労働衛生コンサルタント試験 2017年 労働衛生一般 問10

疫学




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合格

 このページは、2017年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2017年度(平成29年度) 問10 難易度 疫学に関するやや高度な知識問題である。医師でも難問だったかもしれない。
疫学

問10 疫学に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)生態学的研究では、ばく露要因と疾病との相関関係について検討する。

(2)横断研究は、ばく露要因と疾病との関連の時間性が保証される研究デザインである。

(3)症例対照研究では、オッズ比を用いてばく露要因と疾病との関連性の強さを求める。

(4)コホート研究では、ばく露要因と複数の疾患との関連について検討できる。

(5)介入研究は、ばく露要因と疾病との因果関係を証明するのに適した研究デザインである。

正答(2)

【解説】

化学物質によるばく露の影響を調べるための疫学研究とは、複数のヒトの集団間において、ある化学物質へのばく露の状況が異なる場合に、その集団間のある疾病の罹患率の差異を調査することにより、その化学物資とその疾病の因果関係を検証しようとするものである。

個人的には良問だと思うが、正答率は低かったのではないかという気がする。

(1)正しい。生態学的研究(ecological study=地域送還研究/エコロジカル研究)とは、日本疫学会の「疫学用語の基礎知識」によれば、「分析対象を個人でなく、地域または集団単位(国、県、市町村)とし、異なる地域や国の間での要因と疾病の関連を検討する方法」とされている。

そして、複数の集団ごとに、ばく露要因の平均値と、疾病の罹患率や死亡率との関連を調査するものである。従って、本肢は誤っているとは言えない。

(2)誤り。横断研究(cross-section study=断面研究)とは、ばく露要因と有病率を同時に調査して、両者の関係を調べようというものである。ばく露要因と有病率を同時に調べるので、ばく露と発病のどちらが先に起きたのかを正確に評価できないおそれがある。

(3)正しい。症例対照研究(case-control study)とは、ある疾病に罹患しているヒトを症例(case)として選び、性別・年齢が似たヒトを対照(control)として選ぶ。対照は症例と同じ地域や同じ病院の患者を選ぶことが多い。そして、症例と対照の過去のばく露状況を調査することにより、そのばく露と疾病の相関を検証しようとするものである。

相関を検証するにあたっては、分母が明らかではないので、有病率を用いることは原理的にできない。そこでオッズ比を用いることになる。例えば症例の過去のばく露状況が、ばく露有りが80、無しが20とするとオッズは4となる。一方、対象のばく露有りが50、無しが50とするとオッズは1となる。この場合のオッズの比は4となる。

(4)正しい。コホート研究には、前向きコホート研究と後向きコホート研究があるが、前向きコホート研究では、健康な集団をとらえ、化学物質へのばく露状況と疾病の罹患率を長期間にわたって追跡調査を行う。後向きコホート研究ではすでにばく露が起きてしまった集団をとらえて将来に向かって追跡調査を行う。

いずれにせよ、追跡調査に当たって複数の疾病について調査することが可能なので、本肢は誤っているとは言えない。

(5)正しい。介入研究(randomized controlled trial=無作為化割付臨床研究)とは、ボランティアなどの集団を無作為に対照群と介入群に振り分け、介入群に対して一定の行為(ある種の運動をする、ある種の食事をするなど)をしてもらい、対照群と介入群の間の健康状況等について調べるものである。

2019年12月01日執筆 2020年03月14日修正