労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2018年 問2

職場における化学物質の経気道ばく露




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 このページは、2018年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2018年度(平成30年度) 問 2 職場における経気道ばく露に関する基本的な知識を問う問題である。
化学物質管理
2018年10月21日執筆 2020年01月25日修正

問2 化学物質を取り扱う職場では、経気道ばく露による健康影響が問題となることが多い。経気道ばく露に関する以下の設問に答えよ。

  • (1)空気中に浮遊する粒子状物質を発生過程及び性状の違いにつき三つに分類し、その名称を挙げ、それぞれの発生過程及びその性状について簡潔に説明せよ。

    • 【解説】
      本問は、見た瞬間に「あああのことか」と分からなければならない。本問は3つに分類しろと言っているから、粉じん、ミスト、ヒュームについて答えればよい。
      ナノ粒子について答えた受験者がいた場合、どう評価されたかは分からないが、あまり冒険はしない方が良い。古典的な回答をしておく方が無難である。
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    • 【解答例】
      1 粉じん(ダスト又はパウダー)
      固形物が、粉砕、研磨、爆発などで、物理的に破砕されて空気中に分散浮遊している粒子である。形はばらばらである。大きさは、ある程度の時間、空気中を浮遊できるものをいうが、おおむね100µm程度までのものを言うことが多い。
      2 ミスト
      微小な液体粒子である。液面の破砕や噴霧などにより発生したものなどがある。形状は球形になる。大きさはばらばらであるが、大きくても20µm程度までである。
      3 ヒューム
      固体がいったん気化して、作業空間中で凝縮して粒子となったものである。金属の加熱溶融、溶接、溶断などの際に生じる。生成過程で酸化物となることが多く、球状か結晶状の比較的形の整ったものが繋がっている。粒径は小さく1µm以下のものが多い。。
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  • (2)吸入される粒子状物質の粒径と気道内到達部位について説明せよ。

    • 【解説】
      これも(1)に続き、古典的な問いである。解説の必要はあるまい。粉じんについて、学習したことがあれば誰でも正答できるだろう。
      というより、この小問が解けない受験者は問2は選ばないだろう。
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    • 【解答例】
      1 吸引性(インハラブル)粉じん(100µm以下)
      鼻孔又は口を通過する。10µm以上のものは気管より上で補足され消化器へ移動する。
      2 咽頭通過性(ソラシック)粉じん(10µm以下)
      咽頭を通過し、気管まで到達する。
      3 吸入性(レスピラブル)粉じん(4µm以下)
      肺胞まで達する。
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  • (3)有機溶剤の蒸気を経気道ばく露により吸収する場合に、吸収速度が速く、吸収効率が高くなる理由を、呼吸器系の特徴をもとに説明せよ。

    • 【解説】
      「早く」「高く」と言われても、何かとの比較でなければ答えにくい。やや、出題意図がつかみ難いが、解答例程度のことを答えておけば合格点には達するのではないか。
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    • 【解答例】
      呼吸器系はすべて粘膜質であるので、化学物質が吸収されやすい。また、肺胞は表面積が広いために吸収効率が高い。
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  • (4)水に難溶性のガスと水溶性のガスを吸入した場合の症状とその経過の違いについて説明するとともに、それぞれのガスの例を挙げよ。

    • 【解説】
      本問は(3)に比べれば、出題意図はよく分かる。
      解答例に書いたとおりである。ただ、水に難溶性のガスで人体に悪影響のあるものが簡単に思いつかないかもしれない。
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    • 【解答例】
      1 水に難溶性のガスと水溶性のガスを吸入した場合の症状
      水溶性のガスは眼、皮膚、口腔や気道の粘膜に即時性の影響を与える可能性がある。しかしながら、水と共に体外に排出されやすく、遅発的な影響を与えるリスクは低い。また、上気道で吸収されやすいため、下気道である細気管支肺胞系に達して影響を与えることは少ない。
      一方、難水溶性のガスは、下気道に達して、下気道に影響を与えたり、血管中に入って深刻な影響を与えたりすることがある。また、化学変化を起こしにくいガスは、いったん体内に取り込まれると蓄積されて、遅発的な影響を与える可能性がある。。
      2 水に難溶性のガスの例
      一酸化炭素
      3 水溶性のガスの例
      亜硫酸ガス、硫化水素ガス、アンモニアガス
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  • (5)吸入された化学物質の代謝と排泄について、トルエンを例に説明せよ。

    • 【解説】
      トルエンを例にとるなら、解答例のようになろうか。
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    • 【解答例】
      代謝とは、体外から吸収した食物や医薬品などの化学物質を変化させることである。有害物の場合、無害で体外へ排出しやすい形に代謝して体外へ排出することになる。
      トルエンは肝臓のミクロソーム(mixed-function oxidase)系によってベンジルアルコールになり、さらに安息香酸となってグリシン又はグルクロン酸と抱合し、馬尿酸又はグルクロン酸ベンゾイルとして尿中に排泄される。
      また、少量ではあるが o -クレゾール及び p -クレゾー ルに代謝される。肺では、吸収されたトルエンの一部は変化せずに排泄される。吸収されたトルエンの 15~20%は肺から排泄され、腎臓からは馬尿酸として60~70%が排泄される。
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  • (6)作業環境空気中に健康障害を生じるおそれのある化学物質が存在する場合、実施すべき作業環境管理及び作業管理に係る対策を、優先順位の高い順に箇条書きで八つ挙げよ。

    • 【解説】
      問題文を読んで、作業環境管理に関するものと作業管理に関するものに分けて、全体で8つ記すべきと迷った受験生もいたようだが、問題文を見る限り分ける必要はない。
      やや、迷うところではあるが、解答例のように答えておけばよいよいだろう。
      なお、1については「有害性が低いことが明らか」の「明らか」の部分を落とさないようにした方が良い。
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    • 【解答例】
      1 有害性が低いことが明らかな化学物質に代替化する。
      2 遠隔操作又は自動化により、労働者の日常の業務でのばく露の機会をなくす。
      3 取り扱う設備を密閉化する。なお、当該物質の取り入れ口や取り出し口などを設ける場合は、その場所に有効な局所排気装置を取り付ける。
      4 局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設置する。
      5 使用温度を下げ、撹拌などを最小限とし、吹き付けは刷毛塗りに変更し、使用量を減らすなど、工程を見なおす。
      6 作業標準を見直し、より発散しにくい作業方法を取り入れ、これを関係労働者に徹底する。
      7 正しい取扱いの方法や、化学物質の有害性について労働者への教育を行う。
      8 呼吸用保護具、化学防護手袋その他、必要かつ有効な保護具を備え付けるとともに、適切な管理の下で使用させる。
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