労働衛生コンサルタント試験 2015年 労働衛生一般 問16

化学物質による健康障害防止の基準




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合格

 このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2015年度(平成27年度) 問16 難易度 化学物質の有害性の指標に関する基本的な知識問題。正答できなければ衛コンの仕事はできない。
化学物質の有害性の指標

問16 化学物質による健康障害防止のための基準などに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)ACGIH(米国産業衛生専門家会議)のTLV-C は、いかなる瞬間も超えてはならない作業環境中における化学物質の濃度を示している。

(2)IARC(国際がん研究機関)の分類では、人に対する発がん性があることの確からしさは、グループ1の物質の方がグループ2の物質よりも高い。

(3)中毒学の動物実験において、ばく露群と非ばく露群を比べて統計学的に有意な影響が見られた最小の濃度をNOAELという。

(4)LC50 は、短時間の吸入ばく露で1群の実験動物の50%を死亡させると予想される空気中の濃度である。

(5)日本産業衛生学会の生物学的許容値は、生物学的モニタリング値がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度である。

正答(3)

【解説】

(1)正しい。TLVとは、作業環境許容濃度(TLV=Threshold Limit Value)のことである。本肢のTLV-Cの“C”とはCeilingの頭文字であり、TLV-Cは作業ばく露のいかなる場合においても超えてはならない濃度のことである。

なお、TLV にはこの他に2種のカテゴリーがある。

TLV-TWA(Time-Weighted Average)は、作業時間が、1日8時間、1週40時間のとき、時間荷重平均濃度が超えてはならない値である。

TLV-STEL(Short-Term Exposure Limit)は、1日の作業のどの15分間をとっても、その平均ばく露濃度が超えてはならない値である。

(2)正しい。IARCの発がん分類は次のようになっている。

グループ1 Carcinogenic to humans
(ヒトに対する発がん性がある。)
グループ2A Probably carcinogenic to humans
(ヒトに対しておそらく発がん性がある。)
グループ2B Possibly carcinogenic to humans
(ヒトに対して発がん性がある可能性がある。)
グループ3 Not classifiable as to its carcinogenicity to humans
(ヒトに対する発がん性について分類できない。)
グループ4 Probably not carcinogenic to humans
(ヒトに対する発がん性がない。)

(3)誤り。NOAEL(No observable adverse effect level=無有害作用量)とは、ばく露群と非ばく露群を比べて統計学的に有意な影響が見られない最大の濃度のことである。ただし、複数の実験によって複数のNOAELが算定された場合に、その最小値を採用するか最大値を採用するかについて、意見の相違がみられる。

(4)正しい。LC50とは、“50% Lethal Concentration”のことで、具体的には、その気中濃度(水生生物を用いる場合は水中の濃度)でばく露した試験用生物の半数(50%)が試験期間内に死亡したときの、その濃度のことである。

(5)正しい。日本産業衛生学会によれば、生物学的許容値の定義は次のようになっている。

【日本産業衛生学会による生物学的許容値の定義】

  労働の場において、有害因子に曝露している労働者の尿、血液等の生体試料中の当該有害物質濃度、その有害物の代謝物濃度、または、予防すべき影響の発生を予測・警告できるような影響の大きさを測定することを「生物学的モニタリング」という。「生物学的許容値」とは,生物学的モニタリング値がその勧告値の範囲内であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度である。

※ 日本産業衛生学会「許容濃度等の勧告(2017年度)」から

2019年12月01日執筆 2020年05月04日修正