労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2018年 問1

化学物質に関する労働衛生管理




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 このページは、2018年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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2018年度(平成30年度) 問 1 化学物質の経気道ばく露、経皮吸収等に関する基本的な知識を問う問題である。
化学物質管理
2018年10月21日執筆 2020年01月25日修正

問1 職場における化学物質に関する労働衛生管理について、以下の設問に答えよ。

  • (1)トルエン、クロロホルム及びノルマルヘキサンに共通する主な物性のうちで、労働衛生対策上問題となる物性にはどのようなものがあるか、三つ延べよ。また、それらの物性によってどのようなばく露のリスクが生じるかについて延べよ。

    • 【解説】
      “物性”とは、ある物質の物理的な性質のことであるが、労働衛生上問題となるのは、形状、臭い、蒸気圧、沸点、融点、蒸気密度、比重、水溶解度、オクタノール/水分配係数などであろう。本問の「共通する主な物性」の文意がやや分かりにくいが、似通った性質という意味であろう。
      これらは、SDSに記載されている。
        トルエン クロロホルム -ヘキサン
      形状(常温) 液体 液体 液体
      臭い ベンゼン臭 さわやかな
      エーテル様
      特徴臭
      蒸気圧 28.4mmHg
      (3.79kPa)
      (25℃)
      21.2kPa
      (20℃)
      160mbar
      (16.0kPa)
      (20℃)
      沸点(大気圧) 110.6℃ 62℃ 69℃
      融点 -95℃ -64℃ -95℃
      蒸気密度 3.1(Air=1) 4.12(Air=1) 2.97(Air=1)
      比重 0.866 データなし 0.6548(25℃)
      水溶解度 526mg/L 8,000mg/L 13mg/L
      オクタノール/
      水分配係数
      Log Kow2.78 Log Kow1.97 (Log P3.9)
      注:Log Pはハンセン溶解度パラメータ
      25℃における各種の蒸気圧=水:3.2kPa、エタノール7.8kPa、メタノール17kPa、水銀0.3kPa
      この3物質に共通なものと言えば、形状、蒸気圧、沸点、融点、蒸気密度、オクタノール/水分配係数(n-ヘキサンはLog Pだが)であろうか。
      ただ、設問者は形状や融点について尋ねているわけではないだろうと思う。また、オクタノール/水分配係数はそれほど高いとは言えず、実際にもクロロホルムは体内への蓄積性がほとんどないと言われており、これを挙げるのは避けた方が良いと思う。
      なお、ばく露リスクに関する物性と言われれば、蒸気圧は挙げておくべきだろう。
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    • 【解答例】
      1 蒸気圧
      蒸気圧は3物質ともそれほど高いわけではないが、常温でも気化するおそれはあり、経気道、経皮ばく露のリスクがある。また、皮膚に付着した場合、極端に蒸発しやすいわけではないので、付着したものが長時間そのままになりやすく、経皮ばく露のリスクは高まることとなる。
      2 蒸気密度
      蒸気密度はいずれも空気より重いため、ピットなどに滞留しやすく、ピットなどで作業する場合にばく露のリスクは高まる。また、全体換気装置が天井や天井近くに設置されている場合、換気効率が悪くなることが考えられる。
      3 沸点
      比較的沸点が低いため、高温でこれらの物質を用いる場合は、蒸気が作業空間中に放出されるおそれがある。
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  • (2)トルエン、クロロホルム及びノルマルヘキサンの主な有害性を、それぞれの物質について簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      これらのどこまで書くかだが、トルエンについては急性毒性があること、生殖毒性があることは書いておいた方が良い。クロロホルムについては麻酔作用があることは必ず書くべきだろう。n-ヘキサンについても麻酔作用があることは書くべきだと思う。
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    • 【解答例】
      1 トルエン
      一時的に高濃度のトルエンを吸入すると、筋脱力、錯乱、協調障害、散瞳などが起き、さらに重篤な場合には重度の疲労、著しい嘔気、精神錯乱や昏睡などが発生する。また、長期にわたったばく露では、疲労、記憶力障害、集中困難、情緒不安定、神経衰弱性症状が現れる。
      また、高濃度または長期吸引した妊婦に早産、児小頭、耳介低位、小鼻、小顎、眼瞼裂など胎児性アルコール症候群類似の顔貌、成長阻害や多動などが発生する。
      2 クロロホルム
      動物に対し、眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性がある。
      短期の吸入ばく露により、麻酔作用、咳、眩暈、嗜眠、感覚鈍麻、頭痛、吐き気、嘔吐、腹部痛、衰弱、意識喪失、昏睡などが発生する。長期ばく露では黄疸を生じることが知られており、肝炎の進展、黄疸、悪心、嘔吐などの症状がみられる。
      また、発がん性、生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑いがもたれている。
      3 ノルマルヘキサン
      短期の吸入ばく露により、めまい、傾眠などの麻酔作用が見られる。また、長期ばく露の結果として、多発性神経障害、末梢性神経障害、多発性神経炎の発症が起きるといわれている。
      その他、皮膚刺激、強い眼刺激、生殖能または胎児への悪影響のおそれの疑い、呼吸器への刺激のおそれ、眠気やめまいのおそれ、長期にわたる、または、反復ばく露により神経系の障害、飲み込んで気道に侵入すると生命に危険のおそれがあるとされている。
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  • (3)生物学モニタリングについて、以下の問に答えよ。
    ① 目的と内容について、簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      解答例の通りに書けばよい。なお、解答例には書かなかったが、生物学的モニタリングは労働衛生の3管理では「作業管理」に当たる。
    • 【解答例】
      1 目的
      有害物へのばく露の程度を把握することを目的とする。
      2 内容
      体内に摂取される有害物の量と、排泄される量との関係がある程度明らかな物質について、排泄された物質の量を分析することにより、体内に摂取された有害物の量を推定するものである。
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  •   ② 実施と結果の解釈に当たって留意すべき点について簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      解答例の通りに書けばよい。
    • 【解答例】
      ● 有機溶剤のばく露指標の半減期は数時間程度のものがあり、健診をいつ行ったかによって結果が変わり得ることについて留意する必要がある。
      ● ある種の柑橘類などでもばく露指標が現れることがあるので、ばく露指標が現れたからと言って、必ずしもばく露の証拠となるわけではないことについて留意する必要がある。
      ● 生物学的モニタリングの結果は、あくまでもそれぞれの労働者が日常業務でどの程度の値を示すかを知るのが目的であって、正常、異常 の鑑別を目的とするものではない(ばく露の証拠があっても有所見者には該当しない)。
      ● 対象者が外国人の場合にはその結果の評価につき、一定の留意が必要である。例えば、トルエンのばく露量とばく露指標の関係は民族によって異なることが知られている。
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  •   ③ トルエン、クロロホルム及びノルマルヘキサンについて、ばく露の指標として使われる代謝物をそれぞれ一つ挙げよ。

