労働衛生コンサルタント試験 2014年 労働衛生一般 問13

人間の感覚




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合格

 このページは、2014年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2014年度(平成26年度) 問13 難易度 人間の感覚の特性に関する基本的な知識問題である。確実に正答できなければならない。
人間の感覚

問13 人間の感覚に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)物理的・化学的な刺激の強度と人間が知覚する感覚の強度との関係は、一般に直線的な比例関係ではない。

(2)眼の網膜は、視神経の感覚器であり、色を感じる杆状体と明暗を感じる錐状体という2種類の視細胞が並んでいる。

(3)内耳にある前庭は、体の傾きの方向や大きさを感じ、半規管は体の回転の方向や速度を感じる。

(4)嗅覚は、わずかな臭いを感じる鋭敏な感覚であるが、同一の臭気に対しては疲労しやすく、しばらくすると感じにくくなる。

(5)深部感覚は、骨格筋や関節内にある受容器を介して自分の手足の位置や関節の角度などを感じ、姿勢や動きなどを認識する感覚である。

正答(2)

【解説】

(1)適切である。これは感覚的に正しいと分かるであろう。ヴェーバー‐フェヒナーの法則によれば、刺激量の強度Rと対応する感覚量Eの関係は、

E=ClogR

となる。ここにCは定数である。そもそも、物理的・化学的な刺激の強度と人間が知覚する感覚の強度との関係が直線的な比例関係だったら、小さな音や光は感知できないだろうし、大きな音や光には耐えられなくなるだろう。

(2)適切ではない。網膜とはカメラでいえばフィルムの役割を果たす器官であり、視神経の感覚器であることは正しい。しかし、視細胞は、暗いところで働き明暗を感じる捍体(杆体)細胞と、明るいところで働き色を感じる錐体細胞の2種類がある。杆状体が色を感じ、錐状体が明暗を感じるのではない。

(3)適切である。内耳にある前庭には、球形嚢と卵形嚢があり、それぞれに有毛細胞の上に耳石が乗っている構造となっている。身体の傾くと耳石が重力の方向へ傾くため、有毛細胞によって身体の傾きを感知することができる。

また、3つの半規管(三半規管)はそれぞれ傾きが異なる円形のパイプの中にリンパ液が満たされた構造をしている。身体が回転するとリンパ液が回転するため。それによって身体の回転を感知することができる。

(4)適切である。これも経験的に正しいと分かるだろう。高木2)「ヒトの嗅覚はすぐに疲労して"馬鹿"になり、もののニオイが分らなくなる。どんなによい香でも、疲れてしまえば感覚はなくなる。しかしそれは、そのニオイに対してだけであって他の異ったニオイは十分にかぐことができるから、これを選択的疲労という。風呂の中でガス中毒を起すのは徐々に洩れているガスに対して嗅覚が疲労するためで、あとから入って来たヒトは呼吸もできない程ガスが充満していても、初めから入っているヒトは気付かないので中毒し、最後には死に到る」としている。

ただ、これは人間にとって有用な現象でもある。不快なにおいに慣れることによってストレスを軽減する効果があるからである。

(5)適切である。深部感覚とは身体内部の感覚を意味する。大沼他3)によると、「深部感覚は、骨膜・筋・腱・関節・靭帯に対する接触刺激またはその運動から起こる感覚であり、手足の総体的な位置(位置覚)や運動の方向(運動覚)がわかる運動感覚、音叉を骨に近い皮膚上にあてると感じる振動覚、骨・膜・筋・腱などに強い圧迫や刺激が加わって生じる痛みの痛覚(深部痛覚)に分類できる」としている。

  1. 1)労働者の心の健康の保持増進のための指針の「10 定義」の⑥を参照
  2. 2)高木貞敬「嗅覚の生理学」(醸協第68巻第5号)
  3. 3)大沼俊博他「深部感覚障害を有する患者への理学療法評価と理学療法の考え方」(関西理学2006年)
2020年05月21日執筆