労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2014年 問1

化学物質の発がん性




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 このページは、2014年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2014年度(平成26年度) 問 1 化学物質の発がん性に関する基本的な知識を問う問題である。
化学物質の発がん性
2020年05月24日執筆 2023年09月29日改訂

問1 化学物質の発がん性について次の(1)~(4)に答えよ。

  • (1)化学物質による段階的な発がんのメカニズムとそのいき値について150字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      1 メカニズム
      化学物質による段階的な発がんのメカニズムとは、遺伝毒性発がん物質についての考え方で、発がんをいくつかの遺伝子異常の集積と考えるものである。正常な細胞の集団の中で、化学物質によっていくつかの細胞に遺伝子の異常が発生し、これが周囲の正常な細胞に広まってゆくことで段階的にがんが発生するという考え方である。
      ① 第一段階:イニシエーション
        正常な細胞に発がん性のある化学物質が作用して、DNAが損傷(遺伝子が変異)する。
      ② 第二段階:プロモーション
        変異した遺伝子が、自律的な細胞増殖能を獲得する。
      ③ 第三段階:プログレッション
        悪性化:遺伝子異常を起こした細胞が増加する。
      2 閾値
      段階的な発がんのイニシエーション物質(DNA傷害を起こす遺伝毒性発がん物質)の場合、従来は閾値はないと考えられている。しかし、福島1)は、「ラットを用いて発がん機序におけるキイポイントの量的変化を指標にして発がん性を検証したところ、発がん閾値があるとの結論を得ている」としている。林2)「遺伝毒性発がん物質/遺伝毒性物質について、閾値の取り扱いに関する本質的な議論が研究者間で不十分であった」と指摘しているなど、必ずしも閾値がないという考え方が共通認識となっているわけではない。
      1)福島昭治「発がん物質の閾値をどう考えるか」(Jpn.J.Food Chcm.Safety,Vol.21(1),2014)
      2)林裕造「遺伝毒性発がん物質の閾値問題を解決する道」(Environ.Mutagen Res.,27,2005)
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    • 【解答例】
      1 メカニズム
      遺伝毒性発がん物質による発がんのメカニズムで、正常な細胞の集団の中で、化学物質によっていくつかの細胞に遺伝子の異常が発生し、これが周囲の正常な細胞に広まってゆくことで段階的にがんが発生する。
      2 閾値
      段階的な発がん物質(遺伝毒性発がん物質)の場合、従来は、閾値はないと考えられていたが、最近では閾値があるという考え方も有力になっている。
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  • (2)発がん性評価の観点から様々な機関で化学物質を3 ~ 5 程度のグループに分類している例があるが、代表的な例を一つ挙げ、150 字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      これについては、当サイトの「SDSの読み方シリーズ ①発がん性について」で詳細に解説しているので参考にして頂きたい。
      解答例は、IARCのものを示しておいた。
      IARC(国際がん研究機関)は、発がん性の区分を4段階に分けている。他の機関でも同じであるが、あくまでも“発がん性の証拠の確からしさ”、ヒトへの発がん性の証拠があるのか、動物実験によっているのかなどで区分しており、発がん性の強さによって区分しているのではない。
      なお、IARCの発がん性区分については、本問出題当時は、3が3と4に分かれており、全体で5段階に分けられていた。現在では、「Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–134」にあるように4段階となっている。従来のグループ4(probably not carcinogenic to humans(ヒトに対して恐らく発がん性がない))は、2019年1月にIARCの諮問グループによる改訂で廃止が発表された(※)
      ※ 一般公衆に誤解があることに留意して、従来のグループ4に該当していたものはグループ3(not classifiable as to its carcinogenicity to humans(ヒトに対して発がん性を分類できない)に統合された。
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    • 【解答例】
      IARC(国際がん研究機関)は、発がん性の区分を4段階に分けている。他の機関でも同じであるが、発がん性の証拠の確からしさで区分しており、発がん性の強さによって区分しているのではない。
      1 :ヒト発がん性がある
      2A:おそらくヒト発がん性がある
      2B:ヒト発がん性の可能性がある
      3 :ヒト発がん性については分類することができない
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  • (3)化学物質の発がん性を予測する手法の一つとして微生物を用いた変異原性試験がある。この試験について200 字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      変異原性の変異とは突然変異のことで、その原因となる性質が変異原性である。その検出には、細菌、培養細胞、実験動物などを用いて試験を行うが、スクリーニングとして細菌や培養細胞を用いる試験を行うことが多い。
      細菌などの微生物を用いる変異原性試験は、Ames教授らが開発したことから一般にAmes試験と呼ばれる発がん性をスクリーニングする試験である。安衛法でも新規化学物質の毒性試験として用いられる。遺伝子組換えで突然変異を起こしやすく変異させたサルモネラ菌や大腸菌の寒天培地に試験物質を作用させ、突然変異を引き起こしたコロニー数で変異原性の強さを調べる。
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    • 【解答例】
      変異原性の変異とは突然変異のことで、その原因となる性質が変異原性である。その検出には、細菌、培養細胞、実験動物などを用いて試験を行うが、スクリーニングとして細菌や培養細胞を用いる試験を行うことが多い。
      細菌などの微生物を用いる変異原性試験は、Ames教授らが開発したことから一般にAmes試験と呼ばれる発がん性をスクリーニングする試験である。遺伝子組換えで突然変異を起こしやすく変異させたサルモネラ菌や大腸菌の寒天培地に試験物質を作用させ、突然変異を引き起こしたコロニー数で変異原性の強さを調べる。
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  • (4)がんを起こすおそれのある化学物質として、「労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針」(がん原性指針)に挙げられた化学物質などがある。そのような化学物質を労働者に製造させ、又は取り扱わせる事業者が講ずべき措置を5項目挙げ、それぞれの内容を説明せよ(全体で600字程度)。

    • 【解説】
      労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針通達)」の内容から解答すればよいが、その内容から外れても適切なものであれば減点はされないだろう。
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    • 【解答例】
      1 対象物質へのばく露を低減するための措置
      対象物質についてのリスクアセスメントを実施し、必要があればより有害性の低い物質への代替化の検討、密閉化・局所排気装置の設置・プッシュプル換気装置の設置等の工学的対策、使用条件(温度、量)の変更の検討、異常発生時の適切な対応、有効で適切な保護具の着用・管理の徹底等を行う。
      2 作業環境測定の実施
      6か月を超えない期間ごとに定期に作業環境測定を実施し、結果の評価を行い、その結果に基づき施設、設備、作業工程及び作業方法等の点検を行うこと。また、これらの点検結果に基づき、必要に応じて使用条件等の変更、作業工程の改善、作業方法の改善その他作業環境改善のための措置を講ずるとともに、呼吸用保護具の着用その他労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講ずるその結果に応じて適切な措置を取ること。また、その結果は30年以上保存すること。
      3 労働衛生教育の実施等
      化学物質の性状・有害性、使用する業務、化学物質による健康障害・予防方法・応急措置、局所排気装置等の使用方法、作業環境状態の把握、保護具の適切な着用・管理の方法、関係法令等について集合教育によって周知する。また、作業標準書を作成し、適切な作業を行わせる。
      4 労働者の把握
      労働者の氏名、従事した業務の概要・期間、対象物質によって汚染された場合はその概要と講じた措置の概要を記録し、30年以上保存する。
      5 有害性の周知
      GHS表示、SDSの活用により有害性を周知すること。また、関係のない労働者をばく露するおそれのある場所に立ち入らせないこと。
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