    • 【解説】
      クロロホルムは、吸入、経皮、経口のいずれでばく露しても、急速に吸収されて体内各部に分布し、未変化体あるいは二酸化炭素として呼気から排泄される。従って生物学的モニタリングの指標はないと思われる。
      もしかすると、出題者は、ガンマ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GT)のことを念頭に置いているのかもしれない。
    • 【解答例】
      1 トルエン
      尿中の馬尿酸
      2 クロロホルム
      なし。クロロホルムは、吸入、経皮、経口のいずれでばく露しても、急速に吸収されて体内各部に分布し、未変化体あるいは二酸化炭素として呼気から排泄されるため生物学的モニタリングの指標はない。
      3 ノルマルヘキサン
      尿中の2.5-ヘキサンジオン
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  • (4)作業環境測定において管理区分を決定する際、混合有機溶剤については単独の化学物質とは異なる評価(計算)を行う必要がある。これに関し、以下の質問に答えよ。
    ① 作業環境測定における混合有機溶剤とは何か、説明せよ。

    • 【解説】
      解答例の通りに書けばよい。
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    • 【解答例】
      特別有機溶剤同士の混合物、特別有機溶剤と有機溶剤(第3種有機溶剤を除く。以下同じ)との混合物又は有機溶剤同士の混合物であって、特別有機溶剤と有機溶剤の重量濃度の合計が5%を超える物をいう。
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  •   ② その評価(計算)の進め方において、単独の化学物質とは異なる点を述べよ。

    • 【解説】
      解答例の通りに書けばよい。
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    • 【解答例】
      混合有機溶剤のように、含まれている複数の化学物質が、同じ標的臓器に対して同じ毒作用を有する場合がある。この場合、全体としての影響は各成分単独での影響の合計に等しいと考えて評価する。
      測定で得られたある成分の評価値をCn、その成分のばく露限度をEnとしたとき、すべての成分についての Cn / En の合計によって、評価を行うこととなる。
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  • (5)法規制上、特別有機溶剤等とされた化学物質がある。この規制の変更の根拠となった有害性を述べよ。また、特別有機溶剤等の例として物質を五つ挙げよ。

    • 【解説】
      解答例の通りに書けばよい。この他、特別有機溶剤には、1,2-ジクロロプロパン、ジクロロメタン、スチレン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン及びメチルイソブチルケトンがある。
      注:なお、問題文に2か所「特別有機溶剤」との標記があるが、少なくとも後者は「特別有機溶剤」の誤植であろう。
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    • 【解答例】
      1 根拠となった有害性
      発がん性
      2 特別有機溶剤等の例
      エチルベンゼン
      クロロホルム
      四塩化炭素
      一・四―ジオキサン
      一・二―ジクロロエタン
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  • (6)有機溶剤の蒸気の発散を抑制するための手段を三つ挙げよ。

    • 【解説】
      どう答えるか迷うところではあるが、有機溶剤があることを前提の質問なのだろうから、「有機溶剤をなくす」というのは禁じ手だろう。
      そうなれば、工学的対策か、管理的対策かだが、密閉化と局所排気装置/プッシュプルは外せない。あとは「付着した廃棄物を蓋のある屋外のごみ箱に捨てる」とか「容器には必ず蓋をする」とか「撹拌をしないようにする」などが思いつくが、解答例のように答えるのが無難なところか。
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    • 【解答例】
      1 密閉化
      2 局所排気装置/プッシュプル型換気装置の設置
      3 取扱い温度の低下
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  • (7)有機溶剤の蒸気に対して使用する呼吸用保護具の使用に当たって留意すべき事項を五つ挙げよ。

    • 【解説】
      基本的に平成17年2月7日基発第0207007号「防毒マスクの選択、使用等について」の「第1 事業者が留意する事項」に適合したことを書けばよい。
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    • 【解答例】
      1 対象物質に適合した正しい種類の呼吸用保護具の選択
      2 物質の作業空間の濃度に応じた、適切な防護係数を有する呼吸用保護具の選択
      3 作業者に対する正しい装着方法の教育の実施
      4 吸収缶の適切な交換管理
      5 保管、点検、廃棄についての適切な管理の実施
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