに「当該物質によって著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び事業者が講じた応急の措置の概要」について記録する必要がある。
      有害性等の掲示については、作業に従事する労働者が見やすい箇所に、名称、人体に及ぼす作用、取扱上の注意事項及び使用保護具について掲示するものである。
      堅固な容器・確実な包装の使用については、その物質を運搬し、又は貯蔵するときは、漏れたり、こぼれたりするなどのおそれがないように、堅固な容器を使用し、又は確実な包装をする必要がある。
      健康診断の実施とその結果の30年間の保存については、特定化学物質障害予防規則の規定に基づき健康診断を行い、個人票などについて記録の保存を行うものである。
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