労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2014年 問2

職業性難聴及び皮膚炎の予防対策




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 このページは、2014年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2014年度(平成26年度) 問 2 職業性難聴(騒音性難聴)及び皮膚炎に関する基本的な知識を問う問題である。
職業性難聴及び皮膚炎
2020年05月25日執筆 2023年06月03日最終改訂

問2 旋盤やボール盤を使って、金属製の機械部品を作る労働者135人の事業場がある。

ここでは、孔の多い部品に付いた切削液を圧縮空気で吹き飛ばす際の作業(下図)が騒音の主要な発生源であり、作業者の耳付近で騒音を測定したところ騒音レベルは平均99dB(A)であった。現場の作業者81人(平均46歳)とオフィス作業者54人(平均44歳)の一般健康診断での聴力検査有所見率を下の表に示す。切削液は水性で周辺に吹き飛ばされており、作業者の手腕の皮膚炎が多い。

この事業場の労働衛生に係る改善に関連して、次の質問に答えよ。

  • (1)騒音性難聴について、200 字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      解答例(255文字)の通り。
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    • 【解答例】
      騒音性難聴とは、慢性的に激しい騒音(85dB(A)程度以上)に長期間(1日8時間、5年程度以上)ばく露することによって発症する聴覚障害である。騒音にばく露して5~15年の間に進行し、それ以降の進行は少ないと言われる。
      蝸牛の有毛細胞の障害によって起き、有毛細胞は再生されないため不可逆的な疾患である。発症には個人差があり、騒音にばく露しても発症しないケースもある。
      老人性難聴と異なり、初期には4,000Hz付近の聴力損失が現れる。これは、通常の会話には悪影響がほとんどないので気付かれにくい。症状が進むにつれて、2,000~8,000Hz程度まで障害が進む。
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  • (2)騒音の許容基準について、100字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      日本産業衛生学会は、「許容濃度等の勧告(2020年度)」において「ⅵ. 騒音の許容基準」と「Ⅶ-ⅰ. 衝撃騒音の許容基準」を定めているが、本問で問われているのは前者の方である。
      日本産業衛生学会によれば、騒音のバンドレベルがこの基準以下であれば、1日8時間以内のばく露が常習的に10年以上続いた場合でも、騒音暴露に起因する永久的聴力損失(NIPTS=noiseinduced permanent threshold shift)は、1kHz以下の周波数で10dB以下、2kHzで15dB以下、3kHz以上の周波数で20dB以下(Kryter Limit)にとどめることが期待できるとしている。
      表 日本産業衛生学会 騒音の許容基準
      中心周波数
      Hz
      許容オクターブバンドレベルDB
      480分 240分 120分 60分 40分 30分
      250 98 102 108 117 120 120
      500 92 95 99 105 112 117
      1,000 86 88 91 95 99 103
      2,000 83 84 85 88 90 92
      3,000 82 83 84 86 88 90
      4,000 82 83 85 87 89 91
      8,000 87 89 92 97 101 105
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    • 【解答例】
      日本産業衛生学会が騒音の許容基準定めている。騒音のバンドレベルがこの基準以下であれば、1日8時間以内のばく露が常習的に10年以上続いた場合でも、騒音ばく露に起因する永久的聴力損失は、1kHz以下の周波数で10dB以下、2kHzで15dB以下、3kHz以上の周波数で20dB以下にとどめることが期待できる。
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  • (3)この作業環境で難聴になるリスクを判断し、その理由を100字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      与えられた条件から騒音性難聴のリスクを判断する指標は2つある。ひとつは、オフィス作業者と現場作業者の年齢がほぼ同じであるにもかかわらず、現場作業者は4000Hzの聴力検査における有所見率が高いことである。もうひとつは、圧縮空気の作業の騒音レベルが99dB(A)と高いことである。
      一方、有所見の労働者の年齢、健康診断での他の周波数の有所見者数、個々の作業者がこの作業を行っている時間、さらにこの作業を行っているときの他の作業者の位置関係、保護具の着用状況などは不明である。
      騒音性難聴は、比較的高齢の労働者の方が発症しやすいが、弱年齢者でも発症例はある。解答例のように考えられるだろう。
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    • 【解答例】
      難聴になるリスクは高いと判断する。その理由は以下の通り。
      ① 騒音作業に従事する労働者の作業時間は不明であるが、85dB(A)以上の騒音に、5年以上常態としてばく露していると騒音性難聴となる危険性があるが、本作業では99dB(A)の騒音にばく露している。
      ② 4000Hzの有所見者の年齢や4000Hz以上の周波数の有所見率が分からないが、4000Hzで複数の有所見者が出ていることは騒音性難聴の初期症状の可能性があること。
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  • (4)この事業場における騒音ばく露に関して、更に調べるべき事項を具体的に三つ挙げよ。

