福島第一と危機管理




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福島第一事故発生後

2021年2月に福島で発生した地震時に、菅総理は早々に「すべて正常」と発表しました。実際は異常の報告がないことを「正常」と表現していました。

実際には、使用済み燃料プールや配管や放射性廃棄物貯蔵設備から水が漏出するという重大な問題が発生していました。他にも地震計の故障を放置しているなどのずさんさが明らかになっています。

政府は、リスク管理の観点をしっかりと持って対策を進めなければならないでしょう。




1 福島県で地震発生。政府は「すべて正常」と発表

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2021年2月13日福島県を中心に最大震度6強の地震が東北地方を襲った。気象庁は、速やかに津波の危険はないと発表をした。これは正しい対応だった。そのことで、人々は避難行動のための余裕を持つことができた。

だが、2011年の震災で日本を恐怖のどん底に落とした福島第一はどのような状況なのだろうか。午前2時になって、菅総理は記者団の取材に応じた。そして「原子力関係でも異常の報告はない。すべて正常だ」と述べた。

だが、これを聴いたとき、嫌な感じがしたものだ。菅総理が「すべて正常」の根拠として挙げたのが「異常の報告はない」ということだけだったからだ。異常の報告がなければ、すべて正常としてよいものだろうか?誰が考えても常識に反しているだろう。


2 正常ではなかった

福島第一事故発生後

そのほぼ10時間後の11時41分、河北新報ONLINE NEWSは、使用済み燃料プールや配管や放射性廃棄物貯蔵設備から水が漏出したと報じた。

さらに、2月23日には、さらに驚くべき事実が公表される。NHKが報じたところによると、「1号機と3号機の格納容器の水位がいずれも数十センチほど下がり、その後も低下傾向にある」「格納容器には窒素が注入され圧力が高くなっていますが1号機では大気圧との差を計測する圧力計の値が1.2キロパスカルから0.1キロパスカルまで下がりほぼ大気圧になっている」というのである。

これが現実に起きていたことだった。「すべて正常」なではなかったのだ。ところが、東京電力は、「地震後、モニタリングポストの値に変化は見られず、外部への放射性物質の漏れは認められない」と公表した。


3 見えないものは存在しない?

格納容器の水位が下がったということは、その分の水がどこかへ行ってしまったのだ。だがどこへ?その行方が分かっているなら、東京電力はそれを公表するだろう。公表しないということは分かっていないということである。それであれば最悪ケースの「外部へ漏れた」と想定して、それに対処するべきなのだ。危機管理とはそういうことなのである。

さらに、格納容器の圧力が大気圧と同じになっているというなら、内部のガスが大気に漏れたとしか考えられない。格納容器の外部の建物は、破損して外気と直接つながっているのである。内部のガスが大気中に放出されたと考えるのが、最も合理的だ。

ところが、東京電力は、「モニタリングポストの値に変化は見られず、外部への放射性物質の漏れは認められない」と言うのだ。では格納容器の中の水とガスは、どこへ行ったというのか。その説明はないのだ。東京電力の発表によって理解できることは、この企業の危機管理能力が欠如しているということだけだった。


4 地震計が故障していた

また、これに先立つ2月22日には、東京電力は福島第一に設置してあった地震計2台が、双方とも6か月以上前に故障していたにもかかわらず放置していたため、地震の際に役に立たなかったと公表した。

しかも東京新聞によると、責任者はその際に「貴重なデータを取れるチャンスを逃し、反省している」と謝ったというのである。「貴重なデータを取れるチャンスを逃し」たという程度の認識なのだ。あきれるより他はない。

河北新報によると、梶山経産相は、記者会見で「建屋への地震の影響を丁寧に把握することは重要で、早急に復旧すべきだった。誠に遺憾だ」と東電に苦言を呈したという。だが、苦言だけですませるようなことなのだろうか。また、経産相という立場にある者の発言として、あまりに他人事のような言い方である。このような人物に危機管理が可能なのか、疑問と言わざるを得ない。


5 政府は危機管理能力を早急に構築せよ

一連の流れは、お粗末としか言いようがない。あれほどの世界史的な大事故を起こした福島第一について、震度6の地震が襲ったにもかかわらず、その直後に総理が「異常の報告はないから、すべて正常だ」と述べる。

さらには、格納容器内の水とガスが「どこかへ」行ってしまったにもかかわらず、モニタリングに検知されないから漏れていないと、当事者の企業が公表する。果ては、地震計の故障を半年間も放置し「貴重な情報が取れなかった」などと能天気なことを述べたりしている。

この危機管理能力の欠如はどういうことなのだろうか?残念ながら、与党にはまともな人材はいないように見える。早急に、野党に協力を仰いで、危機管理能力を構築するべきだろう。そうでないと、国民の生命は守れない。


6 もう一度、10年前の事故を想起するべき

福島第一の事故から10年たった今日、SNSにはこんな動画が拡散している。質問者は共産党の吉井議員であるが、共産党の議員がいうことだからと、鼻で笑っているのだとしたら、情けない話である。質問の内容は筋が通っているし、結果的にこれを聞き入れて対応をとっていれば事故は起きなかったのだ。

菅総理は、この動画をもう一度見直して、危機管理についてもう一度考えてみるべきであろう。


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