    • 【解説】
      (3)の解説に示した通りであるが、解答例のように考えられる。
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    • 【解答例】
      以下の点について調査するべきと考える。
      ① 個々の労働者の騒音にばく露している時間。直接作業を行っている時間と騒音職場の近くで作業を行っている時間とその時のばく露状況。
      ② 保護具(耳栓、イヤーマフ)の使用状況。使用している場合は、その種類、使用方法、管理の状況など。
      ③ 健康診断で4000Hzの有所見者の騒音作業の状況、年齢、4000Hz以上の周波数での所見など。
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  • (5)聴力保護のための対策を具体的に五つ挙げよ。

    • 【解説】
      この職場のという趣旨か、一般的な聴力保護かがはっきりしないが、令和5年4月20日基発0420第2号「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」による「騒音障害防止のためのガイドライン」(※)から挙げておけばよいだろう。
      ※ なお、出題当時は「騒音障害防止のためのガイドラインの策定について」(平成4年10月1日基発第546号)(※)が有効であった。その「騒音障害防止のためのガイドラインの解説」表1にもほぼ同様な記述がある。その後、2021年度に「騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会」が開催され、2022年3月22日に「騒音障害防止のためのガイドライン見直し方針」が作成されて本文の通達により改訂されているが、結論は変わらない。
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    • 【解答例】
      以下のような対策がある。
      ① 騒音発生作業を自動化して周囲を遮蔽する、遮蔽されたケースの中に手を入れて作業を行うようにするなどの工学的対策をとること。
      ② 6か月を超えない期間ごとに1回、定期に作業環境測定を行い、その結果を評価して管理区分を決定し、第Ⅲ管理区分となったときは適切な対策を取ること。なお、作業環境測定の結果、評価の結果、結果に基づいてとった対策を3年間保存すること。
      ③ 新たに労働者を騒音作業に就けるとき、及びその後、6か月を超えない期間ごとに1回、定期に健康診断を行うこと。有所見者については、オージオメータによる250,500,1,000,2,000,4,000,8,000Hzにおける聴力の検査を行うこと。
      ④ 新たに労働者を騒音作業に就けるとき、騒音の人体に及ぼす影響及び聴覚保護具の使用について教育を行うこと。
      ⑤ 作業者に適切な保護具を使用させる、騒音作業時間を減じる、関係のない労働者を騒音職場に立ち入らせない等の作業の改善を行うこと。
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  • (6)皮膚炎の予防のための対策を具体的に五つ挙げよ。

    • 【解説】
      皮膚炎とは湿疹を伴う皮膚の炎症である。身体の一部に生じるものもあれば、全身に生じるものもある。その原因は、皮膚の乾燥、化学物質による刺激、機械的な刺激、その他アレルゲンとの接触などがある。内的要因としては、アトピー体質、健康状態、皮脂腺の状態、発汗状態の他、静脈瘤も関係する。なお、必ずしもすべての皮膚炎の原因が判明しているわけではない。
      職場でこれまで問題となった皮膚炎の原因の例としては、鉱物油、うるし、テレピン油、セメント、アミン系の樹脂硬化剤などがある。また、蛋白分解酵素にさらされる業務などでも問題となった例がある。
      予防は、機械的な刺激や化学物質など、アレルゲンへの接触を避けることであるが、保護具として天然ゴム手袋を用いると、天然ゴムに含まれるラテックスそれがアレルゲンとなることがあるので注意を要する。
      これに関する関係通達としては、平成15年8月11日基発第0811001号「化学物質等による眼・皮膚障害防止対策の徹底について」がある。
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    • 【解答例】
      皮膚炎の予防には、以下のような対策がある。
      ① リスクアセスメントを実施し、またSDSなどの情報によって使用している化学物質を調査し、アレルゲンとなる化学物質があれば代替化を検討すること。
      ② 密閉化、ダクト内(局所排気装置)での作業など、作業者にアレルゲンが接触せず、かつ蒸気となって飛散しないよう工学的対策を取ること。
      ① 6か月以内の期間ごとに1回、定期に健康診断を行うこと。
      ② 皮膚炎を生じた労働者については、他の業務への配置転換を図ることを検討すること。
      ③ 保護眼鏡、保護衣、保護手袋等の保護具について、適切なものであることの確認、適切な管理(点検、保管、交換等)の実施、適切な着用方法・使用方法の指導、着用の徹底。
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図 ノズルを部品の孔に近づけて圧縮空気を噴射する様子

表 聴力検査有所見率(%)
周波数と検耳 1000Hz 右耳 1000Hz 左耳 4000Hz 右耳 4000Hz 左耳
現場作業者 14 10
オフィス作業者